「経営企画」はいつ立ち上げるべきなのかを考えてみた話 〜立ち上げを検討すべき5つのアラート〜
株式会社ベーシック執行役員 CAOの角田(@takeshisumida_)です。
私は現在コーポレート部門の管掌役員として、経営企画、人事、広報、経理、財務、法務、総務、内部監査など、バックオフィス周りの機能全般に幅広く関わっています。
この中の経営企画については、まだ会社に機能として存在していなかったゼロの状態からの立ち上げを行い、その経緯を記した以下noteでは、ニッチなテーマながら、ありがたいことに非常に多くの反響をいただきました。
そしてこのnoteがきっかけとなり、先日ALL STAR SAAS FUNDさんのポッドキャストに、恐れ多くも「スタートアップにおける経営企画の立ち上げ」をテーマとして出演させていただきました。
Amazon、Apple、Google、そしてSpotify、自分の声が各種メジャープラットフォームで配信されるというのは初めての体験であり、なんだか変な感じではありますが(笑)、ポッドキャストというテキストとはまた異なった形態を通じて、上記noteをご覧になっていなかった方にも、今回新たに情報がお届けできていましたら何よりです。(楠田さん、改めてありがとうございました!)
さて、そのポッドキャストの中で、「経営企画はいつ立ち上げるべきなのか?」という質問がありました。
ベーシックにおいては当時「必要であると私が感じたから」立ち上げたものの、確かにいざ聞かれてみると、「いつであるべき」と言い切れるほど綺麗に言語化できておらず、上記noteの内容も、あくまで立ち上げが決まった前提での話であると改めて感じました。
実際に在籍している方は強く実感されているかと思いますが、スタートアップでは、当初無かった機能を会社の拡大により新たに立ち上げて、段階的に追加していくのはよくあることではあります。
ただ、経理や総務、人事など、会社を始めた初期からあったり、無かったとしてもある程度業務や必要性のイメージがつく職種と異なり、経営企画は実際にその機能を持っていないと、概してその必要性は想像がつきにくく、そのため必要となるタイミングもいまいちよく分からない機能だと思っています。
そこで、そのように分かりにくい「経営企画を立ち上げるべきタイミング」について、ポッドキャストの補足という意味でも、今回のnoteで改めて考えをまとめてみようと思います。
などに当てはまる方に特に読んでいただけると嬉しいです。
経営企画が必要となる規模はあるのか?
まず最初に、これまでにも比較的よくあった質問として「会社が何人くらいになったら経営企画が必要となるのか?」というものがあります。
完全に定量化するのは難しいものの、こちらの質問に対しては「100人を超えてきたら」と答えています。また社員数ではない切り口として「展開する事業が複数になってきたら」と答えることもあります。
これまでのnoteでもお話ししていますが、経営企画の仕事とは"ジャングルガイド"のようなものだと個人的には考えています。
「会社=ジャングル」と見立てた場合、例えばジャングルが数メートル四方のごく小さなものであったり、そもそも木がほとんど生えておらず見通しがよければ、誰にも頼らず自力で出口までたどり着けるでしょう。
会社が大きくなるということは、そのジャングルの敷地面積が拡大していったり(事業・売上の拡大)、様々な木が生い茂っていく(取引・費用の複雑化)ようなものです。
この「会社が大きくなる」という1つ観点が"社員数"です。社員の数が増えていくと、それに従い、特に人事・労務・総務周りの費用を中心として、様々な変数が増えてきます。
もう一つの観点が"事業"です。スタートアップが何かしらの事業を立ち上げそれ一本でやっている場合は、社長や経営陣も基本的にはその事業しか見ていないため、見えないものは極めて少ないでしょう。
しかし事業が複数化してくると、当然のことながらそれぞれの事業に紐付く費用やオペレーションがその事業数だけ増えることになるため、その分見えないことも増えていくことになります。
そこで、それら見えなくなっている部分を解きほぐし、時には進むべき道の整備をしながら、会社を正しい方向に導いていくために、"ジャングルガイド"が必要になってくるのです。
ただしここまでですと、これまでのnoteで書いている内容とそんなに変わりがありません(笑)。
今回はこの"社員数"や"事業数"という観点とは異なり、より具体的に、会社でどういう状況が起こっていたら経営企画が必要と言えるのかという、言わば"アラート"的なものをご紹介していこうと思います。
経営企画の立ち上げを検討すべき5つのアラート
さっそくですが、以下の5つを、経営企画の立ち上げを検討すべき"アラート"と定義してみました。それぞれについて説明していきます。
1. 事業計画の数値が不正確、もしくは粗い
前述のnoteでも書いたように、ジャングルを会社に見立てた場合、ステップとしてまず必要となるのが、正しく出口まで導くための"地図"の準備です。この地図の役割を果たすのが、会社においては"事業計画"です。
当然この地図は正確であって初めて意味をなします。示している方角が間違っていたり、目印となるランドマークの場所が間違っていては地図の意味がありません。
また、書いている情報自体は正確でも、その情報の粒度が荒すぎて、結局出口までどのようなルートで進めばいいのかの具体が分からない場合もまた同様です。
経営企画機能が無い場合、経営陣や経理のメンバーが、通常の業務と同時並行で、ここら辺の計画周りを作ることが多いです。その場合に起きがちなのがまさにこの問題です。
数字の桁が一桁間違っていた、関数の範囲が正しくなかった、関数で計算すべきところが一部ベタ打ちになっていた等、一度作った計画の間違いが見つかり、結局達成には無理がある数字だったことが後から発覚するということは、とても初歩的に思えますが、かなり起きがちなことです。
これは必ずしも計画作成能力云々という話ではなく、事業が広がり社員が増えている中で、膨大な変数が存在する状態になっている事業計画に対して、通常の業務もこなしながら十分に時間が避けない中で、誰かが兼任で計画を作成するという状況に無理が生じ始めているためです。
ジャングルで正しい方角やルートも分からないまま、ただ闇雲に彷徨うほど危険なことはありません。まずは正しい地図を手に入れる手立てが必要なのです。
2. 事業計画の数値がいつのまにか現場で変わっている
正確な事業計画が用意されていた場合でも起きがちなのが、「現場に伝えた事業計画の数字がいつの間にか変わっている」という問題です。
これはまさに前述のように事業が複数化し、組織として事業部もいくつかに分かれてきた時によく起こります。
事業部長への権限移譲を行う中で階層が深くなることにより、そもそもとして現場まで計画の数字がうまく伝わっていないということも多いのですが、よくあるのが、「ちょっと厳しそうなので下方修正しました」「メンバーのモチベーションコントロールのために少し数字を変えました」など、事業部の都合で勝手に判断して数字を見直されていたというパターンです。
その計画数値の変化についてすぐに気がつけばまだ何かしら対応が可能ですが、「計画に対して上目で進捗しています!」と事業部から報告を受けながら、その計画は経営陣が認識しているものではなく、実はその後事業部が独自に修正していたもの、でも期が締まるまでその修正に誰も気付かないということも、恐ろしい話ですが少なくないです。
もちろん計画は、進捗に応じて必要があれば適切に見直されるべきものなのですが、全体の計画を承認した経営陣が知らないうちに、現場で違う計画に見直されている、つまりいつの間にか各自が"別の地図"を持っている状態では、会社全体として同じ出口に向かって進めるはずがありません。
3. 事業計画との差分が認識されていない or 見過ごされている
計画自体は浸透しており、現場でもその数字が正しく認識されている、その場合でも起こる問題が、「計画との"差"が正しく認識できていない、もしくは認識はされているけど見過ごされている」というものです。
この"差"の管理を会社として行う仕組みが「予実管理」ですが、横串で見る経営企画のような機能が無い場合、この管理がタイムリーにできていなかったり、管理はされていながらその差分が放置されていることが多々あります。
経営陣から計画に対する進捗を現場に訪ねた際に、「結構いい感じです」「えーと、どうでしたっけ…」のように、曖昧だったり、よく分かっていなかったりする返事ばかり返ってくる会社は要注意です。
特に事業が複数化している場合、それぞれの事業の進捗に応じて全社での最適なリソース配分を行なわなければいけませんが、そもそも各事業の予実差が適切に管理されていないため、それを積み上げた全社としての状況も当然のことながら誰にも分からないということは、急成長を遂げている企業であればあるほどよくあります。
このような予実管理はプロセス化し、実績はもちろん理想的には最新見込みの状況も常に定期的に確認、そして仮に計画との差が生じている場合は、該当部署に適切なフォローをする仕組みを作っておく必要があります。
そうでないと、ある時経営陣の指示により、会社の誰かが通常業務を放り出して急遽慌てて取りまとめる、というような事態を生みがちです。
会社として出口に正しく向かっているのか、決めたルートからのずれは無いか、自分達の進行状況は急に思い出したように確認するのではなく、あくまでタイムリーに認識される必要があります。"ただ地図を持って歩いているだけ"の状態では、適切な出口には辿り着けません。
4. 決めたことが浸透していない or 形骸化することが多発している
事業計画の数値は浸透しているし、その差分は予実管理できちんと追えている、その上でも発生しがちな問題は、「決めたはずのアクションやルールが、浸透していなかったり、いつの間にか形骸化していること」です。
事業計画は、当然差を見ていればそのうち達成できるというほど簡単なものではありません。その数値を達成するためには、"各KPIに紐づいたアクション"がプランニングされ、それが確実に実行されていなければいけません。
また直接的にはKPIとは関連していないことでも、"会社として社員に取って欲しい行動規範(コンピテンシーなど)"や、"月次決算を期限内に締めるためのルール"など、事業の成果を最大化するために、会社運営を円滑に行うために、会社としての決め事は数多くあるかと思います。
会社が拡大し、人員、事業部の数も増えてくると、このようなアクションや決め事の徹底の度合いが、事業部ごと、部署ごとによりまちまちという事態が必ず発生してきます。
「あれやるって決めたよね?」「一度決めたあのルールって今どうなってたっけ?」、このような言葉が会社で盛んに出ているようであれば要注意です。"横串での行動管理"が必要なタイミングである可能性が高いです。
大企業と異なり、ベンチャー企業やスタートアップには時間もお金もありません。グルグルと同じ道を繰り返し歩いてしまったり、決めた道を歩かないメンバーを何度も注意している場合ではないのです。
5. 施策が個別最適になっている
事業計画達成のための施策自体は打たれているものの、その施策が特定の事業部や部署の観点でしか考えられていない、つまり「全体最適ではなく個別最適になっている」場合も要注意です。
これは特に、事業部とコーポレートの間で起きがちな問題でもあります。少し具体的になりますが、例えば、事業部側で顧客獲得のために顧客から求められることに全て応えていった結果、イレギュラーな契約が多発し法務部門に負荷がかかったり、取引条件のパターンが増え過ぎることにより経理部門に負担がかかったり、などが挙げられます。
コーポレート部門からの悲鳴ということに対して身に覚えがある方も多いのではないでしょうか。当然顧客の要望には最大限に応えながらも、全社視点での効率、それに向けた一定の"ルールの統一"という観点は、必ずどこかで必要となります。
上記はあくまで一例ですので、もちろんこれ以外にもあらゆる部署間で起きえる問題です。各々の部署が各々のミッションの達成や成果の最大化に向けて行動することは、それはそれで素晴らしいことなのですが、単なる"足し算"では必ずどこかに皺寄せがいくものです。
あくまで「会社全体としてのミッションの達成や成果の最大化」のためには、一定の規模においては、各機能間の"バランスの調整役"が必要になってきます。
会社はあくまで同じ出口に向かってみんなが足並みを揃えて向かうべきものです。各々が自分の好きな道を突き進んでいては、それを呼び戻したり、道を整備し直したり、時には救助したりすることで、結局は全体としての進行が遅れてしまうことになるのです。
経営企画を立ち上げたら何が変わるのか?
では、実際に経営企画を立ち上げたら、会社としては一体何が変わるのでしょうか? もちろん上記アラートの1〜5の状態が解決するという言い方はできるのですが、経営目線でもう少し違う言い方をすると、「経営陣の"脳内リソース"が本来の役割以外に奪われてしまっている状態が解消される」、ということが言えるかと思います。
1〜5のアラートは全て、会社としての計画や、会社としての指針に関わることのため、そこで起きた問題の解決には、少なからず社長や役員などの経営陣がフォローに入ることになります。
ただでさえ管掌範囲が広く、またより重要なミッションを抱えている経営陣が、自分の本業以外のことに忙殺されていては、当然のことながら会社として目指す出口に対して最速で向かうことはできません。
スタートアップの場合は、当然経営陣であろうが「会社を死なせないためには何でもやる」が基本ではあるものの、特に上述1〜5のアラートの解決に対して経営陣が多くの工数をかけてしまっている場合は、そこをまとめてまるっと経営企画などの別機能に任せてしまった方がいいフェーズである可能性が非常に高いです。
そしてそこで空いた経営陣の脳内リソースを、管掌の他の重要イシューに当てた方が、会社が目指すゴールに最短最速で向かうためには、遥かに有益なはずです。
会社に属しているメンバーは、ジャングルから正しい出口に辿り着くための一つのパーティーです。そしてそのパーティーにはそれぞれ役割が存在します。
その隊長(=経営陣)が本来果たすべき正しい役割を担えていない場合は、他の隊員がボトルネックとなっている役割を代わりに巻き取って担うことも時には必要です。それが結果的にはパーティー全体の進行を早めることに繋がると考えています。
経営企画を立ち上げる際の注意点
さて、これら5つのアラートを認識した上で、いざ経営企画を立ち上げる際に担っていく具体的な役割については、まさに前回のnoteをご覧になっていただければと思いますので、今回は「立ち上げる際の注意点」について最後に触れておきたいと思います。
冒頭に、立ち上げを検討する際の一つの基準として、社員数の規模感(100人)や事業部の複数化について触れましたが、あくまでこれは、まさに今回ご紹介した"アラート"が出がちなフェーズであるという意味です。
つまり、単純に社員が100人を超えたから、事業が複数になったから、ということをきっかけに経営企画を立ち上げを行う必要はありません。
これは経営企画に限らずですが、新しい機能の立ち上げの基本はあくまで"課題"ありきです。今回ご紹介したようなアラート(=課題)があれば立ち上げを検討した方がいいという関係性ですので、逆に言うと、たとえ会社の規模が上述の基準より遥かに大きくても、経営企画の機能無しにうまく回っている会社も世の中には多々あるかと思います。
課題の発見無しに、杓子定規に規模の基準に応じて経営企画を立ち上げては、それこそ、その立ち上げの作業自体が会社にとって非効率となり、結果会社が最短最速で出口に向かうための妨げとなってしまいます。
まずは社内の課題をしっかりと把握し、その課題は既存機能では解決できないのか、またその場合経営企画機能の立ち上げが解決に繋がるのかを、よく見定めましょう。
(※いざ立ち上げるとなった際に必要となる人材の要件は、今回のポッドキャストでもお話ししていますので、よろしければお聞きになってみてください)
なお、冒頭でも触れた通り、経営企画は他の機能よりもその役割が少し想像しにくいものであるため、いくら社内の課題を見定めても、自分達だけでは立ち上げの必要性を判断しにくい場合もあるかもしれません。
そのような時は、「経営企画を立ち上げた経験がある」「経営企画を立ち上げたことにより会社がうまく回るようになった」などの、先行している他社の話を聞いてみるのが効果的です。
私自身、会社を超えた情報交換や相談が気軽にできる場の創出を目指して「経営企画コミュニティ(#経企コミュ)」の運営にも携わっています。私以外にも、経営企画の立ち上げであったり、経営企画の業務に関する質問・ディスカッションができるメンバーが多数いますので、今回のnoteでより具体的に立ち上げを検討する方はこちらにご参加いただくのも良いかと思います。(2022年7月現在、500以上のメンバーが参加しています。)
いかがでしたでしょうか。今回ご紹介した内容が、現在もしくは近々、"経営企画の立ち上げ"を検討してるスタートアップやベンチャー企業の皆様のご参考に少しでもなっていれば幸いです。
今回のような経営企画ネタを含め、これからもコーポレート組織にまつわることを中心に、noteやTwitterで発信していきたいと思いますので、それぞれフォローしてもらえるととても嬉しいです。
Twitter:https://twitter.com/takeshisumida_
note:https://note.com/takeshisumida_
最後まで読んでいただきありがとうございました。