桃虚(toukyo)
「旅に出るってことは、その土地の神さんに挨拶しに行くってことなんだよね 挨拶して初めて、一宿一飯の恩義を受けられる、そこで泊まったり飲み食いしたりしていいってことなんだよね」と思っている桃虚の旅日記です。
神仏習合・弥次喜多マインドであちこち見てまわると、京都・奈良はとてつもなく魅力的な都市なのです。
読者の思い出を刺激して走馬灯を作りだす短編集。
大阪在住神職の桃虚が、たまに東京に出かけて見物してきた事、たまげた事、悟った事など。
桃虚(とうきょ)著「神様と暮らす12カ月 ~運のいい人が四季折々にやっていること」が幻冬舎から12月4日に出ます! 一年前から幻冬舎plusというサイトで連載していた「神様と遊ぶ12カ月」を、徹底的に加筆修正して、内容も見た目も、そして手触りに至るまで「本」という物体の魅力を追求しました。 サイトの連載は、スマートニュースからも読めたので、ひょっとしたら見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。 連載時の写真は、プロのフォトグラファーが撮った「ありもの」を載せていま
旅先では必ず本屋に入る。 古本屋のこともあるし、新刊書店のこともある。 そしてご当地本を買う。 荷物になるので小さめの本を買う。 事前調べによると高松は本の文化が根付いているようすだ。 朝起きて、前日コンビニで買っておいたヨーグルトを飲み、FAV HOTEL高松をチェックアウト。 (大阪人は普通、前日に「明日のパン」を買っておくが、 うどんを食べるつもりなので買わなかった) 本屋ルヌガンガへ向かう。 瓦町の中心部にある個人の新刊書店。 入ってすぐはレジ前におすすめ
新大阪から新幹線で岡山。 岡山の駅できびだんごを物色、 マリンライナーに乗る。 いつの間にか四国に入っていた。 高松に着。 駅構内は広々としていて、海風が吹いて涼しい。 海のにおい。 ことでんの「高松築港(ちっこう)」駅は、高松駅から5〜6分歩いて、城の石垣が見えるあたり。 ちょうど電車が止まっている。 ICOCAが使える。 2駅乗って「瓦町」で下車。 海からすこし離れたので、海風も潮の香りもしない。 光はあかるい。 瓦町は高松の繁華街。 良い店構えのお店、不思議な建物
東北を旅したとき、「山塩ラーメン」というのを食べた。 山塩って何だ。山でとれる塩‥それは岩塩のことではないのか? 「奥裏磐梯らぁめんや」の説明書きにはこう書いてあった。 海水が地殻変動などで陸上に閉じ込められ、水分が蒸発して結晶化したものが「岩塩」。これに対して、山の温泉を煮詰めて煮詰めて作ったものが「山塩」ということのようだ。 *** 「奥裏磐梯らぁめんや」は、磐梯山の裏側(北側)にある大きな湖、檜原湖のほとりにある。江戸時代に設置され、明治21年の磐梯山噴火の後再
私の仕事は神社神職なので、祝詞、おふだ、朱印など、筆文字で書くのがデフォルト。 毎朝、墨をするたびに、四角い墨を鼻に近づけて、墨のいい匂いを嗅ぐ。 いそぎの時は墨汁を墨池に出して書くけれども、墨汁は、かんじんの墨の匂いがしないので気持ちが乗らない。あるいは高級な墨汁を使えばいい匂いがするのかも知らんが、使ったことがないのでわからない。 去年亡くなった姑の本棚を整理しているとき、和の文具や紙やお香などを商う「鳩居堂」が監修した、日本のしきたりについての本があった。ぱらぱ
奈良に向かう近鉄電車の中で、私はスペイン人観光客八名に囲まれて座っていた。春になったとはいえまだ気温が十度代なのに、彼らはめっちゃ薄手のTシャツと短パンだ。短パンから出ているすねにはかっこいい刺青が彫ってある。 車窓を流れる青々とした田んぼと、突然ひらけたところに現れる平城京跡。ここは天平時代か。そんなことはおかまいなしに、スペイン人観光客は勢いのあるトークを繰り広げている。 広々として、おおからで、のんびりしていて、京都のように研ぎ澄ましたセンスで詰めて来ない奈良は、い
二条城に行った日も、朝から雨が降っていた。 大阪府の京都寄りの端っこに住んでいて、京阪電車で数駅行けば京都府だから、おでかけは京都になりがちで、どういうわけか、おでかけの日に雨が降りがち。 でも、京都にかんして言えば、はっきり言って雨のほうが良い。京都の雨は瞑想的で、体の奥まで潤してくれる気がするから。 京都の町。それ自体が寺のようなもので、傘をさして自分の世界に入り込めば、深海にいるような精神状態が訪れる。 倉敷の古書店「蟲文庫」で買った古本、宮本常一(民俗学者)の
最寄駅の京阪電車「渡辺橋」のふたつも手前の「なにわ橋」で降りてしまったことに気づいたのは外に出てからだった。このあたりは川べりが広々としてヨーロッパの雰囲気(歩いている人は関西弁)。明治、大正、昭和の雰囲気が漂う古いビルが建ち並び、落ち着いて心地よい場所である。 「みなも〜!」 入試が終わって発表まで中一日ある15歳の娘が、淀川の水面の美しさに感激してスマホを取り出す。淀川の水がきれいなわけではない。その水面に反射する春の光が、この世のものとは思えぬ美を発散していた。 「
12月13日 正月準備を始める「事始め」の日。 奉職先の神社では夜に鎮火祭という神事の後、「みかんまき」という行事を行なう。氏子崇敬者、総代などから奉納された大量のみかんをまく行事。参列者は大きな袋を持参でそのみかんをもらって帰る。 そんな事始めの日の朝、中学生の息子と娘と、彼らが学校に行く前の会話。 私「今日みかんまきだから遅くなるよ。カレーとご飯置いとくから食べといて」 息子「もうそんな季節か」 私「誰」 娘「みかんまきって、普通にやってるけど奇祭だよね」 息子「俺
もうすぐお正月がきて年神様が新しい歳をくれるから、また一つ歳をとる。 歳をとるほど、「トモダチ」の概念が広くなっている気がする。 遠くの国の会ったこともない民族の人が、自分とおんなじようなことをしているのをユーチューブなどで目撃したりすると、トモダチだ、と思う。 大昔の人が自分とおんなじようなことをしていたのを知ると、その人もトモダチだと思う。だから、トモダチ百人どころではなくなっている。 最終日に出かけた正倉院展で、またもや時を超えたトモダチに出会ってしまった。
11月、神社は七五三の季節。 今年はいつにも増して、餅のような三歳児が多い気がする。 古典的な柄がよく似合う、もちもちした、ぱっつん前髪の三歳児が、草履でジャンプしている。元気が良い。 三歳児は草履が無理で運動靴の子も多いなか、じつに頼もしい。 常連参拝のお年寄りが「まあ〜かいらしなァ〜」と、群がっている。 昭和だな。令和生まれの幼児は、昭和回帰だな。 それにしても、こんなに暑い11月がかつてあっただろうか! 大阪は昼間、半袖の気候だ。 昨日の夜は暑くてアイスを食べてし
農家の総代さんにさつまいもをいただいた。神様にお供えしてから、ふかしたり、平べったく焼いたり、大学いもにしたりして楽しんでいる。 秋ー!! 大好きだー!! と交差点の向こうにいる秋に叫んで告白したい。 こんどはさつまいもを味噌汁にしてみた。京都の海側にある伊根の人からいただいた煮干しで出汁をとり、具の相棒は小松菜。めちゃくちゃ美味しかった。 男女の双子を授乳中のころ、マザー・イン・ローが毎日さつまいもの味噌汁を作ってくれた。乳の出が良くなるからである。近所の人が、びわの
私の職場は神社である。 お守りお札授与所の窓は、映画のスクリーンのように大きく開き、そのスクリーンの真ん中を参道が横に走っている。 その窓に対面する机で仕事をしているわけだが、仕事と言っても、祭りの前の静けさで、参道をゆく参拝者や、風に揺れる御神木や、そこに訪れる鳥やねこやたぬきやイタチの動くさまを借景にして、祭りの段取りをぼんやり考えている。大きなカレンダーの裏に手書きでタイムスケジュールを書き、そこに付箋で人員や必要な物などを貼っていくという図工の時間のようなことをして
急に涼しくなった。 ちょっぴり寒いほどだ。 本来の自分が戻ってきた。 体が動く! 暑い間ほったらかしにしていた石玉垣外の草を引こうと思った。 鎌と箕と竹箒を持って、上機嫌で現場に向かう。 なぜだろう今年の夏は、いつも生えてこない玉砂利の隙間からもわしゃわしゃと草が生えてきて、石玉垣の外まで手が回らなかった。髪の毛フサフサの慶應高校が甲子園で優勝した夏、草の世界の甲子園では雑草魂が炸裂していたのである。彼らのたくましさは嫌いじゃないが、雨の後は30センチくらい一気に伸びてい
夏休みはとっくに終わったというのに、大阪は毎日蒸し風呂のような暑さ。 秋祭りの太鼓の稽古をする子供たちの前髪が、汗でおでこに張りついているのが可愛い。 学童保育帰りの小学生が、一人で境内を通って帰る。ランドセルを背負って、早足で境内を突っ切る。太鼓の練習をしていた子が、彼に気づいて 「あ、○○(その子の名前)や」 と言う。彼はそれを背中で意識しまくって、めっちゃ早足で歩く。 やがて東門から正門まで行った彼は、くるっと踵を返し、きちんと本殿に向かって一礼した後、ちゃんと横木
UVカットパーカーのフードをしっかり被った上に菅笠を被り草引きをしていたら、授与所の窓口に歩いてゆく中年の男性が見えた。 その時窓口にはだれもいなかったので、私はすばやく授与所玄関に入り、菅笠とパーカーを脱ぎ捨て、手を洗って窓口に立つ。 男性は御朱印帳を私に差し出して、 「ここは坂上田村麻呂ゆかりの神社ですよね?」 と言う。 ちがうので、「ちがいます」と答えると、男性は無茶苦茶びっくりして 「ええええ」とのけぞり、差し出している御朱印帳をひっこめた。そして悲しみのどん底に