マガジンのカバー画像

「アート」の

102
アートやアートプロジェクト、 アートコミュニケーションやらしきもの。 そんなものたちの感想や妄想や。
運営しているクリエイター

記事一覧

覗き合う絵画たち。

覗き合う絵画たち。

第73回東京藝術大学卒業・修了展2025で
大学院美術研究科絵画専攻油画研究室 酒々井千里さんの作品を観た。

「ダブルピーク(Double Peek)」と題された展示は、
「Because(Because)」という作品と
それに相対する一に「ねぇ(You know what)」という作品で構成されている。ともにキャンバスに油彩、グリッター、木で2025年に制作された作品だ。

二つの絵画は、大き

もっとみる
チャンスはどこだ?

チャンスはどこだ?

金森桜子さん 初個展「CHANCE」

2024年9月、東京・神田にオープンにたギャラリー光灯。林里佐子さんという方がディレクターに立っている。おそらく話をした彼女が林さんなのだろう。金森さんには修了展をみて声をかけたという。金森さん自身は不在だった。

修了展のときはもっと物量があった気がしたが、それに比べるとコンパクトな展示。それでもそれはもうまさに金森さんの展示でしかないというものだった。

もっとみる
夢と交差する視線。

夢と交差する視線。

真鍋由伽子さん 個展『Observe every water droplet』

新宿に用があったので、その足で西荻窪で開催されている真鍋由伽子さんの個展にお邪魔した。ここまで来ると、私の中ではるばる感が満ちてくる。

会場は「ヨロコビtoギャラリー」。はじめて伺う。飲み屋街とは反対方向にのんびり歩く。西荻窪は豊かな街だなぁと思う。生活との距離感がとても良いように思う。暮らしたことはないので、本当

もっとみる
今年も仁王像にくつろぎを。

今年も仁王像にくつろぎを。

昨年、三好桃加さんの「仁王像たちのオフの日」展に中目黒で出合った。展示は最終日で作品は完売という状況だった。

今回はその2024年バージョンを、表参道に新しくできた「tHE GALLERY OMOTESANDO」の杮落として拝見した。

会期半ばといったタイミングだろうか。一点を残して完売となっていた。
仁王像たちは今年もくつろいでいた。スマホで音楽を聞いたり、狛犬と戯れたり、梅雨時だからだろう

もっとみる
やっと、つながるカレー

やっと、つながるカレー

これまでなんとなく視野に入っていた「カレーキャラバン」プロジェクト。
慶応SFCの加藤文俊先生が行っている活動だ。
街に出かけていき、そこで食材を手に入れカレーをつくる。
提供は無償。先生はそこで生まれるアクシデンタルな出合いやコミュニケーションに価値を置いている。その「カレーキャラバン」、よくよく見ると、加藤先生のソロ活動では「カリーキャラバン」となっている。「カレーキャラバン」は無期休業で、「

もっとみる
道草を喰む小さな実践。

道草を喰む小さな実践。

いったいいつ以来だろう。体験型ワークショップに参加してきた。
コロナ禍前、とびラー仲間だったグループで展示するというので、そこに出かけていって、そのとき拝見した別の作家の方のお一人・水野渚さんの「Forage the Poetry:道草を喰う。詩の奏作ワークショップ」というもがそれだ。

どうもよくわからなかったが、ワークショップの開催場所となっているComorisという場にも惹かれて、申し込んだ

もっとみる
地に立つ。それは過去に立脚すること

地に立つ。それは過去に立脚すること

衣真一郎さんの個展「積み重なる風景」を拝見した。

衣さんは、一九八七年、群馬県生まれ。東京造形大学絵画専攻を卒業したあと、パリ国立高等美術学校に交換留学を果たす。二〇一六年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了された画家だ。

絵のモチーフは、自身の生活の中で見てきたもの、身体的な感覚や記憶が元になっているという。それゆえ、衣さんが生まれ育った群馬の山や畑、田んぼなどの田園風景がベースにな

もっとみる
暫く振りの「おく」

暫く振りの「おく」

かなりの頻度で見てきたパフォーマンスアート「おく」。
久しぶりにギャラリーでやるというので、一人でのこのこ西麻布まで出かけた。狙っていたバスを逃し、JRの駅からとぼとぼ歩いたのはご愛嬌である。

「おく」を実践している「Oku Project」は、板倉諄哉、藤中康輝、金森由晃という同郷の三人が二〇一七年から始めたアートユニット。

「おく」は、本当にただ「物を置く」行為を繰り返す実践。向き合う二人

もっとみる
コマとコマの間に潜み込むもの。

コマとコマの間に潜み込むもの。

アートプロジェクトハウス「Open Letter」で開催されている〝最後の手段〟の「NEW首都高」という展示を見に行った。

〝最後の手段〟とは何か。いや、誰か。

〝最後の手段〟は、有坂亜由夢、おいたまい、コハタレンさんの三人が二○一○年に結成したビデオチームだ。手描きのアニメーションと人間や大道具小道具を使ったコマ撮りアニメーションなどを融合させ、有機的に動かす映像作品がその特徴。人々の太古の

もっとみる
解いた周縁に起ち上がるのは線なのか。

解いた周縁に起ち上がるのは線なのか。

もう随分時間が経ってしまった。鎌倉に三瓶玲奈さんの個展を見にいったのは八月の下旬のことだ。その日は美学者で一般社団法人「哲学のテーブル」代表理事の長谷川祐輔さんと詩人のカニエ・ナハさんを迎えて三瓶さんが語るというトークイベントも用意されていて、一通り画を拝見した後にそこに紛れ込ませていただきもした。

三瓶さんは日頃、まるで修行僧のように線を描くプラクティスをこなしている。手首を固定してスライドし

もっとみる
映像エスノグラフィーが捉えるもの

映像エスノグラフィーが捉えるもの

 久しぶりに映像エスノグラファーである大橋香奈さんと、大橋さんと同じ慶應義塾大学政策・メディア研究科で学んだジョイス・ラムさんの映像を見に、藤沢アートスペースまで出かけた。大橋さんは、私が何度か書いている〝Home in Tokyo〟のナビゲータを務めた、いわば私の先生のような立場の人だ。ジョイスさんとも〝Home in Tokyo〟で出合っている。
今回は、ジョイスさんの展示がメインで、その特別

もっとみる
透けているけど、明らかにそこにあるもの。

透けているけど、明らかにそこにあるもの。

川端さんの絵は藝大の学部時代から拝見していて
いつもその精緻な鉛筆の表現に驚嘆してきた。
しかしながら、川端さんはただ正確に対象物を描くということではなく
人と人(あるいは対象となるもの)との間に横たわる相互作用の不全を描いている印象がある。
歪んだ(あるいは歪められた)目元。その視線は行く先を失い、
見るものもキャンバス上の人物の目線を捉えることはできない。

やがてその視線が捉えたであろう人物

もっとみる
そこに封じ込められた時代感。

そこに封じ込められた時代感。

パナソニック汐留美術館 開館二〇周年記念展
「ジョルジュ・ルオー かたち・色・ハーモニー」

汐留にジョルジュ・ルオーを見に行った。
パナソニック汐留美術館は、開館以来、ルオーの作品を継続的に収集し、
二〇二三年三月時点で二六〇点を所蔵しているそうだ。
今回は、フランスや国内の美術館などから、国内初公開作品含む
初期から晩年までの代表作約七〇点が展示される。

〝かたち・色・ハーモニー〟とは、ルオ

もっとみる
測れない距離感の向こう側。

測れない距離感の向こう側。

インスタで開催されていることを知ったムラタ有子さんの展示に伺った。
六本木通りを西麻布方面へ。けっこう歩いたところで、右に折れてすぐ。
ギャラリーサイド2。初めて伺うギャラリー。
ギャラリーには鍵が掛けられていて、インターホンを押して来訪を告げる。
すると二階からギャラリストの島田さんが下りていらして解錠してくれる。
この展示は、新作油彩画一四点と新旧ドローイング六点で構成されている。

ムラタ有

もっとみる