【読書感想文】 椿姫
デュマ・フィス著 永田千奈訳
光文社の古典新訳文庫です。
「高級娼婦」として生きるということ。
貧くとも、女性であることで囲われ貢がれ、男性の品位に添うことで生計を委ね、身も心も捧げる職業。そこには金や目くばせや言葉の駆け引きがあり、割り切った大人の立ち居振る舞いがある。
マルグリットには、公爵がおり、N伯爵もおり。
若きアルマンには高級娼婦を囲う財力もなく、けれども、彼には、金や虚栄心や自尊心からではない無垢な愛情があった。
ゆえに、高級娼婦なマルグリットの私生活を思うと、強烈な嫉妬が湧き起こる。24歳の若きアルマンだ。
かつて私が嫉妬に苛まれ、その相手に、じゃああなたはヤキモチや嫉妬はしないの?と問うと、
「嫉妬?したくないし、しない。だって辛いもの」
と返されたことがある。
嫉妬は辛い。なにより嫉妬している自分自身を扱うことが難しいのだ。コントロールを失い、嫉妬に苛まれた自分は、普段の自分ではなくなり、こんなにも黒く、こんなにも心が狭く、意地悪な人間だったのかと思うほど、狂う。
私は嫉妬心から、暴言を吐きながら壁を蹴り、その壁についた足跡を数日後に見て、自分の嫉妬心の怖さを知ったことがある。サッカーも空手もキックボクシングもやってこなかった人生なのに。
アルマンがマルグリットを思う姿、そして、なにより「高級娼婦」なマルグリットが本気で人を愛していく様子に、陶然としてしまう。
このまま静かに二人きりつましく…。
わずか半年の夢の暮らし。
情熱的な恋のあと。
人の人生というのは長いようで短くて、本当に心から愛せる人というのは、そうそういないのだと思う。ましてや、その相思相愛が続くのは、ともすると、ほんのひとときなのかもしれない。
生きる理由になるほどの相手。
ただ、生涯でそこまで愛せる人と出会えたことというのは、やっぱり小説にしておくべきだよ。
デュマ・フィス!
実話に基づいているんでしょう?
書いておいてくれてよかった。
長女のフランス文学の授業での課題本だったそうで、「読んでみてー」と置いていってた本。
「嵐が丘」とか「マディソン郡の橋」とか、その辺を読み漁っていた頃を思い出すくらい、ぐわっと読んだ。
白椿を見たら思いだす。
片時も離れたくないと思うほど、
自分よりも大切に思う人のことを。