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【読書】マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』
(この読書メモは、2018年12月に書いたものです)
以前、
“ぼくらはあるとき発生し、そして消滅する。それは取るに足らない些細な現象なのに、なぜこんなに幸福な一瞬が存在するのだろう”
──と、年賀状の家族写真のキャプションに書いて、元旦から陰気臭いと一部の方から不評をかったことがあります。
この手のひとこと入り年賀状をかれこれ十数年続け、多くの人は黙認か失笑で受け流してくれ、一部にはちょっとウケてたりもするのですが、もし多少なりとも共感してくれた人がいたとすれば、それはきっと科学が信仰にとって代わった現代の世界観を信じてはいても、一方で割りきれない何かも感じている人ではないかと思います。
本書『なぜ世界は存在しないのか』は、「もうこれ以外にないだろう」とぼくらが頭から信じて疑わない自然科学の世界観(つまり、亀の上に乗っかった象とかそういうのではなくて、宇宙の星くずがぼくらの住む世界の“全て”であるという世界観)を、たぶん今までにない方法でぶっ壊してみせます。
科学的世界像がうまくいかないのは、科学それ自体のせいではありません。科学を神格化するような非科学的な考え方が良くないのです。── P198 自然科学の世界像
かと言って、マルクス・ガブリエルさんの主張する「新しい実在論」に納得するわけではないし、正直、理解もちゃんとはできていないのですが、本書の既成概念に対する破壊力は一読に値するかもしれません。
マルクス・ガブリエルさんは、ドイツの気鋭の哲学者で、今年の6月に来日もしているそうです。自分が知ったのはNHKのテレビ番組「欲望の哲学史 序章~マルクス・ガブリエル、日本で語る~」の放送で。番組制作の意図か、テレビでは若干イデオロギー色が出ていた気もしますが、この本からはそんな印象は受けませんでした。終章は、まさかの米国発TVドラマの肯定論で、これにもびっくり。映画やテレビはかなり観る人のようですね。
ところで、年頃になった娘が嫌がるのでもう変な年賀状は書きません。それではみなさん、良いお年を!
(2018/12/28 記、2025/1/12 改稿)
マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』講談社(2018/1/13)
ISBN-10 4062586703
ISBN-13 978-4062586702