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映画メモ 2月

最近観た印象的な映画。

①『別れる決心』Amazonプライム←❤❤❤ 悪夢を見たのでインパクトは大!
②『CHHAAVA』劇場←❤❤❤ 大予算の歴史大作
③『Jaggi』MUBI←❤❤❤ インドで生きる男の苦しみ

①『別れる決心』(2023年、韓国):込み入った二人のロマンス

生真面目な男性刑事が、捜査対象で夫殺しの容疑がかかった女と奇妙にひかれ合う様を描くパク・チャヌク監督作品。

強く、美しく、妖しく、そして脆い女に翻弄される男の情けなさを描きたいパクチャヌク監督の趣味(性癖?)は感じられた。

ヒロインのソレを演じたのは中国(今は香港)の女優、タン・ウェイ。彼女の韓国語は確かに少々聞き取りづらい部分が(多分本当はもっと上手いけれど)あったけど、ネイティブからすれば本心が読み切れないミステリアスな装飾だったように思う。『唯一の(ユイラン)』を誤って『単一の(タニラン)』と言ってしまうが、漢字語圏の人間が間違えるわけない気もして、ソレの戦略だったのかも。

話が込み入って来ると翻訳ソフトに吹き込んで話す。今の時代だね!!!生で言う言葉より翻訳ソフトの方を信じちゃう、というか信じるしかないっていうね。

刑事を演じたパク・ヘイル(『殺人の追憶』『グェムル』等)は年を取っていい顔になってきた。妻(何とイ・ジョンヒョン!かつてのテクノの女王が)は支配的な性格で、彼は気おされ気味だ。

正直ロマンス映画にあんまり惹かれないのだが、最後どうしてそうなったんかなと考えていたら真夜中に夢でうなされた。私の好みをぶち破って眠りを邪魔する程力強い映画だったということで、満足だった。

日本語字幕で観た方がよかったかなーとは思った。早口の方言で話すキャラの言葉が聞き取れず、英語字幕でも追い付けなかったから。

②『CHHAAVA』(インド・ヒンディー語、2025年):ヴィッキー・コーシャルおめでとう!マラ―タ―王国の英雄を熱演し大ヒット!

17世紀、北部インドをムガル帝国が支配していた時代、中央部デカン高原に興ったマラ―タ―王国は手ごわい敵だった。その王であり戦術に長けた武将、Chhatrapati Shivaji Maharaj(通称:シヴァージー)が死去。ムガルの高齢の皇帝アウラングゼーブはここぞとばかりにデカン高原に攻め入るも、シヴァージーの息子、Sambhaji(ヴィッキー・コーシャル)の軍勢の激しい抵抗に遭う。

日本の高校で学ぶムガル帝国(イスラム教で征服王朝)中心の視点とは異なり、特にマハーラーシュトラ(昔のマラ―タ―王国)のヒンドゥー教徒にとっては、ヒンドゥーのマラ―タ―王国こそが、イスラム教徒の侵入に抗った英雄だ。若干きな臭い話ではあるものの、マハーラーシュトラ州のマラーティー語映画ではシヴァージーの映画は毎年のように公開されて来たし、私も何本か鑑賞した。

ボリウッドに比べ予算が低い分、どうしても物足りない作品もあったが、今回は、Maddock Filmsというボリウッドの映画製作会社が『Stree 2』等で昨年大儲けしたお金と全国的大スターを起用してシヴァージーの息子、サンバージーの物語を作り出した。

サンバージーの妻Yesubaiは、テルグの石田えり、ラシュミカ・マンダンナ(『プシュパ』で一躍全国スターに躍り出た)。武将の妻だから大分おとなしいとは言え、謀反を企てた家臣をしょっぴきに来るときに力を発揮していた。

ヴィッキーはしばらく大ヒット作が無かったように思う。昨年公開の『Bad News』は興行的には受けず、ダンス曲のみ大流行している。

この軽薄なパンジャーブ男役から体重を大分増やして、マハーラーシュトラ男の憧れ、いかついサンバージーに変身。今までにない重めのヴィッキーの演技は説得力あり。

一緒に見た彼氏は元々シヴァージーものが大好き。映画としては楽しんだけど、ストーリーはいまいちと少々辛口。思うんだが彼の方が映画批評に向いてるんじゃないか。

日本で公開されるかは分からないものの、今年前半の超話題作。

③『Jaggi』(インド・パンジャーブ語、2021年):男らしくない男子が体験するインド社会の奈落

最後は、民謡を混ぜたラップ音楽が元気なパンジャーブから。

思春期を経ても勃起ができないことが判ったJaggiは、同級生からからかわれ、はては上級生に恒常的にレイプされるという悲惨な日々を送っていた。学校を中退してもその暴力は続いたが、ある日お見合い話が持ち上がる。気が進まなかったJaggiだが、お見合い相手の女は控え目な彼に好感を持つ。

ラップが元気ということは、社会文化の平均値が湘南乃風になっているという意味だ

(上記は少し前にギャングに射殺されたラップ&歌手、シドゥ・ムース。見るからにいかつい)

ボリウッド映画でも少し触れられている。

上記の『ロッキーとラニの愛の物語』でも、パンジャーブの一族はマッチョ主義的で、コルカタのスノッブな家族のことを心底馬鹿にしている…というかそうしないといけないと思い込んでいる様子が対比される。

マッチョ男以外は男扱いしてもらえず、特に男子のコミュニティでは虐められる可能性が高い…ということを如実に表現した今回の映画。

興味深い点は、Jaggiは同性愛者ではないのに、同性愛者からセクハラを受け、上級生からは何年もの間性処理と称して(なぜなら未婚の男性はみだりに女性と性行為してはならないから)レイプされるという点だ。

本作における同性愛者は彼にとって加害者となりうる存在だ。特に表面的には抑圧されている一方でトイレや人目につかない場所では抑えの利かない同性愛者からセクハラをされる。

Jaggiの家はそこそこの農家で、使用人を雇うこともあるが…この使用人が、上級生からのレイプを目撃、あろうことか、Jaggiに性処理を迫るのだった。

両親はほぼ没交渉、母親が親戚の別の男と不倫しているのは公然の秘密。父親は警察官でそれなりの地位にあるものの、父は毎日酔っぱらって家に帰って来るしまつだ。インドにおいて唯一人を守るはずの家族が機能していないのはつらい。

そこへ現れたのがお見合いの相手の女性。彼女は、控え目だが働き者のJaggiに好感を持ち、二人は親しくなっていく。そこに新しい希望が見える…のだが、上級生たちは、今度はお前の妻を犯してやると脅す。その脅しに充分に対抗することができないJaggiは、最後に恐ろしい決断を下す。

唐突かつ悲痛な最後にあっけに取られてしまった。

実話をもとにしたというが、インド男性がいかにコミュニティの暗黙の了解に縛られ、他人からのバッシングに弱いか…というよりは、いかに周囲からのバッシングがきつく(何せインドの人は思いついたことを全部口に出し、からかい、集団化すると暴走するから)、その惨状から逃れることさえ想像できず絶望に陥りやすいのであろう。

都会に出て行ければいいのかもしれないが…官憲も周囲の他人も誰一人当てに出来ず、家族コミュニティしか人を守ってくれない社会で、家族が脆弱となれば、たった一人でコミュニティや、口が悪く意地悪い同輩たち(そうやって自分が威嚇的にしていなければ自分がターゲットにされるから)などに立ち向かうことは不可能。何と厳しいのか。

これが北インド・パンジャーブの文化の片鱗なのかもしれないし、インド全体に当てはまるのかもしれないと感じる。

正直パンジャーブ映画は、陽気な歌と踊りの娯楽作しか知らなかったので、疲れていてよそ見しながら観たが大変面白く、重く感じた。なかなか勧めづらいが。

本当は、ブリジット・ジョーンズの日記最新作とか、観てみたい映画もあるのだが時間が合わず。まあぼちぼち観よう。

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