下を向いて歩こう。 【エッセイ】
暗いドラマが流行っている、らしい。僕自身は観たことはないのだけれど、次回予告なんかを見ていると分かる気もする。
僕は小説や映画が好きで、よく観ている。当然、好き嫌いはあって、この間まではデヴィッド・フィンチャーという監督の映画なんかが好きだった。有名なのは『ファイト・クラブ』とか『セブン』とか。
映画をそれなりに観る人なら分かると思うのだけれど、この人の作品には暗い雰囲気が漂っている。世界を斜め上から見ていて、人間ってこんなもんだよね、社会ってこんなもんだよね、っていう作品が多い。
その観点から、暗いドラマの流行を軽く考察すると、現代の人は自分より下の人と比べて喜びを得ている気がする。こんなに大変な状況の人がいるのだから自分は幸せだと潜在的に感じているのだ。
それではなぜ、こんな傾向になったのだろうか。それは、格差と絶望にあると思う。20世紀にはサクセスストーリーをはじめとした明るい物語が流行した。その当時、庶民だって上流階級になれるという夢が信じられていた。
空からはチャンスの縄がたくさん垂れてくる。もう少し、もう少し。その縄を掴むまで努力をするんだ。上を向いて歩こう。涙がこぼれないように。泣いてる姿なんて見せられない。失敗なんて恐れないで、成功だけを追い続けるんだ。
今の時代はどうだろう。21世紀に入って、成功神話は崩壊した。頑張っても報われない。格差は広がるばかり。上を向いていたら、足を踏み外してしまう。奈落の底は地獄絵図。
一歩一歩、ゆっくり歩こう。失敗は絶対に許されない。足元を見て、少しずつ。上になんか興味はない。望むのはひとつ、現状維持だけ。下を向いて歩こう。涙をこぼしたっていいじゃないか。みんな苦しい、みんなで泣こう。遥か下に、もがき苦しんでいる人々が見える。自分はあんな風になりたくない。あの人たちに比べたら、自分はなんて幸せなんだろう。
暗いドラマと明るいドラマ。どちらも僕らからは程遠い。自分とかけ離れた存在を見つめて、今の自分に希望を見い出す。どっちだっておんなじだ。努力しろという人がいるけれど、幸せならばそれでいい。自分が好きな方法で。
下を向いて歩こう。涙をこぼして地面を濡らそう。潤った土には花が咲く。