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戦略プロフェッショナル④:経営戦略に合致した、良いセグメンテーションとは?

読書ノート(169日目)
さて、昨年7月の更新から随分と経ってしまいましたが…
三枝匡さんの四部作の一冊目「戦略プロフェッショナル」の続きを
紹介したいと思います。

今回の「セグメンテーション戦略」は、本書の中でも個人的にはハイライトでもあり、目からウロコ状態だった内容です。

(本書の内容の振り返り)

本書は三枝匡さんが実際に事業再生をされた実話に基づいた物語で、主人公の名前は「黒岩莞太」となっており、三枝さんが32歳に経験された話です。

(ここまでのストーリーの概要)
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黒岩莞太は病院の検査薬などを販売するプロテック社の事業責任者で、業界トップにはドイツ化学という強力なライバル会社がいる。今回、プロテック社は病院側が従来の検査方法より短時間かつ低コストで検査が可能となる、画期的な検査機械の新製品をドイツ化学よりも早いタイミングで手にしたという、千載一遇のチャンスのなか、シェア逆転を目指している。

検査薬ビジネスは、一つの病院の検査ごとに1社だけと取引するという特徴があり、勝者総取りのオール・オア・ナッシングの世界。
つまり、一度契約を結ぶことができれば数年間は他社への乗り換えはない。
(複数社の検査薬を使うと、検査結果がブレてしまうため)

そして、黒岩たちが手にした画期的な新製品は、数カ月後にはライバルのドイツ化学も手に入れる可能性が高く、この数カ月間が勝負時である。
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事業の詳細や、黒岩莞太の戦略プロフェッショナルとしての考えや背景は、こちらのnoteにもう少し詳しく整理しましたので、もしお時間があればこちらもどうぞ。


それでは今回のテーマ「セグメンテーション戦略」についてです。

黒岩莞太と営業企画部長の東郷との会話

黒岩「最大の成果を挙げるために、何を考えるべきだと思う?」
東郷「いちばん売れそうな客先から攻めていくということですか」
黒岩(それ見たことか、という表情で)
  「それはアブナイ言葉だよ。いちばん売れそうな客先が経営的に見て、
   いちばん獲得したい客先とは限らない。
それだけでない。
   営業マンは、どこがいちばん売れそうか、どうやって判断するのか」
東郷「自分の地域のユーザーを一番よく知っているのは営業マンです。
   ですから、最初にどこにアプローチするかは、彼らが自分で
   絞ることができると思います」
黒岩「そこが、この問題の核心だよ。それで拡販が成功するなら、
   今までどうしてドイツ化学の後塵を拝してきたのか」
黒岩「今後のシェア争いは一つひとつの病院でオール・オア・ナッシングの
   戦いだ。一度手こずって失敗したら、そこでの商売はこの先、
   何年もアキラメだ。今回は時間に限りがあるのだから、戦略的に
   重要な顧客から順番に攻めていかないと、時間切れアウト
になって
   しまう。営業マン一人ひとりに具体的なユーザー名を挙げて、
   朝から晩まで寝ても覚めても、どこが攻撃対象か分かるようにする」

・市場をセグメントする
 2×2のマトリックスを描き、病院側の製品に対するニーズの強さと、
 売り込みに成功した場合の当社の売上利益のメリットの大きさ
 2軸を描く

・病院側の製品ニーズの強さを測るには
 新製品ジュピターの売り込みに敏感に反応してくれそうな客先と、
 それほどでもなさそうな客先をどうやって区分けするか、工夫が必要

今回、黒岩たちは最終的には
2×3のマトリックスを使ったセグメンテーションを描いた

縦軸:病院のベッド数
(ユーザー側が検査を自動化できるメリットと、
 当社側の売上利益の大きさの2つを加味)

横軸:新たな検査(G検査)を実施する、アドオン方式への感受性
(国公立病院と、それ以外で分け、新たな検査導入への旺盛さを加味)

これにより、優先度A、B、Cと、捨てるべき✕の4つで優先順位づけ


・最終のセグメンテーション
・先程の魅力度A、B、Cの優先順位に加えて、「競合の視点」を追加する
・現在、当社の旧タイプ品を使用している既存ユーザーか、
 それとも競合のドイツ化学の客先か
で区分
・これにより、どこから先に攻めるべきか、どこを後回しにするか、
 時間的な行動優先度を決める

黒岩「拡販活動の最初の四カ月間は、全営業マンはドイツ化学の客先だけに
   アプローチする
。つまり魅力度Aの客先のうち、ドイツ化学の
   ユーザーである79カ所だけに最初にアプローチする。
   その次は魅力度Bのマス目にいく。それもドイツ化学の顧客だけだ。
   つまり最優先がⅠ、次がⅡだ
黒岩「Ⅰの客先へのアプローチが終わらないうちは、
   Ⅱの客先に行ってはならない。

   既存ユーザーから問い合わせがあった時は対応しても良いが、
   こちらから先に積極的にアプローチをすることは絶対やらない。
   今のお得意様を数カ月間待たせてしまうが、許してもらおう」

・営業マン24人で、一人あたりの優先順位ⅠとⅡの担当数を計算すると、
 1人あたり合計12カ所。これなら多すぎるということはなく、
 ターゲットの絞りは十分だと黒岩たちは判断した

・経営戦略の要諦は「絞り」と「集中」

・絞りがなければ、組織のエネルギーを統一することはできない
トップは社員に対して「語り」が必要
 時には俳優のように語りかけ、訴えかけなければならない
・「絞り」とは、すなわち「捨てる」こと
・我々の経営資源には限りがあるから、何もかもやることはできない
 だから「これはやめた」と割り切ることが必要

・事業戦略にかかわるプランニング作業のなかで、
 セグメンテーションは最も「芸術的センス」「創造性」を問われる
・多くの場合、セグメンテーションがうまくできれば、
 戦略の核になる部分はできたも同然

・セグメンテーションは今回のように売り込むべき新商品が決まっている
 「先に商品ありき」の場合と、これから新しく商品開発をする時に、
 顧客の購買動機や特性を分析し、既に世に出ている商品で満たされて
 いないニーズを見つけ、それに狙いを絞って開発を行う
 「先に市場ありき」の2つがある

・良いセグメンテーションは、しばしば従来の「社内常識」を破るもの
・個々の営業マンが思いつかないことを、
 営業のトップレベルで開発しなければならない
・その戦略が、たとえ営業マンたちのこれまでの習性に反している
 ものでも、必要に応じてその習性を壊しながら進めていく

・そして、セグメンテーション戦略は静かにやらねばならない。
 
得意げに客先で話したり、社長がヒントになるようなことをマスコミに
 漏らしたりしては、競争戦略の戦略たる意味がなくなってしまう


以上が、黒岩たちが考えた「セグメンテーション戦略」の紹介でした。

・顧客から見たニーズの強さ
・自社の売上利益のメリット
の2軸で最初のセグメンテーションのマトリックスを作るのが王道ですが、今回は「数カ月間の短期決戦」ということで…
・顧客が製品をスイッチするまでの意思決定の速さ
の要素も加味されている点が、凄いセンスだと感動しました!


さらに、最終のセグメンテーションの完成のためには
・競合の視点
を追加することで、経営的に一番獲得したい顧客を絞り込む。

今回のマトリックスは、結果だけ見ればシンプルですが、
自社が達成したい「シェア逆転」という経営戦略に合致した、
すごく鮮やかなセグメンテーション戦略に感じました。


私もビジネススクールでセグメンテーション戦略は学びましたが、
市場を細分化していただけで、経営戦略と合致させるという視点では
学べていなかった…
だからこそ本書を読んだ時に「目からウロコ」でした!!

…と、ついつい長文になってしまいましたので今日はこの辺で。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!✨

次回は、三枝匡さんにとっての「戦略プロフェッショナルとは?」
についてを紹介して、全5回の締め括りにしたいと思います。

それではまたー!😉✨


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