
【1984年】不気味な支配体系が広がるディストピア小説の傑作
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜ディストピア小説の最高傑作〜
20世紀最高傑作のディストピア小説、という背表紙の宣伝文句も然り、昨年までのトランプ政権下で、またさらに売り上げを伸ばしたと言われている本作。
数年前から気になっていた小説であったが、読書脳になっている今しか読めない!と思い立ち手に取った。
いわゆるディストピアSFなのであるが、その面白さは群を抜いている。ましてや、この作品が書かれたのが1948年ごろという、今から70年以上前という。
とんでもない天才作家がいたのだと、驚かされた。
〜不気味すぎる徹底した監視社会の仕組み〜
さて、あらすじとしては正直なところそれほど面白くはない。主人公が監視社会に不満を持ちながら、暗躍する、というお話だ。
しかし、この小説の真の面白さは、その監視社会の仕組みにある。
舞台となる1984年ごろ(正確な年数はわからない)は、徹底した監視社会となっている。
ビッグブラザー率いる政党が、イングソックと呼ばれるイデオロギーにより世界を支配している。
テレスクリーンというテレビのような装置を使い、人々を監視している。街のあらゆるところに「ビッグブラザーがあなたを見ている」という文句が溢れている。姿や会話を全て監視して、党の意思に背く者を見つけ出し、反逆者は蒸発させられる。不気味なのは、蒸発させられた人々は単に処刑されるだけではなく、その社会に元から存在しなかった者とされてしまう。文字通り、消えて居なくなってしまうのだ。
これは主人公のウィンストンが従事する仕事であるが、党は過去や歴史を日々改竄し続けている。
党にとって都合の悪い過去や歴史を削除するだけではなく、党の思想に正当性を持たせるためにあらゆる改竄を行う。戦争の相手が変われば即座に過去を改竄し、はるか昔から同じ国と戦争しているという歴史に書き換える。物資の供給が減ったにも関わらず、過去の数字を改竄し供給量が増えたと人々に伝え、かつその増加をビッグブラザーが予見していた、という過去に書き換える。徹底して、ビッグブラザーの正しさを人々に植え付ける。
また、党の正当性を保つために二重思考という方法を人々に習得させる。
二重思考とは、ふたつの相矛盾する信念を同時に抱き、その両方を受け入れる能力をいう。
本文の引用だけではなんの事かわかりにくいが、これは党の矛盾した行いや思想に対して、人々はそれを正しいと認識するための能力である。
印象的なのは「2+2=5」というフレーズだ。人々は党が「2+2=5」と言えば、それを信じる。
この二重思考と前述の歴史改竄と相まって、党は人々の思考の支配を強力なものとしているのだ。
さらには、ニュースピークという言語も興味深い。
党が従来の言語から置き換えようとしている新しい言語である。
母語と比べ非常に単語が少ないのだが、批判的な言葉を排除する事で、党を批判する事も出来なくなる、という狙いを持った恐ろしい言語である。
とにかく人々の思考を縮小し、思考のみならず精神まで支配する。これだけ徹底された支配体系を考えだした作者のジョージ・オーウェルは間違いなく天才なのだと思ってしまう。
〜社会の歪みは国家が原因か?〜
さて、この「1984年」は近未来小説とはいえ表題の年もはるか昔に過ぎてしまった古典文学である。現代ではあまり肯定されていない全体主義に対する警告が主な主題であり、テーマとしてもやや古く感じられる。しかし、2017年にアメリカでAmazonトップ10リストに入った。聞くところによると、世界情勢が不安定になったり、国やそのトップの矛盾した行為が話題になったりするたびに売れているそうだ。
いわば、社会において"支配"や"情報操作"の気配を感じると、それらをきっかけに何度も何度も人々はこの本を手に取る、ということらしい。
僕はなんとなくこの流れに疑問を持つ。
いつの時代でも人々の共通の敵は"国家"であり"権力"なのだ。
あらゆる物語においてもこの構図はよく見る。
しかし、今の社会において、本当に怖いのは国家だけなのだろうか?
テレスクリーンのような機能を持つスマートフォンを開発しているのは、民間企業だ。
ネットを通して、逐一人々を監視していたり、SNSでデマや嘘の情報を流して世の中を混乱させるのは一個人だ。
僕個人としては、国家よりも隣人の方が怖い。
ジョージ・オーウェルの描いた監視社会よりも、現代社会はより複雑な仕組みで人々は監視されている。
もちろん独裁国家は否定すべきだが、統治する国家は必要だ。一方で、人々には自由を保障すべきだが、度が過ぎると世の中を混乱させる暴徒と化す事もある。
重要なのはバランスなのだ。
この本の内容から背景まで含め、僕がこの本から学んだ事は、世の中の歪みを適切に見極める力を持つ事の重要性だ。
疑う事は必要だ。しかし、疑う先を誤ってはいけない。
というのも、実は最近やたらと国家の陰謀論を提唱している友人がいて、彼の話に飽き飽きしていたところだった。
その直後にこの小説を読んだもので、僕自身、現在はなんとなくバランスの取れた思考回路になっていると自負している笑