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CGとカレーと冬のある日の秋葉原

秋葉原の街はいつも独特のエネルギーに満ちている。電気街の看板が光を放つ中、僕は久しぶりにこの街を歩いていた。その日、東京での仕事を終えた帰り道、ふと思い立って立ち寄った。数年前、東京ゲームショウで目にした最新のCG技術に感動して以来、秋葉原には何か特別な親近感を覚えていた。

その日、ふと路地裏の小さな看板が目に入った。そこには“スパイスと秘密のカレー”と書かれていた。怪しげだが、好奇心が勝った。階段を下りていくと、地下に広がるのはまるで異世界だった。店内は薄暗く、カウンターの向こうにはメイドカフェのような制服を着た若い女性が立っていた。茶色いエプロンが、どこかしら秋葉原らしいキッチュな雰囲気を醸し出していた。

ここはメイドカフェではなくて、カレー屋さん

「いらっしゃいませ、ご主人様」と彼女が微笑む。まさかカレー屋でそんな挨拶をされるとは思わなかったが、悪い気はしなかった。席に着くと、スパイスの香りが漂う。メニューはシンプルだが、どれも独創的な名前がついていた。

僕は“秋葉原スペシャル”を注文した。運ばれてきたカレーは、見るからに手が込んでいる。スパイスの層が幾重にも重なり、まるで一皿の中に小さな宇宙が広がっているようだ。初めての店の味を楽しんでいると、隣の席から声をかけられた。

「お兄さんもCGとかやってるんですか?」

振り向くと、20代前半くらいの女の子がこちらを見ていた。彼女はまだ新人OLみたいな感じの制服姿で、でも、どこか秋葉原らしい出で立ちにも思えた。

「まあ、建築の仕事でCGを使うことが多いんだ」と僕は答えた。

彼女は目を輝かせて、「すごいですね!私はゲームのキャラクターデザインに興味があって、いろいろ独学してるんです」と言った。その一言がきっかけで、僕たちは話に花を咲かせた。

CGを学ぶカレー女子

彼女が語るゲームとキャラクターデザインへの情熱は、聞いていて楽しかった。僕は彼女に、建築の世界でどのようにCGが使われるかを話し、建物の質感や光の表現について説明した。彼女は興味深そうに頷きながら、「まるでゲームの背景デザインみたいですね」と言った。

カレーを食べ終える頃には、店内の薄暗さも心地よく感じられるようになっていた。彼女が「次はどんなゲームを作りたいか」を話す横顔を見ていると、若い頃の自分を少し思い出した。新しいものに対する純粋な興奮と好奇心、それは年齢を重ねてもどこかで持ち続けたいものだ。

会計を済ませて店を出ると、彼女は笑顔で手を振りながら「またどこかでお話ししたいです」と言った。僕は「こちらこそ」と返事をして、秋葉原の夜の街へと足を踏み出した。

その日の帰り道、僕の頭の中には彼女との会話や、あのカレーの味がぐるぐると巡っていた。建築家としての僕の日常とは少し離れた、秋葉原の地下での小さな冒険。それは、思いがけず心を軽くしてくれる出来事だった。

秋葉原は、出会いと発見に満ちている

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