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人生には意味などない 僧侶が読み解く映画『ハンナとその姉妹』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な動画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

第104回「ハンナとその姉妹」
ウディ・アレン監督
1986年アメリカ作品
 


コメディと紹介されることも多いこの作品ですが、あふれるのは大笑いより苦笑いです。それは、さえない登場人物たちの誰かに自分を重ねてしまうから。

舞台は1980年代のニューヨーク。3姉妹の長女ハンナは舞台女優ですが、現在は主婦生活。次女のホリーは売れない役者で、コカインを止められず、しばしば姉に借金をしています。3女のリーは以前にアルコール依存症になりましたが、現在は断酒して画家と同棲しています。3姉妹の両親は2人とも元俳優でしたが、いい役に付くこともないまま歳を重ね、今でもしばしば喧嘩をするほど元気でそこそこ仲良し。

3姉妹とそのパートナーや友人たちが織りなすドタバタ人間模様。この作品に登場する誰もが、思い通りにならない人生を生きています。

その代表が、ウディ・アレンが演ずる、ハンナの元夫・ミッキー。テレビ局で場当たり的に仕事をこなしている彼は、体調不調になったことをきっかけに、自分の死を考え、いろいろな宗教に救いを求めます。ユダヤ教、カソリック、クリシュナ……。どれにも落ち着きを得られなかったミッキーでしたが、ある場所で救いを得ます。そこは仏教寺院ではありません。でも、そこでのミッキーのつぶやきはまるまる、仏教が教えていることと重なります。ぜひ作品でご確認ください。

作品内では「人間が得られる唯一絶対の知は、人生に意味などないということだ」というトルストイの言葉が引用されます。これを「虚無的」と受け取るのは間違いでしょう。意味など問う必要もなく、人生は捨てたもんじゃないのです。
 
松本智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。