マガジンのカバー画像

noterさんからの大切な記事

65
すばらしいnoterさんたちの大切にしたい記事をまとめています。
運営しているクリエイター

#創作大賞2023

『奇譚草紙』第1話「白熊」

『奇譚草紙』第1話「白熊」

 白熊からわたしのスマホに連絡があったので、わたしはすぐ白熊のマンションへ行った。途中の道沿いにある一軒の家の庭に、白山吹が咲いていた。
 
 白熊は、お客さんが来るまでにはまだ時間がある、ちょうどコーヒーを淹れたところだから先に飲もうと言って、二つのマグカップにたっぷりとブラック・コーヒーを注いでくれた。

 わたしはにこにこと、猫の顔がプリントされたマグカップに唇をつける。白熊が淹れてくれるコ

もっとみる

小説「歩み」 第2章 第2話 「小学校」

 幼稚園年中で自分の名前を漢字で書けるようになっていたし、年長でかけ算九九の二の段まで覚えていたので、平仮名から習う小学校の授業は退屈だった。
 隣の席の男の子が「この平仮名なんて読むの?」と訊いできたので目を向けると、その男の子の名前に使われている平仮名だったので心底驚いた。自分の名前の平仮名すら読めずにどうやって6年間生きてきたのだろうか、と。

 小学校に入ってから、水曜日を好きになり、木曜

もっとみる

小説「歩み」第2章「幼稚園」

   三歳くらいからは朧げに覚えているので私視点で話を進めることにする。

 幼稚園は楽しかった。幼稚園児ならではの「ママなんで帰っちゃうのぉ〜」と言って泣きじゃくり先生や母を困らせる、なんてことは一度も無く、なんなら「なんでママも園庭に入ってくるの?」なんて言い放つ三歳児だった。
 いかにも「幼稚園児」といった性格の女の子に嫌がらせをされて傷ついた記憶もあるが、幼稚園でやる勉強や運動にはついてい

もっとみる

小説「歩み」第1章「母」

  私、太田りおの母は所謂「毒親」だった。父からは暴力を受けた覚えはないけれど、暴れ狂う母から私を守ってくれなかったから、やはり「毒親」なのかもしれない。私には兄弟はいない。毒親の両親と私だけの息の詰まる三人暮らしだ。

 母は両親と兄との四人家族で育った。
 母の父、つまり私の祖父は石油をトラックで運ぶ仕事をしていたらしい。それなのに母曰く、石油を積んだトラックを飲酒運転していたとのことで、神経

もっとみる