見出し画像

科学的介護情報システム(LIFE)に関する考察

本日は、介護施設で行われているLIFE(科学的介護情報システム、以下科学的介護)について書いてみようと思います。LIFEについては、以前少し見たことはあるのですが、あらためて、本日は、こちらの情報を勉強してみました。本日はLIFEについてかかわっている方、興味を持っている方向けです。難しかったらすみません。

ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000962109.pdf



LIFE(科学的介護)とは

「科学的介護情報システム(LIFE)」は介護の質を向上させるためのシステムであり、データと証拠に基づいたケア、PDCAサイクルの実施、科学的な指標の収集と分析、そしてそのフィードバックを活用して介護の質を継続的に改善することを目指しています。

つまり、これまで現場の感覚で行っていたケアについて、情報を収集し、より効果的なケアにつなげていくというサイクルを回していこうという考えですね。

LIFEの実務上の将来的な目的は、実質「介護の質を継続的に改善」して、「進行予防、生活機能の改善につながる介護を効率的・積極的に行う」ことで、「社会保障費を下げる」ということだと認識しています。

神経内科医からみたLIFEが改善しやすい人

神経内科医のわたしが直感的に感じたのは、LIFEで改善するのは、廃用、フレイルの強い85歳以下の人だと思います。
病気があっても緩解している人、例えば脳血管障害や何らかの手術を受けたような方で生活機能が低下している人だと、適切なケアやリハビリを行うことでLIFEが改善すると思います。たまたま一人暮らしで栄養が悪かったような人に適切な介入すると、LIFEでは改善が見られると思います。つまり一定の集団に対してはケアやリハビリを行うことで得られた改善を評価できると思います。

疾患によりLIFEの改善は大きく異なる可能性も

一方で皆が、廃用、フレイル、栄養失調で生活機能が下がっているわけではありません。パーキンソン病や進行性核上性麻痺などの進行性の病気、つまり神経難病の場合は、積極的にリハビリに関するサービスを行っても進行が早い場合もあります。リハビリをしても改善が見られない可能性もあります。パーキンソン病は10万人中100人です。皆さんが想像するより多くの患者さんが病気とともに生活しています。LIFEの推奨の通りにリハビリをしない、介護サービスを使わないから悪化したと、本人の怠けているせいにしないように注意する必要があります。また、うつ状態、統合失調症などが併存している方などは、精神面の問題が多分に入りますので、LIFEでは特別に配慮する必要があるでしょう。
またLIFEの改善には治療が影響する場合もあります。頚椎症の手術をした、パーキンソン病などで治療がうまくいった、正常圧水頭症の手術をしたなど、ADLがすごく上がる場合があります。つまりケアの影響だけではなく、治療の成否がLIFEを押し上げたり、押し下げたりする可能性があるのです。このような別の介入があった場合のことが、どのように記載されるのかについては記載を見つけることができませんでした。

病状の反映の不十分さは心配

LIFEにおいて、医療情報で加味されるのは、介護保険の主治医意見書、リハビリについての指示書などに限られています。ここに書く病名というのは、非常にあいまいな可能性があります。複数の病院にかかっている場合、患者さんは、特に主治医に言わずにすべての病気を把握できないことも多いです。またかかりつけ医が認知症の専門であることは少ないので、認知症に関する評価が書かれていなかったり、間違っている可能性もあります。例えば整形外科の先生しか見ておられない場合、主治医意見書を作成すると、内科疾患の記載がされていないこともあると聞きます。

リハビリを受ける資格がない人がでてくる?

このLIFEを行うことで、一番心配なのは、将来的にリハビリをやっても効果のない人へのリハビリはやめようという話が持ち上がってくるのではないかという懸念です。医療は効率化が非常に難しいケースがあります。特に神経難病の方々では、リハビリの効果がないとされてしまう懸念があります。

これを心配する根拠は、今でも病名でサービスに差があるからです。
例えば、うつ病は精神科訪問看護でも65歳を超えていれば介護保険でも訪問看護が受けられます。どちらかを選ぶことができます。認知症は介護保険の中でしか訪問看護が受けられません。パーキンソン病では、難病登録でき、医療保険で訪問看護やリハビリを受けることができます。しかしパーキンソン病より重症化しやすいレビー小体型認知症では、介護保険の中でのリハビリや訪問看護しか利用できません。パーキンソン病とレビー小体型認知症は、同じ脳内にαシヌクレインが沈着する病気なのに、重症化しやすいほうが受けられる支援が少ないのです。リハビリを行わないと、関節が固くなり、拘縮し、ケア自体もしづらくなり介護しなければいけない状況がもっと増えます。
このように日本では、同じ人間で同じ病気にかかっても、違う病名になると受けられるケアの量に大きな差ができてしまうことがあるのです。こういう差がLIFEによって広がらないように注意する必要があると思います。

本人の意思決定に基づいた支援につながるのか?

他の方も、違った観点からLIFEについて懸念を示されている方もおられるようです。例えば、自宅では自分のやりたいことをできていたが、生活機能は徐々に低下した。一方で施設に入所したらリハビリをしっかりやり運動機能は良くなった。だけど、本人は自宅のほうが良かったといっている場合、どうなるのかなど疑問も感じました。

さいごに

LIFEについては、私も勉強し始めたばかりです。実際携わっておられる方、くわしい方がおられましたら、ぜひ教えてください。なお、医師も介護保険と関係ないわけではありません。主治医意見書は主治医としていつも記載しています。また訪問診療では居宅療養管理指導という名目で介護保険を用いて医師も生活指導を行っている場合があります。今後は医師もLIFEに直接かかわらざるを得ない可能性はあるでしょう。私もケアと連携を大切にする医師としてLIFEに期待するとともに、行方を注視していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。よかったら「スキ」「フォロー」お願いします。



最近出版した認知症に関する本です。認知症に1人で向き合わない!を合言葉に、こんな症状が出たら、誰に相談するか、どんなサービスや制度を使うかに焦点を当てました。よろしかったらお手に取っていただければと思います。Kindle版もでました。iPADなどのタブレットをお持ちの方には結構お勧めです。


この記事が参加している募集

記事が価値がある思われた方は、書籍の購入や、サポートいただけると励みになります。認知症カフェ活動や執筆を継続するためのモチベーションに変えさせていただきます。