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「いま、しあわせ?」と聞かれたら、なんと答える? 僧侶が読み解く映画『アイの歌声を聴かせて』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

「アイの歌声を聴かせて」

吉浦康裕監督 
2021年日本作品

 
 物語の舞台は近未来の地方町。そこはIT大企業である星間エレクトロニクスの城下町で、町全体がIT技術の社会実験場となっています。

 その町の高校に、シオンという転校生がやってきます。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、天真爛漫な性格を持ちながら、周りの空気を全く読まないシオンは、転校初日、クラスの中にサトミを見つけると親しげに近寄って、「サトミ、今、しあわせ? しあわせじゃなかったら、私がしあわせにしてあげる!」と唐突に歌い出します。唖然とする級友たちの中で困惑するサトミ。

 実はシオンは、星間エレクトロニクスに勤めるサトミの母親が、社内の冷遇に抗って開発した、人型ロボットでした。その最終テストとして、5日間、ロボットであることを誰にも見破られず無事に高校生活を送ることが課せられていたのです。

 失敗すると社内の立場を失う母親のために、サトミはシオンの突飛な行動や発言を抑えようとするのですが、シオンはどこ吹く風。騒動を起こしながらもシオンの率直さは次第に、サトミや級友たちの生き方や関係をプラスの方向へ誘っていくのでした。しかしそんな日々が、突然奪われる事態が発生します。深い喪失感に陥ったサトミたちでしたが……。

 シオンはサトミに何回も問いかけていました。
「今、しあわせ?」。
 しあわせって何だろうとサトミは考え、そして、思いあたります。その問いは今初めて問われたわけではないことに。ずーっと前から問われていた。ずーっと前から自分には、自分を案ずる思いと願いが向けられ続けていたのだと。そのサトミの気づきに、どうぞご自身を重ねてみてください。

松本智量(まつもとちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。