真っ白|掌編小説
クリスマスケーキ、フライドチキン、ピザ屋、牛丼屋のチラシ……。束にしてゴミ箱に放り込む。ハロウィンとかクリスマスとかバレンタインとか、くだらないイベントが近くなるたびに、こうして郵便受けにゴミ同然のチラシがたくさん放り込まれる。迷惑千万だ。残ったのは、自動車保険の契約更新の案内、確定申告の案内、水道料金の払込書、請求書……何とも色気がない。俺は捨てたチラシの中から牛丼屋のチラシだけを拾い上げ、部屋に戻った。
俺は正月もバレンタインもお盆もハロウィンもクリスマスも、全くもって興味がない。興味があるのは、今シーズンの札幌にどのくらい雪が降るのか、それだけだ。昨シーズン、札幌はドカ雪に苦しめられ、市の除雪も追い付かないくらいだった。今シーズンも同じことになったら、たまったものではない。
パソコンに向かい、ほぼ白紙のGoogleドキュメントの画面を見ながらため息をつく。今日はいつも以上に原稿が進まない。文字カウントには「166字」と表示されており、明日の〆切までにこれを70倍に増やさなければならないと思うと、絶望的な気分になる。
座椅子の背もたれに体を預け、スマートフォンのメッセージアプリを立ち上げた。
「ゴメン、仕事が入っちゃって……」
何度見ても文面が変わることはないのに、つい見てしまう。スマートフォンをテーブルに放り投げると、勢いが強すぎたのか、テーブルの向こう側にごとっと落ちた。
――チッ。
別に問題はない。ただ週末がクリスマスというだけの話だ。他の日に会えればいい。
(仕事が入ったなんて、本当だと思う?)
「本当かどうかなんて問題じゃない。信じるかどうか」
(信じられない?)
「もちろん、信じる」
Googleドキュメントに文字が並んでいく。
「わざわざ嘘つく必要なんてない。会いたくなければ会わなければいい」
(会いたくないから嘘ついたんだよ)
「何でだよ! 向こうから『会いたい』って言ってきたんだろ!」
(きっと好きな人ができたから、別れ話をするためだよ)
「クリスマスに別れ話なんて、さすがに残酷だろ!」
(クリスマスなんて、興味ないんじゃないの?)
キーボードがカタカタカタと耳障りな音を立てる。
「ちょっと非日常に期待しただけ」
「また日常に戻るだけ」
エンターキーを押しっぱなしにすると、画面は真っ白になった。
テーブルの向こうでスマートフォンが震える音が聞こえて我に返る。
――メッセージが1件。
「イルミネーション、綺麗だよ」
短い文と一緒に、写真が添付されていた。
「見に行こう。一緒に」
そう返信した。
出来そうな気がしてきた。
――166字を70倍に。
(了)
百瀬七海さんの「#2022クリスマスアドベントカレンダーをつくろう」という企画に参加しました。
私の担当は12月5日です。
実は今までクリスマスに関する小説を書いたことがなく、一体何を書いたらいいものか、意外と悩みましたね。(;^_^A
(簡単に書けそうだと思って甘く見てました)
百瀬七海さん、楽しい企画をありがとうございました。
20代の頃に付き合っていた人と、クリスマスのデート中に大ゲンカするというアクシデント(?)があり、クリスマスと言うと、やっぱりそのことを思い出します。
(すぐに仲直りしましたけどね)
当時、私はつくば市在住で、デートの場所は東京でした。
テーマ「アドベントカレンダー」で「CONGRATULATIONS」を頂きました!