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他人への怨みは自分に返ってくる【多田修の落語寺・お菊の皿】

落語は仏教の説法から始まりました。だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。今月の演題は「お菊の皿」です。

 怪談「皿屋敷」がもとになった落語です。皿屋敷の噂を聞いた連中が、怖いもの見たさに夜の皿屋敷に向かいます。すると井戸からお菊さんの幽霊が現れ、「1枚〜2枚~」と数え始めます。やがてこの話が町の評判になり、井戸の周りは見物人で連日大盛況。お菊さんは見物人に愛嬌を振りまいています。ある晩、お菊さんは「10枚~11枚~」と10枚を超えても数えるのを止めません。お菊さんに何があったのでしょうか?

 仏教は、怨みを捨てるよう説きます。怨みに復讐すれば、後で自分に返ってくるからです。皿屋敷の話で、屋敷の主人はお菊さんの命を奪っています。それは「私は大事な皿を割られた被害者だ」と思っていたからです。主人がその怨みを晴らしたら、今度はお菊さんに祟たたられることになりました。

 皿屋敷の話は具体的な地名や年代が設定されて、あたかも実際の出来事のように語られることがありますが、実は皿屋敷の伝説は日本各地にあり、地域によって話の筋に違いがあります。中でも姫路(兵庫県)が舞台の「播州皿屋敷」は、江戸の「番町皿屋敷」と並んで有名です。

 1926(大正15)年発行の『江戸伝説』という本には、お菊さんの皿9枚が一時期、築地本願寺に納められていて、その本の執筆時にはある個人の所蔵になっていると書かれています。かなり疑わしい話ですが。

『お菊の皿』を楽しみたい人へ、おすすめの一枚
立川談志師匠のCD「立川談志ひとり会落語CD全集第38集 お菊の皿/明烏」(日本コロムビア)をご紹介します。落語本編はもちろん、枕(本題に入る前の話)での皿屋敷のうんちくも聞き所です。

多田修(ただ・おさむ) 
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。


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