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戦略プロフェッショナル③:「違和感」と「シェア逆転への気付き」。新製品が売れない原因は『価格以外にある』

読書ノート(168日目)
今回も前回に続いて、三枝匡さんの四部作の一冊目
「戦略プロフェッショナル」の紹介です。

本書は三枝匡さんが実際に事業再生をされた実話に基づいた物語で、主人公の名前は「黒岩莞太」となっており、三枝さんが32歳に経験された話です。

より詳しいことや手掛けている事業の概要はこちらのnoteもお読み頂けると理解がスムーズだと思いますので、もしお時間があればこちらからどうぞ。

それでは今回のテーマ「違和感」「シェア逆転への気付き」についてです。



・黒岩の感じた違和感①:売上の伸びが競合と変わらない

・黒岩莞太は、ジュピターという画期的な新製品を持ちながら、
 製品群Aの売上高が期待したほど伸びていないという違和感から、
 旧タイプとジュピターでの売上のカニバリゼーション(共食い)
 を疑っていた

・黒岩の感じた違和感①
 なぜ画期的な新製品があるのに製品群Aの売上の伸びが競合と同等なのか

・黒岩は営業企画課長 東郷(30歳)にジュピターの営業方針について質問
 黒岩「君たち営業は本当にジュピターの拡販に走っているのかな」
 東郷「もちろん皆、頑張っています。どうしてですか」
 黒岩「だって君、ドイツ化学の製品群Aの売上高は
    ここ数カ月どれくらい伸びていると思う」
 東郷「データはないものの客先を回っている感触では、
    我々と同じ年29%ぐらいでは」
 黒岩「先方はまだ旧タイプしか取り扱っていない。
    我々の旧タイプの売上の伸びは7%しかない」
 東郷「でも、ジュピターを加えれば、当然うちも負けていません
 黒岩「そこがおかしいと思わないか。ジュピターは売れたけど
    旧タイプがその分だけ売れなくなった。

    つまり、我々の営業は自分の顔が利く既存のお客さんの
    ところに売り込みに行っているだけだ」
 東郷「確かに、すでに納入している7台のジュピターは全て、
    既存ユーザーに売れていました。
そしてどの病院も、
    ジュピターを納入した途端に、旧タイプの注文はゼロです」
 黒岩「これじゃ千載一遇のチャンスを生かせないね。
    ドイツ化学のお客さんにジュピターを売り込まなければ
    拡販効果が出てくるわけがないだろう。
    今後は既存ユーザーではなく、ドイツ化学のお客さんを狙うんだ

このような状態は決して他人事ではないと感じました…
自分も営業をしていた時は、優しいお客さんのところに行きがちでしたし、
現場の気持ちはよく分かりますし、その"景色"が目に浮かびます…😂

ただ、この状態は本書の言葉を借りれば、
明確な「絞りと集中」の営業戦略が無ければ、
営業は自分が行きやすいところを訪問したがる傾向がある
という症状が表面化してしまっていると言えます。

黒岩と営業企画の東郷課長との会話は続きがあります。

黒岩「ジュピターについて、いい話ばっかりだが、
   性能がこんなにいいならどうして売れないのかな」
東郷「ジュピターの機械の初期投資は450万~1250万円と高額なため、
   ここで話が止まってしまうのです」
黒岩「ジュピターが病院に与えるメリットと
   価格が見合っていないのだろうか」


・黒岩の感じた違和感②:価格決定の戦略欠如

・黒岩の感じた違和感②:価格決定の戦略欠如
・ジュピターのビジネスモデルを確認しているときの会話から
東郷「ジュピターの機械を納入したあとは、専用の検査薬を
   買ってもらいます。これが旧タイプの検査薬に相当するものです。
   一度コピー機を納入し、後からトナーを買い続けてもらう方式です」
黒岩「そうすると、ジュピターを納入した病院は
   旧タイプの検査薬は買わなくなる。
   しかしジュピター用の検査薬を代わりに買ってもらえるのだね」
東郷「その通りです。検査薬は旧タイプは500円でしたが、
   ジュピター用の検査薬は250円と半額
です。
   旧タイプの検査薬は製造工程が複雑でコストが高かったのですが、
   ジュピター用の検査薬は大量生産ができるため低コストで作れます。
   粗利益も高いので価格面では十分余裕があります」
 
黒岩「本当にジュピターの性能がそれほど良いのなら、
   検査薬が今まで通り500円でも人々はジュピターを買うだろう。
   それが半額の250円ならば、迷わずにジュピターを選ぶはず。
   ところが今はそれでも売れない。人々は半額でも反応しない。
   つまり、これ以上値段を下げても売上が上がることはないだろう。
   ということは… この商品が売れない原因は『価格以外だ』
 

黒岩「ジュピターを納入した病院は何回検査をすれば、初期投資の機械代を
   回収できるのだろうか
。G検査の毎月の回数を病院ごとに調べれば、
   回収までの期間を病院ごとに計算できるね」
東郷「そんなデータは見たことがありません
黒岩「分からない? そのデータが無ければジュピターを納入した病院が
   どれほどの利益増加になり、機械代が回収できているかどうか、
   我々は分からないよね。お客さん自身だって、機械を買って
   前よりメリットが出ているのかどうか、見極められないよね?」
 
それから10日間、東郷たちはベッド数からG検査の回数を予想して算出
日本の病院数は約9000あり、大半はベッド数200以下の小さな病院だが、
G検査の市場の中心は300ベッドぐらいの中規模の病院。
そこでは少なくとも毎月900テストぐらいの検査回数があると結論づけた
 
黒岩「300ベッドの規模の病院なら、機械代が数百万円でも
   僅か1年半から2年くらいで元が取れる。つまり、
   ジュピターが売れない理由に、価格が関係している可能性は低い
東郷「ということは何が問題でしょうか」
黒岩「君はなんだと思う」
東郷「ユーザーへの説明不足ですか」
黒岩「そうだよ。ジュピターを買うメリットが、
   お客様に十分伝わっていない
ということさ。
   短期間で機械代を回収できることに自分らで
   気づいていない
んだから、説明できるはずがない」
東郷「うちのセールスマンは、機械代が高いと言われたら、
   素直にシッポ巻いて帰ってきてたんですね」
黒岩「セオリーから言えば、検査薬はもっと高くしてもいいくらいだね」

ここでは、黒岩は価格のセンシティビティ(価格弾力性)と、コストプラスでの価格設定が戦略欠如していることを指摘しています。

価格設定の手法で、原価に一定の粗利益を加えて価格を設定する
「コストプラス」の考え方は、対競合戦略として有効に機能するかどうかを
考えていない、戦略が欠如した愚かな手法
である。

「決定版 戦略プロフェッショナル」 P175-176


・検査薬ビジネスは「オール・オア・ナッシングの陣取り合戦」

・その後、黒岩と東郷は全国のユーザー回りを実施し、
 その中で戦略判断に関する重要な気付きを得る
・G検査薬のビジネスは、同じ検査薬を使わないとデータがバラついて
 しまうため、病院ごとに試薬メーカー1社との取引しかしない傾向がある

・つまり、病院単位でのユーザーの陣取り合戦
 ドイツ化学のG検査薬を使っている病院が自社に移れば
 その病院の今後全てのG検査薬が乗り替わるという、
 オール・オア・ナッシングの勝者総取りのビジネス

・まさに1回限りの一本勝負、鼻の差の勝負だったとしても勝ちは勝ち。
 シェアを一気に変えられるチャンスがある。
・そして一度奪われてしまったら個々の病院で商売を取り戻す機会は、
 その後、何年も失われることになる。
・画期的な新製品ジュピターは自社しか持っていないという条件もあり、
 「短期決戦」の必要性が増していると黒岩は感じた


ここまでの物語で黒岩莞太が率いる「新日本メディカル」の戦略方向性が、より一層クリアに見えてきました。

画期的な新製品ジュピターで会社全体の業績を飛躍させたいと思いながらも、営業の現場では既存のお客様に売り込んでいたため、旧タイプの売上がジュピターに移っただけという状態。
今こそドイツ化学の牙城を攻めるべき千載一遇のチャンスなのに…

ということで、次回は営業戦略での「セグメンテーション戦略」
三枝さん流に表現するならば「絞りと集中」について紹介予定です。
(個人的には、本書の中で最も"目からウロコ"だった内容です)


ちなみに、黒岩莞太は同時並行で海外市場でのジュピターの販売数を確認し、アメリカでは年間120台~150台の販売、ヨーロッパでも国別の平均で年間100台は販売できていることを知り、新日本メディカルの年間7台が貧弱であると同時に、大きな伸びしろがあることに気付きます。

日本と比べて、アメリカの市場は約2倍、ヨーロッパは約1.5倍のため、
逆算すれば日本でも年間70台くらいは販売できるはず。
という販売目標の目安を得た上で、いよいよ営業戦略の立案に着手します。


それでは今日はこの辺で!
それではまたー!😉✨

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