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【読書】世にも美しいエッセイ集『詩と散策』ハン・ジョンウォン

「わたしは11月を偏愛している」そんな素敵な一文で始まるエッセイが掲載された本、『詩と散策』をいただいた。

 私は11月を偏愛している。秋の前につけられる「晩」という言葉も、寒々とした木と、もとより残忍になれない風も愛おしい。

「11月のフーガ」ハン・ジョンウォン『詩と散策』


ところで11月を愛する人は、わたしもそうなんだけど、ほぼ間違いなく11月生まれなんじゃないかと思う。

だって他の月に生まれて、11月が好きだなんてことは、まず思わないような気がする。11月にはこれといった行事もなくて、地味で、なんだか寂しい印象のある月だから。

他の月なら違う。3月生まれじゃないのに3月を好きな人はいそうだし、薔薇が咲き誇る5月がいちばん好きという人もいるだろう。夏だってそうだ。夏生まれじゃないのに「とにかく夏が好き」という人はけっこう多そう。クリスマスのある12月を好きな人は言わずもがな。

でもね、11月は違う。みんなに好かれる月じゃない。だから11月を愛している人は、ほぼ間違いなく11月生まれだと思う。「みんなは愛していないかもしれないけれど、わたしだけは好きなの」ってやつ。

人はそれを「偏愛」と呼ぶ。

 私は11月を偏愛している。秋の前につけられる「晩」という言葉も、寒々とした木と、もとより残忍になれない風も愛おしい。

 もっと素直になって、私と飼い猫が生まれた月だからということもつけ加えておきたい。私たちは似た者どうしだし、同じ持病もあるし、おまけに顔も似てきている。

「11月のフーガ」ハン・ジョンウォン『詩と散策』

11月を愛する、11月生まれの作家さんのエッセイ集は、ぜひともこの11月に読みたいと思う。

クリスマスを楽しむのは12月に入ってからでも遅くはない。今は存分に、愛すべき11月を味わいたい。

帯の解説文にはこう書いてある。

『詩と散策』は、著者のハン・ジョンウォンがひとり詩を読み、ひとり散歩にでかけ、日々の生活の中で感じたことを記している、澄み切った水晶のようなエッセイ集だ。

書いてあるように、詩的で、とても美しい言葉たちが並んでいる。装丁も美しい。まるで散策するようにパラパラとめくっては、その都度うっとりする。どのページもとても静かで、落ち着いている。イメージがふくらむ。

11 という数字は、よく見ると二本の木みたいだ。葉を振り落として枝だけになった晩秋の木。

「11月のフーガ」ハン・ジョンウォン『詩と散策』
神戸 六甲山にて

 今度は11をそっと寝かせてみる。するとあおむけに並んで寝転んでいる人のように見える。ふたりのあいだには、木がそうであるように距離がある。

「11月のフーガ」ハン・ジョンウォン『詩と散策』


神戸 六甲山にて

過去に出会った誰かを、ふと思い出してしまうような、少し切ない詩とエッセイの短篇集。11月の読書におすすめです。

『詩と散策』ハン・ジョンウォン 橋本智保訳

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