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夢にめざめる世界
静かな図書館の一角で、ウサギは返却された本をなんとなく眺めていた。しばらく視線を滑らせていると、一冊の絵本がふと目に飛び込み、導かれるように手に取っていた。
「夢にめざめる世界…どこか謎めいた響きね」ウサギはその本をそっと胸に抱き、静かに閲覧席へと歩み寄った。
ページをめくると、不思議な違和感が彼女を包み込んだ。左のページに広がる海底が、まるで自然に続いているかのように、右のページの青空とつながっている。そのありえない風景が、なぜか彼女の心を捉えた。
「これって、トリックアートなのかしら?」彼女は、思わず次のページをめくった。そこには、子どもたちが枯葉を空に放り投げる場面が描かれていた。
枯葉はゆっくりと蝶に変わりながら、ひらひらと空へ舞い上がっていく。まるで、それが当然の成り行きであるかのように。
「想像してごらん。その世界では、美は舞いおちて空へ飛びたつ」ページに綴られたその言葉と、丁寧に描かれた絵が、ウサギの心の中でゆっくりと溶け合っていった。
「想像する力、か…」彼女はふと呟いた。「忙しい毎日を送っていると、つい、そんな力のことなんて忘れてしまうのよね」
ウサギは一枚、また一枚とページをめくり続け、物語の中へと深く引き込まれていった。そして、あるページでふと手が止まった。
海岸沿いに立っていた木々が、気がつくと、根元の岩ごと陸を離れて、まるで船のように静かに海へと進み出していた。
「この本では、一枚の絵が途中から変わっていくことで物語が進んでいくのね。作者の込めた想像力が私たちに夢を見させてくれる。夢を見ることの大切さを教えてもらった気がするわ」
「この本を独り占めするなんて、勿体ない気がするわね。カメくんにも教えてあげなくちゃ」ウサギが視線を走らせると、図書館に入ってくるカメの姿が遠くに見えた。
<夢にめざめる世界>
ロブ・ゴンサルヴェス ・作/金原瑞人・訳/ほるぷ出版