石原哲郎|脳と心の石原クリニック院長

現役医師が、認知症やパーキンソン病のことについて一般の人にもわかりやすい記事を作成して…

石原哲郎|脳と心の石原クリニック院長

現役医師が、認知症やパーキンソン病のことについて一般の人にもわかりやすい記事を作成しています。 趣味はコーヒー焙煎。

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「仕事と介護」の連載を始めたわけ

みなさんこんにちは。 今日は、最近始めた連続投稿について書きたいと思います。 私の場合は、認知症の人の診断前から看取りまでかかわっているので、自分も患者さんもゴールがわからないままその時のベストを尽くしているような感じです。 それを、かかわっている一人ひとりの認知症の人に対して行っています。 でも、患者さんに行っていることを、そのまま実況中継するわけにはいかない。 では、一人の認知症の人と遠距離からの介護と仕事を頑張っている女性の小説にしてはどうかな?と思って書き始めま

    • 「遠距離介護と仕事の両立」Day 17: パーソン・センタード・ケアを活かす

      Day 17: パーソン・センタード・ケアを活かす 敏江は少しずつ周囲の助けを受け入れるようになってきた。訪問介護にはまだ抵抗があるものの、民生委員である田中さんが訪れてくれることには安心感を抱いていた。敏江は、田中さんとの会話を楽しみ、家事のちょっとした手伝いを嬉しそうに洋子に報告した。「今日は田中さんが来てくれて、庭の草を取ってくれたのよ。少し話をして、昔のことも思い出してね」と、電話越しに聞こえる声はどこか柔らかくなっていた。 一方、洋子はその話を聞きながら、内心複雑

      • 「遠距離介護と仕事の両立」Day 16: 事業対象者?

        Day 16: 事業対象者? 地域包括支援センターの佐藤さんは、敏江に対していくつかの質問をした。その結果をみて、うなずきながら、敏江に話しかけた。「敏江さんはまだ要支援の状態ではないものの、最近は体力の低下を感じており、特に長時間の家事や階段の上り下りで疲れやすくなっているのですね。また、外出や人との交流が減りがちで、地域とのつながりが少なくなっているかもしれませんね。」 敏江もうなずいた。佐藤さんは「これらの結果から、敏江さんは「事業対象者」と考えられます。この状態は要

        • 「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 15: 包括支援センターとの相談

          Day 15: 包括支援センターとの相談 敏江の相談をするため、洋子は地域包括支援センターに電話をかけた。電話に出たのは担当者の佐藤さんだった。洋子が簡単に敏江の状況を説明すると、一度ご本人とお会いするために訪問させてほしいと提案してくれた。洋子が今日しか滞在できないことを伝えると、佐藤さんは快く夕方の訪問を引き受けてくれた。 夕方、敏江の家を佐藤さんが訪問した。玄関を開けると、佐藤さんはにこやかに挨拶し、訪問業務に慣れた様子で、すっと部屋に入った。敏江も少し緊張した様子で

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          0本
        • 認知症について教えてシリーズ
          31本
        • 認知症の人への非倫理的な扱いについて
          8本
        • 認知症に関連する書評
          6本

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          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 14: 民生委員との出会い

          Day 14: 民生委員との出会い 敏江と洋子が弁当を食べ終わり、少しゆったりとした時間を過ごしていたころ、突然インターフォンが鳴った。洋子が不思議に思いながら玄関へ向かうと、そこには一人の女性が立っていた。優しい笑顔を浮かべていたその女性は、近所の民生委員の田中さんだった。 田中さんは地域での支援活動に熱心で、敏江のことも以前から気にかけていたという。「こんにちは、敏江さん。お元気ですか?」と穏やかな声で挨拶する田中さん。敏江は少し驚いた表情を見せながらも、「田中さん、ど

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          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 13: 再び帰郷

          Day 13: 再び帰郷 敏江が何度もサポートを拒否する中、洋子は再び日帰りで帰郷することを決意した。やっとのことで、敏江の家の玄関にたどり着いた洋子。ドアを開けた瞬間、以前と違う家の様子に驚きを隠せなかった。 玄関を入ると、まず目に飛び込んできたのは、以前はきちんと揃えられていた靴が乱雑に置かれたままの光景だった。玄関マットには埃が目立ち、敏江がどれだけきれい好きだったかを知っている洋子には、その変化が一層胸に響いた。 リビングに足を踏み入れると、そこもまた以前の敏江とは

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 13: 再び帰郷

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 12: 叔母のサポート拒否

          Day 12: 叔母のサポート拒否 翌日、洋子は再び敏江に電話をかけました。毎日のように電話で話すのが日課になっており、敏江の状況を少しでも把握しようと努めていました。洋子にとって、遠く離れた場所から敏江の様子を確認する手段は電話しかなく、そのため頻繁に連絡を取るようにしていました。 「敏江さん、元気にしてる?」洋子は優しく尋ねました。 「元気よ、そんなに心配しなくても大丈夫だから。」敏江の声には、依然としてかすかに残る力強さがありましたが、その裏には不安が隠されている

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 12: 叔母のサポート拒否

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 11: 叔母の混乱と不安の増大

          第2章: 混乱と拒絶の6か月 Day 11: 叔母の混乱と不安の増大 敏江が「混合型認知症」と診断された後、洋子はその事実を受け入れようと努めていたが、敏江の心は混乱していた。診断を受けた直後、敏江は「私はまだ普通に暮らせるはずなのに…」と繰り返すばかりで、現実を拒絶していた。 「洋子、私は病気なんかじゃないわ。ただ年を取っただけなんだよ。」敏江は自分に言い聞かせるようにそう言ったが、洋子はその言葉にどう応えるべきか迷った。敏江が混乱し、現実を受け入れられない気持ちに対し

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 11: 叔母の混乱と不安の増大

          両立支援物語まとめDay 1~10 敏江が認知症?「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」

          題名をクリックすると、その日のちょっとした関連知識を得ることができます。よろしければストーリーと合わせてお楽しみください。 認知症となった敏江と遠距離介護をする洋子の物語のDay1~10のまとめを作りました。 できるだけ現実に起こりうることに忠実に物語を作っています。今回は、この物語をまとめて読めるようにしました。 もしなにか聞きたいこと、情報として付け加えた方が良いのではないかと思うことがありましたら、コメント欄に書き込んでいただけましたらできるだけお答えします。 それ

          両立支援物語まとめDay 1~10 敏江が認知症?「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 10: 遠距離介護と仕事の両立

          Day 10: 遠距離介護と仕事の両立 洋子は、敏江の診断を受け入れ、いよいよ本格的な介護に向き合う決意を固めた。遠距離からのサポートをどのように行うか、仕事との両立は可能か、自分に何ができるのかを冷静に考える時が来た。 洋子は、率直に「敏江さん、一人で生活できる?」と聞いた。その言葉に敏江は内心腹立たしく思いながら、「大丈夫よ。あなたには迷惑をかけないわ」といい、なるべく目線を合わせないようにした。 洋子は、その言葉を聞きながら、敏江の将来について考えるも、受け入れたはい

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 10: 遠距離介護と仕事の両立

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 7: MRIと脳血流検査

          Day 7: MRIと脳血流検査 敏江のMRIと脳血流検査のため、洋子は再び高速バスで帰郷した。検査室に入る前、敏江は「この機械、ちょっと怖そうね…」と不安げな表情を見せた。洋子は「大丈夫、すぐ終わるからね」と声をかけたが、内心では敏江の不安が伝わってきていた。 2つの検査で午前中いっぱいの時間がかかった。検査中、機械音が鳴り響く中で敏江は緊張して体がこわばっていた。「洋子、あの音が大きくて少し怖かったわ…」と、検査後に敏江は呟いた。その疲れた表情に、洋子は胸が締め付けられ

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 7: MRIと脳血流検査

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 9: 認知症の種類

          Day 9: 認知症の種類 洋子は、ひつじ先生の勧めで、認知症の種類について学ぶことにした。アルツハイマー型、レビー小体型、血管性認知症など、それぞれの特徴と進行の違いを理解することが大切だという。特に敏江の場合、混合型認知症の可能性が高いことが分かり、さらにこれに対する適切なケアが求められていた。 「敏江さんの場合、記憶障害が主な症状ですが、これから他の症状も出てくるかもしれません。その際には、対応を考えましょう」とひつじ先生が説明する。洋子は、この情報を元に今後の介護方

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 9: 認知症の種類

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 8: 混合型認知症の診断と採血結果

          Day 8: 混合型認知症の診断と採血結果 検査結果を聞く日がやってきた。診察室で、ひつじ先生は洋子と敏江に向き合い、慎重な言葉で結果を伝えた。「敏江さん、MRIと脳血流検査の結果から、アルツハイマー型認知症と血管性認知症が合わさった混合型認知症の診断が下りました。」その言葉は、まるで静かな波が押し寄せるように洋子の心に響いた。 「混合型認知症…?それって、治るんでしょうか?」敏江の問いに、ひつじ先生は「完全に治すことは難しいですが、進行を遅らせるために、脂質異常や、高血圧

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 8: 混合型認知症の診断と採血結果

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 6: 長谷川式認知機能検査

          Day 6: 長谷川式認知機能検査 ひつじ先生は、敏江に長谷川式認知機能検査をした。検査室に入ると、敏江は少し緊張しながらも、先生の質問に答え始めた。しかし、簡単な質問にさえ答えられない場面が増え、洋子の心は次第に重くなっていった。 「敏江さん、今日は何曜日ですか?」という質問に、敏江は額にシワを寄せ、しばらく考え込んだ末に「木曜日…かしら?」と不確かな声で答えた。しかし、実際は月曜日だった。洋子は、これがただの物忘れではないことを痛感し、心の中で動揺を隠せなかった。 「洋

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 6: 長谷川式認知機能検査

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 5: ひつじ先生との出会い

          Day 5: ひつじ先生との出会い ひつじ先生は「では、診察室を歩いてください」といった。敏江は、昔よりすり足で小幅になった自分の歩き方に落胆していた。 「先生、私、これからどうなるんでしょうか?」敏江は少し不安げに尋ねた。「敏江さん、心配しすぎる必要はありませんが、認知症の可能性がないか確認しています。しっかりと検査をしましょう」と、ひつじ先生は優しく応じた。洋子は、敏江がこの先生に任せられるかもしれないという安心感を得た。 その後、ひつじ先生は簡単な認知機能検査をはじめ

          「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 5: ひつじ先生との出会い

          「100日で描く 遠距離介護と仕事の両立 叔母が望んだ生活を支えた6年」Day 4: 初めての病院付き添い

          Day 4: 初めての病院付き添い 洋子は、ついに決心して敏江を病院に連れて行くことにした。遠距離ではあるが、仕事の合間を縫って高速バスで敏江のもとへ向かった。 敏江の家に着くと、知っている叔母の姿とは異なっていた。家の中を見渡すと、整理されていない場所が目立ち、敏江が本当に助けを必要としていることが明らかだった。洋子は、敏江に悟られないように小さくため息をついた。「さあ今日は病院に来ましょう」というと、敏江は黙ってうなずいた。 病院の待合室で、敏江は少し不安げな表情をして

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