【HERE ヒア】画期的な読書体験
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜新しい読書体験〜
グラフィックノベル、というものを今回初めて読んでみたのだが、グラフィックノベルの中でも本作はかなり異質な作品であるようだ。
あるひとつの部屋を定点とし、様々な時代を行き来する本作。その部屋では様々な人が暮らし、様々な光景があった。ページを捲るたびに、時代が入れ替わり、また、ひとつのページの中に窓のようにいくつもの時代が同時に表示されて、時空はその部屋のある家が建つ前と後まで広がり、果てには紀元前から西暦2万年の未来まで広がる。
言葉による説明はほとんどなく、時代時代に現れる登場人物たちの断片的な会話のみで、物語の全容は全く見えない。というか、物語というもの自体があるのかどうかもわからない。
しかし、ページをめくる手は止まらなくなる。そのイマジネーションにただただ圧倒されるばかりだ。これまでに体験した事のない読書体験である。
〜ひとつの瞬間の中にいる自分〜
一通り読み終えて、本を閉じた後、僕はふと自分のいる部屋の片隅を見ていた。先ほど本の中で体験したように、この部屋で起きたかもしれない、または起こるかもしれない出来事をフラッシュバックのように想像していた。
今、自分のいるこの瞬間がこの場所にとってもただの一瞬間でしかないことに気づく。僕らは自由に三次元を移動出来るが、時間を越える想像ができた時、見える世界に次元がひとつ増える。
今自分のいるその場所だけでも、こんなに大きな世界が広がる。たった一瞬しかないその時は、違う誰かの世界に接することもあるのかもしれない。
自分のいるその場所が、とてつもなく広がりを持ち始めたのを感じたのだ。
世界は大きすぎる。そんな中で僕はちっぽけな存在かもしれない。しかし、寂しさを感じる一方で、このとてつもなく大きな世界で交わった他の誰かの世界をより一層愛おしく感じた。
今ここで誰かと一緒にいること、僕の場合は家族だが、僕の世界と交わっていることに感謝以上に奇跡を感じてしまったのだ。
と、かなり大袈裟な感想を書いたが、それぐらいに衝撃を受けた作品ということをお伝えしたい。
万人受けする作品ではないが、感じるものがあると際限なくイマジネーションが広がってしまう画期的な一冊である。