価値観が違う人と触れ合うから、新たな価値が生まれる。僧侶が読み解く映画『マイ・エレメント』
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
第90回「マイ・エレメント」
ピーター・ソーン監督
2023年アメリカ作品
古代インドの思想で、仏教の一部にも取り入れられている世界観に「五大」があります。この世は地・水・火・風・空の5つの要素で成り立っているというものです。『マイ・エレメント』はそれにとても近い世界観を具体化した街・エレメントシティが舞台になっています。
エレメントシティに暮らすのは火・水・土・風のエレメント(元素)たち。彼らは、それぞれの性質や特徴や文化的背景を大切に持ちながら、共棲しています。
主人公のエンバーは火の女性。火のエレメントは同族意識が強く、すぐ激情的になってしばしば周りを燃やしてしまいます。そんなエンバーと付き合うことになったのは水の青年・ウェイド。水のエレメントは涙もろくてオープンハート。エンバーはウェイド家族と接し、違った価値観に触れる中で、自分が想定してきた将来とは別の道もありうるのだと知らされるのです。
ファンタジー仕立ての美しい映像とほのぼのしたストーリーで子どもも楽しめる作品です。しかし実はこの作品は、アメリカの移民物語を下敷きにしています。
原案も手がけたピーター・ソーン監督は韓国人。両親が70年代にアメリカへ移住した移民二世です。監督の妻となったのは白人。2人の結婚には、特に監督の親からの強い抵抗がありました。自文化へのこだわりとともに、相手への無知や偏見や思い込みによるものです。それは監督の親だけのものではなく、過去の話でもありません。
異なるエレメントの出会いによって、街に新たな色が生み出されていきます。それを「豊か」だと思えたなら、その目をぜひ現実にも向けていただきたい。
松本智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。