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【カササギ殺人事件(ややネタバレ)】大胆な仕掛けに満ちた本格ミステリ
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
〜重厚な傑作ミステリ〜
僕は、連続殺人事件や探偵もの、いわゆる本格ミステリ小説、といったものをそんなに読んだ事はない。
しかし、少年時代に「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」などの謎解きミステリのマンガにハマった事もあり、探偵ものの話は好きだ。
本書はアガサクリスティへのオマージュが散りばめられているそうだが、アガサクリスティを読んだ事がない僕にとってはその点に関する感動は無かったものの、謎解きミステリとしては一級品だと感じた。
数多くのヒントを散りばめ、最後の種明かしで細かいところまで全てを見事に回収する。読後の満足感はかなり高い。各方面で高評価だったのも納得である。
そして、特筆すべきは、古典的謎解きミステリのフリをしながら、大胆で斬新な構造を持った作品なのである。
これは前知識を何も入れずに読んで本当に良かったと思う。
※注意※
ここから先は、ネタバレを含むので、未読の方はまだ読まない事をオススメします。
〜斬新な構成(ここからややネタバレ)〜
非常に興味深いのが、この物語の構成である。
プロローグでは、これから始まるミステリ小説を読んだと思われる女性の語りから始まり、あっけなく「カササギ殺人事件」の本編が始まる。
何が起こったのかわからないまま、名探偵ピュントの捜査が始まる。
そして、意味深な一言で上巻が終わった後に、下巻に進むわけだが、ここからプロローグの女性目線で別の事件が始まる。
この物語は、二重構造になっていて、名探偵ピュントシリーズの作者アラン・コンウェイが巻き込まれた事件を追うヒントとして、架空の小説「カササギ殺人事件」が描かれる。つまりは、謎解きの中に謎解きを含んだ構造となっているのだ。
驚くべきは、作中作品としての扱いとなる「カササギ殺人事件」も、ひとつのミステリ小説として成立している事だ。とどのつまり、この一作品で2つの別々の謎解きが出来るという贅沢な作品となっている。
なんでも作者はこの構想から15年かけて本作を執筆したそうだ。これだけ複雑に入り組んだ構成を書き上げた作者の頭の中はどうなっているのだろうかと思う。
〜仕組みを活かしきれていたのか…?〜
さて、しかしながらその斬新な構成に驚いたものの、2つの謎解きはそれぞれ独立したものと言えなくもない。
(物語における)現実世界での謎を解くためのヒントは登場人物の共通点や作品名のアナグラムだったため、「カササギ殺人事件」の内容そのものが現実世界に影響を与えたわけではない。
読み終わりの満足感は高いものの、やはり一度に2つのミステリを読んだだけなのでは?という感覚は拭えない。斬新な二重構造を活かしきれていないのでは、とも思ってしまう。
ただ、独立しているとしても、それぞれの謎解きは非常に巧みに構成されていて、十分に面白い。現実世界と小説世界が入り混じってしまえば、おそらく現実味が破綻してしまい、ここまでの満足感はえられなかったのだろうな、と思う。