赤とんぼ
牧草地が広がるなかを杉とポプラの一本道が
真っすぐにのびている
その先、一段と高くなった丘のうえに
男子修道院が立ち
静寂と神々しさがあたりに満つ
修道院の十字架が日差しにきらりと光り
鐘が鳴りわたった
この道を歩くたびに
天国へ向かうがごとき思いとなる
三木露風は、10代後半
詩人で世にでるも悩みをかかえ
20代半ばに函館近郊の修道院を訪れた
3週間の滞在中に
詩集『良心』を書きとめている
31歳のとき、初代・修道院長ジュラール・プゥイエ
(のちに帰化して岡田普理衛)の招きで
1920年(大正9)から4年間
講師として修道志願者などに国語や作文を教えた
このとき、「赤とんぼ」を詠み
童謡集に発表して2021年で100年となる
夕焼け、小焼の、赤とんぼ、
負われて見たのは、いつの日か
山の畑の、桑の実を、
小かごに摘んだは、まぼろしか
十五で姐やは、嫁に行き、
お里のたよりも、絶えはてた
夕焼け、小焼の、赤とんぼ、
とまっているよ、竿の先
生まれ育った兵庫・龍野
子守する姐やに背負われた幼子の露風が
夕焼けの空を見あげると 飛びまわる赤とんぼの群れ
のちに、修道院で文学を教える日々
そんなとき、竿の先にとまった
赤とんぼをふと目にして、昔を思う
母と別れ、さらに好きな姐やも去り
千々に乱れた幼なごころを 「赤とんぼ」に詠んだ
修道院の前庭に三木露風の詩碑がある
滞在中に妻なかとともに受洗し
カトリック信者になっている
ちなみに、2021年
修道院は創立125周年をむかえた