欲望に体だけ。

我が家にはバスタオルがない。
顔も手拭きも棚に重ねた同じ種類のタオルを、家族三人でバンバン使い倒していくスタイル。

一年ぶりに新タオルが追加投入された。
Amazon「タオル研究所」のやつ。
今回はいつものグレーではなくバニラホワイト色。
みみっちい話になるが、髪染めをしている私はこの新品が使えない。色が移ってしまうので自主規制した。

最初の水洗いを経た十枚のタオル。
外干しで太陽の恩恵を受けられるのはあとどれくらいか。
取り込み時、顔を埋めたら幸せになった。
欲が芽生える――私もこれでふきふきしたいっ

夜、風呂上がり。
最初に出た人が後の人のタオルも用意する。
五歳息子が棚から取ったのを妻が戻している声。
「パパは前のでいいんだって」
「フカフカで気持ちいいのに」

少し長めに浸かり二人が洗面所からいなくなった頃に出た。
グレーのタオルをそっと棚に戻し、新品バニラを手に顔を埋める……嗚呼！
髪には使わないからね。今日だけ。体だけ。

おろしたてタオルふつくら秋惜しむ

（おろしたてたおるふっくらあきおしむ）

季語（晩秋）： 秋惜しむ