「読書感想文」虎のたましい人魚の涙
くどう れいん さんのエッセイ集です。
会社員として「働く女」をしながら、執筆をしていた「二足のわらじ」の日々。
就活に焦り、雨に降られ、とととととと、と小走りをする鶺鴒を嫌いだと思った日。
「鶺鴒の日」
八月の木曜日、朝八時半すぎ、通勤中に琥珀のピアスを衝動買いした「虎のたましい人魚の涙」
乗れなかった竹馬と、初めてのひとり暮らしを支えてくれたキートン山田との話。「竹馬とキートン山田」
「バックスペースキーが取れた」の、後戻り出来ない日々を過ごしている話。
「陶器のような恋」のももちゃんと深澤の恋と、贈る桃のお話。
他にもたくさんの、チャーミングで、少し切なくて、ちょっとズボラなれいんさんのエッセイが詰まった1冊でした。
彼女の二足のわらじ生活は、決してお気楽なものではなく、雨に降られたり、雪に降られたり、クリップが飛んできたり、賞の候補入りに頭痛や嗚咽に見舞われたりしていた。
それでも、琥珀のピアスや、すいちゃんとのごはんや、光るコンパクトや、花束やピンクの芍薬に、励まされ彼女らしく書いていく。
読みながら、クスクス笑ったり、ちょっとジーンとしてしまったり、自分の幼い頃や二十代前半の頃を思い出したりしていた。
「自由」が怖いと思ったり、みんなとおなじはかりを羨ましいと思ったり、素直で心細く危うくて生真面目な、ぞわぞわするような気持ちを思い出したりした。
俳句をしているせいか、彼女のエッセイには、花の色や季節の温度、日差しや夜の冷こさ、うどんやドリアの美味しさまで映し出されている。
花を買って、ドリアを食べようかと思う。
就活や失恋の憎しみを糧に書いたという
『わたしを空腹にしないほうがいい』も、また読んでみたい。