【歴史本の山を崩せ#011】『近代ヨーロッパ国際政治史』君塚直隆
《海千山千の思惑と利害が交錯する欧州四百年の歴史》
ルターの宗教改革前後から第一次世界大戦勃発までの約四百年の欧州国際関係史をギュッと一冊に濃縮した濃い本です。
海千山千が絡まった麻糸のようにグチャグチャな国際関係史を幾分かわかりやすくするため、ほぼ各章ごとに「主役」が設定されており、彼(彼女)を中心に記述を進められていきます。
世界史の教科書でも有名なところでいえばエリザベス1世(英)、ピョートル大帝(露)、ルイ14世(仏)、ナポレオン1世(仏)、メッテルニヒ(墺)、リンカーン(米)、ビスマルク(普→独)など。
ウェストファリア体制、ウィーン体制、ビスマルク体制などの名高き国際秩序も、もちろん出てきます。
欧州各国はキリスト教国という共通点以外にも諸国の王同士が親戚関係であるということが珍しくありません。
ルターの宗教改革によって生じたカトリックとプロテスタントという宗教的な要素と、親戚関係であるがゆえに生じる領土や権益の継承問題。
これらが火種となって戦争を繰り返しながらも、同盟、密約、講和、会議…試行錯誤を経て徐々に、現在にいたる「外交」のカタチが形成されていく。
その歴史的な流れは絶対王政、啓蒙専制君主の政治から国=王の所有物という感覚が変質して、主権国家の成立、国益の概念、「国民」の誕生…近代国家へと転換とともにあったといってもよいでしょう。
各国の思惑と利権が交錯する国際関係史を読んでいくことは簡単ではありませんが、とてもエキサイティングです。
主要な王朝の系図は載っているものの、同名の別人が多数出てくるので、その点は少し難しいかも。
この一冊をマスターできれば欧米の近代国際関係史の概略は抑えたも同然といえるでしょう。
著書の君塚直隆さんの専門はイギリス史。
かの岡本隆司さんが「盟友」としてよく名を挙げる先生でもあります。
イギリス史の概説書を探しているなら君塚さんの本も是非とも候補に入れてみてください。
『近代ヨーロッパ国際政治史』
著者:君塚直隆
出版:有斐閣
初版:2010年
定価:2200円+税
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