BOOK HOTEL神保町の支配人であり作家でもあるmoonさんに聞いた“書く”と“読む”
2022年10月26日、「わたしの本」を見つけるホテルというコンセプトを掲げてオープンしたBOOK HOTEL神保町。その支配人を務めるmoonさんは1歳のころから本が身近にあったという、まさに本の申し子とも呼べる方。そんな彼女はライター・作家としても活躍し、自ら本も出版しています。文章の読み方も書き方もプロ。今回はそんなmoonさんにインタビューし、“書くことと”と“読むこと”について伺いました。
インタビュイー:moon|作家× ブックホテル支配人
1994年生まれ、長野県出身。BOOK HOTEL神保町・総支配人であり、結婚相談所「BOOK婚」の代表カウンセラーでもあり、ライター・Kindle作家でもある。BOOKHOTEL神保町の支配人になったきっかけは「世界一シンプルな書き方の教室」の出版。cafe巡りと読書が好き。
書く――自分をきちんと伝えるために必要な力
――事前に伺ったお話だと、moonさんが書くことをお仕事にしたのは2020年で、丁度転職などを考えていた頃にココナラを活用したのが始まりだったとのことでした。どうして書くことを仕事にしようと思ったのでしょうか。
色々と試行錯誤をする中で自分の内面と向き合い、得意なことは「書くこと」だと強く思うようになったからです。
転職する前はずっと激務が続いていて、大好きな本も読めないくらい忙しかった。それで心身ともに疲れてしまって、お休みをいただいた時に本と向き合うようになれたんです。そうした時間が得られた時に、改めて自分が何をしたいか考えました。その時に自分は書くことが得意だったことに気づいたんです。
――ココナラでは具体的にどんな仕事をしていたのでしょうか。
電子書籍代行や履歴書添削の仕事などをしていました。数社のメディアにてコラムも掲載したこともあります。
初めて1万字の文章を書いて納品した時は、「こんなものでお金を稼いではいけないんじゃないか」とすごく思いましたね。その文章は1日で書いたこともあって、「こんなに頑張って書いたんだからお金をくれ」とは微塵も思わなかったんです。私自身が楽しく書いたものだし、「もし気に入らなかったらお金はいらないです」と言って納品しました。
そうしたら逆に思っていたよりも多く報酬を支払ってくださって。まだ最初の頃ですから単価は数千円と安いものの、0円でいいと思っていたような文章に値段がついたことが驚きでした。その方は次も頼んでくださって今度は倍の金額になったんです。
当時は相場も何もわかっていなかったのですが、調べてみると大体1文字1円以上だったのでそれから単価を上げていきました。それでもずっと依頼をいただいたので、正直言って「何なんだこの世界は」と思いましたよ(笑)。
ココナラでの評価は執筆スピードが早いことや、サクサク読める文章などを高く評価してもらえたので、私の書く文章が誰かの役に立っているのだと実感できました。
――今はコンテンツも多様化し、動画や音声配信などで情報収集することができるようになっています。そんな中で、改めて「書くスキル」の必要性をmoonさんがどう感じているのか教えてください。
確かに音声配信や動画など色々出てきてるとは思うのですが、それでもまったく文章を書かないでいられることはないと思います。仕事で自分を売り込んだり、もっと身近な話だと友達とのチャットだったりいろんなシーンがある。特に“自分を伝えるための書くスキル”はきっと必要になります。
私はココナラでのお仕事を通じて、履歴書や職務系列書なんかの添削も含めると多分100人以上の文章を読んできました。すごい夢がある方や実力がある方など、中には宝塚にどうしても受かりたい女の子とかもいて。こうした夢や目標がある人の文章は想いが乗っていることは多いのですが、文章が空振りしていて伝わらないことが多いんです。
文章は話すように書けばいいと思っていて、私も自分で書く時は音読して発音しやすいように書きます。書かなきゃと思って書き言葉で一生懸命に書こうとするほど、自分のいいところばかり見せようとしたり、あえて謙遜しすぎてしまったりしてその人のキャラ自体が変わってしまう。それはもったいないなと思います。
対面で話すとそこまで感じないのに、書き言葉になった途端にそうなってしまう傾向が強いんですよね。
私は喋れる系の人ではなく、書いて生きてきた人間です。書くスキルが身につくと、喋るのが苦手でも大丈夫になると感じています。書くスキルがあるというのはかなり強みですね。
――自分自身をいい感じに伝えるコツのようなものはありますか。
まず書いてみて、そしてしばらく寝かせる。その後、あたかも自分が編集者になったつもりで、できるだけ第三者の目を持って見ると「なんかこの文書は自分に酔っているな」など、自分本位になっている部分が見つけやすくなります。その時に微妙だな、違うなと思ったところはバッサリ消してしまう方がいいでしょうね。いっぱい書けば書くほど、言い訳みたいになるので潔さは大事です。
――今は紙ベースではなくWeb上で書くことが多くなり、一度公開しても書き直しがやりやすくなったと思います。このような変化をどう思いますか。
私の場合はその時に自分のベストを出したいから、後で書き直そうとは思いません。でも100%が出せるまで温めておいて出すよりも、6割ぐらいの完成度でも出してみると読者の反応がいいことがあるので、書き直し前提で早く世に出すのは今の時代に合っている気がします。数をいっぱい出した方が当たることもありますので、そこはいい変化なのだと思いますね。特に仕事の場合だと、そうしないと一生先に進まないってことになりかねませんし(笑)。
※moonさんは書き方のノウハウを記した本をAmazonで出版されています。こういった書くスキルや文章の書き方を、より深掘りして知りたい方は以下からチェックしてみてください!
読む――受動的ではなく能動的に情報を得ること
――続いて「読む」ということについて伺っていきます。まずmoonさんが思う読書の良さとは何でしょうか。
情報過多な世の中において、読書はちょっと違う存在だなと思っています。読書ってずっと変わらないもので、なんか昔っぽいじゃないですか。読むとストレスが減るとも言われていますし、違う世界に連れていってくれるところがやっぱり面白い。」自分には想像力が欠如している」と感じている人達には、ぜひ小説を読んで欲しいと思っています。
これは完全に私の主観ですが、今は全てがすごく便利になりすぎてるじゃないですか。でも選択肢が多すぎるんです。 娯楽は多いし情報も多い。みんなそれに疲れていると感じています。ガラケーを使っていた時の「メール来ないかな。あ、光った!」みたいなあの感覚。あの頃は楽しかったです(笑)。
私は今後、いろんな意味で“戻る”と思うんですよね。時代が逆行するというわけじゃないですが、アナログの良さというか、そういう感覚を大事にすることはいいことだと思っています。読書にはそういったアナログ的な良さがあります。
――取材前のヒアリングにて「想像力を鍛え、相手のことを思いやるためにも『小説』を読むことを勧めたい」とおっしゃっていましたね。
私、感受性には自信があるんです。感動系のコンテンツを見たら大体すぐ泣いてしまいます。日常の会話でも人の本音とか心情を感じ取りやすくて、そこを踏まえて喋ることも多いんです。
正直なところ、小説などの本をよく読んでたから感受性が豊かになったのか、感受性が強かったから小説などの本に惹かれたのかわかりません。でも小説のような本が、人の感受性を鍛えてくれるだろうと思っています。
自分一人だけで生きていたら自分の人生しか知らないわけですよね。でも小説を通じて、知らない世界の主人公の物語を知ることができます。映像がない中で読んでいくので頭の中で想像する。こうしたことを繰り返していると、自分とは違う他人のことを想像する力が養われるので、他人のことを思いやれるようになると思うんです。
読書は受け身じゃないですから、読むのは楽ではないかもしれません。勝手に本が内容を教えてくれるわけではないので、自分で読み進めていく必要があります。でもだからこそ、積極的に何かを知りに行こうという気持ちも育てられる気がします。
――小説を読むのが苦手だけど、ちょっと読んでみたいなという人もいるかと思います。そういった人はどういった読み方をするばいいと思いましたか。
私も実際にするのですが、カギ括弧になっている会話部分しか読まないというのがいいかもしれませんね。本好きだというと、すごい難しい本をいろいろ読んでそうに思われがちですが、そんなことないんです。私だって、自分に都合のいい情報しか欲しくないと思うこともあります。例えば占いで良いことしか読まないみたいな。
なので自分の好きなシーンや好きなワードが出てくるまでは、雑に乱読することもよくあります。興味深いシーンになったところでカギ括弧の前後も読むようにすると、もっと他の所も読みたいって自然になっていくことはよくありますよ。
1200円で本を買ったから1200円の元を取るために最初から読み始めて、途中で読めなくなって積読して、っていうのはよく聞く話です。でも1200円分の価値を得るのは、カギ括弧だけでも得られますし、「全部読まなきゃ!」みたいになると正直しんどい。極論“あとがき”を読むだけになってもいいんです。
――本は最初から順番に読むものだっていう固定概念はあるかも。
真面目か!みたいな(笑)。会話のところだけ読んで、面白くないと思ってさよならした本はいっぱいありますよ。
うちのホテルでは、ブックカウンセラーや選書サービスみたいなことをしているのですが、その中でよくお伝えをするのは「1冊で何かをひとつだけを得よう」ということです。本当にたったひとつの言葉だけでいいから、なんかいいなと思えたらそれで十分に意味のある本になります。もしそれすら得られずに意味がないと思っても、受け身ではなく自分から何かを得ようと思って考えたのには間違いありません。その行動は、きっとYouTubeで動画1本見るよりも価値があると思います。
本は嗜好品。自分の好きに読めばいい
――そもそもmoonさんはどうしてそこまで本が好きになったのでしょうか。
私が1歳くらいの時から、両親が毎日読み聞かせをしてくれていました。親が読み疲れて寝落ちをしても私は起きていて、親を叩き起こして読ませていたんです(笑)。でもあるときから本の内容を覚えてしまって、親が先に寝てしまっても自分ひとりで読んでいました。とはいえまだ字は読めないので、本を眺めて読んでいる気になっていたんだと思います。
そのまま大きくなり、全くアウトドアではない子どもに育ちました。外でドッジボールで遊ぶなんてまったく興味なくて、学校でも1人机で本を読んでいる子。友達ができないから本を読んでいるというよりは、意図的に読書をすることを選んでいるという感じでしたね。親は担任の先生から「あんまり友達と遊んでないけど、すごく楽しそうに本を読んでいるので大丈夫だと思います」と聞かされていたみたいです。
そんな感じでいつも本がそばにありました。物心つく前からずっと好きだったんだと思います。
――本が身近にあることが当たり前だったんですね。最後に、moonさんにとって書くことと読むことはどういうことか、というまとめ的なメッセージをいただければ嬉しいです。
読んでインプットして書いてアウトプットする。その循環をしていくと豊かな人生になると私は思っています。興味が広がって、いろんな本を読んでいる人の話は面白いですしね。
あと別に難しい本を読むことだけが読書ではないと思っています。小難しい本を読むことが大事なんだと思う人は多い気がするんですけど、私はそういう考え方には全く興味がありません。レベルとか難易度とかは関係なくて、それぞれ好きなアーティストがいるように本だって自分の“好き”という気持ちだけで読んでいいと思います。
簡単な本を読んでると「うわ、それくらいのレベルなんだ」みたいなことは気にしない。児童書を読もうが、詩集を読もうがその人の勝手。本は嗜好品ですから。
<リンク集>
BOOK HOTEL神保町
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moonさん著書
※『神保町本物語: 迷えるあなたのための読書案内』はKindleで無料で読めます
取材・執筆:たかしお