悔やまれる選択を振り返ったとき、そこには何が残るのか。僧侶が紐解く映画『ルックバック』
第101回「ルックバック」
押山清高監督
2024年日本作品
藤本タツキ作の同名傑作マンガが原作。ストーリーは忠実に、加えて動画表現の粋が尽くされた珠玉のアニメーションです。全国で上映中。
小学4年生の藤野の特技はマンガを描くこと。作品は級友たちに大評判で、当人も才能を自負しています。しかしある日、不登校で引きこもりの同級生・京本が描いたマンガを見た藤野は、その卓越した画力に自分の力不足を知らされます。それによりマンガを描かなくなった藤野でしたが、卒業式の日、初めて会った京本から「ずっとファンだった」と告げられます。それは藤野に最上の自己肯定感を与えました。藤野は京本を部屋から連れ出し、共同でのマンガ制作に取りかかるのです。
そして数年後。京本の身に衝撃的な事件が降りかかります。藤野は強烈な自責の念にさいなまれます。あの時、自分が京本を部屋から出さなければ、こんなことにはならなかったのにと。
「ルックバック」とは「振り返る」という意味です。かつての自分の選択を振り返って、悔やんでいる人は少なくないでしょう。でも仮に、別の選択をしていたとしても、それが思い通りの今を作ったかは分かりません。いや、ちゃんと振り返っているでしょうか。自分の都合や判断で、見るべきものを見ていないのではないですか。ちゃんと振り返った時、そこには自分の評価とは違った世界が映っていることもありえます。
振り返ったところにあるのは、歴史です。自分が歩んできた道のみならず、自分をここに至らさせた、自分の思いもよらない、限りない願いといのち〈無量寿〉がそこに広がっています。
松本智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。