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記事一覧
沈む寺|毎週ショートショートnote
僕は朱色の大きな門を見上げていた。門の先には本堂と思われる建物が小さく見える。多分、この門からかなりの距離があるのだろう。
――また、この夢か……。
忘れた頃に、必ずと言っていいほど見る夢。
この寺院らしき場所が何なのか、どこにあるのか、そもそも実在するのかも分からない。
ネット上で京都や奈良の有名な寺院を一通り調べてみたが、今のところどれも夢の中の場所とは合致しなかった。
門をくぐり、本堂
それでも地球は曲がってる|毎週ショートショートnote
「彼女ができました」
スマートフォンに、友人から写真付きのメッセージが送られてきた。写真には、ニヤけ顔の友人と微笑む美女が写っている。
俺はその写真を見て、違和感を覚えた。別に羨ましくない……わけではないが、素直に「おめでとう!」という気になれない。
もう一度写真の美女を見る。
AI彼女でも、イマジナリー彼女でもなさそうだ。
普通、「好きな人がいるんだ」とか、何かしらの「前置き」があると思う
人生は洗濯の連続|毎週ショートショートnote
新しい洗濯機を開発した。
この洗濯機は、徹底的に「白」にこだわっている。
そう。
洗濯機は「白」が命だ。
この洗濯機に、事件の容疑者を放り込むと……。
「私がやりました」
浮気を疑う妻が、旦那を放り込むと……。
「多目的トイレでしちゃいました」
大企業に勤めているという友人を放り込むと……。
「ニートです」
自分のことを「一番の親友」と言っている友人を放り込むと……。
「こいつ
夜からの手紙|毎週ショートショートnote
「27年もの間、自分なりに務めを果たしたと自負しております」
俺の後任からの手紙だった。4年しか続かなかった俺に対しての嫌味かと思ったが、27年も続いた後任に対して、純粋に尊敬の念を抱く。
夜の帳を下ろす仕事は、言ってみれば昼と夜を結ぶ仕事だ。「繋ぎ」の仕事と侮るなかれ。実はかなり繊細でコツが要る。
特に、太陽が落ちてから帳を下ろし始める数分間は腕の見せどころだ。みんなはこの数分間を「マジック
残り物には懺悔がある|毎週ショートショートnote
「おいおい、ガラケーかよ」
回収した不用品の中に、折りたたみ式の携帯電話があった。ガラケーなんて久々に見た。
何気なく開いてみると……電源が入った。しかも、フル充電されている。最近まで使っていたのだろうか。回収品はあまりいじってはいけないのだが、社長は電話中だ。
――何か面白いものないかなー。
写真フォルダの中を覗くと、画面一杯に写真のサムネイル画像が表示された。しかし、どの写真も暗くて、
タンバリン湿原|毎週ショートショートnote
名前:番条真琴(ばんじょうまこと)
年齢:43歳
職業:漁師
発見場所:霧多布湿原(釧路総合振興局管内)
名前:角笛茂樹(つのぶえしげき)
年齢:21歳
職業:会社員(運送業)
発見場所:サロベツ湿原(宗谷総合振興局管内)
名前:丹波凛(たんばりん)
年齢:29歳
職業:フリーのイラストレーター
発見場所:パンケメクンナイ湿原(後志総合振興局管内)
「うーん……」
3人の写真とプロフィール
いちょうさん|毎週ショートショートnote
――ツイてない……。
下校中、自転車の後ろのタイヤがパンクした。自転車屋まで、ここから4キロはある。4キロなんて、自転車だったらあっという間に走り抜ける距離だけど、歩くとなると、思った以上に遠く感じた。11月も半ばを過ぎ、すっかり肌寒くなったものの、さすがに自転車を押して歩いていると、汗が出てくる。
やがて、いちょう屋に辿り着いた。自販機でペットボトルのサイダーを買い、ベンチに腰掛ける。
非情怪談|毎週ショートショートnote
「ひじょーに暗くて、じめーっとしてて、いやーな感じがするんですよ。辺りはひじょーに静かで、自分の足音しか聞こえない。ひじょーに怖くて、引き返そうかなーとするんですが、そういうわけにはいかない。ほら、友達と約束しちゃったから。そんな約束をしちゃったことをひじょーに後悔したんですよ」
――イライライライラ……。
「まずは1階を見て回ってたんですけどね、ひじょーに散らかっててね、もうめちゃくちゃなん
海のピ|毎週ショートショートnote
「こんにちは。海のピ警察です。ちょっとよろしいですか?」
クーラーをつけてゴロゴロしていたら、突然警察官が来た。
「あの……何でしょうか?」
「今日が何のピかご存知ですよね?」
今年から7月15日の祝日「海のピ」は、日本国民は「海」に関する何かをしなければいけない、というフワッとした法律が制定された。こいつらは違反者を取り締まる特別警察だ。
「なぜ家にいるんですか?」
「YouTubeで海
天ぷら不眠|毎週ショートショートnote
「コレ、トテモオイシイデス。ナンテイウタベモノデスカ?」
ドコカーノ共和国から短期留学でホームステイしているマーナフィルネールさんが聞いてきた。
「これはね、天ぷらって言うんだよ?」
途端にマーナフィルネールさんは動きを止め、持っていた箸を落とした。
「テンプラ……」
「え……どうしたの?」
「テンプラ! オオオ! テンプラ!」
「なになに?」
「テンプラー! ○×♭△$♪×¥☆●※&%#
祈願上手|毎週ショートショートnote
「神様、あー神様、どうかお願いします……」
ブレザーを着た高校生らしき少年が眉間にしわを寄せて、一生懸命に手を合わせている。
――どうせ恋愛関係じゃろう。どいつもこいつも……。
少年の真正面に立ち、大あくびをした。どうせ少年にワシは見えない。
先週は中学生らしき少女が「サッカー部のキャプテンの町田君が彼女と別れますように」と手を合わせていた。
――まったく……。
自分の願い事ならともか
放課後ランプ|毎週ショートショートnote
「74番ゲートにて、進学743便にご搭乗予定のお客様にご案内します。
当便のお客様の機内へのご案内は、午前6時30分を予定しております」
――よし。定刻通りだな。
俺は時計を見る。
「あーもう! 就職便は25分の遅延よ。新入社員が怖気づいて部屋から出てこないって!」
就職便の案内スタッフ、藤井さんが天を仰ぐ。
「え? また? 確か去年も同じような理由で1時間遅れたんじゃなかったっけ?」
春ギター|毎週ショートショートnote
――今年も沸いて出たか……。
夕方、駅前ロータリーのストリートミュージシャンを見て、心底うんざりした。俺にとっては、騒音をまき散らす迷惑者にしか見えない。
見覚えがある。確か去年も同じ時期、同じ場所で歌っていた。若い女性だ。学生だろうか。小柄で、ギターが異様に大きく見える。
――不格好だな。
バス停へと歩きながら、女性を一瞥する。
***
春は好きじゃない。
嫌いってわけじゃないけど、苦
桜回線|毎週ショートショートnote
「桜回線は枯れてしまいました」
ネット回線業者「桜回線」のウェブサイトには、そう表示されていた。
――どうしたんだろう。
桜回線は最近人気のネット回線で、料金は割高だが、その料金の一部が桜を守るために寄付されるというもの。しかも、「回線乗り換えに伴う違約金や手数料などは桜回線が負担します」という触れ込みで、大手ネット回線から桜回線への乗り換えが相次いだ。
――大手に潰されたのか。
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