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「本屋のないまち」になるところだった広島の「本屋のあるまち」へ里帰り

今年の夏、高校時代を過ごしたまちに里帰りしました。

ついでに、気になっていた本屋に行ってみたんです。あやうく「本屋のないまち」になるところだったところに、本屋さんができたと聞いて。ありがたいなあ。

書店「ほなび」

あやうく「本屋のないまち」になるところだった

その場所は、中国山地に位置する広島県庄原市しょうばら。広島県北部の山間部にあって、広島県だけど、冬には雪もしっかり降る地域です。わたしはこのまち(庄原市のはしっこの町)で生まれたときから高校を卒業するまでを過ごしました。

わたしの通っていた高校は、庄原市の中心部にありました。卒業してからというもの、そのまちに立ち寄ることはめったにありませんでしたが、そこはしばらく「本屋のないまち」だったようなのです。そこに本屋ができたのを知ったのは、ライツ社さんのnoteでした。

5月。広島県庄原市という山間のまちに、書店『ほなび』がオープンしました。手がけるのは、人口6600人(2024年)の田舎町で本屋『ウィー東城』を経営する佐藤友則さん。

過疎化がすすむ庄原市中心部は2つの書店が相次いで閉業、一時は無書店地域に。JR在来線の存続・廃止も議論されるまちで、いま、いったいなにが起ころうとしているのか?

広島の「書店が一度なくなったまち」に生まれた本屋に過疎地域の希望があった

そっか、本屋さんがなくなっていたのか…! それは大変。ぜひとも応援の意味もこめてこの本屋さんに行かなくては! と思い、夏に帰省した際に立ち寄ってみることにしました。

その前に、わたしの暗黒の高校生時代をちらっと振り返っておきます。お前の暗すぎる高校時代になんて興味ないわという方は、目次から「本屋のあるまちへ里帰り」までスキップしてくださいね。


暗黒の高校時代を救ってくれた居場所

わたしの高校時代ははっきり言って「暗黒時代」でした。スポーツが苦手だから運動部にも所属していなかったし、他人にあまり興味がないのでマネージャーなんてできないし、かといって他校の男子生徒と付き合うようなキラキラ女子帰宅部チームにははなから入れるわけがありません。部長=ひとり部員みたいな美術部と、かけもちで文芸部に入っていました。つまりスクールカーストでいうと下のほう。毎日誰もいない美術室でひとりデッサンをして、ブルータスやアグリッパ(注:石膏像)と語り合い(こわいよ)、太宰治の本をこよなく愛す、地味な文化系女子でした。ああオルタナティブ。

田舎でオルタナティブとして生きるのはものすごく大変です。まず居場所がない。そんな高校生のわたしを受け止めてくれた場所が、「図書館」そして「本屋さん」でした。

当時から立派な書店があったわけではありません。でもそこはちゃんと本があったし、しかもなぜか雑誌のラインナップが尖っていて、「STUDIO VOICE(スタジオボイス)」があったんですよ。スタジオボイスは日本のカルチャー誌。社会問題とカルチャーとアート&ファッションの交わるこの「スタジオボイス」や「流行通信」や「装苑」らの雑誌や本たちによって、わたしはオルタナティブもうひとつの世界と繋がっていたのです。

「本」と「居場所」についてのエッセイを書いたことがありますが、わたしはもう、本屋さんと図書館があったからいままで生きてこれたようなものです。本でもうひとつの世界へ行けるんだってことを教えてくれました。つまり本屋はわたしにとって、とても大切な居場所だったのです。

▼「本屋」と「居場所」について書いたエッセイ(SMBC日興証券「推したい会社」エッセイコンテスト 賛同企業賞受賞作品)

本屋さんのある町へ里帰り

ではさっそく、その本屋さんへ。

ライツ社さんの記事によると、空き店舗を利用した本屋さんのようです。

「ほなび」とあります

本がずらりと並んでいます。ワクワクします。(許可を得て撮影させてもらいました)

この書棚の本をみんなで並べたのかあと思うとジーンとしちゃいます。そう、この書棚、なんと開店前にお客さんといっしょに本を並べられたそうなのです! 

ライツ社さんのnoteによると、この2万3000冊の本の棚詰めはなんと、お客さんといっしょにされたのだとか。前代未聞の、「開店前の本の棚詰め作業を、お客さんと一緒にやってしまう」という作戦です。この作戦を考えられたのはオーナーの佐藤さん。

「開店前の空っぽの本棚をみんなで詰めよう!」という佐藤さんの声かけに集まったのは、3日間でなんと150人。まずは数百箱のダンボールを所定の位置に運び、開梱作業。次に、棚に粗詰(ひとまず棚に入れていく作業)をして、最後に棚を作っていく作業。それぞれの棚をその棚らしく並べていくというイベント(というか開店前に必須の仕事)です。

広島の「書店が一度なくなったまち」に生まれた本屋に過疎地域の希望があった

佐藤さんは、この本屋を「自分ごと」にしてもらうために、みんなで書棚をつくることを考えたのだとか。

佐藤さん:
そうです。だって、本ってみんなの想いに応えられるじゃないすか。「ぼくだったらこうやって並べるな」とか。その熱量が入ってるか入ってないかっていうのは、まったく違うはずです。「わたしたちのまちの本屋である」っていうことを一番表現できるのが「棚」なんじゃないですかね。

広島の「書店が一度なくなったまち」に生まれた本屋に過疎地域の希望があった

なんかいいなあ。わたしも棚に入れる作業いっしょにやりたかったな。

「雑学文庫」という棚 気になる本がちらほら

「ほなび」という新しい居場所

本屋さんって、棚がおもしろいですよね。それぞれの個性が出るというか。いろんなジャンルの気になる本がたくさんあって、ワクワクしました。何冊か買おうと思っていたのですが、どれにしようか迷ってしまいます。

「書店本」というコーナー 

鉄道好きとしては、こんな手ぬぐいにも惹かれます。惜しまれつつなくなった三江線と、長年愛されつづける芸備線・木次線の路線手ぬぐい。乗り鉄としては芸備線のを買っておけばよかったな。また今度買いに行こう。

本だけでなく、さまざまな雑貨や調味料などが置いてあるのも楽しい。それをきっかけに、お客さんと店員さんとの会話が弾んでいました。いいなあ。本屋さんでおしゃべりができるのっていいなあ。まさに居場所! こういう場所、必要だよね。

「みんなでつくる中国山地」という雑誌が気になりました。まず、表紙が好き。次にキャッチコピー。「過疎は終わった!」「ここで、食っていけるの?」「さてどう住む?」うわあ、気になる。

創刊号か、準備号かどちらを買うか悩んだ末に001号を購入しました。でも、000の準備号も欲しかったなあ。(またこんど買おう)

みんなでつくる中国山地
地元から、世界を創り直す!

文庫本も買いました。いっしょに行った娘(18)が、お母さんは、これでしょ。と言ったので。人にすすめられた本は必ず読むことにしているのです。それは大学の先生でも、娘でも。

ブックカバー
素敵

レジでお会計をしているときに、黒板のかわいい文字を見つけました。「おすすめな本はてつどうガチャです」

かわいすぎるんだが。

奥にカープ坊やがチラリ

聞けば、オープンのときに書架に本を入れる作業を手伝ってくれたお子さんが書いてくれたのだそう。ときどき遊びに来て、おすすめの本を書いてくれるんだって。「てつどうガチャ」だよ、かわいすぎる。(2回目)

この黒板を見たとき、この本屋さんがしっかりみんなの居場所になっているんだなあと感動したのでした。

ほなび、素敵な本屋さんでした。

また遊びに来ます!


ほなびの情報

  • 営業時間 9:30〜19:00

  • 定休日 毎週火曜日

  • 庄原市西元町二丁目12-10


だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!