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無鉄砲なオトナふたりの、ただ事じゃない土曜日

旧知の仲というか趣味仲間である彼とは、久々に会ってもぎくしゃくしない間柄である。

彼、通称オタパパとは古書店の情報交換をすることがあり、5年ぶりの再会を果たした。しかも慌ただしいプチ遠征である。

9月初日の土曜日、朝8時半。
オタパパが我がマンションまで車で迎えに来た。
目指すは茨城県土浦市。都内から北関東に向けての出発だ。
そこに凄い古書店があると言う。

オタパパ
「それだけの価値あるから、まあ楽しみにしといてよ」

ハルカ(関西弁)
「ダンナにも本探して来てって頼まれたからハードル高いデ」


車が走り出し、ようやく近況情報交換で代わりのないことに安堵する。
趣味仲間とはいえ、結局は人間同士のお付き合い相性や価値感が合うからこその友人なのだ。男だろうが女だろうが関係ない。

しかも趣味仲間というのは、ちょっとばかりクセがある。
近すぎると同族嫌悪さいなまれていけない。

文学繋がりの仲ではあるけれど、私はSFやミステリが大好き、オタパパは歴史系。この距離感は侮れない。近いけれど遠い感じがちょうどいい。

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そんなこんなで10時半をまわって現地に到着。
JR土浦駅のすぐ近く、オタパパの誘導でちょっと古びたビルのエントランスをくぐった。


ツバメの巣があります〜


ぬぬっ。
掲示板に貼られた手作りポスター、これは『まどか☆マギカ』のマミさんではあるまいか!?
しかもトラウマになりそうなイラストで、「ツバメの巣」が「スズメバチの巣」に脳内変換されそうだ。

さてさて前方には書店の灯りが燦然と輝いている。
これが本日お目当ての凄い古本屋、れんが堂書店らしい。なんだか普通の町の本屋さんっぽい雰囲気だけど……。

え? wikiにも掲載されているほどの有名古書店?
それもそのはず、店舗面積が関東地方で最大級らしい。
wikiによると、「休日には東京からの来客もあるなど混雑」(まさに我々のこと)、「この店のみを目的に遠方から訪れる60〜70代マニアが多い」のだとか。

土浦の地に古本マニアの聖地があったのか……。


入口にディスプレイされた激安本。
どう見ても普通の本屋さん。
ふらっと誰でも入りやすい。


初心者には敷居の高い御言葉かも?


入口自動ドアの御言葉に、無整理な山積み本の予感がムンムン。入店直前、一気に闘志が湧いてきた。
オタパパも私もすでに無言

どこから回ろう、疲れたら言ってね。
一緒に回る? それともひとりで?

そんな思いやりに満ちた言葉は交わされない。

ドアの向こうに踏み込むと、目配せひとつ、ここから孤独な単独冒険が始まるのだ。サラバ、友よ。

なんだここ、なんだこりゃ。ものすごい量、ものすごい山。
さすが関東最大と銘打つだけのことはある。
SFはSFでまとまってはいるけれど、それがあちこちの島に分散。雑誌も多くてよそ見がとまらない。

そして……安い。安い安い安い!
神保町古書街なんか行ってられないようなお値打ち品が、あれでもかこれでもかとギュウギュウしているではないか。

予想外の魅力本が見つかる興奮に、
「うっわ安い」「こんな本まであるんかいな!」と独り言がいつの間にやらラウドヴォイスに。

2〜3冊買う心づもりはしていたけれど、10冊以上の購入だ。

しかもずっと探していたハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』1973年版が全然別の島から1冊ずつ見つかった。映画『ソイレントグリーン』の原作で、すでに絶版本なのである。
ネットでは86年版の文庫はあっても出物は少なく状態も良くない。探し続け、待ち続けた甲斐があった。ああ、これぞ快挙。

ここでちょっと、購入本の一部をご披露しよう。

●『人間がいっぱい』↓

ハヤカワSFシリーズの『人間がいっぱい』ハリイ・ハリスン著 浅倉久志訳
絶版本を500円で購入!
2冊見つかり、もう1冊は3,000円。
状態違いでの値付けかな


●初版複刻本↓

初版複刻本、どれもが驚きの500円!
美品レベルで文句なし。

萩原朔太郎の『青猫』はアンカット版。
アンカット版とは、
冊子の小口が断裁されていない製本のこと。
ペーパーナイフで開封して読む趣きあり


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2時間弱、店内を存分に楽しんだ
。ひとりだったらあと2時間は居座るだろう。
完全別行動を敢行した私たちは、お互いの戦利品を携えて昼食どころへと拠点を移す。お店に詳しいオタパパにいっさいがっさいお任せだ。
私の「お刺身、所望!」リクエストにも、彼、余裕綽々よゆうしゃくしゃく

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昼時だから並んだものの、オタパパご推薦のお食事処にて至福の昼食を味わった。刺身が絶品の麦とろご飯の店らしい。場所は土浦を離れてつくばである。

私はSNSに向いていない。入った店の名前がわからないどころか、写真も撮っていないのだ。オタパパは自然にiPhoneパシャパシャやっていて、「アタシも」とつられて撮ったわずかな写真がこれ↓


店名わからぬお店のメニュー


刺身五点盛・限定5食はすでに売り切れのため、オタパパは三種盛、私は刺身三点盛を注文した。


これがオタパパの三種盛

三種盛(赤身・中とろ・大とろ)2,000円


大とろ、デカっ!
この圧倒的サイズ感は、味噌汁茶碗と比較されたし。
ご飯は3杯分くらいある超特盛り量。麦とろ用に丼茶碗なのである。

そして下の写真が、私の刺身三点盛。こちらも切り身が分厚くとろける美味さ。赤むつ炙りの絶妙な香ばしさにニヤニヤしっぱなしである。
うんま、うんまっ

刺身三点盛
(本まぐろ中とろ、活けじめはまち、赤むつ炙り)
2,000円


この味、この量で2,000円はお安いなあと感動ひとしおだ。ついでに大胆カットで極甘メロンも特筆もの。フォークがついてないので丸かじり。
茨城、最高。つくば、グレイト。あ、古書店のある土浦も!


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つくばを出てしばらくすると、車は気になる店を横目に通り過ぎた。
そこはオタパパがチェックしている魚料理の店である。
美味さが自慢でお値段もそれなりにするのだとか。口コミ評価も上々らしい。

ただ、悪い評価の口コミが無視できない内容らしい。

●食べてる横で店員がウンチクを語り出すのがウザい。
●頼む順番にこだわりがあるのか、自由に選ばせない。
●店員に緊張して味がよくわからなかった。

(*自分の目と舌では未確認のため、場所と店名は記さず)


オタパパ
「勇気いるでしょ。オレ、女子脳だからここに1人で行くのはちょっと怖い。でも誰かをお誘いして大失敗するのはもっと怖い」

ハルカ(関西弁)
「行きたーい! その店、どっちにしても当たりやデ」


私の危険な好奇心が爆発した。
何事もなく美味しければ大満足だし、悪い口コミ通りであれば、「これか〜」と追体験できてしまう。無理強いの店員も見てみたい。

好奇心は猫をも殺すと言うけれど、このさい突っ走ってはどうだろう。

納得したのかオタパパは、「次は行くか!」と制覇の意欲満々だ。

うちの夫は絶対に近寄らなさそうな店だけどね。
そんな店で高い金出すなんてアホのすることだと怒られそう。
オタパパのヨメも同じらしい。

そして私はふと思ったのである。

こんな無鉄砲なダンナを持つオタパパのヨメは大変だな。

オタパパは黙って帰路のハンドルを握っていた。
私と同じで、我が夫に同情の念を寄せているに違いない。




★麦とろと刺身の美味しいお店は「麦とろ まる信食堂」でした。
(投稿前、ギリギリでオタパパに連絡確認)

★サムネ写真は
UnsplashのJoakim Honkasaloが撮影した写真を
お借りしました