バーティカルSaaSにおける『ポテンシャルMRR』という捉え方
フルカイテン株式会社にてCOOを務めます宇津木と申します。
フルカイテンは『FULL KAITEN』という小売業向けの在庫問題解決のSaaSプロダクトを提供しております。
小売業の在庫問題解決となると、必然的に在庫をたくさん抱えている大きめの企業の方がニーズが大きくなります。
AIを用いて数十万、数百万の売上と在庫のビッグデータを色々な切り口で高速解析を行うため、サービス単価もそれなりにします。
また、何かの業務をデジタル化します、という類のサービスではないため、カスタマーサクセスがかなり入り込んで、いわゆるハイタッチな支援を行います。コンサルティングに近いことをしてます。
いわゆる『バーティカルSaaS × エンタープライズ』ビジネスをしています。
今回はこの
『バーティカルSaaS × エンタープライズ』
というかなりニッチ(?)なネタで記事を書いていこうと思います。
私は新卒から約18年、ずっとSaaSビジネスをやってきました。
主に『SMB × ホリゾンタルSaaS』ビジネスです。その過程でThe Modelを知り、これはSaaSのルールブックに出会ったと感銘を受けました。
この経験を踏まえ、
『エンタープライズ × バーティカルSaaS』
のビジネスにフルカイテンで初めて携わりました。
結論、
『ホリゾンタルSaaS × SMB 』ビジネス
と
『バーティカルSaaS × エンタープライズ』ビジネス
は野球とサッカーくらいモノが違いました。
これは割と早めに気付いたのですが、大事なのはその違いに伴ってビジネス活動の要所要所を変えること。KPI自体も変える。
ここにものすごく時間がかかりました。
私含め、当社のボードメンバーは全員ホリゾンタルSaaS経験が長く、どうしても気を抜くとその考え方に引っ張られてしまう。
なのでこの記事では、なぜ
『ホリゾンタルSaaS × SMB』ビジネス
と
『バーティカルSaaS × エンタープライズ』ビジネス
で同じ考え方をしてはいけないのか、
『バーティカルSaaS × エンタープライズ』ビジネス
ではどのように考えると良さそうかを書いていきます。
共通点は確かにあります。本質的にビジネスは顧客に価値を提供するという観点では変わらないです。しかし今回はその辺りは無視します。違いに特化します。
その上で、
『ホリゾンタルSaaS × SMB』ビジネス
と
『バーティカルSaaS × エンタープライズ』ビジネス
の両方を経験してきた身として言えることは、本当に両方とも奥が深くて学びが多くて面白い、ということです。
1、ホリゾンタルとバーティカルの違い
ここではホリゾンタルとバーティカルとは何か、という説明は省きます。
まず、ホリゾンタルとバーティカルでは、(一般的には)サービスの導入対象となり得る社数が圧倒的に違います。
フルカイテンの場合、さらには大企業に特化しているためより絞られます。
よって、いわゆるThe Model的な考え方や、リード型営業、ファネルの転換率、みたいな考え方を排除しないと、ビジネスの仕方を間違えます。
数百社しかターゲットがいないのに、
などでKPIを設計してしまうと一瞬で枯渇します。
ただし、この排除が難しいのです。
SaaSのビジネスモデルはかなり確立されていて、それだけにやりやすさ、評価のしやすさがあります。
なので思考停止して「SaaSとは一般的にこのKPIでビジネス評価するもの」となりがちです。
じゃあどうしたらいいか?
どう市場を解釈したら良いのか?
そこで考えたのが『ポテンシャルMRR』という考え方です。
これは考え方的には「1000社から何社契約をいただくか」ではなく「1000社からどうMRRを最大化するか」という違いがあります。
考え方的には特に目新しいものではないかと思いますが、KPI自体もこの考えにアラインして変えないと結局ファネルの考え方に戻ってしまいます。
現時点で注力すべきと考えているポイントは
です。
限定的なマーケットで比較対象のサービスが少ないのがバーティカルSaaSの特徴です。
よってうまくいけば小さな池で大きな鯉になれます。
つまり高いマーケットカバレッジを保有できる可能性が高いのです。
うまくいけばと言いましたが、これはこれで難易度高い。
まず一番欲しいリードがエンタープライズの役員の場合、そもそも大企業の役員の方々は、ソリューションを自らググって探したりしません。
つまり待っていても出会えないのです。
じゃあどうしたら出会えるか?について、1つの方法としては以前書いたこちらの記事のようなやり方もあります。
役員と接触できるのが良いとはいえ、そこだけを狙っていても限界があるので、部長クラス、課長クラスも当然獲得しに行きます。
このようなレイヤーにもキーマンがいますので。
ただし、限定的なターゲット企業における部長レイヤー、課長レイヤーなので、獲得マーケティングの難易度は非常に高いです。
かなり高い解像度でユーザーの課題を認識して価値あるコンテンツを提供できないと振り向いてもらえません。
また、限定的なマーケットなので、ポテンシャルMRR自体を大きくする、というアクションも非常に重要です。
課題の数だけソリューションを増やしていくことで1社あたりのポテンシャルMRRを如何様にでも大きくできますし、さらには機能によってはターゲット社数自体が広がることもあるため、さらにポテンシャルMRRを大きくできます。
どの課題に何のソリューションを展開していけばポテンシャルMRRが増やせそうか、についてはPdMチームのミッションです。
実際には適度な業界区分で分類した上で、自分達がアプローチしている業務領域の課題を列挙し、その課題ごとに、「ニーズはあるか、提案するプロダクトのレベルは現時点でどれぐらいか、成果を出しているクライアントがいるか」で色分けした上で、
を定めていきます。
これがあることで誰でも同じように優先度が理解できるので、戦略・戦術に一貫性も生まれてきます。
2、SMBとエンプラの違い
主に、意思決定ルートの複雑さ、登場人物の多さ、意思決定できるタイミング、営業を受けている数が違います。
FULL KAITENの場合、金額的に大抵の場合が役員決済・投資委員会での決裁が必要になります。
最初から役員と話せるとまだ良いのですが(ただしこんな問題も起こります)、
まず現場の方への提案から始まると、上申できるまでにかなりの道筋が必要だったりします。
そもそもその道が見えないことも多々あるので、必ず一次報告者や上申するタイミングは聞く必要があります。
他にも、
など考慮すべき事項がたくさん。
弊社代表の瀬川はエンプラ営業を長年やってきてどの企業でもトップ営業だった猛者なのですが、その瀬川がよく
『優秀な営業は単位時間あたりで得られる情報の量と質が違う』
と言います。
まさにこれ超重要。質の高い情報を引き出すのは決して簡単ではないです。
「ただ聞けばいいだけでしょ?」と思う営業は3流。
こちらが価値を提供できてない、信頼を得られていない上での過度なヒアリングは相手からしたら不快でしかない。
「この営業なら情報を提供したら良い提案をしてくれそうだ」と感じてもらえて初めて質の良い情報が引き出せます。
さらにその上でも、相手から気持ちよく情報を引き出すために枕詞として何をつけるか、などもとても重要。
SMBの場合は、目の前に社長が最初から出てきてその場で決断ということがよく起こります。よってリードタイムも短いです。
高単価の場合はその限りではないですが、それでも意思決定ルートはエンタープライズに比べてはるかにシンプルです。
私はかつて年間数万円のSaaSを月間で140件成約したことがあります。
20営業日だとして1日平均で7件の成約です。
信じられないかもしれないですが、低単価でSMB向けで説明コストが低い商材だと、オペレーションを突き詰めると誰でもこの水準の成果が出せるようになるのです。
一方、フルカイテンでは、ある企業の成約に12ヶ月かかったりしてます。
また、大企業になると経営メンバーや社長の一存で意思決定できないこともあります。
現場から離れすぎて、抽象的には成果が出そうなことはイメージできるが具体的な落とし込みまではイメージがつかず、現場のキーマン判断に委ねる、ということも。
エンタープライズ営業に長けてない営業によく起こるのが、
というもの。
これはあくまで価値を伝えるところはうまくできただけであって、
・複雑な組織を動かすための具体的なアクションが握れていない、
・そもそも相手方もどう動けばいいか分からないのに誘導ができていない
と組織の攻略観点が抜けていることに起因することが多いです。
他にも、課題の特定ができておらず、「提案」ができていない場合も案件が動かないことが多いです。
SMB向けだと目の前にいる方が決裁者であり利用者であることが多いので、価値をバッチリ伝えられたらそれでOKとなることが多いです。
また、エンタープライズに属している人は、得てして優秀な営業マンから四六時中提案を受けています。
どの企業もエンタープライズと契約を取りたいので、スター営業を当ててきています。
そういったハイパフォーマーからの営業を受け慣れているので、見定め的な観点を持っています。
そこで選ばれないといけない、というのもSMB向け営業との違いと言えると思います。
実は他にも比較したい要素はあるのですが、今回は2軸に留めました。
先日SIerで営業をされている方とお話しする機会があったのですが、その会社は取引先30社で100億円作っていると。
SIとSaaSではビジネス構造が全く異なりますが、改めてSIビジネスの利点を取り入れていくべきと思ったのと、実は一緒になることで双方の強み弱みを活かせるポイントも見えてきました。
この辺りはまた次回。(いつになるのか...)