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どんどん恋愛しなさい。原監督がそう語る真意 眠れない夜に効く、仏さまの話

仏教徒ではなくても、眠る前に仏教に触れて、心を落ち着かせてから眠る。そんな人々を「ナイトスタンド・ブディスト」と呼びますが、近年、このような習慣を持つ人が増えています。モヤモヤを抱えて眠れない夜に、仏さまのお話をお届けします。


 
   いまやお正月の風物詩となった箱根駅伝。きっと大勢の人が毎年楽しみに観ているのでしょう。私も学生の頃、陸上競技で中長距離を走っていたので、当時から駅伝のファンで毎年楽しみに観てきました。

  今年で箱根駅伝7度の総合優勝を成し遂げた常勝軍団の青山学院大学駅伝チームを率いる原晋監督。学生と共に寮生活しながら学生を指導してきたその手腕は、しばしば高い評価を受け、注目を浴びてきました。

  今年優勝した直後にネットに掲載されたインタビュー記事に目がとまりました。

  学生スポーツ界では、より競技に集中させるために、恋愛に対して否定的な見方もあり、特に中学・高校の強豪校では禁止しているところも多いそうです。

  一方、原監督は「どんどん恋愛をしなさい」と伝えていて、その真意をインタビューに応えて語っていました。(※1)

「そもそも、『人を好きになるということ』はとても良いことだと私は思っています。人の気持ちがわかるようになる。あるいは、人に好かれようと思ったら、自分を磨く必要が出てくる。そのための努力をしないといけない」

もちろん「恋愛にのめり込んで陸上がおろそかになるようでは話になりません」としながら、
「スポーツっていうのは、やはり自分1人のパワーというのは、たかが知れているんです。『誰か』が応援してくれるから、あるいは「誰か」のためになるから、自分のパワーが生まれてくるし、プラスアルファの力が出る。『こんなに応援してくれているんだから期待に応えるために頑張ろう』というエネルギーになる。広い意味では、恋愛じゃなくていい。家族のため、かつての恩師のため、友人のため、クラスメートのため」と語ります。

 私は、ちょうど20年前の本誌『築地本願寺新報』に「世界に一つだけの花」(※2)と題して執筆した記事に同じような事を書いていました。私はその記事で、「生きる力・生きがい」というのはどのように育まれてくるのかを伝えたかったのですが、次のように書いています。

  哲学者の鷲田清一さんが、「生きる力というものは、自分の存在が他人のなかで意味あると感じるところから生まれる」と述べていたことを引用し、「生きる力や生きがいというものは、自己の内部に見つかるのではなく、他人のなかに映った自分を見ることによって生まれてくるものだということなのです。仏教の教えは、あらゆるものが単体で存在するのではなく、縁よって起こっていることを教えてくれます。あらゆるものは相互に依存し、支え合い、関係し合って存在しているという道理そのものが、わたしの生きる力や生きがいを生みだしてくれていることに気づかされるのです」と綴りました。

 つまり、もし自分一人だけのためだけだとしたら、自分があきらめたり、満足したりしてしまえば、限界を感じ、そこで止めてしまいますが、あの人のために、誰かのためにやろうとしていると持続可能なエネルギーになり得るのではないでしょうか。

 このことに気づけたとき、私たちは心地よい良い関係性だけを思い浮かべることでしょう。しかし、仏教が教えてくれるこの「ものの道理」で私が大事だと思うことは、実は自分にとって都合の悪い不快な関係性も、「生きる力・生きがい」を育む大切な要素になっているということです。「アイツさえいなければ良かったのに」という関係性も、手強いライバルがいたからこそということも、パワーを持続して頑張れたということを、仏教の「ものの道理」が教えてくれているのでしょう。
 
※1 https://www.huffiffingtonpost.jp/entry/story_jp_6595f78ae4b0912833aed6ab
「どんどん恋愛をしなさい」。第100回箱根駅伝で総合優勝、青学の原晋監督が学生ランナーにそう伝える理由

※2 『築地新報』2003年10月号 「世界に一つだけの花」
 
宮本 義宣(みやもと・ぎせん)
1962年川崎市生まれ。大学卒業後、企業で広告デザインの仕事に就く。その後、結婚を機に自坊の髙願寺に戻り、2005年住職を継職。武蔵野大学通信学部講師、東京仏教学院講師などを務める。


※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。