屈強なチームを生む“最強のオフサイト”の作り方
大変ご無沙汰しております。パナリットという人事アナリティクスツールを提供するスタートアップで代表を務めている小川です。もともと外資系だった弊社ですが、2021年に日本に本社を移転し、私も約1年前から日本法人のCEOに加えてグローバル全体のCEOを務めることとなりました。
一見すると大きな抜擢/昇格に見えるかもしれませんが、実際には創業者のバイアウトからランウェイ(余命)数ヶ月の状態での事業継承、さらにそれに至るまでの度重なる資金難・苦渋のリストラ・MBOのためのローン組み&自己資本の投入等、いわゆる「HARD THINGS」と呼ばれる困難のオンパレードだったと言っても過言ではないと思っています。
厳しいスタートではありましたが、引き継いでからの9ヶ月間は「事業戦略の刷新」「技術負債の解消」「採用と組織の再編」「契約内容の見直し」と、会社総員であらゆる課題に取り組んできました。その結果が今年後半にようやく見え始め、MRRトップライン上昇・年内には黒字着地見込み、かつ今後しばらくは資金調達に頼らずに事業を進められる見通しが立つほどに成長できました。
投資家からも「スタートアップ経営の教科書に載りそうな見事なV字回復」と評価いただき、一部スタートアップ界隈では「HARD THINGSの会社」として知られるようになりました(笑)。
HARD THINGS克服に必須の”屈強なチーム”
さて、シリーズAの資金調達や創業者からの事業承継、そしてその後の事業再生に至るまでのドラマについては、いずれまとめてご紹介したいと思います(映画一本分くらいの情報量になりそうなので…)が、今回はパナリットがチームの結束力を高めるために大切にしているオフサイト文化についてお話ししたいと思います。
一般的には、スタートアップにはリモートワークが不向きだと言われることが多いかもしれません。情報共有の円滑さや熱量の共有など、リモート環境では確かに難しい面もあります。しかし、パナリットはシンガポール本社設立後すぐに日本法人を設立したというユニークな成り立ちから、リモート環境でのチームマネジメントをうまく機能させることが早い段階から必須となりました。週次の全社タウンホールや社員合宿は以前から実施していましたが、新経営メンバーに変わったタイミングでオフサイトを重視し、これを通じて経営方針の認識統一やカルチャーの浸透、メンバー同士の絆を深めることを目指すことにしました。オフサイトは9ヶ月ごとに2泊3日で実施し、グローバル全メンバーの参加を必須としています。
各オフサイトでは、その時々の経営において重要なアジェンダや目標に沿ってテーマを決め、テーマから逆算して内容を設計しています。私自身のキャリア前職が、Googleの人材開発部で研修プログラムの企画やファシリテーション担当ということもあり、自分の会社のオフサイトプランニングとなると、特に力が入ります。
この強化型オフサイトは、内容を充実させ、開催地も工夫するため、それなりの開催費がかかります。経営交代直後でキャッシュが十分でない時期にこのオフサイトを初考案した際には、経営チーム内でも「いま、本当にこのタイミングで実施する必要があるのか?」と意見が割れました。しかし、過去数年の資金難やコロナの影響で約3年間全員で集まる機会がなかったことを考え、「今やらなければ、いつやるのか」と説得し、組織への投資として捉え3年ぶりの対面式オフサイトを熱海で決行しました。その際のテーマは"Re: "。再スタート(Restart)の意味に加え、これまで多くの苦労をかけてきたメンバーにしばしの充電期間を楽しんでもらう(Recharge)、新体制で新たに何ができるかを再構想(Reimagine)する意味も込めました。
共に苦難を乗り越えてきた組織が数年越しに集まり、新たな気持ちで高みを目指そうという一体感を共有できたのは、非常に感慨深いものでした。経営戦略の刷新や技術負債の解消、キャッシュフローの健全化に至るまで、9ヶ月にわたるハードワークは全チームにとって並大抵のプレッシャーではなかったと思いますが、それを乗り越えられたのは、経営交代直後に行ったオフサイトの貢献も大きかったと感じています。
Let's Make Magic
熱海での“Re:”オフサイトから早9ヶ月が経ち、生き残るために全力で取り組んできた我々も、ようやく先を見通せる秋を迎えました。そんな状況下で迎えた今年2回目のオフサイト。今の私たちにとってふさわしいと考えた今回のテーマは「Let's Make Magic」です。
“最高の顧客体験を生み出すMagic”、そして年内に入社した新メンバーが全体の30%を占めることから、新旧メンバーの交流を促進するMagic。このような「魔法」を生み出すのにぴったりな場所といえば…そう、ディズニーランドです!
オフサイト開催地の発表はタウンホールで行い、ちょっとしたワクワク感を演出。メンバーの間では「魔法の場所ってどこだろう?ホグワーツ?ハワイ?」といった憶測も飛び交い、発表の瞬間まで期待が高まりました。
開催地発表後、数ヶ月かけて徐々に内容を詰めていき、コンテンツの全貌を少しずつ全社に共有していきます。プログラムによってはメンバーにファシリテーターを依頼し、経営陣の話ばかりにならないよう工夫もします。適度に話者が変わることで聴く側の負担を軽減しつつ、ただしファシリテーターへの負荷が業務に支障をきたさないよう配慮しながら設計しました。
今回は、この「Let's Make Magic」オフサイトの一部コンテンツをご紹介します。随所にこだわりがあり、コンテンツ名もすべてディズニーネタに統一しました(考えるのは意外と大変でした…!)。生成AIを使ったポスターも、良い雰囲気を醸し出しています。
Mission Incredibles(ミッション・インクレディブル)
今回のオフサイトで最も重視していたのは、新旧メンバーが交流し、部署やチームを超えたクロスファンクショナルな結束力を高めることでした。この目的を達成するため、「ミッション・インクレディブル」では異なる部署からメンバーを5人1組のチームに分け、ディズニーランドのパーク内で数々のミッションに挑戦しながら競い合ってもらいました。制限時間は2.5時間。より多くのビンゴを達成したチームが勝者となります。
ミッション出題も結構凝っていて、3つの要素を散りばめています。
「ミッション・インクレディブル」では、優勝チームには東京ディズニーランドホテルでの豪華なハロウィンビュッフェが提供されます。反対に、負けたチームは1人3000円までの予算で各自夕食を準備。結構な落差があります。このアクティビティは予想以上に白熱した競争となり、企画者としては「してやったり!」と誇らしくなりました。
また、クリアするのは難しいと思っていた「101 Celebration」のミッションを、あるチームが見事に達成。なんと必要数を超える120個ものパナリットの良いところをリストアップしてくれていて、思わず心を打たれました。そんなにたくさん会社の良いところを見つけてくれて、ありがとう…。
ビッグ・ヒーローX
ディズニーパーク内で行った次のワークショップは、今度はメンバーが直属のチームごとに「自分たちのヒーロー物語」を考えるアクティビティです。チームはプレワークシートを参考にしながら、チームを構成するメンバーそれぞれの強みや弱み(もちろんヒーローネームも!)を話し合い、チームとして成し遂げたい目標や、立ちはだかる壁や敵を明確にしていきます。このワークは主に対話が中心なので、ディズニーのアトラクションに並びながらでも時間を有効活用できるのが利点です。
ワークショップの内容は翌日、全社プレゼンでアウトプットしてもらい、全社が各チームの現状やメンバーの個性、チームのミッションを把握できる場を設けました。古参メンバーだけのチームも、新メンバーが多いチームも、それぞれが議論と発表を通じて新しい学びを得られたと思います。このフレームワークはとても好評で、多くのチームから「2時間では足りなかった、もっと深く取り組みたかった」との声が上がりました。
最終プレゼンではフォーマットの自由度を持たせたため、ヒーロー名に合わせてイラストを描いたチームなど、ユニークな発表も見られました(絵のセンスが強みでないことが露呈していましたが…笑)。ヒーロー名は各チーム独創的なものが多く、「悪いデータを強力なツノで破壊するMountain Goat Man」や「イシューをチャンスに変えるFlipper」など、頼もしいキャラクターが揃っていました。心強いです!
Alice in Userland(ユーザーの国のアリス)
オフサイト2日目のメインイベントは、なんと言っても生のユーザーの声を聞ける Alice in Userlandでしょう。全社員でユーザー理解を深め、最高のユーザー体験を創り上げるために設けたコンテンツです。私自身も日々のユーザーの声を聞ける機会が以前に比べて限定的になってしまったので、本当に有意義なセッションでしたが、特に普段ユーザーと接点が少ない開発チームにとっては重要なインサイトを得る機会となり、のめり込んでいました。
このセッションは普段顧客とのフロントラインにいるカスタマービジネスパートナーチームに調整してもらい、従業員数 1000人規模から数万人規模の企業まで様々な規模感と、導入フェーズも「導入プロジェクト進行中」「利用開始から2年程度」「利用開始から4年以上」という多様な顧客ペルソナに登場してもらいました。各企業ごとに30分ずつ、3回のインタビューセッションを通じて、豊富なインプットが得られました。
インタビュー内容は、
どういう目的でパナリットを導入したのか
利用開始後、データの信頼性を10点満点で評価するとしたら何点か
最近どんなシーンでの活用があったか(誰の何に役立ったか)
どんな機能があったら嬉しいか
など、多岐にわたりました。
開発チームからも「こうした機能改善を検討しているが、実現したらどのくらい便利か?」といった積極的な質問が飛び出し、またユーザーからも開発陣に直接意見を言うチャンス!とばかりに忌憚ないフィードバックが寄せられ、実りの多いセッションになったと感じます。
インタビュー後は小グループに分かれ、印象に残った意見や見過ごしていた課題を話し合い、どうすればそれを機能やサービスの改善につなげ、“魔法のような”ユーザー体験へと変えられるかについてディスカッションを行い、アウトプットしました。
これからも、様々なタイプのユーザーの声を聞く機会を積極的に取り入れていきたいです。そしてご協力いただいたユーザーの皆様には、サービスの強化とより良い製品体験を通じて、お礼をしていきたいと思います!
Inside G3 Head(インサイドG3ヘッド)
「経営陣の考えをもっと知りたい」「気軽に質問してみたい」という声に応え、このセッションではCEO/COO/CTOで構成されるG3経営チームによるパネルディスカッションを実施しました。
事業戦略やエグジット戦略に関する質問はもちろん、
「マネージャーとして大切にしているマネジメント方針は?」
「3人の間で意見が分かれたときは、どう意思決定をしてますか?」
など、リーダーシップ哲学に関する質問も多く寄せられました。
このセッションは、ファシリテーションをメンバーに任せたことで経営陣の準備負担が少なく、参加者の満足度も高い結果となったので今後も継続して実施したいと考えています。経営陣からの意思共有は小まめに・丁寧であることが重要なので、オフサイトを待たず、月次のタウンホールにも経営陣への質問コーナーを取り入れても良いと感じました。
Team Story(チーム・ストーリー)
リラックスして取り組めるコンテンツとして用意したのは、チームに関するトリビアクイズ「Team Story」です。ファシリテーションを依頼したメンバーが、予想のかなり上を行くこだわりのマテリアルを準備してくれました。入社まもないメンバーには少し難しかったかもしれませんが、長年在籍していても知らないような各チームの雑学(データ処理プロセスやテックツール、アカウント毎のトリビアなど)が盛りだくさんでした。
たとえば、「これまで開発した(ベータ版や未リリースの試作品も含む)ダッシュボードの名称をどれだけ見つけられるか」というワードサーチは、非常に完成度が高く、驚かされました。残念ながら制限時間内にすべて見つけることはできませんでしたが、昔の試作品名を見て懐かしい気持ちになりました。
新メンバーにとっても、会社の歴史や背景、各チームにまつわる雑学や製品の裏話を知る良い機会になったと思います。
「インサイドG3ヘッド」のコンテンツ同様、メンバーが準備からファシリテーションまで完璧にこなしてくれ、今後のオフサイト企画はもっとメンバーに頼ってみても良いかもしれないと改めて感じました。本業と関係ないところまで、徹底的にエクセレンスを追求するパナリット魂を見せつけられました!
他にもユニークなコンテンツ満載!
ここでは紹介しきれなかった、ユニークなオフサイトのコンテンツはまだまだあります。例えば、
Finding Values - 会社のバリューについてのディスカッション
Peter Pay - 報酬設計方針(compensation philosophy)のプレゼン
Lilo & Pitch - パナリットの4分間ピッチを競うコンテスト
Beauty and the Bug - 開発の1年を振り返り、今後の展望を語るセッション
など、(少し無理やりですが笑)ディズニー作品にちなんだ個性的なセッションが続きました。
さらに、夜のコンテンツとしては、ハロウィン当日に恒例の Palloween(パナリットのハロウィンパーティ)を開催。今回はホテル最上階のバーラウンジを貸し切り、コスチュームをまとった印象的な夜を演出しました。1日のプログラムが終わった後も、毎晩アンカンファレンス(un-conference)という名の自由参加の部屋飲みが深夜まで続き、2泊3日のオフサイトをさらに盛り上げました。
オフサイトは大きな挑戦のための“土台作り”
パナリットのオフサイトは、単なるリフレッシュの場ではなく、全社員の絆を深め、新たな目標に向かう「土台作り」として位置づけられています。今回ディズニーランドで開催されたオフサイトも、単なるイベントを超えて、全社的な結束を強め、メンバー同士が深く互いを理解し合える「魔法の時間」となりました。数々のミッションやユーザーの生の声を聞く機会を通じて、メンバー1人ひとりが自身の役割や、会社の目指す未来を再確認する貴重な時間になったと感じています。
このように、私たちがデザインするユニークなオフサイトは、メンバー間のコミュニケーションを活性化し、信頼と連携を深めることで、チームが一丸となって大きな目標に向かうための基盤を築いています。この積み重ねが、リモートファーストでありながら、パナリット独自の強いカルチャーを育む要因となっていると感じています。そのため、オフサイトは単なる「景気のいい時のイベント」ではなく、業績向上に欠かせない「投資」として捉えています。
この記事をお読みいただいた方の中に、チームビルディングにお悩みのスタートアップ経営者や人事の方がいらっしゃれば、私たちの経験が何かお役に立てるかもしれません。今回作成したマテリアルの共有や、相談も可能ですので、noteやX(エックス)でお気軽にDMしてください(手前味噌ですが、今回のオフサイトコンテンツは参加者から「研修として売れるレベル」と大好評をいただきました!)。これでも、前職ではGoogleの人材開発部で研修設計やファシリテーションを本職としていたので、何かお役に立てることもあるかもしれません。
最後に、毎回高い理想と多くの調整を伴うオフサイトを、ロジスティクス面で全面的に支えてくれているスーパー秘書(以前のブログ記事にも登場した彼女です)に感謝の意を伝えたいと思います。今後も二人三脚のオフサイトコミッティーで、多くのサプライズをパナリット社員に提供していきたいと思います!