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時を彩る浮世絵師たちの微笑み
その日、ウサギとカメは天王洲アイルのホームから地上にあがると、幾何学的に並べられた石畳をなぞるように歩き始めた
「ねえ、見て。変わった衣装のおじさんが、私たちを迎えてくれているわ」ウサギは声を弾ませた。「まるで『遅かったじゃないか』って拗ねているみたい」
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「あそこを見てごらん」
カメの声に誘われて視線を向けると、大きな瞳が驚いたように見つめている。その視線から逃れるように二人は駆け出した。
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そして、目的の建物にたどり着くと、続く細い階段を確かめるように上り始めた。
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会場に入ると、見覚えのある浮世絵が立体映像となって現れ、どこか非現実的な趣で映し出されていた。
迫力に満ちた役者絵、繊細で艶やかな美人画、旅心を刺激する風景画が、浮かび上がっては、移り変わっていく。
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映像が流れる横で、江戸時代に刷られた浮世絵が静かに語りかけてくる。「一枚一枚に時を超えた重みがあるわね」とウサギはつぶやきながら、その時代に思いを馳せていた。
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「浮世絵は江戸時代の庶民にとって最も身近な芸術であり、個性豊かな浮世絵師たちが、その時代の息遣いを、一枚一枚の絵に宿していたんだね」カメが静かに語った。
「東洲斎写楽は個性を大胆に際立たせた役者絵で一気に名声を得たけど、わずか10ヶ月で姿を消してしまったんだ」
「喜多川歌麿は、女性の髪の毛の描き方にとてもこだわりを見せていたのね。本当にみんな個性的だわ」
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「93回も引っ越しをした北斎や、猫や雀を擬人化した国芳も、浮世絵師って、どこかしら癖のある個性派ばかりね…」ウサギはそう言うと、言葉を探すように間をおいた。
「だから思うのよ。こうやって自分の絵が映像になったのを知ったら、自分だったらこうするとか、あれこれ細かい注文をつけたりするんじゃないかしらって...」
「まさか…」 二人は思わず目を合わせた。
周囲を見渡すと、個性豊かな浮世絵師たちが時の隙間からこちらをじっと見つめている。そんな気配が胸の中で膨らむのだった。