【ブラック・スワン】「ありえない」なんてありえない、まさしく。
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
〜内容は難しいけど楽しんで読める〜
以前読んだ「まぐれ」を読んでからずっと頭から離れなかった文芸評論家、実証主義者のナーシム・ニコラス・タレブ氏の代表作が本作。
「まぐれ」は、内容こそ難しく理解しきれていないがメッセージはわかりやすく非常に楽しめて読めた。
そして、本作も同じである笑
統計学や経済学、数学などの専門的な用語がよくわからず理解できなかった場面は多々あるものの、本作の根幹とも言える黒い白鳥(ブラック・スワン)については非常に刺激的なメッセージが込められている。
タレブ氏の語る黒い白鳥とは、以下のような特徴を備えた事象である。
①異常であること
②とても大きな衝撃があること
③異常であるにも関わらず、人間の性質から、それが起こってから適当な起こってから適当な説明をでっちあげて筋道をつけたり予測が可能だったことにしてしまったりすること
そして、タレブがとにかく叩くのが③に関する事だ。
経済学者や歴史学者、哲学者や社会学者が科学の観点からあらゆる事象を統計やデータの内側に当てはめてしまう事に対してタレブ氏は怒りまくるのだ。科学者達が「どんなことでもある一定のモデルで表すことが出来る」「あらゆる事象は予測可能だった」と言ってしまう事にタレブ氏はとにかくキレまくる。
そういえば「暴力の人類史」に対してタレブ氏が猛烈に批判していたという記事を読んだ事があるが、本書を読めば納得出来る。
「1000日起こらなかったから大丈夫だなんてどうして言える!?1001日目に起こらないなんて確証はどこにもない!」とか言って。
〜人間はあらゆる事が予測できると思い込む〜
さて、先日読んだ「知ってるつもり 無知の科学」でも感じた通り、人間はどうも自分の能力以上の事が出来ると思い込む傾向があるようだ。
タレブにかなり同意できるのが、「自分にはわからない」と言える人が本当に頭の良い人だ、という点だ。
「知ってるつもり」での「無知の無知」に似ているのが、本作「ブラック・スワン」での「未知の未知」という言葉。
つまりは、「ありえない事は予測すら出来ない」という事だ。「起こるかもしれない」と考えている事は「予測可能」なのである。黒い白鳥は予測不可能で、そもそも「起こる事すら考えていない」事なのだ。
しかし、人々はあらゆる事は科学的に予測可能であると思い込んでいる。さらにタチが悪いのが、「専門家」の予測をそのまま鵜呑みにしてしまう人々がいる事だ。
「専門家」達は予測をするだけで責任はとらない。予測が外れても答え合わせはしないし、後付けで理由をねつ造する事が出来る。黒い白鳥が現れた時には「これは理論の外にあった事だ」と科学の外側にあった事は自分たちには関係のない話だと言いのけてしまう。
タレブ氏に言わせれば、その理論自体が現実世界では一切使えないのに、何を言ってるんだ!?
という事なのだ。
〜黒い白鳥を避けるためには〜
さて、ではそんな予測すら出来ない黒い白鳥に対して僕らはどのようにすればいいのか?
僕が本書から読み取れた対策は2つだ。
まず一つが、科学的な理論の通用する世界とそうでない世界を見分ける事だ。
平均だとか正規分布の理論が通用する世界というのは限られている。人の身長という世界では理論が適用される(5メートルを越える人というのはまず存在しないし、いたとしてもあなた自身に大きなインパクトは無い)が、自分の書いた本の売上(全人類が買って80億冊の売上を出す事は確率は限りなく少ないがゼロではないし、あなた自身にかなりのインパクトを与える)や株式投資(全財産が数時間で吹き飛ぶ事もある)などに適用するのは良くない。黒い白鳥が存在する可能性がある限り、統計や平均、ベル型カーブで安心していては危険なのだ。
そして、2つ目は良い黒い白鳥が存在する方に身を置く事。
黒い白鳥は良いものと悪いものがある。
先の例で言えば、本の売上には良い黒い白鳥が存在している(本が売れれば嬉しい悲鳴だが、売れない事の方が多い。そして、売れなかったとしても大した被害は無い)。一方で株式投資には悪い黒い白鳥が存在している(リスクの"少ない"投資をしていても、黒い白鳥による莫大な損失がありうる)。
兎にも角にも、世の中は「ありえない」事がありうる。統計や推論、専門家の予測やデータを信頼しすぎて油断していると、いつ黒い白鳥が現れるかは誰にもわからない、というのがタレブ氏の主張だ。
非常に知的で刺激的な内容なので、株式投資をする人だけでなくとも一読する価値はあるだろう。