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夏に花火を上げる理由や「たまや」の語源は?【多田修の落語寺・たがや】

落語は仏教の説法から始まりました。だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。今回の演題は「たがや」です。


 隅田川の花火の日、両国の川岸や橋の上は大勢の人でにぎわい、あちこちから「たーまやー」の声が聞こえます。そこを、たが(桶の周りを締しめる輪)を持った職人が通ろうとします。すると、たがが跳ねて武士の顔にあたってしまいます。たが屋の職人は必死に謝っていましたが、武士の言うことが理不尽なので、職人は怒り爆発。武士を相手に戦い、職人が勝ちます。それを見ていた野次馬が「たーがやー」。
 
 花火のかけ声の定番は「たまや」です。これは、江戸時代に隅田川の花火を打ち上げていた玉屋に由来します。江戸時代、隅田川の花火は玉屋と鍵屋が担当していましたが、玉屋は火事を出したことで廃業を余儀なくされました。一方の鍵屋は現在も営業しています。

 隅田川の花火は、飢饉や疫病の犠牲者を慰霊する祭礼に、花火を打ち上げたことが始まりとされています(ただしこの説には現在、異論が出されています)。祭りやイベントが宗教的な動機から始まっていることが、よくあります。近い時代で言えば、神戸のルミナリエは阪神・淡路大震災の犠牲者追悼の意味が込められています。祭りやイベントを楽しむ方も多いでしょう。楽しむだけでなく、そこに込められた意味や願いにも思いを馳はせたいものです。 

『たがや』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚
三代目桂か三木助師匠のCD「NHK落語名人選15三代目桂三木助 たがや/三井の大黒」(ユニバーサルミュージック)をご紹介します(今の三木助師匠は五代目です)。聞いていると江戸の情景が浮かんでくる語り口です。 

多田修(ただ・おさむ)
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。