見出し画像

【読書】ブルース・チャトウィン『黒ヶ丘の上で』

(この読書メモは、2019年5月に書いたものです)

一番好きな作家は?と聞かれたら、ブルース・チャトウィンと答えます。

よく書店で売ってる黒い表紙のノート、“モレスキン”の宣伝文句にも登場する人です。

「僕の神様は歩く人の神様なんです。たっぷりと歩いてたら、たぶんほかの神様は必要ないでしょう」

紀行文の最終形とまで評されるチャトウィンの代表作『パタゴニア』の一節。旅好きの人のみならず山好き、もしかしたらトレイルランナーにとっても、琴線に触れる言葉なんじゃないでしょうか。

ブルース・チャトウィンは、1989年に48歳でその生涯を閉じました。創作活動は十数年だけ。世に出ているのはわずか7作品です。

In Patagonia (1977年)
 邦訳『パタゴニア』1990年,1998年
The Viceroy of Ouidah (1980年)
 邦訳『ウィダの総督』1989年
 邦訳『ウイダーの副王』2015年
On The Black Hill (1980年)
 邦訳『黒ヶ丘の上で』2014年
Patagonia Revisited (1986年)
 邦訳『パタゴニアふたたび』1993年
The Songlines (1987年)
 邦訳『ソングライン』1994年, 2009年
Utz (1988年)
 邦訳『ウッツ男爵』1993年
What Am I Doing Here? (1989年)
 邦訳『どうして僕はこんなところに』1999年

実は、ずっと邦訳されていなかった最後の一作品が、この“On The Black Hill”で、2014年にみすず書房がやっと出してくれました。

とても良かったです。なんでこの作品だけ翻訳されないまま残されていたのか分からない。そして、待ちに待って発売直後にすぐに入手したのに、なんで4年半も放置しちゃってたのか、それも分からない(ホントは分かってる。自宅に未読本の長大な待ち行列ができてるからですが)。

これから読もうと思ってる人がいた場合にあまりネタバレは申し訳ないので、内容については栩木伸明さんの訳者あとがきを引用するにとどめます。

── この小説を読むぼくたちは、黒ヶ丘を背にして生きたひとびとをめぐる、ほぼ百年間の年代記に耳を傾けることになるのだ。(中略)
家族の葛藤や、近所づきあいの地獄や、戦争が心に残す傷跡を描写するチャトウィンの簡潔で緻密な文章には、土地と人間にたいする怜悧な観察力と深い愛着が同居している。

ちょっと付け加えるなら、舞台はイングランド国境に近いウェールズの農村地帯、時代は二十世紀の二つの大戦をはさむ数十年です。栩木さんの「土地と人間にたいする怜悧な観察力と深い愛着が同居している」の表現に激しく同意。

もうチャトウィンの未読作品がないと思うとちょっと寂しいのですが、どうもまだ邦訳されてないこの人の伝記があるらしい(ISBN 0-385-49829-2)。

作品もさることながら、本人とその生き方に魅力のある人だから、伝記はきっとおもしろいに違いありません。

── お願い!だれか訳して (T_T)

(2019/5/16 記、2025/1/25 改稿)


後日譚ですが、件の伝記『ブルース・チャトウィン』(ニコラス・シェイクスピア著)の邦訳は、その後、2020年夏にKADOKAWAから発売され、ぼくはもちろん予約して入手しました。この作品がまためっぽう良かったのですが、その話はまたいずれ。

(2025/1/25 記)


ブルース・チャトウィン『黒ヶ丘の上で』みすず書房(2014/8/26)
ISBN-10 4622078635
ISBN-13 978-4622078630

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集