往復40~50日かかる道を、人々が命がけで進む理由【英語で歎異抄】
『歎異抄』第二条
【英語訳】
Each of you has come to see me, crossing the borders of more than ten provinces at the risk of your life, solely with the intent of asking about the path to birth in the land of bliss.(Collected Works of Shinran, p.662)
【原文】
おのおのの十余箇国のさかひをこえて、身命をかへりみずして、たづねきたらしめたまふ御こころざし、ひとへに往生極楽のみちを問ひきかんがためなり。
(『註釈版聖典』832頁)
【現代語訳】
あなた方がはるばる十余りもの国境をこえて、命がけでわたしを訪ねてこられたのは、ただひとえに極楽浄土に往生する道を問いただしたいという一心からです。
(『現代語版聖典〈歎異抄〉』5頁)
今回の英単語
crossing the borders of more than ten provinces : 十余りもの国境をこえて
at the risk of your life : 命がけで
the path to birth in the land of bliss : 極楽浄土に往生する道
十余箇国のさかひをこえて
前号に引き続き、第二条冒頭のご文です。第二条は、東国の人たちが、はるばる十余りもの国境をこえて、命がけで親鸞聖人に会いに来られたことが記されています。
東国とは、一般的には東日本の地域を指す歴史的な用語ですが、親鸞聖人の時代である鎌倉時代は、関東地方やその周辺(東北地方南部など)を指すことが多いです。(時代や文脈によってその範囲が異なることがあります)
「十余箇国のさかひ」と記される十余りの国境とは、北関東から京都までの十二カ国(常陸、下総、武蔵、相模、伊豆、駿河、遠江、三河、尾張、美濃、近江、山城)を経過する遠路の道のりです。里数にすれば150里以上、日数は20日前後かかったと推定され、往復だけで40~50日かかる計算となります。その道程は現代のように交通整備も整っておらず治安も悪い状況ですから、当然危険がいっぱいです。そのような劣悪な環境下にも限らず、東国の人たちは、「往生極楽のみち」を命がけでたずねていかれるのです。
なぜそこまでしてたずねていかれるのでしょうか? それは、まるで磁石という大きな力が小さな無数の釘を等しく吸い寄せるように、阿弥陀如来の本願力(他力)に催促されて、人々が突き動かされているのではないかと思うのです。これは東国の人たちに限りません。世界の人たちが国境、言語、文化などを超えて阿弥陀如来の本願力に包まれ突き動かされているのです。第二条のお話は、教えの混乱などが背景にありましょうが、こうした本願力の普遍性を示す縮図と味わうこともできるのではないでしょうか。
南條 了瑛(なんじょう・りょうえい)
龍谷大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。専門は真宗学。現在、東京都中央区法重寺住職、武蔵野大学仏教文化研究所客員研究員、築地本願寺英語法座運営委員、東京仏教学院講師や複数の大学で非常勤講師をつとめている。本願寺派布教使、本願寺派輔教。
※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。