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ルリユールおじさん

秋の夕暮れ、ウサギは窓辺に腰掛け、降り続く雨音に耳を澄ませていた。ティーカップに熱いお湯を注ぎながら、ふと誰かに呼ばれた気がして、小さな本棚に目を向けた。そして一冊の絵本を手に取ると、その表紙をじっと見つめた。

「この淡い色彩の絵が、優しい物語にぴったりなのよね…」と、つぶやきながら、紅茶の香りに誘われて、そっとひとくち口に含む。静かな時間が流れる中、ウサギはゆっくりとページをめくり始めた。

物語の舞台は、枯葉が舞い降りるパリの朝。小さなソフィーの胸はざわめいていた。木に関するあらゆることが書かれた大切な本が、ページが外れ、今にも手の中で壊れそうになっていたのだ。

ソフィーは途方に暮れて立ち尽くしていた。それでも、ひとつだけ決めていることがあった。「新しい本を買うのではなくて、この本を直したいの…」

街を歩き回ったソフィーは、本の修理職人のおじさんと出会った。「ルリユールっていうのはね、もう一度繋げるという意味もあるんだよ」と、彼は優しく教えてくれた。

「おじさん、アカシアの木は好き?」
「この表紙は十分に働いたね。新しく作ろう」ふたりの会話はどこか噛み合わないまま進んでいくけれど、そのやりとりには不思議な温かさが漂っていた。

「私も好きな本は何度も読むから、すっかりボロボロになってしまうのよね。私のそばにもルリユールのおじさんがいてくれたらいいのにな…」彼女は小さくため息をついた。

「彼が直してくれたソフィーの本みたいに、私のお気に入りの絵が表紙になって、金色の文字で私の名前が刻まれていたら…きっと一生の宝物になるわ」ウサギはふと夢見るように呟いた。

「もし一冊だけ修理してもらえるとしたら、どの本を選ぼうかしら…」とウサギは思いを巡らせた。その想いは、紅茶の柔らかな香りとともに、彼女の心の中にゆっくりと広がっていった。

<ルリユールおじさん>
  いせ ひでこ・作/理論社

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