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冬の扉が開く前に
軽井沢絵本の森美術館をあとにしたウサギとカメは、隣にある博物館へと歩き始めた。二人の頬に触れる冷たい風が、冬の始まりを静かに告げていた。
「寒いね。まるでもう冬みたいだ」
カメはそっとウサギの手を握り、自分のポケットの中へ滑り込ませた。温もりが少しでも伝わればと、静かに願いながら。
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館内に足を踏み入れた瞬間、外の寒さがまるで嘘だったかのように消え去り、暖かな空気がふんわりと二人を包み込んだ。
柔らかな光に照らされたフロアには、ひと足早いクリスマスの気配が静かに、そして密やかに漂っていた。
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「ここには、ドイツのザイフェン村で作られたおもちゃが集められているんだ」 カメの声は、静かに空気に溶け込むように響いた。
「ザイフェンでは何百年も前から、クリスマスツリーを飾る木製のオーナメントを作っているんだよ」
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「あれは何?」ウサギは首をかしげて、木のおもちゃを指さした。「プロペラみたいなものが付いているけれど...」
「これはクリスマスピラミッドだね」 カメは静かに説明を始めた。「ロウソクを灯すと、温められた空気が上昇してプロペラが回り、繋がってる台座も一緒に回るんだ」
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博物館を出た途端、さっきよりも冷たい風が二人の間をすり抜けていった。ウサギは何も言わずにカメの手を取り、そっと自分のポケットへしまい込む。
「今度は私が温めてあげる…」
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車を走らせ、二人は旧軽銀座に着いた。
「軽井沢に来たら、どんなに寒くたって、やっぱりこれしかないって思う」
カメは寒さに震える手で、ウサギにモカソフトを差し出した。
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その姿にウサギは思わず笑ってしまったが、ひと口食べるとウサギも震えだした。
「さすがに凍えそうだったけれど、それでも食べられてよかったわ」
冷たい空気の中でも、手を繋いだ瞬間、ウサギの胸の奥にふわりと暖かさが広がった。手のひら越しに伝わるその感覚は、何とも言えない心地よさだった。
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