タケチヒロミ(Roulottes)

ドレスの仕立て屋と文筆家、ライター、旅する研究者|日本各地の布をめぐる「いとへんの旅」…

タケチヒロミ(Roulottes)

ドレスの仕立て屋と文筆家、ライター、旅する研究者|日本各地の布をめぐる「いとへんの旅」 文藝春秋SDGsエッセイ大賞2022グランプリ・2023優秀賞|noteではドレスと学問、旅にまつわる偏愛エッセイを。神戸市在住・広島県出身 好きなりんごは「つがる」🍎

マガジン

  • 大学院日記|50代、仕事と研究は両立できるか?

    大学院日記|日々の暮らしや仕事と両立しながら大学院での研究を記録するマガジンです。

  • 日常を旅にする方法(日本の旅エッセイ)

    国内各地の旅のエッセイをまとめています。「旅とブンガク」「旅とアート」など「旅と○○」シリーズもこちらに。

  • 繕い繋ぐリメイクのこと

    直し繕う仕事のこと。ヴィンテージドレスのリメイク、お母様のウェディングドレスのリメイク、廃材リメイク作品など。古き良きものを長く大切に。

  • 連載【仕立て屋の繕う日々】

    毎週火曜日更新。ドレスの仕立て屋が綴るおしごとエッセイ。 だいたい1000字程度で、さらっと読める日記風エッセイです。

  • art & fashion

    アートとファッションにまつわるエッセイ集です。「○○とアート」「○○とファッション」などのシリーズはこちらに。

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ただ美しいドレスをつくる #未来のためにできること

【文藝春秋SDGsエッセイコンテスト#未来のためにできること グランプリ受賞作品】  わたしが未来のためにできることは、ただ美しいドレスをつくること。  わたしは神戸のちいさなアトリエで、ウェディングドレスの仕立て屋をしている。最近ではSDGsの影響もあり、お直しやリメイクへの関心が増えてきたように思う。古いヴィンテージドレスをお直しすることもあるし、お母さまのドレスを花嫁さまのためにリメイクすることもある。  ミシンとトルソーと作業台だけのちいさなアトリエだが、それで

    • 國學院大學メディアnoteさんにインタビュー記事が掲載されました!

      國學院大學メディアnoteさんにインタビュー記事が掲載されました。 わたしがインタビューしたのではく、なんと、インタビューされたのです! ひゃ〜 ちょっと、いや、だいぶ照れますね。 というか、本人よりもだいぶいい感じに書いてもらっていて恐縮です。わたしそんな素敵じゃないです。いつもドレスと学問の両立に必死ですから。(いまも)   ↓こんな風に顔必死。 でもこうして、「ドレス」と「学問」について話すことで、じぶんの気持ちがハッキリしてきたように思います。インタビュー中

      • 「本屋のないまち」になるところだった広島の「本屋のあるまち」へ里帰り

        今年の夏、高校時代を過ごしたまちに里帰りしました。 ついでに、気になっていた本屋に行ってみたんです。あやうく「本屋のないまち」になるところだったところに、本屋さんができたと聞いて。ありがたいなあ。 あやうく「本屋のないまち」になるところだったその場所は、中国山地に位置する広島県庄原市。広島県北部の山間部にあって、広島県だけど、冬には雪もしっかり降る地域です。わたしはこのまち(庄原市のはしっこの町)で生まれたときから高校を卒業するまでを過ごしました。 わたしの通っていた高

        • 【繕う日々】ドレスを縫うときにだけ発動する謎の特技

           ドレスを縫うときだけ、両利きになれるという謎の特技を持っている。  わたしは右利きなのだけど、気がついたらいつの間にか左手でも縫えるようになっていた。左右どちらからでも縫えるので便利だ。 クロスドミナンスとは 目的や行動によって利き手を使い分けることをクロスドミナンスという。例えば文字を書くのは右手だけど、お箸を使うのは左手、というように。「クロスドミナンス」は、日本語では「交差利き」と呼ばれている。  わたしの子どもたちは、ふたりともこの「クロスドミナンス」だ。基本

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        • 大学生になりました。
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          【仕立て屋の繕う日々】ドレスと学問は両立できるか?

           「ドレスと、学問は両立できるか?」  ここのところ、そんなテーマをかかげて生きている。  わたしはドレスをつくる仕事をしている。そのかたわらで、日本の繊維製品の歴史についての「研究」もしている。  最初はじぶんの興味と関心のためだけに、日本各地の繊維製品をめぐる旅をしていただけだった。ところが知れば知るほどそれだけでは物足りなくなってきて、とうとう通信制の大学院に入って研究をするようになった。  うすうすわかっていたことではあるけれど、これがけっこう大変で。なんでこ

          【仕立て屋の繕う日々】ドレスと学問は両立できるか?

          【創作大賞】中間選考に残ったけれど受賞ならず、でもありがとう。

          創作大賞2024の結果が発表されましたね。 わたしの作品も中間選考で候補として残っていたのですが、受賞ならずでした。まあでも結果を見たときに思ったことは、残念というよりも「そうだろうな〜」でした。 エッセイで大賞を受賞された作品、わたしも素敵だなあと思っていた作品でした。ふわっとしていて、軽やかで、優しい映像が浮かんでくるような。 そもそも、わたしのこの作品が、中間候補に残るとは思っていなくて。じつは別のジャンルにも応募していたので、中間候補に残ったとのメールが来たとき

          【創作大賞】中間選考に残ったけれど受賞ならず、でもありがとう。

          JR「秋の乗り放題パス」で3日間とことん研究の旅をしてみたら

          JR「秋の乗り放題パス」を使い倒して、3日間の「研究の旅」をしてきた。 神戸からそれぞれに日帰りで向かった先は、京都府、名古屋、岡山県の倉敷市。 JR秋の乗り放題パスとはJR「秋の乗り放題パス」は、JR全線が3日間乗り放題でなんと7,850円のおトクなきっぷだ。(※2024年度は終了) 青春18きっぷの秋バージョンとも言われるおトクなきっぷだけど、問題は「連続した3日間」の使用に限られるということ。 連続した3日間ってのがけっこうくせ者で。なかなか3日連続は休みが取り

          JR「秋の乗り放題パス」で3日間とことん研究の旅をしてみたら

          【仕立て屋の繕う日々】メンテナンスを好きになってみる

           定期的にミシンのメンテナンスをする。  カバーを外してホコリを取り除き、数カ所にミシン油をさす。  メンテナンスの間隔は決まっていなくて、なんとなくそろそろしたほうがいいかな、というタイミングでしている。ひとつのドレスをつくり終えたら、必ず気持ちを切り替えるつもりでお掃除をし、油をさす。これがけっこう好きな作業なのだ。  おつかれさま、今回もがんばってくれてありがとう。次もまたいっしょにがんばろうね。  そんな気持ちでお手入れをしている。  ミシンもさっぱりしたよ

          【仕立て屋の繕う日々】メンテナンスを好きになってみる

          【仕立て屋の繕う日々】絵を描くこととは

           絵を描くことについて書いてみようか。  わたしは絵を描くことが大好きだった。  だから美大を受験したのだけれど、受験のための絵を描くことは苦しかった。悩んで、答えが出なくて、自分の境遇を呪って、他人と比べて嫉妬して、もうわけわかんなくなってた。  受験のために絵を描いていた高校生時代がわたしのいちばんの暗黒時代だったと思う。じぶんで選んだ地獄だから引き返せないんだけど、ほんとうはもうなんのために描いていたのかわからなくなっていた。何が描きたいのかも。  芸術系の短大

          【仕立て屋の繕う日々】絵を描くこととは

          はじめての古文書講座に行ってみた話

          このあいだ、はじめて「古文書講座」に行ってみた。 会場は兵庫県・明石市立文化博物館。 わたしはドレスの仕事のかたわら、通信制大学の大学院で日本の歴史(服飾史・民俗学)に関する研究をしている。歴史の研究をするうえで、避けては通れないのが「古文書」だ。 その古文書を学ぶべく、ふたまわりも年下の「学友」と明石市立文化博物館へ向かった。彼女は、通信制大学で文芸を学んでいる。同じ大学ではないけれど、学びの話ができる「学友」だ。そして、同じくゴールデンカムイを愛する「金カム友だち」

          はじめての古文書講座に行ってみた話

          【仕立て屋の繕う日々】まちのミシン屋さんよ永遠に

           ある日、相棒のロックミシンが使えなくなった。  ロックミシンとは、端かがりミシンのこと。生地端をかがってくれたり、メロー始末をしてくれたりする働きもののかしこい子。  その子が使えなくなった。ひょんなことで、下糸が抜けてしまったのだ。  ロックミシンは糸通しが面倒なので、普段は機結びという結び方で糸を結んで糸を変えている。その糸が抜けてしまったので、いちから糸かけをしないといけない。  だが、それがうまくいかない。糸が空気圧で機械のなかを通っていかないのだ。おそらく

          【仕立て屋の繕う日々】まちのミシン屋さんよ永遠に

          【仕立て屋の繕う日々】マリー・アントワネッ友

           大人になったら、いつかお城から招待状が届いて、舞踏会にお招きされるに違いない。子どものころは真剣にそう思っていた。  わたしが育ったのは、西洋の城はおろか日本の城すらもない山のなかの田舎町だ。まわりには見渡す限り田んぼとりんご畑。踊りの会といえば集落の盆踊りくらい。それなのに、わたしはけっこう本気でそう思っていたのだ。  リカちゃん人形にドレスを着せながら、お姫さまのドレスの絵を描きながら、わたしは妄想を繰り返していた。どんなドレスにしようかしらと。  大きくなるにつ

          【仕立て屋の繕う日々】マリー・アントワネッ友

          【仕立て屋の繕う日々】羽を織る

           コロナのとき、アトリエを出て自宅でしばらく仕事をしていたことがあった。二階の奥の扉をタンと閉め、部屋に籠ってドレスをつくった。わたしは仕事に集中すると、まわりのことがわからなくなる。なんなら子どもが居るということでさえ、ふと忘れてしまうようなときがある。  そんなわたしを見て、娘は言った。 「ドレスをつくっているときのお母さんって、昔話の『鶴の恩返し』の鶴みたい。戸を閉めて、羽根を抜いてドレスをつくってる」  たしかに、その感覚はあるかもしれない。ドレスをつくるとき、

          【仕立て屋の繕う日々】羽を織る

          泣きながら書いたエッセイが|note創作大賞2024 中間選考結果

          note創作大賞2024 エッセイ部門の中間選考を通過したと連絡がきました。執筆中に感極まって、泣きながら書いていたんで(こわいよ)、うれしいです。 タイトルは、 「パンが食べられないのなら、ドレスを作ればいいじゃない!」娘の小さいころのことと、ドレスのことを書きました。 今まで、息子のことは記事にすることがあったけど、娘のことはあまり書いてきませんでした。食物アレルギーのことで、誤解や特別扱いをされることを本人が嫌がっていたから。 でも、娘も成人(18歳)したし、ど

          泣きながら書いたエッセイが|note創作大賞2024 中間選考結果

          【仕立て屋の繕う日々】魔法はないけど、ある。

           一瞬でドレスをつくる魔法なんて、ない。  シンデレラの魔法使いは、ビビディ・バビディ・ブーと呪文を唱えて、ボロボロのドレスをあっという間にみごとな青いドレスに変えてみせた。でもそれはきっと、時間を止めていただけなのだ。  わたしの持論はこうだ。まず、魔法使いは時間を止め、「まあずいぶん派手にやられたわね」とつぶやきながらドレスをアトリエに持ち帰る。 「この生地は残念ながらもう使いものにならないわね。でもせっかくのお母さまのドレスだからアンダースカートは活かしてあげまし

          【仕立て屋の繕う日々】魔法はないけど、ある。

          【仕立て屋の繕う日々】この場所に居ますと言い続ける

           毎朝アトリエに行く。ウェディングドレスを繕うアトリエだ。  ほかの用事で、作業ができない日もある。それでも毎朝、アトリエには立ち寄るようにしている。そして、20分でも10分でも作業をする。  ひと粒のビーズを縫いつけるためだけに行くこともある。ひと粒のつもりが時間が限られると逆に集中力が増して、なんだかんだ5粒くらいはつけられる。  もっと時間のないときは、ミシンの手入れをしたり、床の掃除だけをする日もある。掃除だってとても大切な仕事なのだ。真っ白なドレスをつくるため

          【仕立て屋の繕う日々】この場所に居ますと言い続ける