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【R62号の発明・鉛の卵】安部公房らしい奇抜な12編

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

安部公房の短編集。
作品ごとに感想を書いていく。

R62号の発明

会社をクビになった技術者がロボットに改造された後、機械を発明してもとの雇用主に復讐する、という話。
機械にされた人間が機械を開発して人間に復讐する、という複雑な構成が「これぞ安部公房!」というらしさがあって、好きだ。

パニック

職業紹介所にて「パニック商事」なる企業の勧誘を受けた男が殺人容疑者として裁判を待つようになるまでの経緯を語る。
社会的に弱い立場である男は、大きな犯罪から逃げるために小さな犯罪を繰り返す。そして、その行き着いた結末は本当にひどい(笑!?)。
これも社会の理不尽・不条理を感じられる安部公房らしい一作。

飼い犬と主人、人間と犬の境界を無くしてしまったような一作。
見下していた存在が急に対等かそれ以上の立場になった時に戸惑い恐怖する姿は人間の滑稽な姿のひとつだろう。

変形の記録

コレラで撃ち殺された兵士の幽霊と将校たちの話。
タイトルの意味こそよくわからなかったが、最後の展開には驚いた。死人の話なのに、哀しさは少なく、ニヤニヤしながら読んでいた。

死んだ娘が歌った…

先の「変形の記録」と同じく、主人公の娘が死ぬ場面から始まり、死者の視点から描かれる物語なのだが、こちらは悲哀に満ちた物語だ。
物語の中で何度も出てくる「自由意志」という言葉があまりにも虚しい。苦しい環境で生きることから放たれてから初めてこの言葉の虚しさに気づく娘の気持ちが哀れで仕方ない。

盲腸

羊の盲腸を移植する実験台にされた男の話。
盲腸を変えただけで人間としての尊厳を失い、周囲から物珍しいものを見る視線で見られてしまう哀しい男。
人間である、とは何なのだろうか。

これ、1番好きな話である。
1人の男がただの棒になってしまい、その棒に関して教授と学生があれやこれやと意見を言う話。
安部公房は人間とただの棒の境目すら無くしてしまう。

人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち

これも好きな話である。
人肉を食用とする三人の紳士たちに一人の代表が人の肉を食するのをやめるように陳情しにいく話。
陳情団の代表が何を言っても話が通じない様はとにかくシュールで皮肉めいている。
どれだけきれいごとを並べようが、食う側と食われる側が理屈で分かり合えるなんてことはあり得ないのだ。

主人公・秀太郎が母親が亡くなったことを告げるために叔父の家に訪れる、という物語。
叔父は何やら発明をしているようなのだが…社会的地位もあり鍵の技術者として天才的な能力を持つ叔父のやってることを誰も理解できない。天才とは、発明とは…(笑)

耳の価値

耳たぶに保険をかけて、保険金を得るために事故を装い耳を傷つけようとするがうまくいかない…という話。
この発想は安部公房っぽいなぁ。シュールな喜劇として読めた。途中、本人の名前が出てくるメタ表現の意図はよくわからなかったけど。

鏡と呼子

過疎の村に転勤してきた教師のKが校長に紹介されて居候することになった家は、村からの家出を監視する2人の家族の家だった…というお話。
ナンセンスでぶっ飛んだ短編が多い本書のなかで、唯一ジメジメとした雰囲気があった一作。
僕自身、田舎村の出身なので、互いが互いに監視し合う猜疑心に満ちた村特有の空気は嫌というほど味わっている。自分では何もしないのに、他所から来たKに対して勝手に「期待してるんです」なんて言う図々しい態度をとる千見という教師も、田舎の人間の悪いところを体現しているようだ。

鉛の卵

表題にもなっている作品。
コールドスリープで100年後に目覚めるはずの男が冷凍装置の不具合で80万年後に目覚めてしまう。80万年後の人類は全く違った姿形をしており…という話。
これも面白かった。姿形だけでなく、身体の仕組みや思想まで、何もかも80万年で文明が変わってしまった世界にただ1人古代人として目覚めた男。もはや、人間すらも人間でなくしてしまう安部公房の発想力には脱帽である。


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