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仮面舞踏会

その日、カメが図書館に足を踏み入れると、ふと目に留まったのは、書架の陰で真剣な表情で本のページをめくるウサギの姿だった。

カメは足音を立てないようにそっと近づき、静かに声をかけた。「ウサギさん、分類番号798の書架で何を読んでいるの?」

ウサギは顔を上げ、少し驚いたようにカメを見つめた。「あ、今度、謎解き検定を受けようと思ってね。それで、その問題集を探していたところなの」

カメは少し迷った表情を浮かべた。
「実は、ここに謎解きの絵本があるんだけど、忙しそうだからまた今度だね」彼はそう言って、ウサギに背を向けた。

「待って。読んでみたい」

ウサギが手にしたのは、キット・ウィリアムズの「仮面舞踏会」という絵本だった。閲覧席に座り、その本を開いた彼女は、まるで別の世界に吸い込まれるように読み始めた。

ところが、彼女はなかなか読み終わる気配を見せなかった。時間が静かに流れる中、カメは少し迷いながらも、そっと声をかけた。「この本、どうかな?」

ウサギはゆっくりと視線を上げて、カメの目をじっと見つめた。しばらく言葉が出てこなかったが、少し眉を寄せて静かに呟いた。「何度読んでも、まったく分からないの」

「この本は、挿絵の中に暗号が隠されてて、それを解読すると、実際に高価な首飾りが埋められている場所がわかる仕組みになっているんだよ」カメは静かに話し始めた。
「多くの人たちがリアルな宝探しに夢中になるきっかけを作った本なんだ」

「それなら、この本の謎解きが難しいのも納得だわ。本物の宝探しに繋がっているなんて夢のある本なのね」ウサギは微笑みながら、もう一度、本の表紙に視線を落とした。

「それでね、カメくん。一緒に受けてみない?謎解き検定。一緒なら、なんだか頑張れそうな気がするの」

ウサギがそう言うと、カメは静かに頷いた。二人はまた、分類番号798の書架に戻って、謎解きの問題集を探し始めた。

<仮面舞踏会>
    キット・ウィリアムズ・作/坂根厳夫・訳/角川書店

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