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インフルエンサーのすべて:2025年版
近年、ソーシャルメディア上で活躍する「インフルエンサー」は、企業のマーケティング戦略に欠かせない存在となっています。インフルエンサーとは、SNSなどで多数のフォロワー(購読者)を抱え、その発信力で消費者の購買行動や世論に影響を与える人々のことです。かつては有名芸能人など一部に限られていましたが、現在では一般の個人でも優れたコンテンツと共感を生む発信によってインフルエンサーとなり得ます。本レポートでは、2024年以降に公開された最新情報をもとに、急成長する世界のインフルエンサー市場を多角的に分析します。まずインフルエンサー市場の全体像を示し、主要プラットフォームの動向やコンテンツ形態の多様化を整理します。次に、インフルエンサーの収益化手法や企業側の活用視点を分析し、インフルエンサー本人の活動内情や直面する課題にも踏み込みます。最後に、生成AI(人工知能)の進化がインフルエンサー市場に与える影響と将来展望を考察します。データや具体例を豊富に用い、一般の読者にも分かりやすいよう専門用語には注釈を交えながら解説していきます。
1. インフルエンサーと市場の全体像
インフルエンサーの定義と影響力の特性
インフルエンサーは、その名の通り大きな影響力(Influence)を持つ個人です。具体的には、YouTubeやInstagram、TikTok、X(旧Twitter)などのSNS上で情報発信を行い、数千から数百万のフォロワーを抱える人々を指します。彼らの発言や紹介する商品・サービスはフォロワーの購買意欲やブランド認知に直接影響を与えることが多く、企業にとっては従来の広告以上に**「ユーザーに近い目線」での訴求**ができる存在です。
インフルエンサーは単にフォロワー数が多いだけでなく、その発信内容の専門性や個性、フォロワーとの強い信頼関係が特徴です。例えば美容系インフルエンサーであればメイクやスキンケアの知識と実践を日々共有し、そのレビューの信頼度からフォロワーが商品購入の参考にします。ゲーム実況者であればゲームプレイの上手さや面白い解説で視聴者を惹きつけ、新作ゲームの流行に影響を与えます。このようにインフルエンサーは各自の**得意ジャンル(ファッション、料理、旅行、テクノロジー、エンタメ、政治など様々)**でコミュニティを形成し、その領域におけるオピニオンリーダーとなっています。
影響力の特性として、インフルエンサーからの情報は**「友人からの推薦」に近い感覚**で受け取られる点が挙げられます。テレビCMやバナー広告と違い、フォロワーは普段からそのインフルエンサーの生活や意見に親しんでいるため、商品紹介などの情報もより親近感を持って受容します(これを専門用語で「エンゲージメントの高さ」と呼びます)。エンゲージメントとはフォロワーからの「いいね」やコメント、シェアといった反応のことで、インフルエンサーの投稿には高いエンゲージメント率がしばしば見られます。たとえばInstagramでは、一般企業の公式アカウントの平均エンゲージメント率が約0.5%前後なのに対し、多くのインフルエンサーはそれを上回る反応を得ています。特にフォロワー規模が小さめのインフルエンサーほど、一人ひとりのフォロワーとの距離が近いためエンゲージメント率が高い傾向があります(後述)。
もっとも、影響力が大きくなるほど不特定多数にリーチできる反面、フォロワーとの心理的距離は広がりがちで、平均的なエンゲージメント率は低下する傾向があります。これは有名人の発信がテレビのように感じられ、一方で小規模インフルエンサーの発信は実際の友人に近い感覚になるためです。このバランス感を踏まえ、近年企業は目的に応じてインフルエンサーの「規模の大小」による分類に注目しています。
インフルエンサー規模別の種類と特徴(ナノ〜メガ)
インフルエンサーはフォロワー数の規模に応じていくつかのカテゴリーに分類されます。それぞれナノインフルエンサー、マイクロインフルエンサー、ミッドティア(中堅)インフルエンサー、マクロインフルエンサー、メガインフルエンサー(またはセレブリティ)などと呼ばれ、規模によって特徴や得意な役割が異なります。以下に一般的なフォロワー数の目安と主な特徴を整理します。
ナノインフルエンサー(フォロワー数:約1,000人〜1万人)
個人の延長に近いごく小規模なインフルエンサーです。フォロワーとの距離が非常に近く、知人友人レベルの密接なコミュニケーションが行われています。エンゲージメント率(投稿あたりの反応率)が特に高く、フォロワーからの信頼度も抜群です。例えばある調査では、ナノインフルエンサーのInstagram平均エンゲージメント率は約1.7%と、フォロワー数が大きい層よりも高い数値が報告されています。趣味や地域などニッチなコミュニティで強い影響力を発揮し、小さな予算の企業や特定地域向けキャンペーンで重宝されます。ただし発信の到達人数自体は少ないため、大規模な認知拡大には不向きです。マイクロインフルエンサー(フォロワー数:約1万人〜5万人程度)
ナノより一回り大きい規模ですが、まだ比較的コミュニティ色が強い層です。フォロワー数は増えても、特定のジャンルや趣味嗜好で熱心なファンを抱えていることが多く、その分野では専門家的な存在として信頼されています。エンゲージメント率も比較的高く、投稿に対する反応が多く得られます。企業にとっては**「コストパフォーマンスの良い」**層で、あまり予算をかけずとも効果的なPRが可能です。複数のマイクロインフルエンサーに商品を紹介してもらい、口コミを広げるような施策も2024年現在主流になっています。ミッドティア(中堅)インフルエンサー(フォロワー数:約5万人〜50万人)
さらにフォロワーが増え、中規模ながら幅広い層に影響を与えられるインフルエンサーです。一般知名度は高くなくても、SNSプラットフォーム内ではかなりの存在感を持っています。コンテンツのクオリティも高くプロ並みであることが多く、YouTubeでいえばチャンネル登録者数数十万人規模の人気クリエイターが該当します。エンゲージメント率はナノ・マイクロほど高くはなくなりますが、それでもフォロワーの反応は熱心です。企業案件では全国規模のキャンペーンにも起用され始めるゾーンで、この層が活躍することでテレビや雑誌に頼らない新興ブランドが大きく成長する例も出てきています。マクロインフルエンサー(フォロワー数:約50万人〜100万人)
SNS上で名実ともに著名なインフルエンサーです。このレベルになるとフォロワー層も多様化し、インフルエンサー本人も一種の著名人・タレントとして認識されます。投稿の拡散力(リーチ)は非常に大きく、1回の発信で数十万〜百万以上の人々に届く可能性があります。一方でフォロワー数が多い分、一人ひとりとの距離は離れがちでエンゲージメント率は下がる傾向があります(Instagramではこの規模の平均エンゲージメント率は1%未満とも)。企業にとっては大規模キャンペーンの顔として起用しやすく、知名度向上に絶大な効果を発揮します。起用コストは高額ですが、そのぶん広告効果も大きく、テレビCMの代替となる事例も増えています。メガインフルエンサー(トップ)(フォロワー数:100万人以上、特に数百万〜数千万規模)
所謂「インターネットセレブ」「著名人」クラスです。芸能人や世界的スポーツ選手・音楽アーティストがSNSでも巨大なフォロワーを持っている場合や、SNS出身でも世界中に名を知られるスター的存在が該当します。例としてはTikTokで数千万のフォロワーを持つダンサーや、YouTube登録者が何千万にも及ぶゲーム実況者などです。発信の影響範囲は国境を越え、その投稿自体がニュースになることさえあります。企業からすると最も広範なリーチを得られる反面、起用コストも桁違いに高く(1回の投稿で数百万円〜数千万円とも)、誰もが気軽に使える手法ではありません。またフォロワーとの結びつきは一方向的になりやすく、広く浅い認知獲得に適しています。ブランドのグローバルキャンペーンや、大企業の新商品発表などで起用されることが多いです。
以上のように、フォロワー規模によってインフルエンサーの特性は異なります。近年の傾向として、企業はフォロワー数の多寡だけでなくエンゲージメントやオーディエンスの質を重視するようになっており、必ずしも「大きいほど良い」とは限らなくなっています。特に2024年現在、マーケターの間では**「マイクロ・ナノインフルエンサーの活用」**がトレンドです。小規模でも熱心なファンを持つインフルエンサーを多数組み合わせることで、より信頼性の高い口コミ効果を狙う手法が広がっています。一方で、新商品を短期間で広く知らしめたい場合やグローバルブランドのブランディングには、相応の規模を持つマクロ以上のインフルエンサーが必要になるため、キャンペーン目的に応じて適切な層を選定することが重要です。
なおInstagramにおける調査データ(2024年)では、プラットフォーム上のインフルエンサーの**実に約76%がナノ層(1万未満)**で占められており、次いで約14%がマイクロ層という結果が報告されています。50万以上のフォロワーを持つマクロ〜メガ層は合わせてもわずか数パーセントほどしか存在せず、ピラミッド型の構造になっていることが分かります。TikTokでも同様に小規模クリエイターの母数が非常に大きく、全体の約88%がナノ層という推計もあります。つまりインフルエンサー市場全体では、裾野となる小規模インフルエンサーが非常に多数存在し、その頂点にごく一部の巨大インフルエンサーが存在する構図であると言えます。この裾野の広がりこそが「誰もが情報発信者になり得る」現代の特徴であり、市場規模拡大の原動力ともなっています。
世界のインフルエンサー市場規模と地域動向
世界全体のインフルエンサーマーケティング市場は年々拡大を続けています。インフルエンサーマーケティングとは、企業がインフルエンサーの影響力を借りて自社商品・サービスを宣伝するマーケティング手法のことで、その広告費や関連サービスの市場規模を指します。2024年には全世界で約240億ドル(約3兆5千億円弱)規模に達したと推計されており、2010年代から比べると爆発的な成長を遂げました。さらに今後も成長は続く見通しで、2025年には市場規模が325億ドル超に達するとの予測もあります。これはわずか1年で+35%前後の伸び率に相当し、他の広告手法と比較しても極めて高い成長率です。2030年頃までの長期予測でも、年平均20%以上の成長が続くとみられており、2030年には世界市場が500億〜900億ドル(予測機関により幅がありますが)に膨らむという予想も出ています。要因としては、SNSユーザーの増加とプラットフォームの進化に伴いインフルエンサーの活動領域が拡大していること、そして企業側でも従来のマスメディア広告費をインフルエンサー施策に振り向ける動きが強まっていることが挙げられます。
世界全体を俯瞰した場合、地域別の市場動向にはいくつか特徴があります。主要地域ごとのトピックを整理すると以下のようになります。
アメリカ合衆国(北米): 世界で最も成熟したインフルエンサーマーケティング市場の一つです。主要SNSを擁するプラットフォーム企業(Meta社=Facebook/Instagram、Google社=YouTube、TikTokグローバルなど)が軒並み米国発祥であることから、インフルエンサー文化も北米で早くから根付いていました。2024年、米国企業のインフルエンサー広告支出は推定71億ドルに達し、過去最高を更新しています。これは国別では世界最大級の支出額であり、多くの米国ブランドがマーケティング予算の相当部分をインフルエンサー施策に充てていることを示します。実際、米国のマーケターの80%以上がインフルエンサーマーケティングは効果が高いと回答しており、年々その重要性を増しています。北米ではInstagramとYouTubeが特に主要なプラットフォームとして利用されてきましたが、近年TikTokも急速に台頭し若年層向けプロモーションで欠かせなくなっています。北米市場の特色として、インフルエンサー自身が大きなビジネスを築いている例が多い点が挙げられます(トップクラスのYouTuberが自身の会社を経営し商品ブランドを立ち上げたり、インフルエンサー専門のエージェンシー産業が発展するなど)。競争も激しいため、新規のインフルエンサーは独自性のあるコンテンツで差別化を図らねばならず、コンテンツの高度化・プロフェッショナル化が進んでいます。なお米国ではステマ(ステルスマーケティング)対策として、広告であることの明示義務を連邦取引委員会(FTC)が厳しく定めており、企業もインフルエンサーも「#ad」「#スポンサー」などの表記で透明性確保に努めています。
日本(アジア・太平洋地域): 日本もまたインフルエンサー市場が拡大している国です。日本では芸能人や有名人がSNSで影響力を持つケースも多い一方、近年は一般人出身のインフルエンサー(ユーチューバーやインスタグラマー、TikTokerなど)が非常に台頭しています。国内のインフルエンサーマーケティング市場規模は、2024年に約860億円(前年比116%増)に達する見通しとする調査があります。この成長率+16%という数字からも、日本企業がインフルエンサー施策に積極的に投資し始めていることが分かります。2020年代前半まではテレビCMやネット広告が中心だった企業も、SNS上で人気のタレントやクリエイターとのタイアップ企画を次々打ち出しています。プラットフォーム面では、InstagramとYouTubeが依然強い人気ですが、TikTokも若年層を中心に影響力を急伸させています。日本固有の現象としては、VTuber(ブイチューバー)と呼ばれるバーチャルYouTuberの存在があります。これはアニメ風のCGキャラクターやアバターを用いて配信活動を行うインフルエンサーで、日本発祥の文化として世界的にも注目されています。VTuberのトップ層は数百万人のチャンネル登録者を持ち、企業案件やグッズ販売などで大きな経済効果を生んでいます。また日本では、有名インフルエンサーがテレビ番組に出演したり、自身のブランドを立ち上げ店舗展開する例も出てきており、インフルエンサーと従来メディアの境界が薄れつつあります。一方で、日本のSNS利用者は欧米に比べると控えめな反応傾向がある(「いいね」やコメントを積極的にしないユーザーも多い)とも言われ、企業は単純な反応数だけでなく潜在的な影響も考慮して評価する必要があります。総じて、日本市場は世界全体から見れば規模は限定的ながら、独自の発展を遂げていると言えるでしょう。
中国: 中国はインフルエンサー経済(「網紅経済」ワンホン経済とも呼ばれる)の規模が極めて大きい特殊な市場です。中国政府の統計や市場調査によれば、広義のインフルエンサー経済規模(ライブコマース等を含む関連市場全体)は数兆元(日本円で数十兆円)にも達するとされ、その成長も著しいです。純粋なインフルエンサーマーケティング支出額としても、2024年時点で1000億元(約2兆円)規模に上るとの推計や、別の推定では160億ドル超(約2兆3千億円)との報道もあります。これは米国に匹敵するかそれ以上の規模感であり、中国においていかにインフルエンサー(中国では「KOL:Key Opinion Leader」と呼ぶことが多い)が企業マーケティングの主軸となっているかを物語ります。中国の特徴は、SNSとEC(電子商取引)の融合が非常に進んでいる点です。主要プラットフォームとしてはWechat(微信:メッセージアプリ兼ミニアプリプラットフォーム)、Weibo(微博:中国版ツイッター)、Xiaohongshu(小紅書:REDと呼ばれる口コミSNS)、Douyin(抖音:中国版TikTok)、Bilibili(動画サイト)などがあり、それぞれに多数のKOLが存在します。特に注目すべきはライブコマース(生放送による商品販売)で、トップクラスのKOLがライブ配信で商品を紹介し、その場で視聴者がワンクリックで購入できる仕組みが爆発的に普及しました。有名な例では、李佳琦(Austin Li)氏というコスメKOLがライブ配信中に口紅を数万本売り切るなど、一晩で数十億円相当を売り上げるといった現象が起きています。こうしたインフルエンサー兼販売員ともいえる存在が小売流通の風景を変えつつあり、企業も彼らとの提携による即時売上を重視しています。また中国ではKOLのほかにKOC(Key Opinion Consumer)という概念もあり、フォロワー数は少なくても消費者目線で率直なレビューをする人々が口コミ拡散役として評価されています。総じて、中国市場ではインフルエンサーが単に宣伝するだけでなく販売チャネルそのものとして機能している点が他地域と異なります。一方で、政府規制も強く、インフルエンサーによる不適切なコンテンツ発信や売り逃げ行為には厳しい罰則(有名KOLへの巨額の罰金やアカウント凍結など)も科されます。2024年も引き続き、中国企業はKOLを活用したマーケティングに注力しており、中国発の消費財ブランドがインフルエンサー戦略で成功し海外進出するケースも増えています。
欧州: ヨーロッパもまたインフルエンサーマーケティングが定着してきた市場です。ただし欧州は多言語・多文化圏であり、国ごとにプラットフォーム利用傾向や人気インフルエンサーのタイプが異なります。全体として、欧州の企業もマーケティングでインフルエンサー活用を拡大しており、2024年には欧州全体のインフルエンサー広告市場規模が数十億ドル規模に達すると見込まれています(例えば主要国の2024年予算例:ドイツ約7億ドル、フランス約5億ドルなどとの予測あり)。欧州で最も人気のプラットフォームはInstagramで、2024年の調査では約89%の欧州企業がインフルエンサー施策にInstagramを利用しているとの結果があります。次いでTikTokが約64%の企業に利用されており、短尺動画の影響力がここでも強まっています。YouTubeやFacebookも依然一定の役割がありますが、特に若年層向けにはTikTok、ミレニアル世代向けにはInstagramが重視されています。欧州の傾向として、インフルエンサー起用にあたって倫理や社会的責任にも注目する動きがあります。例えば多様性(ダイバーシティ)を尊重する発信をするインフルエンサーと組む、環境配慮やサステナビリティをメッセージに含めるなど、単なる商品の宣伝以上にブランドの価値観を伝えるパートナーとしてインフルエンサーを見る企業も増えています。またEU圏ではステルスマーケティング規制も徐々に整備され、透明性の確保や虚偽広告防止が求められています。欧州の消費者は比較的広告に懐疑的という調査もあり、インフルエンサーによるあからさまな宣伝には敏感なため、より自然で信頼できる関係性の醸成が鍵となります。結果として、欧州ではブランドがインフルエンサーと長期契約を結びアンバサダーのような形で継続的に協業するケースが少なくありません。地域差もあり、例えばイギリスやドイツではインフルエンサー市場が大きく、イタリアやスペインでも若年層中心に盛り上がっていますが、一方で中東欧など一部地域ではまだ成長途上といった具合です。
その他地域: 上記以外にも、中南米や東南アジア、中東、アフリカなど世界各地でインフルエンサー市場が芽吹いています。中南米では特にブラジルが注目で、実はブラジルは世界で最もインフルエンサー人口が多い国の一つとされています。Instagramの全インフルエンサー数に占めるブラジルの割合は約15%にも達し、これは米国をも上回る数字です。ブラジルは国民のSNS利用率が非常に高く、YouTubeやInstagram、TikTokでもブラジル人インフルエンサーが多数活躍しています。陽気で社交的な国民性からか、フォロワーとの強い絆を持つインフルエンサーが多いと言われ、大手ブランドもブラジル市場攻略にインフルエンサーを積極活用しています。東南アジアではインドネシアやタイ、フィリピンなど人口が多く若い国でインフルエンサー文化が花開いており、現地の言語で活動するクリエイターが国内市場を大きく動かす存在です。例えばインドネシアはTikTokの利用者数が世界有数で、地元のTikTokスターが音楽やファッションのトレンドを生み出しています。中東ではドバイを拠点に国際的なインフルエンサーが増え、特に高級ブランドや観光分野で影響力を発揮しています。アフリカでもナイジェリアや南アフリカなどで徐々にクリエイター経済が育ちつつあり、スマホ普及と共に新たな市場となり始めています。
このように地域ごとに成熟度や特色は異なるものの、総じて言えるのは**「インフルエンサーという存在が世界中の市場で重要なマーケティング資源になっている」ことです。インターネットとSNSが地球規模で人々を繋ぐ中、一人の発信者が国境を越えて影響を及ぼす事例も珍しくなくなりました。例えば韓国のメイクアップアーティストがYouTubeで発信した最新メイク法が瞬く間に欧米や日本の若者に広まりトレンドになる、といった具合です。2024年現在、世界中のコンテンツ制作者(クリエイター)の総数は約2億人以上との推計もあります(広義にはフォロワー1000人未満の小規模含む)。そのうち職業的・本格的に活動する「プロ同然」のクリエイターも数千万人規模に上り、もはや一部の流行ではなく大衆的な文化・産業として確立**したと言えます。
最後に市場全体像の数値面をまとめると、世界のインフルエンサーマーケティング市場規模は2024年でおよそ240億ドルに達し、引き続き年率2〜3割の高成長を遂げています。日本国内市場は約860億円(約6〜7億ドル)であり、これは世界全体の数%程度ですが年成長率は高く将来性があります。中国市場は数十億ドル規模(定義により数値差あり)で米国と双璧をなす存在です。インフルエンサーのフォロワー規模分布では、小規模(ナノ・マイクロ)が全体の大多数を占め、巨大インフルエンサーはごく一部です。しかし影響力という点では双方に異なる強みがあり、マーケットとしてはピラミッド全体が機能しています。この全体像を踏まえ、次章からはプラットフォーム(媒体)の多様化や収益化の方法といった切り口で、より詳細に現状とトレンドを見ていきます。
2. プラットフォーム・メディア形態の多様化
インフルエンサーが活動する**プラットフォーム(SNS等の媒体)**は年々多様化しています。かつてブログやFacebook、YouTubeが主だった時代から、短尺動画プラットフォームの登場、音声メディアの台頭、そしてAI技術を活用した新形態まで、発信の場と形式は常に進化しています。本章では主要SNSごとの特徴や利用状況を整理し、音声プラットフォームやAI関連プラットフォームの動向も含め、インフルエンサーがどのようにメディアを使い分けているかを分析します。また生成AIを用いた新しいコンテンツ制作事例にも触れ、コンテンツ表現の多様化についても考察します。
主要SNSプラットフォームの特徴と利用状況
現在インフルエンサーが主に活躍するソーシャルメディアには、Instagram(インスタグラム), YouTube(ユーチューブ), TikTok(ティックトック), X(エックス、旧称Twitterツイッター), **Facebook(フェイスブック)**などがあります。それぞれ媒体の特性が異なるため、インフルエンサーも自分のコンテンツ内容やターゲット層に応じて使い分けたり、複数媒体を組み合わせて活動しています。
Instagram(インスタグラム):
世界で月間アクティブユーザーが20億人を超える写真・動画共有SNSです。ビジュアル重視のプラットフォームで、ファッション・美容・旅行・料理といった視覚映えするジャンルのインフルエンサーに特に適しています。インスタグラム上ではおしゃれな写真や短い動画(Reels)、24時間で消えるストーリーズ機能などを使って日常を切り取った投稿が主流です。フォロワーとのコミュニケーションは「いいね!」やコメント、ストーリーズのアンケート機能等を通じて行われます。利用者の年齢層は10代後半〜30代が中心で、都市部の若者・女性ユーザーが多い傾向があります。インフルエンサーにとってInstagramはブランディングの場として重要で、美しいフィード(投稿の一覧)を作り込みファンを惹きつけています。企業もInstagramをマーケティング活用することが非常に多く、前述の通り欧米では約9割の企業がインフルエンサー施策にInstagramを活用しています。投稿形式としては、以前は静止画1枚の投稿が主でしたが、近年は短尺動画機能「リール(Reels)」が急速に普及しました。リールはTikTokに対抗する機能で、15秒〜90秒程度の縦型動画を手軽に投稿・閲覧できます。2024年現在、Instagramではリール動画が静止画投稿よりも高いエンゲージメントとリーチを生みやすいとされ、多くのインフルエンサーがリールを積極活用しています。またライブ配信(Instagram Live)もファン交流や新商品紹介で頻繁に使われます。Instagram全体の傾向として、ユーザー数の増加に伴い平均エンゲージメント率は年々低下しています(例:平均エンゲージメント率は2021年約2.2%から2024年約1.6%へ低下との報告あり)。これは投稿が飽和し競争が激化したことや、ユーザーの注意が分散したことなどが原因と考えられています。そのためインフルエンサーは写真のクオリティを上げたり、ストーリー性のある動画で工夫するなどしてユーザーの関心を引き留めようとしています。YouTube(ユーチューブ):
言わずと知れた世界最大の動画共有プラットフォームで、月間利用者は世界で約25億人とも言われます。YouTubeは長尺動画(一般的に5分〜20分、場合によっては1時間以上のコンテンツ)を中心としており、インフルエンサーは「YouTuber(ユーチューバー)」とも呼ばれます。ジャンルは多岐にわたり、ゲーム実況、商品レビュー、音楽、Vlog(日常動画)、教育・解説、コメディなど様々です。YouTubeは動画広告収入の仕組み(後述する広告収入モデル)が整っているため、インフルエンサーが直接収益を上げやすく、多くの人が専業YouTuberとして活動しています。利用者層は全年齢にわたり、特に10代〜40代まで幅広くカバーしています。他のSNSに比べて検索機能が充実し過去動画も蓄積されるので、教育系やハウツー動画など資産性のあるコンテンツも支持されます。YouTube上のインフルエンサーは、コンテンツ制作に非常に力を入れているケースが多く、高度な編集や企画力でテレビ番組に匹敵するクオリティの動画を定期配信する人もいます。またコアなファンはチャンネル登録をして新着動画を追いかけ、コメント欄で活発に交流する文化があります。企業もYouTubeでの影響力に注目しており、人気YouTuberに商品レビュー動画を依頼したり、自社公式でYouTubeチャンネルを開設してインフルエンサー的人気を目指す例もあります(いわゆる企業VTuberなど)。最近ではYouTubeもTikTokに対抗して短尺縦動画「ショーツ(Shorts)」機能を導入しました。ショーツは1分以内の短い動画で、スマホ縦画面でスワイプ視聴される形式です。2024年現在、YouTubeショーツは急速に再生回数を伸ばしており、インフルエンサーも長尺動画とショーツを併用することで新規視聴者を獲得しています。もっともYouTubeの強みは依然として腰を据えて視聴してもらえる長尺コンテンツにあり、ファンとの深い関係構築や詳細な製品レビュー・解説には他の追随を許しません。TikTok(ティックトック):
ここ数年で世界を席巻した短尺動画プラットフォームです。15秒〜3分程度の縦型動画を音楽や効果音に合わせて投稿・消費する形式で、AIによるレコメンデーション(おすすめ)機能が極めて優秀なことから次々と関連動画が表示され、中毒性のある体験を提供します。TikTokは**Z世代(10代〜20代前半)を中心に爆発的な人気となり、ダンスやコメディの流行発信源となっています。TikTok出身で有名になったインフルエンサーも多数おり、フォロワーが数千万に達する世界的スターも生まれました。他プラットフォームに比べてバズ(急激なバイラルヒット)**が起こりやすく、無名の新人でも魅力的な動画を投稿すれば一夜にして何百万再生を叩き出す可能性があります。コンテンツはエンターテインメント性が強く、ダンスチャレンジ、リップシンク(口パク動画)、ショートコメディ、メイクのビフォーアフター、豆知識紹介など多彩です。TikTokの特徴として、フォロワー数に関係なく動画内容次第で再生数が伸びるアルゴリズムが挙げられます。そのためナノ・マイクロインフルエンサーでも一部動画が大ヒットして大きな影響力を持つことがあり、他方でフォロワーが多い大物でもコンスタントにバズを生み続けるのは容易ではありません。また一般にTikTok上のエンゲージメント(いいね・コメント率)は他のSNSより高めで、**特にTikTokではフォロワー数が多い層でも平均エンゲージメント率が5〜10%といったデータもあります(同じ人物がInstagramに投稿した場合よりTikTokの方がフォロワー反応が高い傾向があると言われます)。企業はTikTokでのバズ効果に注目し、製品を絡めたハッシュタグチャレンジ(例:「#○○チャレンジ」と銘打ってユーザー投稿を促す)が若者の間でヒットするようインフルエンサーと組む手法を取っています。例えば飲料メーカーが人気TikTokerと組んで新商品に絡むダンスチャレンジを仕掛け、それを数万人の一般ユーザーが真似して投稿し拡散するといった具合です。TikTokはその強大な影響力ゆえ各国で規制議論も起きており、米国では国家安全保障上の懸念からTikTok禁止法案が審議される状況になっています(2024年末時点で全面禁止には至っていませんが、政府機関での利用禁止などは進んでいます)。しかしマーケターの調査では、8割以上の企業担当者が規制の可能性があってもTikTokマーケティングを継続すべきと回答しており、それだけ無視できないプラットフォームになっています。TikTokはまたソーシャルコマース(SNS上での直接購買)**にも力を入れており、「TikTokショップ」というEC機能を通じてインフルエンサーが動画から直接商品を販売する動きも盛んです。2024年には米英などでTikTokショップの売上が急増しており、多くのブランドが出店を始めています。X(エックス、旧Twitter):
140文字の短文投稿から始まったTwitterは、リアルタイム性と拡散力で独自の地位を築いてきました。2023年に経営者交代と共に名称がXへ変更されましたが、ユーザーの間では未だ「ツイッター」と呼ばれることも多いです。Xはテキスト中心のコミュニケーションが基本ですが、写真や動画、最近では長文ノート機能など様々な形式も扱えるよう拡張しています。リアルタイムの話題共有(ニュース・スポーツ・流行等)に強く、著名人や政治家、専門家も多く利用しています。そのためインフルエンサーというより**「オピニオンリーダー」「解説者」的な発信者が目立つプラットフォームです。匿名ユーザーも多いため炎上や議論も活発ですが、逆に言えば瞬時に口コミが伝播するので、上手く使えばトレンド入りして一大ムーブメントを起こすことも可能です。X上のフォロワー数が多いインフルエンサーには、ユーモアあるツイートで人気の一般人から、特定業界のニュースを速報するアカウント、著名人の日常発信など様々です。企業はXをカスタマー対応や公式発表にも使いますが、インフルエンサー施策としては商品やサービスに言及するツイートの拡散**を狙ったり、ハッシュタグキャンペーンを行うなどの手法がとられます。ただ近年はTwitter改めXのポリシー変更や有料化の動きもあり、マーケティングの場としての安定性に不透明感が出てきています。2024年には一部の大手広告主離れも報じられました。しかしX社側もクリエイター支援策を打ち出しており、投稿への広告収益分配や有料サブスク機能でインフルエンサーの活躍を促そうとしています。なおインフルエンサーから見ると、Xはバズを起こす場所として使うケースが多いですが、フォロワーとのエンゲージメントを深めたり長尺コンテンツを配信する場としては向かないため、他媒体への導線に使うことが一般的です。例えばYouTuberがXで動画公開を告知したり、InstagrammerがXで雑談的につぶやいてファンとの距離を縮めるといった具合です。ちなみにX上のインフルエンサー料金相場は他SNSより低い傾向があり、投稿1件あたりフォロワー1000人につき数ドル程度とも言われます(それだけ直接的な広告媒体としては効果が限定的と見られている面があります)。Facebook(フェイスブック):
かつてSNSの王者だったFacebookは、現在でも世界最大のユーザー数(月間30億人以上)を持ちますが、若年層離れが進みインフルエンサー市場での存在感は以前より薄れています。Facebookは実名登録を基本とするため、匿名文化の強いインフルエンサー活動とはやや相性が悪い面があります。ただ特定地域コミュニティや、30代以上の大人世代には依然根強く使われており、主婦ブロガーや専門家、ビジネス系インフルエンサーなどがFacebookページで情報発信することもあります。Facebookグループを活用してファンクラブ的なコミュニティを運営するインフルエンサーもいます。また新興国ではFacebookが主力SNSとして使われ続けているため、例えばタイやフィリピンで人気のインフルエンサーはFacebookやそのメッセンジャーでファンと交流したり、動画コンテンツもFacebookに投稿することが少なくありません。Facebook自体も動画機能やストーリーズ機能を持ち、インフルエンサー向けの「クリエイターモード」なども提供しています。Facebookの強みは幅広い年齢層と地域にリーチできることですが、弱みは若者文化のスピード感に欠ける点です。したがってインフルエンサーはバズ狙いの場というより、既存ファン層との交流や情報蓄積のプラットフォームとしてFacebookを位置付けている場合が多いです。企業側もFacebook広告には引き続き予算を投じていますが、インフルエンサー個人との協業はInstagramに比べれば限定的です(もっともInstagramはFacebook社が所有するため広告プラットフォームは一体化しています)。2024年にはFacebookとInstagramの機能統合も進み、メッセージやリール動画が両方で共有されたりといった動きもあります。Facebook単体で見ればインフルエンサー市場の主役からは退いていますが、Meta社のエコシステム全体で考えると、Instagramと併せて無視できない存在です。
以上主要SNSの概要を見ましたが、インフルエンサーは複数のプラットフォームを併用することが一般的です。たとえばYouTubeで本格的な動画を投稿しつつ、Instagramで日常の写真や短動画を発信し、Xでファンと軽いコミュニケーションを取るというように、それぞれの強みを活かして使い分けています。またTikTokでバズを生み知名度を上げてから、YouTubeにフォロワーを誘導して長期的ファンを育成するといった戦略も取られます。これはプラットフォームごとにアルゴリズムやユーザー層が異なるため、一つに依存せず多面的に活躍することで影響力を最大化し、リスク分散も図るためです。仮に特定プラットフォームで規約変更や人気低下が起きても、他のプラットフォームでファンとの繋がりがあれば影響を抑えられます。2024年現在では、こうしたマルチプラットフォーム展開がインフルエンサー成功の鍵と言われています。一方ですべての媒体でコンスタントにコンテンツを出すのは非常に労力がかかるため、同じ素材を再利用することも行われます。例として、YouTubeに投稿した長編動画を短く編集してInstagramリールやTikTokに流用したり、Instagramに投稿した写真をFacebookにも転載するといった形です。各社もクロス投稿を容易にする仕組みを用意しており、クリエイターが効率的に複数SNSを活用できるよう工夫が凝らされています。
音声プラットフォームの動向(Podcast・Clubhouse等)
ソーシャルメディアの多様化において、音声によるプラットフォームも見逃せません。文字や映像主体のSNSとは異なり、耳から情報を届ける音声メディアは「ながら視聴」に適していることから、忙しい現代人に支持されて成長してきました。
代表的なのがポッドキャスト(Podcast)です。ポッドキャストはインターネット上で聞けるラジオ番組のようなもので、インフルエンサーや有識者がホストとなってトーク番組を配信する形式です。Apple PodcastsやSpotify、Google Podcastsなどのプラットフォームを通じて配信・視聴されます。ポッドキャストはテーマ設定が自由で、ビジネス・教養からお笑い・雑談・ニュース解説・物語朗読まで実に様々なコンテンツがあります。著名なYouTuberやブロガーがポッドキャスト番組を持つ例も多く、自身の映像コンテンツとは異なるよりリラックスした深掘りトークを展開しています。2024年現在、世界のポッドキャストリスナー人口は増加傾向にあり、特に米国では週に1回以上ポッドキャストを聴く人が人口の40%近くに上るとの調査もあります。日本でもここ数年ポッドキャストの盛り上がりが見られ、Spotifyが有名タレントの独占番組を提供するなど、市場形成が進みつつあります。インフルエンサーにとってポッドキャストはフォロワーとのより深い関係構築に適したメディアです。動画や文章では伝えきれない裏話や本音トークをじっくり語ることで、熱心なファンのロイヤリティを高めることができます。また広告モデルも存在し、番組内でスポンサー企業の商品を紹介する音声広告(いわゆるホストリード広告)はリスナーからも自然に受け入れられやすく、効果が高いとされています。実際、海外では人気ポッドキャストのホストは本業並みの広告収入を得ているケースも珍しくありません。インフルエンサー市場の一部としてポッドキャストは着実に地位を築いており、特にトークが得意なクリエイターや専門知識を議論したい人にとって重要なプラットフォームです。
一方、かつて一世を風靡したClubhouse(クラブハウス)のようなソーシャルオーディオプラットフォームも存在します。Clubhouseは2021年初頭に招待制で話題になったライブ音声チャットSNSで、ユーザー同士が音声で会話するルームを作り、不特定多数が聴衆・参加できる形態でした。当時は著名人や専門家の生トークが直接聴けるとあって爆発的ブームとなり、一時は毎晩のようにインフルエンサーや芸能人がトークルームを開いていました。しかしブームは長続きせず、その後利用者は減少しています。2024年現在、Clubhouse自体は存続していますが大きな存在感はなく、残ったユーザーもニッチコミュニティを形成している程度です。またTwitter(X)も**Spaces(スペース)**という音声チャット機能を導入し、一定の利用が見られましたが、こちらもピークを過ぎた感があります。こうしたライブ音声SNSの失速理由としては、「コンテンツが蓄積されず一回きりのライブは継続的な価値を生みにくい」「誰でも話せるがゆえに玉石混交でユーザーの時間を奪いすぎた」といった分析があります。ただしライブ音声自体の魅力(リアルタイム対話の臨場感)は消えたわけではなく、今後また形を変えて復活する可能性はあります。
総じて音声プラットフォームは、派手さはないもののコアなファン層との結びつきを強める手段としてインフルエンサーに利用されています。例えばYouTubeで大人気の人物がファン向けに限定ポッドキャストを配信したり、ビジネスインフルエンサーが自身の音声講義シリーズを持つなど、コンテンツラインナップの一つとして組み込まれています。企業も音声広告や番組提供に注目し始めており、今後は動画・画像とともに音声もマーケティングミックスの一環として定着していくでしょう。
AI関連プラットフォーム・技術の活用
近年、インフルエンサーの活動領域に新たに加わった要素としてAI(人工知能)関連のプラットフォームやツールがあります。2022年以降、画像生成AIや文章生成AI、さらには動画生成AIや音声合成AIが急速に進歩し、クリエイターによるコンテンツ制作のあり方を変え始めました。インフルエンサー市場でもAIを活用した新たな表現や効率化が注目されています。
具体例として、ChatGPT(チャットジーピーティー)が挙げられます。ChatGPTはOpenAI社が開発した高度な文章生成AIで、2022年末に公開されて以来、様々な用途に活用されています。インフルエンサーもChatGPTをアイデア出しや文章作成のサポートに使っています。例えばブログ記事や動画の台本を作成する際、ChatGPTに下書きを生成させ、それをもとに肉付け・編集することで執筆時間を大幅に短縮できます。またSNS投稿のキャプション(説明文)を考える際に、キャッチコピーの候補をChatGPTに出してもらうといった使い方もされています。さらにChatGPTを利用したチャットボットを自分の公式サイトに設置し、ファンからの質問に自動応答させるインフルエンサーも現れています。あるインフルエンサーは自分の発言データを学習させたAI分身「AIチャットアシスタント」を作り、ファンが24時間質問できるサービスを提供しました。ファンはまるで本人と会話しているかのような体験ができ、インフルエンサー側は多忙でもファン対応ができるという仕組みです。このようにChatGPTの対話能力はインフルエンサーとフォロワーの新たな接点を生み出しています。ただしAIが暴走して意図しない発言をするリスクもあり、内容のモデレーション(管理)は必要です。
Midjourney(ミッドジャーニー)やStable Diffusion(ステーブルディフュージョン)といった画像生成AIも、インフルエンサーにとって強力なツールになっています。Midjourneyはテキストから高品質な画像を生成できるサービスで、2023年頃からアート・デザイン分野で脚光を浴びました。インフルエンサーはこれを使って独自のビジュアル素材を作り出しています。例えばファンタジー系イラストをSNSに投稿するアーティスト系インフルエンサーは、Midjourneyを用いてアイデアスケッチを生成し、それをもとに作品を仕上げることがあります。またファッションインフルエンサーが未来的な衣装デザインをAIに考えさせ、その画像をもとにコーディネートを提案するといった試みも見られます。さらに商品プロモーションにおいても、AI生成画像を活用した広告クリエイティブが登場しています。人間モデルではなくAIが描いた仮想の人物や風景を使って製品イメージを表現するケースで、コスト削減と斬新さを両立する手法として注目されます。ただし完全にAI任せにすると不自然な部分も出るため、実際には人間のクリエイティブディレクションと組み合わせて使われます。
動画生成AIも2024年には大きな話題となりました。OpenAIが発表した新ツール**「Sora(ソラ)」**はテキストや画像から短いビデオクリップを自動生成できる画期的なAIです。これを使うと、ユーザーがシナリオを文章で入力するだけでAIが対応する映像シーンを合成し、簡易的な動画に仕上げてくれます。例えば「猫がテーブルから飛び降りて優雅に着地する」という文章を与えると、その通りのアニメーション映像をAIが作成する、といった具合です。Soraの登場により、従来は映像制作の専門知識や長時間のレンダリングが必要だったアニメーションを誰でも試せるようになりました。インフルエンサーも早速この技術を試し、自分のコンテンツにユニークな動画エフェクトを取り入れるなどしています。例えばテック系のインフルエンサーがAI生成映像を紹介するコンテンツを作ったり、音楽アーティストがAIで生成した不思議な背景映像をミュージックビデオに組み込んだりといった事例があります。ただ現時点での動画生成AIはまだ試験的な段階で、画質や動きの精細さは商用レベルに達していません。しかし技術は急速に向上しており、将来的にはインフルエンサーが自身のアバター映像をAIで作りそれに喋らせる(いわゆるディープフェイク技術の応用)ことも簡単になると見られます。
音声生成AIもクリエイターに利用されています。例えば音声合成プラットフォームを使えば、自分の声をAIに学習させクローンを作ることができます。そうすると、文章を入力するだけで自分そっくりの声で読み上げてくれるため、長いナレーション録りなどの負担が軽減されます。YouTube動画で分かりやすい解説を入れたいが自分で喋る時間がない場合などに、AIナレーターに代読させるといった使い方です。また多言語展開にも応用でき、自分の声のまま英語やスペイン語の音声に変換するサービスも登場しています(例:ある日本人インフルエンサーは、自身の日本語トークをAIで自動翻訳・音声合成して英語吹き替え版動画を公開し、海外ファンを獲得しています)。さらに音声AIは「歌声の生成」や「声真似」にも使われ、2024年には有名歌手の声質を模したAIカバー曲がネット上で話題になるなどしました。インフルエンサーの世界でも、故人の声をAIで蘇らせ語ってもらうコンテンツや、有名キャラクター風の声でゲーム実況を行うなど創意工夫が生まれています。ただし他人の声を無断で使うことは著作権や肖像権の問題があるため、公式に許諾された範囲での利用や、自分自身の声に留めるなど倫理面に配慮した運用が求められます。
こうした生成AIの活用により、インフルエンサーのコンテンツ制作は大幅に効率化・高度化しています。例えば従来であれば動画1本作るのに企画〜撮影〜編集で何日もかかっていたものが、AIを用いて素材作成や編集の一部を自動化することで所要時間を半減できるかもしれません。また一人では難しかったクリエイティブ表現(3DCGの作成や多言語コンテンツなど)にもチャレンジできるようになりました。その結果、2024年にはインフルエンサーのAI活用がキャンペーン成果を向上させたというデータも報告されています。ある調査では、マーケターの66%が「AI統合によりインフルエンサーキャンペーンの成果が改善した」と回答しています。例えばAI分析でフォロワーの興味を精査しコンテンツ企画に反映する、AI生成画像で魅力的なクリエイティブを低コスト作成する、といった工夫が効果を上げているようです。
一方で、AIの発展はインフルエンサーに新たな競争相手ももたらしています。それが**「バーチャルインフルエンサー」です。バーチャルインフルエンサーとは、実在しないCGキャラクターやAIが演じる架空の人物で、SNS上で人間さながらに活動する存在です。代表例として米国発のLil Miquela(リル・ミケーラ)は少女のCGキャラがインスタグラムで日常投稿を行い、ファッションブランドとコラボするなどしています。日本でもピンク髪のバーチャルモデルimma(イマ)が有名で、資生堂などの広告に起用されました。これらは厳密にはAI自律ではなく人間のクリエイターチームが操作していますが、技術的にはAI制御で自然な動作をさせることも可能になりつつあります。さらに最近では完全AIが発信するSNSアカウント**も出現しました。例えばAIが自動で生成した美男美女の画像を投稿し続け、フォロワーを獲得するケースや、AIチャットが考えたポエムを日々呟くアカウントなどです。現在のところ大半のユーザーは人間インフルエンサーの方を支持しますが、将来的にAIキャラクターがより高度な共感発信を行えるようになると、人間のインフルエンサーと市場を奪い合う可能性も指摘されています。そのため人間のインフルエンサー側も、AIでは代替できないオリジナリティや生身の魅力を磨く必要があるという声が出ています。
以上、AI関連プラットフォームと技術の潮流を見てきました。ChatGPTに代表される生成AIはインフルエンサーの創作活動を支援し、コンテンツ生産性を飛躍的に高めるツールとなっています。同時にバーチャルインフルエンサーやAIキャラクターの台頭は新たな競合環境を生み出しつつあります。インフルエンサー市場はこうしたテクノロジーの影響を強く受けながら進化しており、2024年以降もプラットフォームの多様化がさらに進んでいくと考えられます。
3. マーケティング・マネタイズ手法
インフルエンサーにとってその活動を収益化(マネタイズ)することは重要なテーマです。多くのインフルエンサーは趣味からスタートしていますが、フォロワーが増えるにつれ活動に時間や労力を注ぐようになり、それを継続・拡大するには収入が欠かせません。また企業側にとってもインフルエンサーに適切な報酬を支払い協力を得ることで、自社商品の宣伝や販売促進につなげるWin-Winの関係が築かれます。本章では、インフルエンサーの主なマネタイズ(収益獲得)手法を網羅的に整理し、それぞれの特徴や必要なフォロワー規模、収益規模のデータを紹介します。さらに近年拡大するクリエイターエコノミー(創作者経済)の全体像と市場規模の変化、今後の展望についても述べます。
インフルエンサーの主な収益源一覧
インフルエンサーが収入を得る方法は多岐にわたります。代表的なものを挙げると以下のようになります。
広告収入(プラットフォームからの分配)
企業案件(タイアップ広告・スポンサーシップ)
サブスクリプション(ファンからの定期支援)
グッズ販売・自社商品展開
オンラインサロン・コミュニティ運営
イベント出演・講演活動
新興のマネタイズモデル(NFT・投げ銭・AIサービスなど)
アフィリエイト収入
それぞれについて順に解説します。
1. 広告収入(プラットフォームからの分配)
インフルエンサーが得る最も基本的な収益の一つが、YouTubeなどプラットフォーム内の広告収入です。例えばYouTubeでは、「YouTubeパートナープログラム」に参加しているチャンネルには動画再生時に広告が表示され、その広告収入の一部が動画制作者に支払われます。一般に再生回数や視聴時間に応じた報酬となり、1再生あたりの単価(CPM: 千再生あたり収入)は広告主の業界や視聴者属性により異なりますが、だいたい1000回再生で数ドル程度と言われます。トップYouTuberになると1本の動画が数百万再生され、数十万円〜数百万円の広告収益を得るケースもあります。2024年現在、YouTubeでは短尺動画Shortsにも広告収益分配が導入されましたが、長尺動画に比べ単価は低めです。TikTokやInstagramのクリエイターファンド/ボーナスプログラムもありますが、こちらも報酬水準は高くなく、TikTokの例では100万再生あたり数万円程度との声もあります。ただTikTokはTikTokショップ等で別途売上を得られるため、直接の広告収入はお小遣い程度という位置づけです。Facebook(Meta)は投稿への広告収益分配を一部試験導入しています。X(Twitter)も2023年から大量のインプレッションを稼いだ投稿者に対し広告収入の一部を還元する制度を開始しました。ただXの場合、受け取るには有料認証が必要など条件が限られ、実際恩恵を受けているのはごく一部です。
広告収入のメリットは、インフルエンサー側が比較的受動的に収益を得られる点です。一度人気コンテンツを作れば、その後も視聴され続ける限り収入が入ります(「ストック型収益」)。特にYouTubeは過去動画が検索や関連で再生されるので、人気チャンネルは毎月安定した広告収入が期待できます。反面、広告単価や再生数はプラットフォームのアルゴリズムや景気に左右されます。例えば2024年、世界経済の変動からオンライン広告市場が冷え込み、インフルエンサーの平均CPMが前年比で約半分に下がったとのデータもあります(2023年は平均CPM約10ドル→2024年は約4.6ドルなど)。これは広告主側が支出を絞ったためですが、インフルエンサーにとっては同じ再生数でも収入が減ってしまうことを意味します。こうした変動リスクもあり、広告収入だけに依存するのは不安定です。したがって多くのインフルエンサーは次に述べる企業案件など他の収入源も組み合わせています。
2. 企業案件(タイアップ広告・スポンサーシップ)
**企業案件(タイアップ)**とは、企業やブランドから依頼を受け、インフルエンサーがその商品・サービスを自身のコンテンツ内で紹介したり、キャンペーンに協力したりすることで報酬を得るものです。これはインフルエンサーマーケティングの中心的手法であり、収入としても大きな割合を占めるケースが多いです。具体例として、YouTuberが動画内で提供スポンサーとして製品を使ってみせる、Instagrammerが企業から提供されたファッションを着用して投稿する、TikTokerが企業のチャレンジ企画に参加して動画を上げる、といった形があります。報酬はインフルエンサーの規模や影響力、案件内容によって様々ですが、フォロワー数や再生数に応じた相場が存在します。
一般によく言われるインフルエンサー投稿の相場として、「1フォロワーあたり0.01ドル(1万人で100ドル)」という目安があります。これはInstagram投稿の場合によく使われる指標です。例えばフォロワー5万人のマイクロインフルエンサーなら1投稿で500ドル(数万円)の報酬、100万人のメガインフルエンサーなら1万ドル(100万円超)以上といったイメージです。ただし実際はジャンルやエンゲージメント率によっても変わり、ニッチで購入意欲の高いフォロワーを持つ人ならフォロワー単価が高く、逆にフォロワーが多くても反応が薄ければ安くなります。プラットフォーム別では、Twitter(X)が最も安価でフォロワー1000人あたり数ドル程度とされ、Instagramはフォロワー1万人で100〜300ドル程度、TikTokは動画制作労力もありフォロワー1万人で数百ドルとも言われます。YouTubeは動画尺が長い分、登録者数10万人規模で1本数十万円とかなり高額のケースもあります。例えばTikTokではあるエージェンシーが算出した例で、フォロワー5千〜2.5万:1動画あたり350〜850ドル、2.5万〜7.5万:1000〜3000ドルというレンジが提示されています。トップクラスになるとこれを大きく上回り、著名インフルエンサーは1案件で数万ドル(数百万円)以上を要求します。特にセレブ級のインスタグラマー(フォロワー数千万)ともなると、1投稿1000万円以上になる場合もあります。
企業案件のメリットは、広告収入より単価が高くコントロールしやすい点です。自分の努力で良い提携先を見つけ交渉すれば、そのぶん高収入を得られます。また現金報酬だけでなく、製品の現物提供(インフルエンサーが無料で使える)や、場合によってはインセンティブ(成果に応じたボーナス)契約もあります。デメリットとしては、宣伝であることが透けるためフォロワーから不信感を持たれるリスクや、自分のブランドイメージと合わない商品は紹介できないといった制約があります。そのため人気インフルエンサーほど案件を選び、安易に受けすぎないよう気を配っています。最近は長期契約のスポンサーシップも増えました。企業が特定インフルエンサーと半年〜一年などのスパンで契約し、継続してブランドアンバサダー的に起用するケースです。この場合毎月定額のスポンサー料が支払われ、インフルエンサーにとっては安定収入になります。2024年の調査でも、マーケターの47%がインフルエンサーとは長期パートナーシップを重視したいと答えており、単発より関係構築を重視する流れです。
ROI(投資対効果)の観点では、多くの企業がインフルエンサー案件に満足しています。様々な調査でばらつきはありますが、平均して1ドル支払うごとに4〜6ドル程度の売上や価値を生み出しているとのデータがあります(例:Instagramキャンペーンでは1ドルあたり4.1ドルのリターン等)。この高い費用対効果もあって、インフルエンサー案件に投じる予算は増加の一途です。ある調査では2024年に企業の51%がインフルエンサー予算を増やす計画と答えており、案件依頼は増加傾向にあります。もっとも、小規模インフルエンサーには無償提供のみ(報酬なしで商品だけ送る)の案件も多いため、フォロワー数が一定以上(1万人以上など)になって初めて本格的な収入源となるといえます。
3. サブスクリプション(ファンからの定期支援)
インフルエンサーが直接ファンからお金をもらうモデルとして、サブスクリプション型の支援があります。代表的なのがPatreon(パトレオン)やOnlyFans(オンリーファンズ)、ファンクラブ会員制などです。Patreonは主にクリエイターがファンから毎月一定額の支援金を募るプラットフォームで、支援者には限定コンテンツや特典を提供します。例えば月5ドル支払うと限定のポッドキャストが聴ける、月10ドルで本人と月1回オンライン交流イベントに参加できる等、支払額に応じたリワード(見返り)を設定します。Patreonは英語圏のYouTuberやアーティストに広く利用されており、トップPatreonクリエイターは月に数万ドル(数百万円)以上稼ぐ例もあります。日本でも似たサービスにEntyやFantiaなどがあり、イラストレーターやコスプレイヤーが活用しています。
OnlyFansは成人向けコンテンツで有名ですが、一般のインフルエンサーも利用している場合があります。こちらもファンが月額料金を払い、写真や動画など限定投稿が閲覧できます。特に熱心なファンが多いジャンル(フィットネス指導、美容アドバイス、またはグラビア的コンテンツなど)では大きな収入源となりえます。実際、世界トップのOnlyFansクリエイターは年間数千万ドルを稼ぐとも報じられています。ただ一般的なインフルエンサーの場合、コンテンツの性質によって向き不向きがあります。
またYouTubeメンバーシップやTwitchサブスクライブなど、各プラットフォーム自身が用意するサブスク機能も増えています。YouTubeではチャンネル登録とは別に「メンバーになる」ボタンで月額課金メンバーを募れます。メンバーにはライブ配信で名前にバッジが付いたり、限定のスタンプが使えたり、メンバー限定動画を視聴できるといった特典を提供可能です。Twitch(ゲーム配信プラットフォーム)では視聴者が配信者に毎月定額(通常5ドル)のサブスク料金を払い、広告無し視聴や専用絵文字が使える権利が得られます。Twitch配信者にとっては収入の柱であり、人気ストリーマーは数万人のサブスクライバーを抱え月収数千万円という人もいます。Instagramも近年「有料サブスクリプション投稿」機能を一部地域で導入し、クリエイターが限定ストーリーなどを月額課金で公開できるようになっています。X(Twitter)も「有料サブスク」機能で特別なツイートやDMを購読者だけに見せることができるようになりました。
サブスクリプション収入のメリットは、ファンからの直接支援なのでプラットフォームや案件に左右されにくい安定収入になる点です。特に固定ファンが1000人いれば、月5ドルずつ支援してもらうだけで月収5000ドル(約70万円)になりますから、インフルエンサーとして生計を立てられます。またファン側も「お気に入りのクリエイターを育てる」感覚で支援し、Win-Winの関係が築けます。デメリットは、相応の熱量のファンが必要なためハードルが高いことです。単に無料の投稿を見るライト層はお金を払いません。収入につながるのは全体フォロワーのうち熱狂的な上位数%程度とも言われます。そのため一定以上の規模とコアな人気が出てからでないと現実的な額にはなりにくいです。また有料向けにコンテンツを作る手間も増えるため、運営コストとのバランスも考えねばなりません。
4. グッズ販売・自社商品展開
インフルエンサーが自ら商品を売るモデルも広がっています。典型的なのはオリジナルグッズの販売です。YouTuberが自身のキャラクターTシャツやステッカー、アクセサリー類を通販するのはよくある例です。欧米ではクリエイター向けマーチャンダイズサービス(例:SpreadshopやTeespringなど)が充実しており、デザインをアップロードするだけで各種グッズが製造・発送され、収益を分配してもらえます。在庫リスクなくオンデマンド生産できるため、インフルエンサー側の負担も少なくファンに記念品を提供できます。人気動画の名台詞がプリントされたTシャツや、チャンネルロゴ入りマグカップなどがよく売れます。収益性は販売数と単価次第ですが、一定数のファンがいれば広告収入や案件に匹敵する利益を上げることも可能です。
さらに規模が大きくなると、自社商品ブランドを立ち上げるインフルエンサーもいます。美容系インフルエンサーが自らプロデュースしたコスメブランドを発売する、料理研究家系インフルエンサーが調味料やキッチン用品を監修販売するといった例です。これは単なるグッズではなく本格的な事業展開であり、成功すればインフルエンサー本人が起業家・ブランドオーナーとなります。最近の著名事例では、人気美容YouTuberのMichelle Phan氏がコスメブランド「EM Cosmetics」を創業したり、ジェフリー・スター氏が自身の化粧品ラインで大成功を収めるなどがあります。日本でもYouTuberのHIKAKINさんがアパレルブランドとコラボして商品を出したり、インスタグラマーがセレクトショップを開く例などが出ています。極めて人気の高いインフルエンサーの場合、一度の販売で数万個の商品が即日完売することもあり、売上が億単位にのぼることもあります。こうなるともはやインフルエンサーというより経営者ですが、ファン基盤があるからこその事業成功であり、クリエイターエコノミーの新しい形と言えます。
グッズ・商品販売のメリットは、自ら収益源を握るため利益率が高く、ブランド価値も高められることです。デメリットは、商品企画・製造・販売の手間やリスクが伴う点です。品質が悪ければ評判を落としますし、在庫管理も必要です。最近はオンデマンドサービスのおかげで小ロットから始められますが、本格ブランドとなるとプロの助けや資本も要ります。それでも成功すればインフルエンサー引退後も稼ぎ続けられる資産となるため、多くのトップクリエイターが挑戦しています。
5. オンラインサロン・コミュニティ運営
日本で特に見られる形態ですが、オンラインサロンと呼ばれる月額会員制コミュニティを運営して収益を得るインフルエンサーもいます。これはサブスクリプションに似ていますが、よりコミュニティ運営に重点があります。インフルエンサー(または著名人)が主宰者となり、クローズドなSNSグループやチャットルームで会員と交流したり、特別なコンテンツを提供します。月額料金はピンキリですが、例えば月3000円で限定Facebookグループに招待し月数回のオンライン講義やQ&Aセッションを行う、といった形です。ビジネス系や自己啓発系、趣味のサークル的なものまで様々なオンラインサロンがあります。人気インフルエンサーがサロンを開くと数百〜数千人の会員が集まることもあり、仮に500人が月3000円払えば150万円/月の収入となります。ただし会員維持のためのコンテンツ提供やイベント企画など手間もかかります。オンラインサロンは単なるファンクラブに留まらず、参加者同士のネットワーキングや共同プロジェクト立ち上げなども行われるため、一種の経済圏を形成する場合もあります。これにより主宰者であるインフルエンサーのブランド価値も高まり、他の収益機会(書籍出版や講演依頼など)につながることもあります。2024年も依然としてビジネス系インフルエンサーを中心にオンラインサロン文化は続いており、継続的な稼ぎとして注目されています。
6. イベント出演・講演活動
フォロワー数が多く知名度が上がったインフルエンサーには、リアルのイベント出演や講演の依頼が来ることもあります。例えば有名YouTuberが企業の記者会見や商品発売イベントにゲストとして招かれトークする、人気TikTokerがファッションショーにモデル出演する、といった具合です。出演料は芸能人ほどではなくても、それなりの額が支払われます。またインフルエンサー自身がファン向けのイベント(ミート&グリートやオフ会、握手会など)を開催し、参加チケット代やグッズ販売で収益を得ることもあります。さらに専門分野で知られるインフルエンサーであれば、セミナー講師や大学での特別講義を頼まれることもありえます(例:マーケティング系YouTuberが企業研修でSNS活用法を講演するなど)。これらは頻度こそ多くないものの、一回あたりの報酬が高めであることと、活動の幅を広げるPRにもなるため積極的に行う人もいます。ただリアルイベントは拘束時間も長く移動も伴うため、オンライン中心のインフルエンサーにとっては負担でもあります。そのためトップクラスになると出演料が見合わない場合は断るケースもあります。
7. 新興マネタイズモデル(NFT・投げ銭・AI関連など)
新しいテクノロジーやプラットフォームに伴い、最近登場したマネタイズ手法もいくつかあります。
ひとつは**NFT(非代替性トークン)**です。ブロックチェーン上でデジタルコンテンツに唯一無二の証明を与えるNFTを用いて、インフルエンサーが作品やグッズを販売する動きが2021年前後に盛り上がりました。例えば写真系インスタグラマーが自分の写真作品をNFTとしてオークション販売したり、人気VTuberが限定動画クリップのNFTを発行するといったものです。NFTバブルは落ち着きましたが、コレクター向けに今も継続している事例もあります。ただ一般のファンにはハードルが高いため、NFTで大儲けできるのはごく一部です。
**投げ銭(ライブストリーミング内での視聴者からのチップ)**も大きな収入源になる場合があります。YouTubeライブやTikTokライブでは視聴者が「スーパーチャット」(投げ銭コメント)やギフトアイテムを購入して配信者に送ることができます。配信者はリアルタイムで「○○さん、1000円のスパチャありがとう!」などと返礼し、視聴者との双方向交流を深めます。人気配信者だと1回のライブで数十万円以上の投げ銭が集まることもあり、これが積み重なれば大きな収入です。TikTokではランキング上位のライブ配信者が数多くのギフトを稼ぎ、月収数百万円に達するケースもあるようです。ただ投げ銭文化はプラットフォーム依存であり、一部の熱心なファン頼みでもあるため、継続には配信頻度とファンサービスが求められます。
**アフィリエイト(成果報酬型広告)**も昔ながらですが有効な手法です。インフルエンサーが紹介リンクやクーポンコードを提示し、それ経由で商品が売れれば数%のコミッション(手数料)を得るモデルです。特にブログやレビュー系YouTubeで盛んで、Amazonアソシエイトや楽天アフィリエイトなど大手ECの仕組みを使うケースが多いです。インフルエンサーの紹介スキル次第では商品が飛ぶように売れ、かなりの紹介料収入になることもあります。2024年もInstagramで「リンクスタンプ」機能が一般開放され、誰でもストーリーズに商品リンクを貼れるようになったため、インフルエンサーが気軽にアフィリエイトを試す土壌が広がりました。
他にはオンラインコース販売もあります。専門知識を持つインフルエンサーが動画講座や電子書籍、PDF教材などを有料販売するモデルです。プログラミング講師系YouTuberが自作の詳細講座を売ったり、語学インフルエンサーが教材パッケージを販売するなどで、こちらも一種の商品販売ですがデジタルコンテンツなので在庫リスクがありません。Udemyのような講座プラットフォームを使うこともあれば、自前サイトで決済することもあります。
さらに前述のAIチャットボットを有料提供するような新手もあります。2023年にはあるSNSインフルエンサーが自分と会話できるAI彼女「AIチャット」をリリースし、1分ごとに数円〜数十円の課金でファンと疑似会話できるサービスを始めました。開始1週間で数千万円を売り上げたという報道もあり、驚きを持って迎えられました。ただ性的な内容にAIが暴走するなど課題も露呈し、一時停止しています。今後AI技術が成熟すれば、こうした擬似対話サービスや個別カスタム動画生成など、新しい形のパーソナルコンテンツ販売が出てくる可能性があります。
以上、多岐にわたる収益化手法を見てきました。インフルエンサーはこれらを複数組み合わせて収入源を多角化するのが一般的です。例えばYouTube広告と企業案件が主収入で、サブでグッズ販売とファンコミュニティ運営も行う、といった具合です。2024年のデータでは、インフルエンサー全体の10%程度が年収10万ドル(約1300万円)以上を稼ぎ出しているとの報告もあります。一方で26%は年収1000ドル以下、さらに26%は1000〜1万ドル程度というデータもあり、大半は副業的な収入に留まります。本格的に生計を立てられるのは上位数割程度で、成功には努力と戦略が必要です。
クリエイターエコノミーの拡大と市場規模・将来展望
インフルエンサーの収益を取り巻くクリエイターエコノミー全体も急拡大しています。クリエイターエコノミーとは、個人のコンテンツクリエイターがデジタルプラットフォーム上で創作物や影響力を収益化する経済圏のことです。インフルエンサーだけでなく、ブロガー、ストリーマー、アーティスト、職人、オンライン教師など幅広い創作者が含まれます。
クリエイターエコノミーの市場規模については定義によって差がありますが、広義では2024年時点で全世界で約2000億ドル(30兆円弱)規模とも推計されています。この中には企業からクリエイターへの広告予算のみならず、ファンからクリエイターへの支払い(投げ銭・サブスク)、クリエイター主導のEC売上、プラットフォームがクリエイターに支払った収益分配額などが含まれます。これほど巨大な市場がここ10年ほどで出現したことは特筆に値します。成長率も高く、2030年には5000億ドルを超えるという予想もあります。特に2020年頃のパンデミック以降、オンラインコンテンツ需要が増えたことでクリエイターエコノミーは飛躍し、多数の新規参入者が生まれました。2024年現在、全世界で2億人以上が何らかの形でクリエイター活動を行っており、そのうち職業的なフルタイムクリエイターはおよそ46%とされています。多くは副業や趣味ですが、それでも収益化に挑む人が増えていることを示します。
クリエイターエコノミーの拡大に伴い、関連サービス産業も盛り上がっています。インフルエンサーマーケティング仲介プラットフォーム、クリエイター支援ツール(動画編集アプリ、分析ツール、マルチプラットフォーム管理など)、クリエイター専門のマネジメント事務所、さらには資金融資サービスまで、様々な企業が参入しています。プラットフォーム側もクリエイター獲得競争にしのぎを削っており、YouTube・TikTok・Instagramが次々と新しい収益分配制度を導入しているのは前述の通りです。こうしたクリエイター優遇策により、今後も新しい才能が参入しやすい環境が整えられるでしょう。ある調査では、88%のクリエイターが「昨年より今年もっと稼げるようになる」と期待しているとの結果もあり、当事者たちも成長を実感しています。
ただし課題もあります。クリエイターエコノミーの参加者が増え競争が激化する中、上位層に収入が集中する格差も指摘されています。前述のように多くのクリエイターは十分な収入を得られておらず、約36%はフルタイムで取り組んでも生活費を稼げていないとのデータもあります。そのため、今後はクリエイターが効率よく収入を上げる仕組みや教育が重要になります。例えば複数収益源を組み合わせる戦略や、ニッチでも熱狂的な1000人のファンを掴んで生計を立てる「1000人の真のファン理論」の実践などが提唱されています。またクリエイター自身のビジネスリテラシー向上(契約交渉や会計管理など)や、福利厚生の整備(保険や年金といったフリーランス支援)も課題です。
未来の展望として、クリエイターエコノミーは今後ますます多様化・専門化していくでしょう。かつてはエンタメ系や美容系が中心でしたが、今やBtoBの業界専門家や医師・弁護士など高度専門職も情報発信し影響力を持つ時代です。それらの専門クリエイターが独自コミュニティを築き、コンサルティングや教材販売で収益を上げることも増えそうです。またメタバースやVR空間での活動が一般化すれば、そこでのバーチャルグッズ販売や体験イベントなど新たな収入源も生まれます。技術進化により、一人のクリエイターが抱えられるファン数も莫大になる可能性があります(AIで個別対応を自動化すれば、何百万人のファン一人ひとりにカスタマイズしたサービス提供も理論上可能になる)。そうなればトップクリエイターの収入はさらに跳ね上がる一方、中堅以下はより差別化が必要になるでしょう。いずれにせよ、個人が自分の情熱やスキルを直接マネタイズできる時代はもう後戻りしません。プラットフォームとクリエイターとファンが三位一体となって作るこの市場は、従来の企業主導経済を補完・変革する存在として今後も発展していくと考えられます。
4. 企業・ブランド側から見たインフルエンサー活用
前章まででインフルエンサー市場の規模やインフルエンサー側の動きを見てきましたが、ここでは企業・ブランドの視点に立ち、インフルエンサーをマーケティングに起用するメリットやリスク、効果測定の方法、成功・失敗事例、そして国やプラットフォームごとの違いについて考察します。企業にとってインフルエンサー活用は一種の投資であり、期待されるリターンと注意点を理解して戦略を立てることが重要です。
インフルエンサーマーケティングのメリット
企業がインフルエンサーと組む主なメリットは以下のような点に集約されます。
信頼性・親近感による高い訴求力: インフルエンサーはフォロワーとの間に信頼関係を築いています。そのため、インフルエンサーがおすすめする商品は友人からの口コミのように感じられ、広告臭さが薄れた形で消費者の心に届きます。特にマイクロインフルエンサーの発信は「自分たちの仲間の声」に近く、企業公式発信では得られない共感を生みます。またインフルエンサー自身が実際に商品を使い率直な感想を述べることで、情報の説得力が増し購買意向を高めます。
ターゲット層への的確なリーチ: インフルエンサーはそれぞれ専門ジャンルやフォロワー属性が明確です。美容インフルエンサーにはコスメ好きの若い女性が集まり、ガジェット系YouTuberには技術好きの男性層が集まるといった具合です。企業は自社ターゲットに合致するインフルエンサーを選ぶことで、無駄の少ないターゲティング広告を打つことができます。テレビCMのように老若男女に漫然と発信するのではなく、必要な層にピンポイントで届くため効率的です。
高いエンゲージメントと拡散: 前述の通り、インフルエンサーの投稿はいいね・コメント・シェアといったエンゲージメントが高いです。これは消費者が能動的に関与している証拠であり、ブランドメッセージが記憶に残りやすくなります。さらに興味を持ったフォロワーが自分の友人に情報を共有したり、口コミが二次拡散する効果も見込めます。たとえばインフルエンサーの投稿を見たフォロワーが自分のSNSでそれに言及すれば、**UGC(ユーザー生成コンテンツ)**が増幅され無料で宣伝が広がります。
コンテンツ制作力の活用: 多くのインフルエンサーはクリエイターとして優れたコンテンツ制作スキルを持っています。企業が普通に広告代理店に依頼したら高額になるような魅力的な写真・動画・企画を、インフルエンサーは自前で作ってしまうことがあります。つまりインフルエンサーと組めば、広告クリエイティブの制作を任せられる利点もあります。実際、企業から商品だけ提供しクリエイティブ面はインフルエンサーに自由に作ってもらったところ、バズるような斬新な表現で大成功したという例もあります。企業側は出来上がったコンテンツを自社の宣伝にも二次利用でき、費用対効果が高まります。
リアルタイム性と柔軟性: SNSはテレビや新聞と違い発信から効果検証までがリアルタイムです。インフルエンサーキャンペーンを実施すれば、その日のうちにレスポンスを数字で追えます。結果を見て軌道修正したり、追加施策を打ったりとアジャイル(素早い反復)なマーケティングが可能です。またコンテンツも媒体も多様で、短期間で集中施策もできれば長期にわたる地道なブランディングもできます。このスピードと柔軟性は、特にトレンド商材やスタートアップ企業などにとって貴重です。
コスト効率: 以前と比べるとトップインフルエンサーの起用料は上昇していますが、それでもマス広告に比べれば費用を抑えやすいです。例えば数百万円で人気インスタグラマー複数人にリーチできるなら、テレビCM数千万円に比べ割安です。さらに前述のようにROIが平均4〜5倍とも言われ、高い効率を示します。特にマイクロインフルエンサー活用なら1人あたり数万円規模で済むため、中小企業でもトライしやすくなっています。2024年、多くのブランドが広告費をインフルエンサーへシフトしているのは、このコスト効率を評価してのことです。
ブランドリフト(好感度・認知度の向上): 単なる短期売上だけでなく、中長期的なブランド価値向上にもインフルエンサーは貢献します。特にイメージの刷新や新規層への訴求に効果的です。例えば老舗ブランドが若者向けにアピールしたい場合、Z世代に人気のインフルエンサーとコラボすることで一気に新鮮な印象を与えられます。またコラボ商品などを通じて話題になれば、ブランドが「時代に合った存在」と認識されるようになります。さらにインフルエンサーが良いストーリーを持っている場合、そのストーリーとブランドを結びつけることで感動や共感を伴う深い訴求も可能です。
以上のように、インフルエンサーマーケティングは**「より少ない費用でよりターゲットに刺さり、かつエンゲージメントが高く効果測定がしやすい」**という点で、従来手法にはないメリットを企業にもたらします。2024年のマーケティング担当者調査では、80%以上がインフルエンサー施策は効果的だったと評価しており、71%が翌年さらに予算を増やすと答えるなど、高い満足度と信頼を得ていることが窺えます。
インフルエンサー活用のリスクと注意点
一方、インフルエンサーマーケティングにはリスクや注意点も存在します。主なものを挙げます。
ブランド毀損・炎上リスク: インフルエンサーは一個人であるため、スキャンダルや不適切発言のリスクが常につきまといます。もし起用中のインフルエンサーが不祥事を起こしたり世間から批判を浴びたりすると、スポンサー企業にも悪影響が及びます。過去には有名YouTuberが差別的言動で炎上し契約企業が次々離れた例や、インスタグラマーの過去投稿が問題視されCMが打ち切られた例などがあります。企業は契約時に倫理条項を盛り込み、重大な問題発覚時は起用停止できるようにしておく必要があります。また起用前にインフルエンサーの過去の言動をチェック(デューデリジェンス)することも重要です。それでも予期せぬ炎上が起きることはあり、その際の対処(謝罪・距離の明確化など)も素早く行わねばなりません。
メッセージコントロールの難しさ: インフルエンサーの魅力は自由で個性的な発信ですが、それは企業側から見るとメッセージ統制が効きにくいことを意味します。テレビCMならシナリオ通りにブランドメッセージを伝えられますが、インフルエンサーに完全台本読みさせてはフォロワーに見透かされます。そのため大枠のPRポイントは伝えても、細かい表現や語り口は任せるケースが多いです。しかし思ったものと違う表現になったり、時に商品の欠点に触れられてしまう可能性もあります。またコメント欄で否定的意見が出ても、インフルエンサーはファンと対話してしまうので企業として制御しづらいです。こうしたコントロール外の要素を許容し、ある程度のリスクを取ることが必要になります。事前打ち合わせでNG事項だけは確認し、あとはクリエイターの色を尊重する柔軟さが求められます。
KPIの設定と測定の難しさ: インフルエンサー施策の効果をどう測るかも課題です。売上やコンバージョン直結型ならまだしも、ブランド認知向上や好感度アップなど間接的効果は定量化が難しいです。また1人のインフルエンサーの投稿から、何人が実際購入につながったかを正確に把握するのは容易ではありません。最近は専用のクーポンコードやアフィリエイトリンクを付与して追跡したり、投稿後のサイトアクセスや売上動向を分析したりしますが、それでも他要因の影響を完全には除去できません。そこでKPIとしては、エンゲージメント指標(いいね数、コメント数、シェア数)やリーチ数(投稿閲覧者数)を置いたり、URLクリック数やクーポン利用数、ブランド名の検索ボリューム変化などを参考にすることになります。企業側は事前に何を成功とみなすか指標を定め、インフルエンサーにも共有しておく必要があります。またインフルエンサーから提供されるレポート(投稿のリーチ・エンゲージメントデータ)を分析し、次回以降の戦略に活かすPDCAも大事です。
フェイクフォロワー・不正: インフルエンサーマーケティングの裏には、フォロワーやいいねの購入といった不正も存在します。見かけ上フォロワー10万人でも実際にはほとんどアクティブな人間がいない、いわゆる「ハリボテ」のインフルエンサーに企業が騙されるケースです。こうした偽装は徐々に見破る技術も進み、専門の分析ツールでエンゲージメント率の異常やフォロワーの質(botが多いなど)を検出できます。企業は契約前にそのインフルエンサーのエンゲージメント率やフォロワー増加履歴を確認し、不自然に高すぎたり低すぎたりしないかチェックすべきです。また投稿のコメント欄を見れば、本物のファンが会話しているか、スパム的なコメントばかりかで雰囲気が分かります。不正検知は完全ではありませんが、複数指標を総合して信頼できる人を選ぶ努力が必要です。
法律・規制順守: 各国でインフルエンサーマーケティングに関する規制が整備されてきています。代表的なのはステルスマーケティングの禁止です。つまり広告であることを隠して宣伝するのは違法・不当とみなされる可能性があります。米国FTCはガイドラインで「広告であることを明示せよ」と定め、違反すると罰金もありえます。イギリスASAや日本の景品表示法なども同様の姿勢です。従って企業とインフルエンサーはタイアップ投稿には**#広告 #PRなどの表示をきちんと入れるべきです。明示がないと消費者の信頼を損ね、炎上するリスクもあります。また薬機法(医薬品医療機器法)や金融商品取引法など、扱う商材によっては広告表現が厳しく制限される領域もあります。健康食品を「絶対痩せる」などと謳えば違法表現ですし、金融商品を過度に煽るのも禁止です。企業はインフルエンサーに事前に守るべき表現ルールを伝え、問題ないかチェックするコンプライアンス体制**を整えなければなりません。
以上のリスクを踏まえ、企業側は適切なインフルエンサー選定と契約、モニタリング、そして危機管理プランを用意しておくことが重要です。多くのケースではインフルエンサーとの協業は良好に進みますが、万一の炎上時に速やかに謝罪・修正するなどのフローを決めておくと安心です。
主なKPIとパフォーマンス測定方法
先に少し触れましたが、インフルエンサーマーケティングでよく用いられる**KPI(重要業績評価指標)**と、その測定方法をまとめます。キャンペーンの目的に応じて適切なKPIを設定し、データを収集・分析することが、成功可否を判断し学びを得るポイントです。
インプレッション数・リーチ数: 投稿がどれだけ閲覧されたかの指標です。インプレッションは延べ閲覧数(同じ人が複数回見た分もカウント)、リーチはユニーク閲覧者数(何人に届いたか)です。これはブランド認知拡大を目的とする場合に重要です。プラットフォームのビジネスアカウント機能でインフルエンサーからデータを共有してもらうか、企業が共同管理者になることで閲覧可能です。KPI例: 「キャンペーン全体でリーチ100万人を達成」。
エンゲージメント数・率: いいね、コメント、シェア(リツイート)、保存(ブックマーク)などの反応数、及びフォロワー数に対するその割合です。エンゲージメント率=(いいね+コメント等)/フォロワー数×100%で算出します。高いエンゲージメントはメッセージが響いた証拠です。特にユーザーコメントには生の声が表れるので質的分析も可能です。KPI例: 「平均エンゲージメント率5%以上」。
クリック数・CTR(クリック率): 投稿やプロフィールに掲載したURLがクリックされた回数、および閲覧者に対する割合です。Webサイト誘導やキャンペーンページ誘導を狙う場合の指標です。インフルエンサーに専用リンク(UTMパラメータ付きURLやビットリー短縮URL)を使ってもらい、GoogleAnalytics等でクリック数を測定します。ストーリーズのスワイプアップやYouTube動画下のリンクなども同様に計測可能です。KPI例: 「リンククリック1万件、CTR2%」。
コンバージョン数・CVR(転換率): 商品購入やアプリインストール、会員登録など最終成果につながる行動の数と率です。これは企業側の計測タグやクーポンコードで追跡します。ECサイトの場合、インフルエンサーごとにクーポンコードを発行し、その使用数をカウントする手法が分かりやすいです。またサイトのGoogleAnalyticsに目標を設定し、インフルエンサー経由流入の達成数を測ることもできます。ただ複数経路の影響があるため、あくまで目安としつつ、ポストキャンペーンにアンケートで「何で知ったか」尋ねるといった補完も必要です。KPI例: 「インフルエンサー経由売上500万円」「ランディングページCVR5%」。
フォロワー増加数: インフルエンサーの投稿によって、企業の公式SNSアカウントやブランドページのフォロワーがどれだけ増えたかも指標となります。長期的な顧客化を狙うならここを重視します。また逆にインフルエンサー自身のフォロワー推移も、キャンペーン中に増加すれば好反応のサインです。
感情指標・ブランドリフト: 定量ではありませんが、投稿に対するコメントの好意割合や、キャンペーン前後でのブランド認知度・好感度の変化なども見ます。これには調査会社によるアンケートやSNS上の声の分析(感情分析ツールでポジティブ/ネガティブ分類)などが使われます。KPI例: 「ブランド想起率がキャンペーン後10ポイント上昇」。
ROI・CPM/CPA: 最終的に費用対効果を算出する指標です。ROI(Return on Investment)は(収益または価値)÷費用で、例えばインフルエンサー費用100万円で売上500万円ならROI=5.0(500%)となります。ただ直接売上換算できない場合もあるので、その場合は**CPM(千人当たりコスト)やCPA(一件当たり獲得コスト)**で効率を評価します。インフルエンサー報酬総額÷リーチ人数×1000でCPMが出ます。これを他の広告と比較して高いか安いか判断します。2024年は平均インフルエンサーCPMが4〜5ドル程度とも言われるので、それ以下なら効率良好といった具合です。
これらKPIの中からキャンペーン目的に合致するものを設定し、事前に目標値を共有しておくことが望ましいです。例えば新商品認知拡大ならリーチとエンゲージメントを重視、販売ならクリックと購入を重視、といった具合です。一つのキャンペーンに複数インフルエンサーを起用した場合、それぞれの成果を比較し、次回はよりパフォーマンスの良い人に注力する、といった最適化も可能になります。
成功事例・失敗事例の分析
インフルエンサーマーケティングの実例から学ぶことも重要です。ここではいくつか近年の成功事例と失敗事例を簡単に紹介し、要因を分析します。
成功事例: ファッションブランド「Gymshark」の成長
イギリス発のフィットネスアパレルブランドGymshark(ジムシャーク)は、創業当初からインフルエンサー戦略を駆使して成功した例として有名です。彼らは2010年代中頃に、YouTubeやInstagramで人気のフィットネスインフルエンサー(ボディビルダーやトレーナー)と次々に契約し、ブランドアンバサダーとして製品を着用・紹介してもらいました。まだ無名だったGymsharkは、これにより一気にフィットネス愛好者の間で注目を集め、売上を急拡大しました。成功の要因は、ターゲットが明確(筋トレ若者層)で、その層が憧れるインフルエンサーを的確に起用したこと、そしてインフルエンサー自身にもブランドイベントや商品開発に深く関わってもらいコミュニティを形成したことです。フォロワーは憧れの選手と同じウェアを着たいと熱狂し、SNS上でもGymshark着用写真が流行する好循環が生まれました。結果、Gymsharkは2020年代に企業価値10億ドルを超えるユニコーン企業となりました。この事例からは、インフルエンサーを長期的パートナーとして巻き込み、ブランドとコミュニティを一体化させることの強力さが分かります。
成功事例: 飲食チェーン「ダンキンドーナツ」×TikTok
米国の大手コーヒーチェーンDunkin'(旧称ダンキンドーナツ)は、TikTokでのキャンペーンで成功した例です。人気TikTokerであり歌手でもあるCharli D'Amelio(チャーリー・ダメリオ)さんを起用し、彼女の名を冠した限定ドリンク「The Charli」を発売しました。チャーリーさんは当時TikTokフォロワー1億人近い超有名人で、彼女の定番注文ドリンクを商品化するという施策は大当たりしました。TikTok上では「#CharliRunsOnDunkin」というハッシュタグチャレンジが展開され、彼女自身もプロモーション動画を投稿。結果、発売初日の売上が大幅増加、アプリ注文数も過去最高を記録するなど直接の売上効果が出ました。さらに若年層へのブランド認知が飛躍的に高まりました。成功要因は、若者へのリーチに最適なTikTokで、その象徴的存在とのコラボを実現したこと、そして商品自体に話題性(インフルエンサーの名前をつける斬新さ)を持たせたことです。これはインフルエンサーをただ広告塔にするのではなく、商品開発から巻き込む手法の好例です。ただしこれほど影響力のある人物は限られるため、誰にでもできるわけではありませんが、適切なインフルエンサーとの協業で若年層市場を開拓できた好例と言えます。
失敗事例: 炎上した健康食品キャンペーン
ある健康食品ブランドA社は、Instagramの有名モデルインフルエンサーを起用し、減量サプリのPRキャンペーンを行いました。しかしその投稿には「これを飲むだけで誰でもスリムになれる!」といった極端な謳い文句が含まれており、フォロワーや栄養士などから「誇大広告だ」「不健康な減量を煽っている」と批判が殺到し炎上してしまいました。A社は急遽投稿削除と謝罪をする羽目になり、起用したインフルエンサーもSNSで謝罪コメントを出しました。この失敗の原因は、広告表現の管理ミスと商品特性に合わないメッセージです。本来、薬機法などに抵触しないよう注意が必要な商材でしたが、インフルエンサー任せにしてチェックが甘かったことが伺えます。またそのインフルエンサーは美容目的での利用イメージだったのに、「飲むだけで痩せる」と安易に言い切ったため、信憑性がなく返って信用を落としました。ここから学べるのは、企業が伝えたい内容とインフルエンサーの表現スタイルのギャップを埋める重要性です。特に健康や金融など規制のある分野では、表現ガイドラインを事前に共有し、場合によっては投稿文面の事前確認をするなど、慎重さが必要です。また、インフルエンサー選定も本当に商品を理解し適切に伝えられる人かどうか見極める必要があるでしょう。
失敗事例: 不適切過去投稿の発覚
欧州の化粧品ブランドB社は、とある女性インフルエンサーをキャンペーンに起用しました。彼女は若い女性に人気でフォロワー100万人超の影響力がありました。しかし起用発表後、彼女の数年前のSNS投稿に人種差別的な内容があったことがユーザーによって掘り起こされ、大問題に。#Cancel(キャンセル)ムーブメントが起こり、B社にも「なぜこんな人物を起用したのか」と非難が殺到しました。B社はすぐに契約解除しキャンペーン中止を発表、被害は最小限で済みましたが、ブランドイメージに傷がつきました。このケースの教訓は、インフルエンサーの過去発信の調査不足です。人気が出る前の若気の至り投稿だったかもしれませんが、ネット上に履歴は残ります。特に世界的ブランドの場合、多様性や倫理に敏感な消費者が多く、こうしたリスクチェックは必須です。インフルエンサー本人も、社会的責任が増すにつれ過去のツイート削除などセルフチェックすべきですが、企業としてもプロのモニタリングサービスを使うなどしてバックグラウンドチェックを行う必要があります。
これら事例から、成功にはインフルエンサーの選定・起用方法がターゲットと噛み合っていることとインフルエンサーの創造性やパーソナリティを上手く生かしていることが重要だと分かります。一方失敗は管理不足やミスマッチから生じるケースが目立ちます。
地域差・プラットフォームごとの特徴(定量整理)
最後に、インフルエンサーマーケティングにおける地域差や、プラットフォーム別の特性について定量データを交え整理します。
地域差(米・中・欧・日など):
米国: マーケターの約83%がインフルエンサー施策を実施しており、年々増加。マイクロインフルエンサーの人気が高く、81%のブランドがマイクロ層と協業。ROIにもシビアで、平均5倍以上のROIを求める。FTC規制遵守に敏感。
中国: インフルエンサー(KOL)起用率が非常に高く、主要消費財メーカーの90%以上がKOLマーケに投資。ライブコマースでは数百万〜数千万人民元の売上を1配信で上げるトップが存在。KPIは売上(GMV)が重視され、WeChatなどでの直接購買率が指標。
欧州: Instagram活用率89%、TikTok 64%(欧州調査より)。一方で法規制も強く、例えばフランス・ドイツでは2024年広告支出が5億〜7億ユーロ規模。ブランドは倫理とコンプライアンス重視で、インフルエンサーの投稿に#ad表示徹底。
日本: インフルエンサー市場860億円(2024年)で前年比+16%。TwitterやInstagramでの企業案件が増加。国内大手企業も予算計上が一般化。KPIは話題量(SNSトレンド入り)や動画再生数などを重視する傾向。消費者も広告表記への理解は進みつつある。
プラットフォーム別(Instagram, YouTube, TikTok, X, Facebook 他):
Instagram: 全世界で最も企業利用が多い(欧州では89%のブランドが使用)。適したKPIはエンゲージメント率(平均1〜3%だがナノ層は高い)、クリック誘導はストーリーズで可能。人気カテゴリ: ファッション、美容、旅行、グルメ。
YouTube: 広告収入モデル充実で専業多し。平均視聴維持率やチャンネル登録増をKPIに含むことも。長尺でしっかり商品紹介→購買という流れが作りやすい。カテゴリ: ガジェット、教育、ゲーム、美容詳細レビューなど。
TikTok: 爆発力重視。平均エンゲージ率高い(数%〜10%超)。KPIは再生回数といいね数、場合によってはハッシュタグ投稿数。コンバージョン測定にはTikTokピクセル導入が必要。カテゴリ: ダンス/ミーム、短い美容TIP、商品のビフォーアフター。
X(Twitter): 拡散力測定にはリツイート数、エンゲージはいいね+コメント。クリック率は低めだがUGC拡散しやすい。リアルタイムキャンペーン(例: ハッシュタグ○○でツイート募集)が適している。ニュース・政治・ゲーム界隈で影響力。
Facebook: 主にリーチとシェアを指標に。中年層以上狙いなら有効。Facebookグループでのコミュニティ形成もあるため、そこではエンゲージメント率も重視。
その他: Twitchでは同時視聴者数と総視聴時間がKPI、ゲーマー向け販促に有効。Podcastでは再生回数やサブスク数が指標、スポンサー広告では覚えやすさ(認知リフト測定)が用いられる。
このように、地域やプラットフォームで数字上の平均値や特性が異なるため、企業は狙う市場・媒体に合わせ戦略とKPI設定を微調整しています。例えば欧州向けには透明性を強調、TikTokではフォーマルさより楽しさ優先、Twitterでは迅速なレスポンス体制構築、などの工夫が求められます。
5. インフルエンサー本人の視点
ここではインフルエンサー当人に焦点を当て、彼らの日常的な活動やコミュニティ運営、ファンとのコミュニケーションの工夫、さらにAI時代におけるキャリア形成や働き方の変化、インフルエンサー同士の競争と連携の状況、そしてメンタルヘルスの課題や炎上リスクへの向き合い、社会的責任について述べます。華やかに見えるインフルエンサーの裏側では、地道な努力や悩み、そして新時代への適応が進んでいます。
インフルエンサーの日常活動とコンテンツ作り
人気インフルエンサーの生活は一見自由で楽しそうですが、その裏には綿密な計画と労働があります。
コンテンツ企画と制作: インフルエンサーは常に次のコンテンツネタを考えています。例えばYouTuberなら動画の企画会議を自分(やチーム)で行い、台本を用意し、撮影日程を組みます。撮影には数時間〜丸1日かかることも多く、その後の編集作業も数時間から数十時間に及びます。インスタグラマーの場合も、1枚の写真を撮るためにロケ地選定・衣装や小物準備・撮影・フィルター加工・文章キャプション考案などに時間をかけます。TikTokerも短い動画ながら演出アイデアを練り、テイクを何度も撮り直すことは珍しくありません。つまり常に「次の投稿」を作るために頭をフル回転させ、手を動かしているのです。トップインフルエンサーは投稿の頻度も高く(毎日投稿や週数回など)、休む間もなく創作しています。まさにコンテンツ制作が日常の大半を占める生活であり、これはテレビ番組の制作スタッフさながらの忙しさです。
複数プラットフォーム運営: 前述のように多くのインフルエンサーは複数SNSを持っています。そのため各プラットフォームに合わせてコンテンツを最適化したり、スケジュールを調整したりしています。例えば午前中にYouTube動画を公開し、昼にInstagram投稿、夕方にTikTokをアップし、夜にライブ配信、など1日に何度も異なる形式で発信する人もいます。それぞれのコメントやメッセージにも目を通し、可能な範囲で返信します。こうしたクロスプラットフォーム対応は時間管理上も大変ですが、専用のツール(投稿予約ツールや一括管理アプリ)を駆使したり、アシスタントを雇うインフルエンサーも増えています。それでも最終的なクリエイティブやファン対応は本人でないとできない部分が多く、マルチタスクを器用にこなす能力が求められます。
日常生活のネタ化: インフルエンサーはプライベートと仕事の境目が曖昧です。日常の何気ない出来事も「これはコンテンツになるかも」とアンテナを張っています。旅行に行けばVlogを撮り、カフェでおしゃれなドリンクを飲めば写真を撮り、読んだ本から得た知見をツイートし…と、生活そのものをコンテンツに昇華します。裏を返せば常に「見られること」を意識した生活になりがちで、完全オフの時間を取りにくいという側面もあります。一部のインフルエンサーはそれに疲れ、意図的にSNSをオフにする日を設けたり、プライベート用アカウントと仕事用アカウントを分ける人もいます。
自己ブランディングと研究: 成功するインフルエンサーほど、自身のブランドイメージを明確にしています。それは投稿のトーン、色味、話し方、価値観の共有などあらゆる面に表れます。日常的に自分の過去の投稿や他人の人気投稿を分析し、「自分のブランドに合っているか」「ファンが求めている方向か」をチェックします。例えばあるファッションインフルエンサーは「自分は常にポジティブで元気を与えるキャラ」を維持するため、ネガティブな話題は避け、カラフルな写真と笑顔の姿を欠かしません。また反響データ(何時の投稿が伸びたか、どんなハッシュタグが有効か)を見て投稿戦略を微調整します。こうしたマーケティング的な自己研究もインフルエンサーの日課です。
以上から、人気インフルエンサーの日常はクリエイター兼マネージャー兼マーケターとして多忙であることがわかります。趣味発信から始まった人も、人気が出るにつれこのようなプロフェッショナルな働き方にシフトしていきます。
コミュニティ運営とファンとのコミュニケーション
インフルエンサーが長く支持を得るには、フォロワーとの良好な関係づくり、すなわちコミュニティ運営が不可欠です。
SNS上での双方向交流: インフルエンサーはファンからのコメントやDMに可能な限り目を通し、ハートマークを付けたり返信したりします。特にライブ配信ではリアルタイムで視聴者の名前を呼び、お礼を述べ、質問に答えるなど積極的な交流が見られます。こうした双方向のやり取りはフォロワーにとって「自分もコミュニティの一員」という帰属意識を生み、熱心な支持につながります。コメントでの意見からコンテンツの改善点を学ぶことも多々ありますし、ファンのリクエストをきっかけに新企画が生まれることもあります。例えば「〇〇についての動画が見たい」という声が多ければ、それに応える形でコンテンツを作るなど、ファン主導型の企画も珍しくありません。
特別感の提供: コミュニティを盛り上げるため、インフルエンサーはフォロワーに特別な体験や情報を提供することがあります。例として、一般公開前に新プロジェクトをファンにだけ先行発表する、抽選でファンと直接会えるミートアップイベントを開催する、誕生日に個別メッセージを送る、といった施策です。オンラインサロンなどではさらに踏み込んで、ファン同士の交流を促し仲間意識を醸成します(例えばメンバー限定ディスコードサーバーを運営し雑談や情報交換の場を用意)。インフルエンサー本人もそこに顔を出してコメントしたりアドバイスしたりすることで、距離の近さを演出します。このような取り組みがファンのロイヤリティを高め、離脱を防ぐ効果があります。
ファンの名称と文化: 有名インフルエンサーにはファンに名前(ニックネーム)を付ける例も多いです。例えばあるアイドル的インフルエンサーは自分のファンを「〇〇Family」と呼び、投稿内でも「Familyのみんな、今日は〜」と語りかけます。これによりファン側も自らを誇りを持ってそのグループの一員と感じます。また特有の挨拶言葉や絵文字、ハッシュタグなどコミュニティ内の文化が育つこともあります。例えば配信の最初は「こん〇〇!」とファンが決まった挨拶をコメントする、推しマークとなる絵文字をプロフィールに付ける等です。インフルエンサーはこうした文化を大切にし、公認することでコミュニティの一体感を演出します。
ネガティブな場の管理: ファンとの関係が良好でも、一定数の荒らしやアンチ(批判者)は現れます。インフルエンサーはコミュニティの雰囲気を守るため、必要に応じて対策をとります。具体的には、不適切なコメントを削除・ブロックする、配信ではモデレーター(信頼できるファンに監視役を依頼)を置く、SNSで炎上しそうな話題には触れない、などです。また批判に反応しすぎずスルーする忍耐も求められます。ここで重要なのは、多数の良いファンをないがしろにして一部のアンチに振り回されないことです。メンタル的には難しい場面もありますが、むしろ熱心なファンに感謝し誠実な姿勢を示すことで、コミュニティは守られます。インフルエンサーの中には、「荒らしに構う時間があったら良いファン一人ひとりに返信したい」という考えで運営する人もおり、それが功を奏してコミュニティがより健全になる場合もあります。
AI時代のキャリア形成・働き方の変化
AIの進化はインフルエンサーの活動に大きな変化をもたらしつつあります。それは先述のコンテンツ制作面だけでなく、キャリアの考え方や働き方そのものにも影響しています。
AIサポートで効率化: 多くのインフルエンサーがChatGPTのようなツールをアシスタントのように活用しています。具体的には、動画の字幕生成を自動化したり、SNS投稿のアイデア出しや文章推敲を任せたり、画像編集の単純作業をAIフィルターに任せたりしています。これによって節約できた時間を、新しい企画やファン交流などに充てることができます。ある意味、インフルエンサーは小さなメディア企業の社長のようなもので、人間スタッフを雇う代わりにAIツールを駆使して業務を回していると言えます。例えば字幕AIで何時間もかかる作業を数十分に短縮、画像生成AIでサムネイルの素材を作り時間短縮、といったことが既に行われています。この効率化は、特にワンオペで頑張ってきた中小規模のクリエイターに恩恵が大きく、少人数で高品質コンテンツを量産できるようになりつつあります。ただ一方で、効率が上がった分「もっと投稿しなきゃ」というプレッシャーが増しているという声もあります。AIで楽になったから休むのではなく、更なる成長のために空いた時間でさらに活動する傾向があり、実働時間はむしろ伸びている人もいます。
競争の激化と差別化: AIにより誰でも一定レベルのコンテンツが作りやすくなった反面、インフルエンサーの競争相手も増える可能性があります。AI生成の美麗な画像や、人間そっくりの音声読み上げが容易になると、発信ハードルが下がり参入者が増えます。そうするとインフルエンサーは「人間らしさ」「独自の視点」「リアルな体験」により一層価値を置かなければ埋没しかねません。そのため近年、自分の個性や専門性を深める動きが強まっています。AIにできることは任せ、人間にしかできないクリエイティビティや共感性で勝負する、という方向です。たとえばAIが大量の画一的レビュー記事を書ける時代には、インフルエンサーは自分の体験談や失敗談などオリジナルな語りを重視します。またコラボレーションやリアルイベントなど、AIが介在できない領域(人間同士の触れ合いなど)に活動を広げることも一つです。実際、2024年にはインフルエンサー同士がオフラインで集まるフェスティバルや、ファンとのリアル交流イベントが増えており、オンラインの枠を超えた活動へシフトする動きもあります。
新しいキャリアパス: AI時代においてインフルエンサーのキャリアは多様化しています。一部のインフルエンサーは、企業のインフルエンサー担当責任者のような役職に就くケースも出ています。米国ではOpenAI社が「インターネットクリエイター責任者」の求人を出し話題になりましたが、これはChatGPTを広めるためインフルエンサーとの関係構築を専門とするポジションです。インフルエンサー経験者が企業に入ってノウハウを活かす動きも今後増えるでしょう。またインフルエンサー自身がAI関連のサービスを立ち上げるケースも見られます。自分のキャラクターをAI化してアプリを作る、クリエイター向けAIツールの監修に携わるなど、新技術側とのコラボレーションが生まれています。さらに、今までは若くて活動的であることが重視されがちでしたが、AIがサポートすることで高齢のクリエイターや身体的制約のある人でも発信しやすくなり、インフルエンサーの多様性が広がる期待もあります。こうした環境変化の中で、インフルエンサーは自分の将来像を再設計しているところです。「一生第一線で影響力を維持する」のは難しくても、裏方に回って育成や企業内専門家として活躍する道、あるいは自身が経営するビジネスに注力する道など、キャリアの選択肢が増えています。
働き方の柔軟性と労働時間: インフルエンサーはそもそも在宅や好きな場所で働け、時間も自由という利点があります。AIツールの導入で単純作業が減り、さらに時間や場所の自由度は高まっています。しかし先述のように、その分別の仕事を入れてしまい労働時間が長期化する傾向も。トップインフルエンサーの多くは「24/7で仕事のことを考えている」と語ります。仕事と趣味の境がないからこそ、常に働いている感覚にもなり得ます。この点は大きな課題で、一部では**「インフルエンサーの労働環境」を改善しようという動きもあります。海外ではクリエイター同士で組合を作ろうという話や、プラットフォーム側に透明性と公正な報酬を求める声も上がっています。AIによって逆に、一定期間まとめてコンテンツを作り予約投稿することで休暇を取る**など、賢い働き方も可能になってきました。インフルエンサー自身もセルフマネジメントを見直し、効率化で生まれた時間を休養やインプットに充てるよう意識する人が増えています。
インフルエンサー同士の競争・連携
インフルエンサー市場が成熟する中、クリエイター同士の競争は熾烈ですが、一方でコラボレーションや相互支援の動きも広がっています。
競争: フォロワー獲得と視聴時間の争い: 同じジャンルのインフルエンサーはフォロワーや視聴時間を奪い合うライバルでもあります。特にプラットフォームのタイムライン上ではユーザーの可処分時間は有限であり、似たコンテンツならどちらかしか見られない場合もあります。そのため各インフルエンサーは少しでも自分の投稿を選んでもらえるよう創意工夫し、質・量ともに他に負けない努力をしています。この競争によりコンテンツ全体のレベルが上がるメリットもありますが、一方でプレッシャーにもなります。「あの人がこれだけ再生数取っているのに自分は…」と比較し落ち込むケースもあり、後述するメンタル面に影響することもあります。
連携: コラボ動画・相互出演: 競争する一方で、インフルエンサー同士がコラボレーションして相乗効果を生む動きが盛んです。人気同士のコラボ動画は双方のファンが交叉するため大きな注目を集めます。例えば2人の有名YouTuberが一緒にチャレンジ企画をすれば、お互いのチャンネル登録者が増えるウィンウィンとなります。Instagramでも相互にタグ付けし合うコラボ投稿や、TikTokのデュエット機能を使った共演が頻繁に行われています。これらはお互いのリーチを広げるマーケティング手法としてインフルエンサー側も積極的です。特に駆け出しのクリエイターが先輩とコラボできると知名度アップの大チャンスなので、交流会やTwitter上での関係づくりを通じてコラボを取り付ける努力も行います。
インフルエンサーチーム・ハウス: 近年、インフルエンサー同士が集まって住み込みで活動する「ハウス」や、チームを組んで共同チャンネルを運営する例もあります。例えばTikTokで有名な「Hype House」などは複数の若手スターが一緒に暮らし、毎日共同でコンテンツを量産しました。一種の共同生活リアリティショーのような側面もあり、ファンの関心を惹きました。日本でもYouTuber事務所が合宿所を用意したり、音楽系インフルエンサーがバンド的にグループを組むことがあります。これらはリソースの共有(機材やスタッフを共用)や企画のスケールアップ(一人ではできない大掛かりな企画を可能に)などの利点があります。ただ、人間関係のトラブルなども起こりやすく、うまく行く場合と解散する場合がありケースバイケースです。
コミュニティでの情報交換: インフルエンサー同士はSNS上やオフ会などで繋がり、ノウハウ交換や励まし合いをしています。どの時間帯が伸びる、どの機材が良い、最近アルゴリズムがこう変化した、といった情報を共有することは珍しくありません。同じ苦労を経験する者同士で相談できることはメンタル面でも支えとなります。また問題のある企業案件の噂などもコミュニティ内で伝わり、互いに注意喚起することもあります。こうした横の繋がりは、インフルエンサー業界全体を健全に保つ上でも重要です。
メンタル面の課題・炎上リスクと社会的責任
インフルエンサーという職業は、自由で創造的である反面、精神的な負荷も大きいことで知られます。またその発信力ゆえ社会的責任も問われるようになっています。
メンタルヘルスとBurnout(燃え尽き): 調査によれば、2024年現在でも約73%のインフルエンサーが何らかの形でバーンアウト(燃え尽き症候群)を感じているといいます。常に投稿を続けなければフォロワーが離れるというプレッシャー、SNS上の批判コメントや炎上への不安、私生活と仕事の境界が曖昧な生活などが重なり、心身に疲労が蓄積します。特にInstagramやTikTokは「絶えずオンラインに居続けねば」という強迫観念を抱かせやすく、ある調査ではインフルエンサーの88%がInstagramが一番ストレスだと答えています。常にプラットフォーム側の仕様変更にも振り回され、アルゴリズム変動で急に再生数が落ち込んだりすると大きな不安になります。フォロワーや視聴回数といった数値に自分の価値を見出してしまい、減少すると自己肯定感が下がる「承認欲求の罠」も問題です。多くのインフルエンサーがSNS疲れから一時休養を取ったり、ひどい場合は完全引退するケースもあります。
対策とサポート: このようなメンタル課題に対し、インフルエンサー自身も様々な対策を講じています。例として、「デジタルデトックスデー」を決めて週に1日はSNSを見ない・触らない日を作る、睡眠や運動の習慣を整え身体の健康を維持する、悩みを信頼できる家族や友人に相談する、といった基本的な方法があります。最近ではメンタルヘルス専門のコーチやセラピストにつくインフルエンサーもおり、自分の思いを定期的に聞いてもらうことで安定を図っています。またMCN(マルチチャンネルネットワーク)などの事務所に所属している場合、運営側がケアする制度を設ける動きもあります(相談窓口の設置、ワークライフバランス研修など)。インフルエンサー同士のコミュニティも前述のように助け合いの場となります。さらに技術的には、SNSプラットフォームがアンチコメントの自動フィルターを強化したり、画面上の「いいね」数を非表示にする選択肢を提供したりするなど、心理負荷軽減の工夫も始まっています。
炎上リスクへの備え: インフルエンサーにとって炎上は常につきまとうリスクです。何気ない発言が批判を浴びたり、過去の行動が掘り返されたり、自分に落ち度がなくてもトラブルに巻き込まれることもあります。炎上は精神ダメージも大きく、一夜にして人気が地に落ちる恐れもあります。そのため賢明なインフルエンサーはリスクマネジメントを心がけます。具体的には、公序良俗に反するネタは避ける、政治・宗教などセンシティブな話題には慎重になる、提供案件でも自分が本当に良いと思わないものは受けない、事実確認が不十分な情報は発信しない、などです。また万一炎上の兆しがあった場合、すぐ謝罪すべきか、説明動画を出すべきか、静観するべきかといった対応も瞬時に判断する必要があります。最近は**「謝罪動画」**というフォーマットも確立されており、不祥事時には早めに顔出しで謝ることで沈静化を図ることが多いです。このように、人気とともに発言の責任が重くなることを自覚し、言葉選びや行動に慎重さを増すインフルエンサーが増えています。
社会的責任と影響力: フォロワーが多く影響力のあるインフルエンサーには、発信内容が社会に与える影響も無視できません。虚偽情報を拡散すれば誤解を生み、悪質商法を宣伝すれば被害者が出る恐れがあります。若年層に大人気のインフルエンサーが乱暴な言葉遣いや偏見に満ちた発言をすれば、それを模倣する子もいるかもしれません。そのため近年はインフルエンサー自身も社会的責任を意識して行動するようになっています。例えば製品PRでも環境や倫理に配慮したブランドを選ぶ、体に悪い食品や未成年に不適切な商品は断る、公共の福祉に反するような企画は避ける、といった判断をする人が増えています。また社会問題(気候変動、人種差別、平和問題等)について自分の意見を述べる人もいますが、その際も十分調べた上で発言したり、言葉に気をつけたりしています。ある意味、有名インフルエンサーは**一種のパブリックフィギュア(公的存在)**になりつつあり、世間からも模範的行動を求められる局面があります。2020年のコロナ禍では多くのインフルエンサーがSTAY HOMEを呼びかけたり募金活動に協力したりしましたし、2022年前後の社会運動では連帯を表明する投稿が相次ぎました。もっとも全員にそれを強制はできず、あくまで個人の判断ではありますが、ファンから「あなたは影響力があるのだから声を上げてほしい」と期待されるケースも増えています。これもプレッシャーにつながる面はありますが、社会の良い変化に貢献できるチャンスでもあります。
総じて、インフルエンサーはその独特な立場ゆえの苦労も多いですが、それを乗り越えつつ自らも成長し、ポジティブな影響を与えようと努力していることが伺えます。
6. AIとインフルエンサー市場の将来展望
最後に、急速な進化を遂げる生成AI(動画・画像・文章・音声)などの技術がインフルエンサー市場に及ぼす影響と、今後の市場変遷の予測についてまとめます。AIはインフルエンサーの活動に革命を起こしつつあり、その先には新しい可能性と課題が見えています。
生成AIの最新動向と影響
2024年以降、生成AI(Generative AI)の性能向上と普及は目覚ましいものがあります。この技術はインフルエンサー市場に様々な形で関わってきています。
動画生成AI: 2024年にはOpenAIの「Sora」などテキストから短い動画を生成できるAIが登場し、話題となりました。まだ数秒〜数十秒のクリップに限られ、画質や動きは簡易ですが、今後1〜2年で品質向上が見込まれます。将来的にはフルCGの映像作品をAIが自動で作ることも可能になると言われます。インフルエンサーにとって、動画生成AIはコンテンツ制作の強力な助手になりえます。例えば説明動画の背景アニメーションをAIで作ったり、実写と組み合わせてユニークな映像表現をしたりといった活用が考えられます。さらに進めば、インフルエンサー本人の動きをAIが学習し、分身のように動画内で演技させることも可能かもしれません。そうなれば本人が休んでいてもAIが動画出演してくれる未来さえ想像されます(ただし視聴者がそれを求めるかは別問題ですが)。技術が発達すると、映画レベルのスペシャルエフェクトを個人が自在に扱えるようになり、コンテンツの質が飛躍的に上がるでしょう。
画像生成AI: 既に2023年にMidjourneyやStable Diffusionが高品質な画像を作れるようになりました。2024年もその精度は増し、より複雑なシーンや高解像度出力が可能になっています。インフルエンサーにとっては、サムネイルやイラスト素材、写真の背景加工などで大いに役立っています。今後はモバイル端末でもリアルタイムに画像生成・編集ができるようになるため、外出先でもさっとAI加工した写真を投稿するなど作業のシームレス化が進むでしょう。一方で、画像生成AIがあまりに高度になると**「偽のインフルエンサー画像」の拡散なども懸念されます。例えば実在しない美男美女の画像をAIで大量に作りSNSアカウントを運用しフォロワーを集める、といったことが既に起き始めています。こうしたAI製「偽インフルエンサー」は今は人間が裏で操作していますが、将来完全自動化されたら、人間のインフルエンサーと競合するかもしれません。それに対抗するには、本物のインフルエンサーはリアルな人間性やライブ体験**を武器にせざるを得ないでしょう。
文章生成AI: ChatGPTに代表される大型言語モデル(LLM)はさらに賢くなっています。2024年にはGPT-4が登場しマルチモーダル(画像入力も処理可能)機能なども備えました。インフルエンサーはこれらを台本作成・アイデア整理・多言語翻訳などに活用し、生産性を上げています。将来的には、例えばインフルエンサーとファンの1対1チャットにAIが部分対応して、非常に自然な雑談相手になれるかもしれません。今でも既に一部試みられていますが、技術が上がれば何千人ものファンと同時に会話することも可能になるでしょう。またインフルエンサーが亡くなった後も、その人の過去発信を学習したAIが応答し続ける「デジタルレガシー」のような話も出ています。文章生成AIはまた、**ディスインフォメーション(誤情報)**拡散にも利用される危険があり、インフルエンサーの名前を騙ってデマ投稿をAIが作るといったリスクも考えられます。そうなればより一層情報の真偽を見極めるリテラシーがユーザーにも求められます。
音声生成AI: 音声クローン技術の進展で、2024年は著名人の声マネAIが話題になりました。今後精度がさらに上がれば、インフルエンサーは自分の声を多言語に変換して世界中に発信できるようになります。すでにYouTubeは2023年後半にAI翻訳した吹き替え機能をテストしており、将来的に1つの動画で様々な言語の音声を自動付与できるでしょう。これはインフルエンサーのグローバル展開を促進します。例えば日本人インフルエンサーのコンテンツが自動で英語やスペイン語の音声に切り替えられれば、潜在視聴者は何倍にも増えます。逆に海外の人気者が自動日本語吹替で日本進出することもありえます。音声AIも虚偽や悪用のリスクがありますが、プラットフォーム側も本人確認システムやウォーターマーク(AI合成音の見分け印)など対策を整えるでしょう。
以上の技術進化から、将来のインフルエンサー活動は**「AIと二人三脚」**になると予測できます。コンテンツ制作の多くをAIが補助し、人間はクリエイティブの核心部分に注力する形です。またインフルエンサーの影響力は自国に留まらず地球規模に拡散し、言語や文化の壁が低くなります。そのため競争もローカルからグローバルへ広がるでしょう。と同時に、AIインフルエンサー(完全バーチャルな存在)との競合や協業も増えるかもしれません。
マーケティング戦略におけるAIの役割
企業側から見ると、AIはインフルエンサーマーケティングの企画・運用にも大きな役割を果たします。
適切なインフルエンサー選定: AIは大量のソーシャルデータを分析し、ブランドにフィットするインフルエンサーを見つけ出すのに使われます。例えばAIがインフルエンサーごとのフォロワー属性・エンゲージメント傾向・過去案件の成果などを解析し、そのブランドに合う上位候補をリストアップしてくれるかもしれません。すでに幾つかのマーケティングプラットフォームは機械学習でマッチング精度を高めていますが、将来はより自動化が進み、企業担当者はAIの推薦するインフルエンサー候補から選ぶだけになる可能性があります。前述のIMH報告で73%のマーケターが「インフルエンサーマーケは大部分AIで自動化できる」と考えているというデータもあり、業界全体がそちらに向かっています。
キャンペーン設計・シミュレーション: AIは過去のキャンペーン事例から学習し、次回のベストプラクティスを提案できます。例えばターゲット層に最適な投稿時間、最適なハッシュタグ、組み合わせるべき複数インフルエンサーのバランスなどをAIが示唆してくれます。更にはキャンペーン前にシミュレーションを行い、「このプランなら予測リーチ〇万人、エンゲージメント率〇%」といった推計も出せるでしょう。これにより担当者はより確度の高いプランを立てることができます。
コンテンツチェック: 投稿内容のブランドセーフティ(安全性)チェックもAIが担います。インフルエンサーが作成したコンテンツを事前にAIがスキャンし、コンプライアンス違反やリスク要因を検出、改善案を出すようなシステムが導入されるでしょう。これなら人間が全部目視するより効率的ですし、ヒューマンエラーも減ります。
効果測定と分析: キャンペーン実施後、膨大なエンゲージメントデータや売上データをAIが統合分析し、何が効果的だったか、一人ひとりのインフルエンサーROIはどうだったか等を即座にまとめてくれるでしょう。これによって次回施策に活かすPDCAが劇的に高速化します。AIの可視化ダッシュボードでリアルタイムにKPI進捗を見ることも当たり前になるはずです。
高度なパーソナライゼーション: AIを活用すれば、インフルエンサーの発信内容自体をターゲットに合わせて微調整するようなパーソナライズマーケも可能になるかもしれません。例えば、同じインフルエンサーでもフォロワーの属性によって表示する商品バリエーションやメッセージを変えるなどです。これは通常SNSプラットフォーム側の実装が必要ですが、将来的に可能性はあります。ブランド側がAIで何百通りものクリエイティブを作り、それをインフルエンサーが自動配信するといったシナリオです。
総じて企業マーケティングにおいて、AIは効率と精度を飛躍的に高めるエンジンとなります。一方、人間のマーケターはクリエイティブ戦略や人間関係構築などAIに任せきれない部分にフォーカスするようシフトするでしょう。完全自動でインフルエンサー施策が回る未来もなくはないですが、やはり最後は人間の共感力・創造力がものを言う部分が残ると考えられます。
今後の市場変遷予測
最後に、インフルエンサー市場の中長期的な変化を予測します。
市場規模のさらなる拡大: 前述のように世界のインフルエンサーマーケ市場は毎年2〜3割成長が続いています。景気や規制の影響はあれど、少なくとも今後5年間は伸び続けるでしょう。2025年には3兆5000億円(約32.5億ドル)超え、2030年には10兆円近いとの予測もあるほどです。特にアジア・南米・中東など新興地域でスマホ普及が進み、地元インフルエンサー経済が花開くことで全体を牽引すると見られます。業界内訳でも、従来型広告代理店からインフルエンサーマーケ代理店への予算シフトが進み、関連サービス(分析ツール、マッチングプラットフォームなど)が伸びます。ただ一方で、市場が成熟するにつれ統合と淘汰も起きるでしょう。数多あるインフルエンサープラットフォームは合併や淘汰が進み、大手数社に集約される可能性があります。
バーチャルインフルエンサーの台頭: AIとCGを組み合わせたバーチャルインフルエンサーが、今後ますます増えていくでしょう。すでに著名なバーチャルモデルが複数存在しますが、それがファッションやエンタメのみならず、企業のカスタマーサポートキャラや広告ナレーターなど色んな領域に浸透するかもしれません。企業が自前のバーチャルブランドアンバサダーを作ることも考えられます(すでに日本のバーチャル店員キャラ等の例があります)。2030年頃にはフォロワー数1000万以上のバーチャルインフルエンサーが現実の人間と肩を並べる存在となるかもしれません。そうなると人間のインフルエンサーは共演したり、逆に差別化として「リアル」を強調したり、棲み分けを図るでしょう。
規制とルール整備: インフルエンサー市場が巨大化すれば、各国政府やプラットフォームによる規制も強化されます。例えばEUでは2024年以降、インフルエンサーの広告表示ルールや、フィルター使用時の明示義務(整形級の加工をした場合知らせる等)など法律が議論されています。日本でも景品表示法や医療広告ガイドラインなどの適用が厳しくなるかもしれません。また各SNSプラットフォームも、有害コンテンツや詐欺的プロモーションを排除するため、AIを使ったモデレーションを強めるでしょう。インフルエンサーはこうした新ルールを常にアップデートして遵守する必要があります。違反すればアカウント停止などの措置が速やかに行われる可能性もあります。長期的には、インフルエンサーという職業の社会的地位向上に伴い、業界標準の倫理規定や教育プログラムが整備されるかもしれません。例えば「認定インフルエンサー制度」などができ、一定の教育を受けた人が信頼されやすくなる、といった未来も想像できます(すぐにはないかもしれませんが)。
新技術との融合: AI以外にも、メタバース(仮想空間)やAR(拡張現実)、ブロックチェーン(Web3)などの技術進展がインフルエンサー活動を変える可能性があります。メタバース空間では3Dアバターのインフルエンサーが活躍し、ユーザーと仮想ライブを開催したり、バーチャルグッズを売ったりするかもしれません。AR機能は今もフィルターとして人気ですが、将来AR眼鏡が普及すれば、現実世界でインフルエンサーが目の前にホログラムで現れて案内してくれる、といったことも考えられます。ブロックチェーン技術により、インフルエンサー発のデジタルアイテム(動画、画像など)に所有権を付与してファン同士で売買する仕組みも復権するかもしれません(NFT2.0的な形で)。これらの技術が主流化するにはハードルもありますが、インフルエンサーは新しい舞台を見つけ常に適応していくでしょう。
ユーザー側の成熟: 視聴者側もインフルエンサーマーケティングに慣れ、より賢い消費者になっていきます。既に「#広告」と付いていても不快に思わず受け入れる人が増えていますが、今後はむしろ「きちんとPR表記しているインフルエンサーは信用できる」と理解が進むでしょう。また過度なステマや怪しい案件にはユーザーが敏感に反応し、自然淘汰が進むはずです。いわば視聴者の目が肥えるわけで、企業もより質の高いコンテンツや誠実なキャンペーンを求められます。逆に言えば、本当に価値ある商品を適切な形で紹介すれば、ユーザーもそれを見分けて評価してくれる成熟市場になると期待できます。
総合すると、インフルエンサー市場は今後も拡大しつつ、AI技術と融合し高度化し、競争もグローバルかつ複合的になるでしょう。その中で成功するインフルエンサーやブランドは、技術を活かしながら人間味と信頼を両立できる者と予想されます。例えば、AIが生成した美しいコンテンツを背景に、自身の本音トークでファンと繋がる、あるいはバーチャル分身とリアル本人を使い分けて24時間ファン対応するといった新スタイルも出てくるかもしれません。また、社会的にもインフルエンサーが果たす役割は大きくなり、広告塔以上にコミュニティリーダー、文化の担い手として期待されるでしょう。技術進歩とともに激変する環境を、インフルエンサー市場のプレイヤーたちは柔軟に乗りこなし、さらに豊かな創造と経済活動を繰り広げていくに違いありません。
■世界のインフルエンサー
ビジネス・起業分野のインフルエンサー
ビジネスや起業家精神の分野でも多くのインフルエンサーが活躍しています。彼らはSNSやブログ、YouTube、ポッドキャスト、あるいはLinkedInなどを通じてビジネスノウハウやマーケティング手法、自己啓発に関する情報を発信し、起業家志望の若者やビジネスパーソンから支持を集めています。フォロワーにとって有益なアドバイスやモチベーションを与えるコンテンツが多く、しばしば自身も起業家・投資家として成功している点が信頼性につながっています。
主なビジネス系インフルエンサーの例:
Gary Vaynerchuk(アメリカ) – 通称“GaryVee”。デジタルマーケティング会社のCEOであり、連続起業家としても著名です。Instagramフォロワーは約1000万人、TikTokやYouTube、Twitterなど全プラットフォームで強い存在感を持っています。主にソーシャルメディア戦略や起業アドバイス、モチベーション喚起のメッセージを発信し、その歯に衣着せぬ語り口と高い熱量が特徴です。彼のターゲット層は若い起業家やマーケター、クリエイター志望者で、コンサulting的なアドバイスや自身の体験談をコンテンツにしています。投稿のエンゲージメントも高く、コメント欄ではファンとの活発なやり取りが見られます。NikeやPepsiなど大企業とのコラボや、自身が投資するスタートアップのPRを行うこともあり、その影響力はブランド戦略にも及んでいます。成功の要因としては、時代のトレンドをいち早く捉え新興プラットフォーム(TikTokなど)を積極的に活用する先見性、どんな質問にも率直に答える双方向のコミュニケーション、そして「とにかく量をこなせ(量が質に転化する)」という独自のコンテンツ戦略などが挙げられます。Gary本人も最新テクノロジーへの関心が高く、AIの活用にも前向きです。実際、コンテンツの分析や効率化にAIツールを導入し、SNS投稿の最適なタイミング分析や大量のコメントへの対応に役立てていると言われます。2024年以降もWeb3やNFT、AIなど新技術に絡めた発信でさらに影響力を拡大していくと見られています。
Neil Patel(アメリカ) – デジタルマーケティングとSEO(検索エンジン最適化)の分野で世界的に有名なインフルエンサーです。Neilは自身のブログやYouTubeチャンネル、ポッドキャストでマーケティング戦略の解説やウェブサイトの集客方法を発信し、マーケターや中小企業オーナーを中心に大きな支持を得ています。SNSフォロワーは各プラットフォームで数百万規模(例えばTwitterで約40万人、Instagramで約30万人、YouTubeチャンネル登録者は100万人超など)ですが、それ以上にブログの月間訪問者数が数百万に及ぶなど、検索経由で情報を得る読者層にも浸透しています。彼のコンテンツは実践的なTipsやデータに基づく分析が特徴で、専門的な内容を分かりやすく解説するスキルが高いエンゲージメントにつながっています。Neil Patelは自身のマーケティングツール(Ubersuggestなど)も提供しており、これは彼が築いた信頼によって多くのユーザーに利用されています。ブランドコラボとしては、自身がマーケティング顧問を務めたり一部の企業のキャンペーン協力を行うこともありますが、基本的には独自ブランドを前面に出した活動が多いです。成功の要因は、SEO分野で自身がまさに権威である点と、ブログや動画を通じて一貫して価値の高い情報提供を続けてきた点にあります。彼もまた技術の活用に長けており、AIについてもコンテンツアイデアの生成や記事作成の補助などに活用する動きを見せています。例えば、検索トレンドをAIで分析し今後伸びそうなトピックを見つけ出す、といったアプローチでコンテンツ戦略を練っているようです。2024年以降、検索エンジンやソーシャルメディアのアルゴリズム変化があっても、最新のAIテクノロジーを取り入れて先進的なマーケ手法を提示し続けるでしょう。
Grant Cardone(アメリカ) – 不動産投資家かつセールストレーナーとして知られる人物で、オンラインでは強烈なキャラクターを発揮するインフルエンサーです。YouTube登録者数は約200万人、Instagramフォロワーも数百万規模に上り、特に起業家や不動産投資に興味のある層に影響力があります。Grantは**「10Xルール」(目標も行動も10倍にせよ)という独自の成功哲学を掲げ、自己啓発的なメッセージや投資アドバイスを発信しています。豪快なライフスタイルや成功談を前面に出すことで視聴者のモチベーションを喚起し、セミナーやオンライン講座への誘導もうまく行っています。彼の投稿には熱狂的な支持者からのコメントが多数付き、同時に批判的意見も見られますが、それも含めて高いエンゲージメントを生んでいます。Grant自身がブランドとなっており、カードーン・キャピタルなど自社ビジネスの宣伝も兼ねています。成功の要因は、強い個性と明快なフレームワーク(10Xなど)によって分かりやすい成功イメージを提供したこと、そしてSNSライブ配信やイベント開催などでファンとの接点を増やしコミュニティ化**していることです。AI活用に関しては、Grant自身が直接言及することは少ないものの、マーケティングチームが広告ターゲティングや顧客データ分析にAIを用いて効率化を図っていると推測できます。将来的にはバーチャルアシスタントを使った顧客対応なども考えられるでしょう。今後も彼のような自己啓発型ビジネスインフルエンサーは、経済状況の変化に応じて投資知識やマインドセットをアップデートしつつ、根強い需要が続く見込みです。
Marie Forleo(アメリカ) – 女性起業家のロールモデル的存在で、ビジネスと自己啓発のハイブリッドなコンテンツを発信しています。彼女はオンラインビジネススクール「B-School」の創設者であり、YouTubeの「MarieTV」やポッドキャストで起業アドバイスや人生相談を提供しています。フォロワーはInstagramで約80万人、YouTube登録者も約80万人とビジネス分野では上位クラスです。コンテンツのターゲットは女性の起業家志望者やクリエイターで、難しいビジネス概念を軽快な語り口とポジティブなエネルギーで伝えるのが特徴です。ファン層からは「聞くと元気になれる」「行動する勇気をもらえる」といった反応が多く、コメント欄もコミュニティのような温かい雰囲気です。MarieはOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)など著名人とも対談経験があり、ブランドコラボというよりは自分自身がブランド化した存在です。成功の背景には、早い時期からYouTubeを活用し映像クオリティにも拘ったこと、女性の悩みに寄り添う共感力と具体的な解決策の提示、この2点が挙げられます。彼女も最新ツールの導入に積極的で、AIではコンテンツ制作のワークフロー簡略化(例えば動画の自動文字起こしや要約)を図ったり、受講生の質問対応にチャットボットを試験導入するなどの取り組みをしています。2024年以降はデジタル教育やオンラインコミュニティが一層広がる中で、Marieのように教育系インフルエンサーとしての側面も強めつつ、更にグローバルなファンベースを築いていくでしょう。
その他の注目ビジネス系インフルエンサー:
Tim Ferriss(アメリカ) – ベストセラー『4時間仕事週』の著者で、ライフハックや起業・投資分野の情報を発信。ポッドキャスト「The Tim Ferriss Show」は再生回数が億を超え、世界中の起業家や自己改善マニアから支持されています。実業家やアスリートへのインタビューを通じて成功の秘訣を引き出すスタイルで、深い分析と実践的なTipsが人気です。フォロワー数はTwitter約170万人、Instagram約150万人など。高度なバイオハック(自己最適化技術)なども紹介し、最新テクノロジー(AI含む)への知見も深いです。
Naval Ravikant(アメリカ) – テック業界の投資家ですが、その思想的なツイートが話題を呼び「哲学する投資家」として知られます。Twitterフォロワーは約180万人。人生や幸福、富の原則についての短い箴言のような投稿が多く、スタートアップ関係者だけでなく幅広い層にインサイトを提供しています。自身はAI関連の投資も行っており、AIによる社会変革についても発言しています。
Dan Lok(カナダ) – ビジネス系YouTuberで「高額セールスの達人」として知られます。登録者は約400万人。富裕層向けのビジネスメンタリングやセールストーク術を伝授するコンテンツが中心で、ラグジュアリーな暮らしぶりを背景に説得力ある語りを展開しています。
渋谷雄大(日本) – 日本のビジネスインフルエンサーとして挙げられるのが、渋谷さん(仮名)などの経営者YouTuberです。彼は中小企業経営者ながら、自社の成長過程や経営ノウハウ、時に失敗談も赤裸々に語る動画を配信し、国内の若手起業家から注目されています。登録者数は数十万人規模ですが、動画一本ごとの再生数が多く、コメント欄では視聴者同士が情報交換する様子も見られます。国内では他にもホリエモンこと堀江貴文氏(実業家)、前澤友作氏(起業家)など著名起業家がSNSで影響力を持っていますが、彼らは既にオフラインでの名声があるケースです。SNSネイティブな新興ビジネス系インフルエンサーも増えており、日本においてもLinkedIn上で専門知識を発信する人や、Twitterでスタートアップ情報をまとめるアカウントなどが登場しています。
ビジネス系インフルエンサー分野の動向: ビジネスインフルエンサーは、その知識やノウハウの提供を通じてフォロワーに実利をもたらす点で強い支持を得ます。エンゲージメントも「ためになった」「早速試してみる」といった前向きな反応が多く、フォロワーとの間に信頼関係を築きやすい特徴があります。ブランドから見ると、彼らとコラボすることで自社サービスの信頼性向上や認知獲得が期待でき、たとえばソフトウェア企業がマーケティング系インフルエンサーをアンバサダーに起用するケースも増えています。成功要因としては専門性と個性の両立が重要で、一貫したテーマ(マーケ、投資、自己啓発など)を軸にしつつ、その人ならではの語りやキャラクターを確立していることが挙げられます。また、YouTubeの長尺解説からTikTokの短尺モチベーション動画までマルチフォーマットで発信する戦略や、オンラインサロン・有料講座などでコアファンを収益化するビジネスモデルも一般的になっています。AIの活用は他分野以上に進んでいる傾向があります。特にデータ分析やマーケティングオートメーション分野ではAIツールが発達しており、フォロワーの反応データをもとに次のトピックを決めたり、コンテンツのABテストを効率化したりするなど、意思決定支援としてAIをパートナー的に使うインフルエンサーが増えています。2024年以降は、AIが生成したコンテンツと人間の経験知との融合が進むでしょう。例えば自分の話し方を学習させたAIに下書きを作らせ、それを本人がブラッシュアップして発信する、といった半自動化も現実味を帯びています。ビジネス領域は変化が激しいため、インフルエンサーたちも常に学び続ける姿勢が必要であり、その過程自体をコンテンツ化する動きもあります(新しいビジネス書を読みライブ配信で議論、最新ツールを試してレビューする等)。総じて、ビジネス系インフルエンサーは今後も実用的価値と個人的魅力を融合させながら進化し、フォロワーのキャリアやビジネス成功を後押しする重要な役割を果たし続けるでしょう。
ファッション・美容系のインフルエンサー
ファッションとビューティ(美容)は、インフルエンサーが最も活発に活躍する分野の一つです。華やかなビジュアルコンテンツが映えるInstagramやYouTubeを主戦場に、最新トレンドの紹介からメイクテクニックの指南、コーディネート提案、さらには自身のブランド展開まで、多彩な形で影響力を行使しています。フォロワーの主な層はティーンから30代くらいまでの女性が多いですが、男性ファッションやグルーミングの分野で人気のインフルエンサーも存在します。特に美容分野ではユーチューバー出身の若者が自身のコスメブランドを立ち上げて成功する例も増え、インフルエンサー発のブランドは市販品にも劣らぬ影響力を持っています。
主なファッション・美容インフルエンサーの例:
Chiara Ferragni(キアラ・フェラーニ、イタリア) – ファッション分野で世界的に知られるトップインフルエンサーです。彼女は2009年に個人のファッションブログ「The Blonde Salad」を始め、洗練された着こなしとライフスタイルを発信して人気を博しました。その後Instagramを中心に影響力を拡大し、現在ではInstagramフォロワー数が約2,800万人に達しています(※2023年時点で2,600万超とも報じられています)。主な活動プラットフォームはInstagramですが、ブログ発の影響力ということでWebメディアや自身のECサイトも展開しています。コンテンツは最新のファッションコーディネート、旅行先での写真、家族との日常など多岐にわたり、ターゲット層はファッション感度の高い若年女性から世界中のモード関係者まで幅広いです。Chiaraの投稿1件あたりの「いいね」は数十万に及び、エンゲージメント率はフォロワーが非常に多いにも関わらず高水準を維持しています。ブランドとのコラボ実績も多数で、これまでにルイ・ヴィトン、ディオール、シャネルなどラグジュアリーブランドのキャンペーンに起用され、一緒にコレクションの発表イベントに登場するなど、もはやファッション業界に欠かせない存在です。また自身のファッションブランドも立ち上げており、Chiara Ferragni Collectionとしてアパレルや靴、アクセサリーを販売しています。成功の要因としては、ブログ黎明期からスタートした先行者メリットに加え、洗練されたファッションセンスとビジネス感覚を併せ持っていたことが大きいです。SNS上では常にトレンドの最先端を発信しつつも、自身のプライベート(結婚・出産など)もオープンに共有して親近感を与えています。こうした「カリスマ性と共感度の両立」がファンを惹きつけるポイントでしょう。AIの活用状況として明確に公言されてはいませんが、Chiaraのチームは投稿の最適化やトレンド分析にデータツールを使っており、その中にはAIによるフォロワーの反応分析も含まれると考えられます。またファッション業界では近年AIによるバーチャル試着やトレンド予測も行われており、彼女のブランド運営においてもそうした最新技術を取り入れている可能性があります。2024年以降もChiara Ferragniは自身のグローバルな影響力を背景に、デジタルとリアルを融合させた新たなファッションビジネスモデルを切り拓いていくことが期待されています。
Huda Kattan(フーダ・カタン、アメリカ/中東) – 美容(ビューティ)領域で世界的トップクラスのインフルエンサーであり起業家です。Hudaは中東出身のバックグラウンドを持ち、米国でメイクアップアーティストとして活動後、2010年頃に美容ブログとInstagramでメイクのチュートリアルを発信し始めました。その分かりやすい解説とゴージャスなルックスが評判となりフォロワーを急増させ、現在Instagramフォロワー数は約4,800万人に上ります。さらに彼女は自身のコスメブランド「Huda Beauty(フーダビューティ)」を2013年に立ち上げ、つけまつげなどの商品が大ヒット、現在では世界的コスメブランドに成長しています。Hudaのコンテンツは主にメイク術紹介や新商品のレビュー、ビフォーアフターの写真などで、ターゲット層はコスメ好きの女性(特に中東や欧米の若年層)ですが、メイク初心者にも分かりやすい内容で幅広く支持されています。Instagram投稿の反応は常に数十万の「いいね」と数千件のコメントが付き、またYouTubeチャンネルも登録者数400万人以上でメイク動画が人気です。ブランドコラボとしては自社ブランドが活動の中心ですが、有名ファッション誌への登場や、他の美容ブランドとのイベント参加なども積極的です。成功の要因は、彼女自身が持つ高いメイクスキルとカリスマ性に加え、それをソーシャルメディアで戦略的に発信した点です。Instagramでのインパクトあるビジュアルと短い動画で人々の関心を掴み、さらに起業家精神で質の高い商品を生み出したことで「フォロワーが顧客」に転じました。いわゆるインフルエンサーエコマースの先駆け的存在です。AI活用については、美容分野ではAR技術やAI色彩分析などが進んでおり、HudaのブランドもアプリでAIによるバーチャルメイク試用を提供しています。SNS面では、投稿文生成やハッシュタグ分析にAIを利用し、より多くのユーザーにリーチする工夫を凝らしている可能性が高いです。今後、彼女のような美容インフルエンサー兼起業家はますます増えるでしょうし、Huda自身も2024年以降はAIを活用したパーソナライズコスメ(顧客一人ひとりに合う色や質感をAI提案するサービス)など新機軸を打ち出すかもしれません。
Kylie Jenner(カイリー・ジェンナー、アメリカ) – 元々テレビのリアリティ番組で有名になったカーダシアン一家の一員ですが、SNS上で巨大な影響力を持つセレブリティインフルエンサーでもあります。彼女のInstagramフォロワー数は約4億人(世界上位5位以内)に達し、投稿一つあたりの影響は絶大です。Kylieは2015年に自身のコスメブランド「Kylie Cosmetics」を創業し、若者向けのリップキットが爆発的に売れたことで一躍「史上最年少でセルフメイド億万長者」として話題になりました。彼女のSNS発信は主にファッションやメイクの写真、自身のライフスタイル(子どもとの写真など)で、きらびやかな生活を見せつつもファンとの距離感を保つ絶妙なブランディングをしています。ターゲット層はティーンから20代前半の女性が中心で、「憧れのお姫様」的な存在として支持されています。Kylieの投稿はしばしば何百万という「いいね」を集め、製品を手にした写真を投稿すると瞬時に完売する現象(いわゆる「Kylie効果」)が起きることもあります。ブランドコラボとしては、自身のブランド以外にもファッションブランドとの限定コレクションや姉妹との共同プロジェクトなど様々です。例えばスポーツブランドPumaのキャンペーンモデル、ファッションブランドPrettyLittleThingとのコラボなどが挙げられます。成功の背景には、家族の有名さを土台にしつつ、自身のSNSを駆使してダイレクトにファン層を築いた点があります。テレビスターからソーシャルメディアスターへの移行を成功させ、さらに起業家としてモノづくりに才能を発揮しました。彼女のSNS戦略はプロチームによる裏支えもあり、投稿のタイミングや内容が緻密に計算されています。AIへの取り組みとしては、これだけフォロワーが多いとコメント管理やスパムフィルタにAIが役立っているでしょう。またKylie Cosmeticsでは顧客データ分析にAIを導入しトレンドを追跡、商品企画に活かしていると推測されます。今後の展望として、Kylieほどの超巨大インフルエンサーになると一人の人間の域を超えた影響力ですが、彼女自身はさらにファッションラインへの拡大や新しい美容サービスの展開など、ブランド帝国を広げる可能性があります。またフォロワーとより親密に交流するためにメタバース空間やAIチャットボットを使って疑似的にコミュニケーションするような試みも出てくるかもしれません。
James Charles(ジェームズ・チャールズ、アメリカ) – 美容系YouTuberとして10代で頭角を現し、男性でありながら女性向けコスメのメイク術を巧みに紹介する先駆者です。JamesのYouTubeチャンネル登録者数は約2,380万人、Instagramフォロワー約2,200万人(※2023年時点)と美容分野でトップクラスのフォロワー数を誇ります。彼のコンテンツは大胆なメイクのチュートリアルや変身企画、有名人とのコラボ動画などエンタメ性が高く、若い視聴者(主に10〜20代女性)を中心に熱狂的なファンを持っています。Jamesはカバーガール社の広告塔に男性として初起用されたことでも話題になり、美容業界のジェンダーの壁を破った象徴的存在です。エンゲージメントは非常に高く、新作動画には数万件規模のコメントが付くことも珍しくありません。ただし、彼は過去に炎上や論争も経験しており、その際はフォロワーが減少したり一時活動を休止するなど浮き沈みもありました。とはいえ現在も依然トップインフルエンサーであり続けており、自身のコスメブランド構想もたびたび噂されます(※一時「Sisters」というブランド展開を示唆していました)。成功の要因は何よりもメイクアップ技術の高さと、視聴者を引き込む明るいキャラクターでしょう。派手な見た目とは裏腹に動画内でのトークは親しみやすく、多様性や自己表現を肯定するメッセージを発信しているため、Z世代の支持を得ています。AI活用について表立った話はないですが、Jamesのチームは動画編集に高度なソフトウェアを使っており、その中でAIによる映像補正や自動編集機能などを活用している可能性があります。また炎上対策としてSNS上の言及分析にAIを使い、危機管理に役立てているかもしれません。今後、美容インフルエンサーが増える中で、James Charlesも新たな差別化を図る必要があります。おそらくARメイク(スマホカメラでJames考案のメイクをバーチャル試着できるフィルター)や、AIを使ったファンとの対話イベントなど、新技術を取り入れたコンテンツも企画していくでしょう。
Nikkie de Jager(ニッキー・デ・ヤガー、オランダ) – オンライン名はNikkieTutorials。欧州発ながら英語で発信し、世界中から支持を受けるビューティYouTuberです。YouTube登録者数は約1,400万人、Instagramフォロワーも約1,700万人に上ります。彼女はプロのメイクアップアーティストとして、驚異的なビフォーアフターを見せるメイク術動画で一躍有名になりました。特に2015年に投稿した「Power of Makeup」(すっぴんとフルメイクの顔半分ずつを見せる動画)は大反響を呼び、世界的なムーブメントになったほどです。Nikkieのターゲットは幅広いメイク愛好者で、ナチュラルメイクからドラマチックな特殊メイクまで幅広い技術を紹介します。エンゲージメントも高く、視聴者からの信頼も厚いです。2020年には自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトし、大きな支持と賞賛を得ました。これにより多様性のアイコンとしても認識され、国連の動画企画でホストを務めるなど活躍の場を広げています。ブランドコラボは、化粧品ブランドのToo FacedやBECCA Cosmeticsとのコラボ商品の開発、また自身の名前を冠したコスメの限定リリースなどがあります。成功のポイントは、卓越したメイク技術はもちろんのこと、彼女の誠実でユーモアのある人柄がファンから愛されている点です。自身の弱さや過去も隠さず共有することで、視聴者との強い絆を築いてきました。AIとの関わりでは、最近の動向としてNikkieTutorialsのチャンネルでもAIでプロデュースされたメイクルックに挑戦するなど、話題のAI技術を積極的に取り上げています。たとえば「AIが提案したメイクに従って化粧してみた」などの企画動画が公開され、数百万回視聴されています。これはエンタメ要素もありますが、AIが色の組み合わせやスタイルをどう提案するか興味深い実験であり、視聴者の関心を引きました。Nikkie自身もAIをアイデア出しのサポートとして活用することに前向きであると語っています。2024年以降、彼女のようなクリエイティブなインフルエンサーはAIとコラボレーションしながら新しい美の表現を模索していくでしょう。
その他の注目ファッション・美容インフルエンサー:
Jeffree Star(ジェフリー・スター、アメリカ) – 奇抜な見た目と歯に衣着せぬ物言いで人気の美容インフルエンサー。YouTube登録者約1,600万人、Instagramフォロワー約2,100万人。自身のメイクブランド「Jeffree Star Cosmetics」を立ち上げ成功させた実業家でもあります。派手なレビュー動画でコスメの良し悪しを率直に評価し、強烈なファン層を抱えます。エンゲージメントは高いですが、過激な発言で論争になることも。成功要因は唯一無二のキャラクターとビジネスセンスの融合です。AIには言及していませんが、商品開発においてトレンド分析等にデータ活用しているでしょう。
Zoe Sugg(ゾーイ・サグ、イギリス) – 通称Zoella(ゾエラ)。英国を代表する元祖YouTuberの一人で、ファッション・美容・ライフスタイル全般を発信。YouTube登録者は約1,000万人(近年動画投稿は減)、Instagramフォロワー約920万人。彼女はコスメやホームグッズの自社ブランドも展開し、小説も執筆するなど多才です。ターゲットは10代〜20代の女性で、穏やかな語り口とガーリーな世界観が特徴。成功要因は早期参入とファンとの長年の信頼関係です。最近は育児も話題にしており、コンテンツの幅を広げています。
Lauren Conrad(ローレン・コンラッド、アメリカ) – リアリティ番組出身でInstagramフォロワー約600万人。ファッションデザイナーや作家としても成功しており、インフルエンサーとしては洗練されたライフスタイルやDIY、料理など幅広く発信。自身のファッションライン「LC Lauren Conrad」も好評です。大規模セレブとは距離を置きつつ、フォロワーに親しまれる存在感を維持しています。
Bretman Rock(ブレットマン・ロック、アメリカ) – フィリピン系の男性美容インフルエンサーで、コメディ要素の強いキャラクターです。Instagram約1,500万人、YouTube約900万人。斬新なメイクとユーモアあふれる動画で人気を博し、MTVのリアリティ番組にも主演しました。エンゲージメントも非常に高く、ブランドコラボではCrocsやNIKEともパートナーシップを組んでいます。
石井美保(日本) – 日本の美容インフルエンサーとして有名なのが石井美保さんなどの美容家です。彼女はスキンケアの達人としてテレビや雑誌にも登場しつつ、Instagramでもフォロワー約30万人に日々の美容ルーティンや商品レビューを発信しています。ターゲットは主に20代後半〜40代の女性で、「美魔女」的な憧れを抱かせる存在です。エンゲージメント率が高く、紹介したコスメが店頭で売り切れるなどの現象も。日本では他に渡辺直美さん(お笑い芸人からファッションアイコン化、Instagram約1,000万人)や、モデルの水原希子さん(Instagram約650万人)もファッション・美容における強い影響力を持っています。
ファッション・美容分野の動向: この分野のインフルエンサーは、特にInstagramやYouTubeで活発に活動し、その視覚的な魅力でファンを惹きつけています。写真一枚から流行のメイクや服装が瞬時に世界中へ拡散し、ブランドの命運を左右することもあります。エンゲージメント指標で見ると、トップクラスのフォロワー数を持つインフルエンサーでは「いいね」率が数%程度になることもありますが、それでも絶対数としては何百万という反応が返ってきます。一方、マイクロインフルエンサー(例えばフォロワー数が5万~10万程度)の中にも特定のスタイルで熱心なフォロワーを持つ人がいます。彼らはフォロワーとの距離が近いため、コメント返信やコミュニティ運営を細やかに行い、エンゲージメント率が10%を超えることもあります。ブランドから見れば、大物インフルエンサーとのコラボは一夜にして知名度を飛躍させる効果がある反面、コストも高く競合商品の露出も多いです。そのため最近では、複数のマイクロインフルエンサーに商品を提供し口コミを広げる戦略も広まっています。
成功の要因としては、この分野ではビジュアルの質が非常に重要です。プロ並みの写真撮影・編集技術、動画であれば照明やカメラワークへの投資が不可欠です。同時に、フォロワーに親近感を持ってもらうための人柄やストーリー性も鍵となります。単に美しいだけでなく、その人のライフストーリーや価値観に共感が集まることで長期的な支持につながります。例えばプラスサイズ(大きいサイズ)モデル出身のインフルエンサーが体型肯定(ボディポジティブ)のメッセージを発信して共感を得たり、男性がメイクをすることでジェンダーレスの美を提唱したり、そうした社会的な意義を持たせる動きも目立ちます。また、ファッション・美容インフルエンサーはしばしば自身のブランドを立ち上げることで収入源を多角化しています。コスメライン、アパレルブランド、フレグランス、ネイル製品など様々です。フォロワーにとっては「憧れの◯◯さんと同じメイクができる」「彼女がプロデュースした服を着たい」という欲求がありますので、インフルエンサー自身が広告塔となり非常に効率的にマーケティングできます。
AIの活用状況については、ファッション・美容の世界でもじわじわと影響が出ています。まずコンテンツ制作面では、画像加工アプリにAIが使われており、美肌フィルターや自動レタッチ機能はすでに日常的に利用されています。さらに高度な例では、バーチャルメイク(自分の顔写真にAIがメイクシミュレーションをする)を試してから実際の商品を買うというEC体験も一般化しつつあります。インフルエンサー自身も、フォロワーがそうした技術を使えるよう自社アプリを提供したり、AIで作成した参考イメージを見せたりしています。またファッションAIとして、過去のトレンドデータから次シーズンの流行を予測し投稿内容を先取りする、といった高度な戦略も考えられます。人気インフルエンサーは多くのフォロワーからDMやコメントを受け取りますが、すべてに目を通すのは困難です。そこでAIチャットボットを導入し、よくある質問に自動応答したり、膨大なコメントを感情分析して内容を把握する取り組みも始まっています。
2024年以降のトレンドとして、ファッション・美容業界では**サステナビリティ(持続可能性)**が大きなテーマになっています。インフルエンサーたちも環境に配慮したブランド(サステナブルファッション、クルエルティフリーの化粧品など)を積極的に紹介したり、自らエシカルブランドを立ち上げる動きを見せています。また、バーチャルインフルエンサー(後述しますがAIやCGで作られた架空のモデル)の存在も無視できません。ファッション誌の紙面やブランド広告にデジタルモデルが起用される例も増え、Lil MiquelaのようにSNS上で人間と見紛うほどの人気を得ているキャラクターもいます。ただ現時点では人間のインフルエンサーほどの共感や生々しい影響力は持っていないため、当面は人間インフルエンサーとの共存となるでしょう。技術面ではARグラスやメタバース上でファッションショーが開催されるなど、新たなプラットフォームが生まれつつあり、先進的なインフルエンサーはそこにも活動領域を広げています。総じて、ファッション・美容インフルエンサーの世界は競争も激しいですが、常に若い才能が登場し、テクノロジーと融合しながら進化し続けると予想されます。
旅行・ライフスタイル系のインフルエンサー
美しい風景写真や異国での冒険談に憧れるフォロワーは多く、旅行分野のインフルエンサーも非常に人気があります。また、旅行と日常生活を掛け合わせたライフスタイル系の発信もSNSでは一大カテゴリになっています。これらのインフルエンサーはInstagramで魅惑的な景色の写真を投稿したり、YouTubeで旅のVlog(ビデオブログ)を公開したりして、フォロワーに疑似体験を提供します。ターゲット層は旅行好きの若者からリタイア後の観光愛好家まで幅広く、コンテンツによってはファミリー層やバックパッカー志向など様々なセグメントがあります。
主な旅行・ライフスタイル系インフルエンサーの例:
Murad Osmann(ムラド・オスマン、ロシア) – インスタグラム発の伝説的旅行インフルエンサーです。彼と妻のナタリアが始めた「Follow Me To」という写真シリーズは一度は目にしたことがある人も多いでしょう。女性(妻)がこちらに手を差し伸べ、男性(Murad)の手を引いて世界各地の絶景に佇むという構図の写真で、2012年頃から投稿が拡散し大ブームとなりました。MuradのInstagramフォロワーは現在約390万人で、旅行分野ではトップクラスです。活動地域は世界中で、特定の拠点に留まらず各国を飛び回っています。コンテンツはほぼ写真で、加えてYouTubeやブログで舞台裏を少し紹介する程度ですが、何と言っても写真の芸術性が際立ちます。彼のフォロワーは写真好きや旅好きが中心で、特にカップル旅行の憧れとして支持されています。エンゲージメントは高く、「どこの場所か知りたい」「夢のようだ」といったコメントが多数寄せられます。ブランドコラボは、旅行関連企業(航空会社やホテル、観光局)と組むことが多く、例えば航空会社のプロモーションで特定ルートの旅に出たり、高級リゾートの魅力を伝える写真を撮ったりしています。またカメラメーカーとのタイアップや、自身が写真展を開催するなどアート寄りの展開もあります。成功の秘訣は何よりもコンセプチュアルな写真でオンリーワンの世界観を作り上げたことです。「FollowMeTo」は一種のブランドとなり、他の誰も真似できないニッチを確立しました。彼のケースではAI活用は直接見えませんが、最近では類似の構図をAIが自動生成する試みも出ており、Murad本人も新たなクリエイティブ手法に興味を示しています。今後、VRや360度カメラなどでフォロワーがより没入できる体験を提供することにもチャレンジするかもしれません。
Jack Morris(ジャック・モリス、イギリス) & Lauren Bullen(ローレン・ブレン、オーストラリア) – この2人はカップルで活躍する旅行インフルエンサーです。JackはInstagramアカウント「@doyoutravel」で約270万人のフォロワー、Laurenは「@gypsea_lust」で約200万人のフォロワーを抱えており、共に旅行写真やライフスタイル投稿で有名です。彼らは若い頃にそれぞれ仕事を辞め世界中を旅し始め、SNSで出会ってカップルとなりました。以来、息の合ったパートナーとして各地を転々とし、美しいビーチやリゾートでの写真を量産しています。コンテンツの特徴は、カラフルで夢のようなトラベルフォトと、旅先でのカジュアルな日常スナップです。フォロワーの多くは20〜30代の旅行好きで、「こんな風に仕事を辞めて世界を旅したい」という憧れをかき立てられています。JackとLaurenの写真はどれも雑誌のグラビアのようなクオリティで、Instagram上ではベンチマークとされるほど。エンゲージメントは安定して高く、コメント欄でフォロワー同士が旅情報を交換することもしばしばです。ブランドコラボは、旅行先の高級ホテルとのタイアップ宿泊、観光局のキャンペーン参加、さらにはカメラやドローンなどガジェット系企業との契約など多岐にわたります。また彼ら自身も写真編集用のプリセット(Lightroomというアプリ用のフィルタ)を販売するなど、フォロワーが自分たちのような写真を撮れる商品を提供しています。成功の要因は、フォトジェニックなロケーション選びと一貫した編集スタイル、そして2人ならではのロマンスストーリーです。カップルであること自体がブランディングになっており、フォロワーは旅と同時に彼らの関係性にも興味を持っています。AIの活用については、写真の選別やレタッチ作業を効率化するためにAI搭載の画像処理ソフトを活用している可能性があります。またドローン撮影の自動飛行ルート設定などテクノロジーの恩恵も受けています。今後はインフルエンサーとして成熟する中で、旅のスタイルも変わっていくかもしれません。例えば子供が生まれればファミリー旅行インフルエンサーとなり、新たな層に影響力を拡大できるでしょう。
Drew Binsky(ドリュー・ビンスキー、アメリカ) – 世界中の全ての国を訪れた人物として知られる旅行YouTuberです。彼は10年間で197ヶ国すべてを制覇し、その旅の模様をYouTubeやFacebookで発信して大きな注目を集めました。YouTube登録者は約300万人、Facebookフォロワーはさらに多く、バイラル動画が何度も再生数数千万回に到達しています。彼のコンテンツは各国の文化紹介、人々との触れ合い、さらには「1日◯◯円で暮らす」などその土地のリアルな姿を伝えるものが多いです。豪華なリゾートや絶景だけでなく、時には危険と言われる地域にも足を踏み入れ現地の人々との交流を見せることで、「世界には良い人がたくさんいる」という前向きなメッセージを発信しています。ターゲット層は好奇心旺盛な若者から中年層まで幅広く、特に世界一周やバックパッカーに憧れる人々です。コメント欄には各国の視聴者から感謝の声(自分の国を紹介してくれて嬉しい等)や、旅へのインスピレーションをもらったという声が数多く寄せられています。ブランドコラボとしては、旅行アプリや航空券検索サイトの宣伝、旅行グッズの提供などがありますが、Drew本人は比較的商業色を抑え、あくまで旅そのものを中心に据えています。成功の要因はまず圧倒的な行動力でしょう。全ての国を訪れるという偉業そのものが話題性を生み、メディアにも取り上げられました。また動画は編集テンポがよく、数分間でその国の魅力が凝縮されていて視聴しやすい点も支持を得ました。彼の人柄(陽気で誰とでも友達になれる)が画面を通じて伝わり、それが世界中にファンを作った原動力です。AIについては、膨大な映像素材の管理にAIを導入しているかもしれません。映像内の自動タグ付けや、過去動画の人気要素分析などが考えられます。2024年以降、Drew Binskyは全国制覇後の次なるチャレンジを模索しています。最近では深掘りコンテンツ(各国の特定の文化にフォーカスした長編ドキュメンタリーなど)に取り組み始めており、AIを使ったデータジャーナリズム的な要素を取り入れる可能性もあります(例:各国の統計データをビジュアル化して見せるなど)。旅コンテンツのジャンルとしては、コロナ後に再び海外旅行熱が高まる中、安全情報や健康管理など新しい観点も出てきていますが、彼のような経験豊富な旅人はそれらを踏まえつつ視聴者の冒険心をかき立てる役割を担い続けるでしょう。
Rosanna Pansino(ロザンナ・パンスィーノ、アメリカ) – ライフスタイルの一部として料理やベーキング(お菓子作り)を発信するインフルエンサーです。彼女は元々YouTuberとして「Nerdy Nummies(ナーディー・ナミーズ)」というキャッチーなお菓子作り動画で人気となり、チャンネル登録者は1,300万人以上に達しています。ケーキやクッキーをアニメやゲームのキャラクターの形にデコレーションするといったオタク文化と料理を融合させたコンテンツが特徴で、子供から大人まで楽しめる内容です。Instagramフォロワーも450万人以上おり、日々の生活や他の趣味(クラフトやインテリア)の発信もしています。Rosannaのターゲット層は若年層(特に女性やファミリー)で、一緒に作ってみたくなるような親しみやすい雰囲気が売りです。視聴者とのエンゲージメントも強く、投稿には「子どもと一緒にこのレシピを作ったよ!」など微笑ましい報告が多数寄せられます。ブランドコラボは、製菓用品メーカーとの共同開発や、料理本の出版、さらにはNetflixの料理番組出演など多方面に広がっています。彼女自身が料理器具のラインを持っており、エプロンやケーキ型などを商品化して成功させています。成功の要因は、ユニークなテーマ設定(オタク×料理)と、10年以上コツコツと動画投稿を続けた継続力、そして明るく前向きなキャラクターです。AIの利用については、公言はないものの、料理動画でもレシピの最適化や動画編集効率化にAIを利用するケースが出ています。例えば、Rosannaの過去レシピデータをAIが分析し視聴回数との相関を見ることで「次は◯◯風のケーキがウケそう」と予測を立てることも理論上可能でしょう。また、視聴者が実際にレシピを作った際の写真を自動で集めてコミュニティに表示するといったファン参加型施策にもAIが使えるかもしれません。ライフスタイル系では、家族や子どもをコンテンツに含めるケースも多く見られますが、その際にはプライバシー配慮や批判も出るため、Rosannaのように本人中心の内容で人気を保つスタイルは長期的に安定していると言えます。2024年以降、料理・ライフスタイル分野のインフルエンサーは健康志向やエコ志向の高まりを受け、ヘルシー料理やプラントベース料理(植物由来食品)など新しいテーマにも挑むでしょう。Rosanna自身もレシピの幅を広げたり、AIとコラボした料理創作企画(「AIが考えたケーキデザインを再現」など)を行う可能性があります。ライフスタイル全般のトレンドとしては、自宅時間の充実やDIYブームが続いており、その文脈で料理・クラフト・インテリアのインフルエンサーの需要は今後も高いと予想されます。
その他の注目旅行・ライフスタイル系インフルエンサー:
Nas Daily(ナス・デイリー、本名Nuseir Yassin、イスラエル) – 1分間の短尺動画で世界の様々なカルチャーや人々を紹介することで有名になったクリエイター。Facebookでのフォロワー数が1,900万人以上、YouTubeやInstagramでも活躍。彼は「1000日間、毎日1本1分動画を投稿する」というチャレンジを達成し、その中で各国を巡って感動的なストーリーを伝え、多くの視聴者を獲得しました。現在は自身のメディア会社を立ち上げ、他のクリエイターの支援や教育にも力を入れています。コンテンツは旅だけでなく社会問題やテクノロジーなど幅広く、インフォテインメント(情報+娯楽)の先駆例です。
The Bucket List Family(バケットリスト・ファミリー、アメリカ) – 家族4人で世界中を旅する様子をSNSやYouTubeで発信するファミリー系インフルエンサー。両親のGarrettとJessica Gee、そして幼い子供たちが一緒に各国を訪れ、家族旅行の魅力や子供の成長をリアルに共有しています。YouTube登録者約150万人、Instagramでも家族全員のアカウント合計で数百万人のフォロワーがおり、特に若い親世代から共感と羨望を集めています。家族旅行向けのブランド(ホテルやアクティビティ)とのコラボが多く、アットホームでハートウォーミングなコンテンツが人気です。
Eva zu Beck(エヴァ・ズ・ベック、ポーランド) – 女性ソロトラベラーとしてアドベンチャラスな旅を次々と行うYouTuber/Instagramマーです。中東やアフリカなど他の旅行者が敬遠しがちな場所にも果敢に飛び込み、現地の人々との交流や過酷な環境でのサバイバルを映し出します。フォロワー数はInstagramで約80万人、YouTubeで150万人ほど。安全や健康管理など現実的な情報も含め発信することで、女性一人旅に勇気を与えています。
高橋歩(日本) – 日本における旅インフルエンサーの例として、高橋歩氏は異色の存在です。彼は若い頃世界一周し、その体験記をベストセラーにした冒険家・作家ですが、SNS(Instagram約20万人フォロワー)でも自由奔放なライフスタイルを発信しています。家族で沖縄に移住し、ゲストハウス経営やイベント開催など多彩な活動を展開。フォロワーは「人生を旅のように楽しみたい」という共感から支持しています。
旅行・ライフスタイル分野の動向: 旅行系インフルエンサーは、Instagramで写真を見るだけでも楽しめる手軽さから、常に高い人気があります。しかしコロナ禍で海外旅行が制限された時期には、一時的にコンテンツが難しくなりました。その間、多くの旅行インフルエンサーは過去旅の思い出をまとめたり、国内旅行・アウトドアにテーマをシフトしたりして乗り切りました。2022年以降、海外旅行が徐々に復活すると再び彼らの活動も活発になり、リベンジトラベル(我慢していた分、派手に旅行する)の需要に応えています。エンゲージメントは綺麗な風景写真に対する賞賛コメントだけでなく、「この場所に行くにはどうすれば?」といった具体的な質問も多く見られ、実用情報と憧れの両面が交錯しています。ブランド側では観光業界がインフルエンサーをマーケティングに起用するケースが増え、自治体や政府観光局がキャンペーンでインフルエンサーを招致することもしばしばです(インフルエンサーツアーを開催し、その様子をSNS発信してもらうなど)。またカメラ・ガジェット企業、アウトドアブランド、ファッション(旅先の服装提案)などコラボの幅も広いです。
成功要因としては、まず写真・映像のクオリティが重要です。プロ顔負けのドローン空撮や、インスタ映えする構図の研究など、技術面の努力が欠かせません。同時に、旅行ならではのストーリーテリングも魅力を高めます。ただ美しいだけでなく、その土地での人間模様やエピソードをうまく語れるインフルエンサーは特に強い繋がりを築きます。近年は単にラグジュアリーな旅を見せるよりも、ローカル体験やサステナブルツーリズム(環境・文化に配慮した旅)の発信が増えています。例えば地元の人と料理を作る体験、野生動物の保護活動に参加する旅など、深みのあるコンテンツが評価される傾向にあります。
AIの活用では、旅行プランニングにAIを使う例が考えられます。例えば、どの場所が次に流行しそうかデータ分析したり、フォロワーからの膨大なおすすめ情報をAIで整理したり。コンテンツ制作面では写真整理や自動タグ付けにAIが役立ち、映像編集でも自動でハイライトシーンを抽出してくれるツールが存在します。また、多言語対応もAI翻訳で容易になり、インフルエンサーが自分のコンテンツを複数言語に対応させグローバル展開するハードルが下がっています。実際、英語圏以外のインフルエンサーが自動翻訳字幕を付けて世界中に視聴者を広げる例も出ています。
2024年以降の展望として、旅行インフルエンサーはリアルタイム配信とコミュニティ形成がキーワードになるでしょう。5Gなど高速通信が普及したことで、旅先からのライブストリーム配信がよりスムーズになり、フォロワーがリアルタイムで旅を追体験できるようになります。チャットで視聴者が「次はあの通りに行ってみて!」と指示し、それに応えるような双方向の旅コンテンツも考えられます。またファンを集めてオフ会的に一緒に旅行する企画や、オンラインコミュニティで旅情報を交換する場を作る動きも増えています。技術面では、VR旅行やメタバース観光なども実験段階ですが、現地に行かずとも体験できるコンテンツが出てくるかもしれません。そうなった場合も、現地の空気感や人々との触れ合いといった人間味の部分はやはり旅インフルエンサーが強みとするところであり、テクノロジーを活用しつつ人間らしい視点を提供できる人が生き残っていくでしょう。
食・料理系のインフルエンサー
食べ物や料理の分野も、SNS上で非常に人気の高いテーマです。レシピ動画や美味しそうな料理の写真、グルメレポートなど、視覚と想像力を刺激するコンテンツが豊富に作られています。料理系インフルエンサーには、プロのシェフから家庭料理の達人、さらには大食いチャレンジで名を馳せる人まで多様なタイプが存在します。また近年は**モッパン(モクバン、Mukbang)**と呼ばれる、食べる様子を配信するスタイルもアジア発で世界中に広がりました。食のインフルエンサーは人々の食欲を刺激するだけでなく、新しいレシピや食材の流行を作り出す力も持っています。
主な食・料理系インフルエンサーの例:
Gordon Ramsay(ゴードン・ラムゼイ、イギリス) – 世界的に有名なミシュラン星付きシェフであり、テレビの料理番組で歯に衣着せぬ辛口コメントでおなじみですが、SNSでも一大インフルエンサーです。TikTokでは約3,700万フォロワー(2023年時点)を抱え、一般の人の料理動画にコメント反応するシリーズが大ヒットしました。彼が他人の料理動画を見て「なんだこれは!?」と驚いたりツッコミを入れたりする様子が面白いと若年層に受け、テレビとは別の形で人気が再燃しています。Instagramフォロワーも1,600万人以上、YouTubeも700万人以上おり、自身のレシピ紹介やレストラン事業の裏側など多彩なコンテンツを投稿しています。ターゲット層は世界中の料理ファンで、特にTikTokではティーンから20代にもリーチしています。エンゲージメントは非常に高く、コメント欄は半分ジョークのような応酬で盛り上がっています。ブランドコラボとしては、自身が経営するレストランやキッチン用品の宣伝をSNSで行ったり、食品メーカーとのタイアップもあります。成功の要因は既存の名声をSNS用にうまくリパーパス(再活用)した点です。プロの権威あるシェフが若者文化のTikTokでユーモア溢れる自己パロディを演じるギャップがウケました。また料理人としての確かな腕と知識が根底にあるため、単なるおもしろ動画に留まらず信頼感もあります。AIについて直接の関与は不明ですが、彼のチームはSNS分析に最新テクノロジーを取り入れているでしょうし、ラムゼイ氏自身もテレビ制作などで最新機材を使いこなしています。今後も著名シェフがSNSでカジュアルにファンと交流するスタイルは広がり、彼はその先駆けとして位置づけられます。
Salt Bae(ソルトベイ、本名Nusret Gökçe、ヌスレット・ギョクチェ、トルコ) – 一振りの塩で世界的スターになったシェフ兼インフルエンサーです。彼はステーキ店のオーナーシェフとして2017年頃、肉をカットして肘越しに塩を振る独特の所作がSNSで大流行し「Salt Bae(塩の兄貴)」の愛称で呼ばれるようになりました。そのわずか数秒のジェスチャー動画がきっかけでInstagramフォロワーは瞬く間に増え、現在は約5,000万人に達しています。彼の投稿は豪快な肉料理の動画や、各界の有名人が自分の店を訪れた様子などが中心です。ターゲット層はグルメ好き・肉好きの人々や、彼のキャラクター自体のファンなど多岐にわたります。エンゲージメントも高めで、あの塩振りポーズを真似したコメントや絵文字が飛び交います。ブランド展開として、彼は自身のステーキハウス「Nusr-Et」をトルコから中東、アメリカ、ヨーロッパと多店舗展開しており、インフルエンサーとしての知名度が店舗ビジネスに大きく貢献しています。またスパイス商品などをEC販売する計画も噂されます。成功要因は何と言っても強烈なバイラルヒットです。セリフもなく技術も関係ない「塩の振り方」だけでブランディングに成功した例は極めてユニークで、一度見たら忘れないインパクトがありました。もちろんバックにはおいしいステーキという実体があるので、一過性のミームで終わらずリアルなビジネスにつながりました。AIとの関わりは薄そうですが、もしかすると店の運営で監視カメラ映像をAI解析してサービス改善とか、先進的なことをしている可能性もゼロではありません。Salt Bae現象以降、料理人や店員がちょっとした芸でバズる例が増え、飲食業界もSNS時代に合わせた演出を意識するようになりました。2024年以降も、彼はその知名度を活かして新店舗を出したり、次のバズを狙うようなパフォーマンスを考えているかもしれません。
Binging with Babish(ビンジング・ウィズ・バビッシュ、本名Andrew Rea、アメリカ) – 独創的な料理YouTuberで、映画やドラマに登場する料理を再現するというコンセプトで人気を博しました。彼のYouTubeチャンネル「Babish Culinary Universe」の登録者数は約1000万人に達しています。例えば映画『シェフ』に登場するキューバンサンドイッチや、アニメ『千と千尋の神隠し』の料理など、フィクションの中の食べ物を実際に作ってみせる動画シリーズ「Binging with Babish」が大ヒットしました。対象コンテンツが多岐にわたるため、料理ファンのみならず映画・アニメファンなど幅広い層を取り込んでいます。Andrew自身は顔出しせず、上半身(胸から下)だけ映して手元を集中して見せる独特の撮影スタイルと、落ち着いたナレーションが特徴です。ターゲット層は主に20~40代の男性を含む料理好き・ポップカルチャー好きの視聴者で、家庭で真似する人も多いです。コメント欄にはリクエストが多数寄せられ、それを拾って次の動画を作るなど双方向のコミュニケーションも活発です。ブランドとのコラボとして、調理器具メーカーとのタイアップや、食品ブランドの宣伝がさりげなく動画内に登場することもありますが、基本的には提供パートを設けつつコンテンツの主旨を崩さないよう配慮されています。成功の理由は、ユニークな発想と実現力です。誰もが「見たことあるけど食べられない」架空の料理を食べてみたいという願望を形にし、そのプロセスを丁寧に見せてくれます。映像は洗練されていますが奇をてらわず、教養ある語り口も相まって安心して視聴できる点も人気の秘密です。AI活用としては、視聴者からのリクエスト管理や過去動画データの分析に役立てている可能性があります。また最近はAI画像生成で架空の料理画像を作る試みも一部で見られるため、Babishがそうした画像を元に実際に調理してみる、といった企画も将来あるかもしれません。2024年以降、料理インフルエンサーは非常に競争が激しくなっていますが、彼のように差別化されたテーマを持つ人は根強くファンを維持するでしょう。また自前のスタジオを持ち映像プロダクション化する動きもあり、Babishも料理スクールのオンライン展開やレシピ本出版など事業を拡大しています。AIは裏方として制作効率を上げるのに使われ続け、インフルエンサーたちはよりクリエイティブな部分に注力できるようになるでしょう。
Yuka Kinoshita(木下ゆうか、日本) – フードファイター(大食い)として日本で有名になり、YouTubeでも世界的に人気を得たインフルエンサーです。彼女のYouTubeチャンネル登録者数は約550万人で、日本人女性ではトップクラスの登録者を誇ります。コンテンツは大盛りの料理をひたすら美味しそうに食べるというシンプルなもので、本人は小柄な体格ながら驚異的な量を食べ切る様子が痛快だと支持されています。言語の壁がほとんど無い内容(字幕で簡単な英語説明を付ける程度)なので海外からの視聴者も多く、コメント欄には多言語の書き込みが混在します。Yukaのターゲット層は世界中の食べることが好きな人、ストレス解消にモッパンを見る人など幅広く、特にアジア圏で人気です。エンゲージメントは高く、視聴者がリクエストしたメニューを次々と試したり、視聴者提供の大盛レシピを実践したりと、ファン参加型の企画も行っています。企業とのコラボでは、新発売のカップ麺を大量に食べてPRしたり、レストランの巨大メニューに挑戦する動画を投稿するなど、ユニークなタイアップが見られます。成功の要因は、日本のテレビ番組で確立された大食いタレントというキャラクターをYouTubeというグローバルプラットフォームにうまく持ち込んだ点です。本人の明るく可愛らしい性格と、予想を裏切る大食漢ぶりのギャップが人々を惹きつけ、さらに「美味しそうに食べる」ことで見ている側も幸せな気分にさせます。AIとの関連は薄そうですが、ASMR的な要素(食べる音の心地よさ)もモッパンの魅力であり、音声分析AIでより良いマイク設定を模索するなど技術面の追求は考えられます。2024年以降、モッパンは健康への懸念(過剰な暴飲暴食)も指摘されるため、インフルエンサー側も栄養管理や健康診断の様子を公開するなど透明性を意識する動きが出るかもしれません。Yuka自身も年齢を重ねる中で体調管理に気を遣いながら活動しており、適宜コンテンツの方向性を調整しています。フードエンターテインメント全般では、食×他ジャンルの融合(食べながらゲーム実況、大食いしながら旅行紹介など)も増えており、AIが絡むなら「AIロボットと大食い対決」といった未来的企画も夢ではないでしょう。
その他の注目食・料理インフルエンサー:
Mikky Suzanne(ミッキー・スザンヌ、韓国) – 韓国発のモッパンYouTuber。美しい盛り付けと咀嚼音ASMRを重視した動画で人気を集めています。カラフルなお菓子や巨大な料理を独特の静けさで食す様子は中毒性があり、登録者は500万人近く。食べ物そのものを主役に据え、自身の顔は出さないスタイルです。ASMR要素にAIで音響調整を取り入れる例もあります。
Nick DiGiovanni(ニック・ディジョバンニ、アメリカ) – 若手シェフ系インフルエンサー。料理コンテスト番組「MasterChef」で頭角を現し、TikTokやYouTubeで軽快な料理ショート動画を量産して人気者に。TikTokフォロワー約1000万人、YouTube登録者約800万人。巨大な食材に挑戦したり、意外な料理実験などエンタメ性の高い企画が多いです。プロ志向ながらSNS映えを熟知しており、将来の料理界を担う存在として注目されています。
街頭料理系チャンネル – 個人ではありませんが、世界各地のストリートフードを紹介するYouTubeチャンネル(例えば「The Food Ranger」「Mark Wiens」「Dhruv Rathee Food」など)は、グルメと旅行の要素が融合した人気カテゴリーです。これらもインフルエンサー的な影響力を持ち、現地屋台が動画きっかけで観光名所化することも。AIによる字幕自動生成や多言語展開を積極活用してグローバル視聴者を獲得しています。
リュウジ(日本) – 日本の料理インフルエンサーで、手軽なレシピをTwitterやYouTubeで発信することで大ブレイクしました。フォロワーから「バズレシピ」と呼ばれるレシピ群はどれも簡単で美味しいと評判で、彼の紹介した食材や調味料がスーパーから消える現象も起きました。YouTube登録者数は約300万人。成功の鍵は、家庭で誰もが再現できる平易さと時短・節約ニーズへの合致です。AI活用として、過去の反響データから次のレシピ案を考える支援などが考えられます。
食・料理分野の動向: 料理インフルエンサーは、視聴者の生活に直結する価値を提供できるため、フォロワーとの結びつきが強いです。実際に動画や投稿を見て同じ料理を作ってみる人が多く、コメント欄やTwitterでは「作ってみた」報告が飛び交います。これは他の分野にない積極的なエンゲージメントと言えます。したがって調味料メーカーや食品ブランドにとって、インフルエンサーが自社商品を使ったレシピ動画を出す効果は計り知れず、PR案件も盛んです。たとえばインスタント食品にアレンジを加える企画、特定産地の食材を使った料理紹介など、地域振興にも繋がるようなコラボもあります。
成功の要因をまとめると、わかりやすさと独創性のバランスが重要です。難しすぎる専門料理ではなく、視聴者がイメージできる身近さが必要ですが、一方で誰でも考えつくものではない新奇性やエンタメ性も求められます。そこで、エンタメ寄りの人は大食いや変わり種料理で驚きを提供し、実用寄りの人は斬新だけど簡単なレシピで「これ作りたい!」と思わせています。また、美味しさの伝え方も大切で、映像越しに香りや食感を想起させるようなリアクション(おいしい!という表情や音)や描写力が求められます。
AIの活用状況としては、レシピ生成AIや栄養分析AIが開発されています。今後、インフルエンサーがAIと協力してレシピ開発するケースもあるでしょう。例えば「冷蔵庫の余り物を入力するとAIがレシピを提案し、それをインフルエンサーが実際に作って評価する」といった企画はすでに一部メディアで実験されています。画像認識AIが料理写真からレシピを推測する技術も発展しており、インフルエンサーが投稿する写真に自動でレシピタグを付けたり、視聴者が「この料理作りたい」と思ったときAIが材料リストを即座に出してくれたりする未来も近いかもしれません。
2024年以降のトレンドとして、ヘルシー志向と制限食(ビーガン、グルテンフリー、ケトジェニックなど)への関心が高まり続けるでしょう。既にその分野で人気のインフルエンサーも多数おり、彼らはレシピの栄養バランスや健康効果をデータで示すなど、専門性を深めています。AI栄養士のような技術を取り入れて、自分のレシピの栄養素を自動計算し公開するインフルエンサーも現れるかもしれません。またコロナ禍で一度伸びたおうちご飯ニーズは定着し、新しい調理家電(エアフライヤーや電気圧力鍋など)の普及に伴い、それらを駆使したレシピ提案も人気です。AI搭載のスマートキッチン家電も登場しており、レシピと連動した調理自動化なども進むでしょう。そうした中でも、人間のインフルエンサーが果たす役割は、単なる作業手順提供ではなく、「作ってみたい」「食べてみたい」と思わせる感情の喚起です。AIが完全自動で料理動画を生成できる時代が来ても、温かみのある解説や失敗談も含めた人間らしさは付加価値として残り、引き続き料理インフルエンサーの世界は盛り上がっていくと考えられます。
ゲーム・eスポーツ系のインフルエンサー
ゲーム実況やライブストリーミングは、インフルエンサー文化を語る上で欠かせない巨大ジャンルです。特にYouTubeとTwitch(ゲーム配信プラットフォーム)では、ゲームプレイを観ること自体が一大エンターテインメント産業となっており、トップゲーム実況者・配信者は他のジャンルに匹敵する莫大なフォロワーと影響力を持っています。ゲーム系インフルエンサーは主に実況プレイ動画(ゲームをプレイしながら解説・リアクションする)やライブ配信(リアルタイムでゲームをプレイし視聴者とチャットで交流)を行い、視聴者はそのスキルやリアクション、キャラクターを楽しんでいます。またeスポーツ(プロゲーミング)選手もSNSでファンコミュニティを形成しており、ストリーマー(配信者)との垣根が曖昧になるケースも多いです。
主なゲーム・eスポーツ系インフルエンサーの例:
PewDiePie(ピューディパイ、本名Felix Kjellberg、スウェーデン) – 言わずと知れた元世界一のYouTuberであり、ゲーム実況ジャンルを世に広めた第一人者です。彼のYouTubeチャンネルは個人として初めて登録者数1億人を突破し(現在約1億1,100万人)、長年トップクリエイターとして君臨しました。コンテンツは当初ホラーゲームのリアクション実況で人気となり、その後ゲームに限らずエンタメ全般の動画(ミームレビューや日常Vlogなど)も行うようになりました。現在はやや投稿頻度を減らしつつも根強いファンがいます。彼のターゲット層は主に10代後半から20代の若者で、当初は欧米圏が中心でしたが、人気拡大とともに世界中にファンを獲得しました。エンゲージメントは動画1本につき何十万件ものコメントが付くほどで、ファンコミュニティは非常に活発です。PewDiePieの成功要因は、先行者利益と圧倒的な親しみやすさでしょう。YouTube黎明期にいち早くカジュアルなゲーム実況スタイルを確立し、視聴者とフレンドのような関係を築いたことで支持を集めました。また時に炎上やトラブルも経験しましたが、その度に率直な対応や自己改革で乗り越え、ファンとの信頼を維持してきました。ブランドコラボとしては、自身のゲームやアパレルをリリースしたり、コラボグッズ(椅子やキーボードなど)を出しています。一般企業の広告塔になることは少ないですが、影響力の大きさからゲーム会社が彼に新作をプレイしてもらうよう打診することもあります。AIとの関連は直接は少ないですが、彼のコンテンツにもAIに言及するネタが登場したり、動画編集でAI字幕生成を利用したりは考えられます。2024年以降、PewDiePie個人は既に半隠居的ですが、彼が築いたゲーム実況文化は多くのフォロワー(後進クリエイター)に受け継がれています。彼の名前を出すだけで商品が売れる影響力は今も健在で、今後もレジェンド的存在として語り継がれるでしょう。
Ninja(ニンジャ、本名Tyler Blevins、アメリカ) – 元プロゲーマーで、Fortnite(フォートナイト)の実況配信で爆発的な人気を得たストリーマーです。Twitchで一時はフォロワー数世界一(約1700万人)を誇り、2018年頃にFortniteブームとともにスターダムに駆け上がりました。彼の特徴はハイレベルなプレイスキルとエネルギッシュな実況で、子供から大人まで幅広いファンを持ちます。Fortniteで有名アーティストのドレイクと共にプレイ配信した際には同時視聴者数の記録を塗り替えるなど、大きな話題となりました。その後、プラットフォームの移籍(Twitchから一時Mixerへ)なども経験しましたが、現在もYouTubeやTwitchで活動し続けています。Ninjaのターゲット層は主に子供・ティーンのゲーマーで、彼自身も明るくクリーンなイメージを心がけています。エンゲージメントは配信中のコメント数やチャットの盛り上がり、SNSでの言及など極めて高く、彼のスキン(ゲーム内のキャラクター衣装)がFortnite内で発売された際には大きな売上を記録しました。ブランドコラボとしては、レッドブルやアディダスとスポンサー契約を結び、彼のロゴ入りヘッドバンドやゲーミングシューズが発売されたりしました。またメインストリームへの進出として、米人気番組に出演したり、自伝的な本を出版したりもしています。成功の要因は、eスポーツ的な技術力とエンターテイナー的な魅せる力の両立でしょう。難易度の高いプレイをしながらテンション高く喋り続けるという離れ業をこなし、観る側を飽きさせません。彼は配信者としてのプロ意識も高く、一定の配信スケジュールを守り続けファンとの接点を大切にしてきました。AIの活用としては、ライブ配信のモデレーション(不適切なコメントを自動検出して除去)が考えられます。実際、TwitchなどではAIチャットボットが導入されており、Ninjaのチャットでもそうしたツールがコミュニティを健全に保つのに寄与しています。また、今後AIがゲーム内の味方NPCを賢くしてくれると、ソロ配信者でもよりドラマチックな展開を作れるかもしれず、そうした技術進歩も期待されます。2024年以降、Ninjaほどの知名度はゲーム外でも広告塔として引き合いがあり、ゲーム業界全体の発展に貢献する存在となっています。ストリーマーという職業の社会的認知を高めた第一人者でもあり、その道を追う若者も世界中に増えています。
Shroud(シュラウド、本名Michael Grzesiek、カナダ) – 元プロFPSプレイヤーで、超人的なエイム(照準合わせ)力から「人間エイムボット(人力チート)」とも呼ばれる伝説的なゲーマーです。彼はCounter-Strike: Global Offensiveの元プロで、引退後ストリーマーに転向。Twitchフォロワー約1050万人を抱え、特にFPSジャンルでトップクラスの人気があります。Shroudの配信は、バトルロイヤルゲーム(PUBGやApex Legendsなど)や新作FPSを中心に展開され、その正確無比な射撃スキルと落ち着いた解説が魅力です。ターゲットは主にハードコアゲーマーですが、プレイの上手さ目当てで見るカジュアル層もいます。彼は騒がず冷静なプレイスタイルであるにも関わらず、見せ場では視聴者が沸き立つという独特の盛り上がり方があります。エンゲージメントとしては、チャット欄で彼のプレイを称賛するコメントや、他のプロからのリスペクトなど、コミュニティ内での評価が非常に高いです。ブランドコラボでは、ゲーミングPCやデバイスのスポンサー契約、また自身のブランドアパレル展開などがあります。成功の背景には、プロ仕込みの技能と、ストリーマーへのスムーズな移行があります。引退したプロが必ずしも人気配信者になれるわけではありませんが、Shroudはゲームセンスと観戦の楽しさを両立できる稀有な存在でした。彼の配信を見ること自体がFPSの勉強になるという声も多く、攻略情報としての価値も提供しています。AIに関して言えば、FPSゲーム開発ではAIによるエイムアシストやチート対策が取り沙汰されますが、Shroud自身は「自分がAIに負ける日は来るか?」と冗談めかして語る場面もあります。実際、ゲームAIが人間を超える動きを見せる例も出てきていますが、それをエンタメとして昇華できるのが彼のような配信者でしょう。2024年以降、Shroudは新作ゲームが出るたびに一目置かれる存在であり続けます。ゲーム会社側も、彼が配信で扱ってくれることで製品の評価が高まるとして注目しています。eスポーツ業界でも彼のように引退後配信で成功するモデルが確立されたことで、選手のセカンドキャリアの道が広がりました。
Pokimane(ポキマネ、本名Imane Anys、カナダ) – 女性ストリーマーとして世界で最も有名な一人です。Twitchフォロワー約940万人で女性トップ、YouTubeも680万人以上の登録者がいます。彼女はLeague of Legendsなどのゲーム実況で人気になりましたが、現在は雑談配信やリアクション動画などコンテンツを多角化しています。親しみやすい性格とトーク力で視聴者を惹きつけ、女性ゲーマーの代表格的存在となっています。ターゲット層は10~30代のゲーマー全般ですが、特に女性ファンも多く、「ゲーム女子」のロールモデルとして支持されます。エンゲージメントはファンアートが大量に生まれたり、SNS上で彼女に関するミームが流行ったりと非常に活発です。またコミュニティ運営にも熱心で、ファンとの雑談や相談にも乗る場面が見られます。ブランドコラボとして、ファッションブランドとの提携や、化粧品ブランドのキャンペーン起用(ゲーマーのライフスタイルを意識したコスメPRなどユニークな案件も)があります。成功のポイントは、安定した配信頻度とセルフブランディングでしょう。日常の身近な話題を交えながら配信することで、視聴者に友達のように感じさせ、長時間視聴を苦にさせません。女性ゆえの誹謗中傷なども受けましたが、それにも毅然と対応し、業界の女性支援活動にも声を上げるなどリーダーシップも発揮しています。AIの面では、Pokimaneが所属するTwitchなどはAIモデレーションが進んでいるほか、彼女自身もAIボイスチェンジャーで遊んでみせたり、AIキャラとのコラボ配信(VTuberとの共演など)も経験しています。今後は自分のAI分身を作ってみたい、といった興味も示しており、自分のスタイルでAIを取り込むかもしれません。2024年以降、女性ストリーマーはさらに増え、多様なジャンルで活躍するでしょう。Pokimaneは自身の影響力を使って新人育成やプラットフォーム改善にも関与し始めており、単なる配信者に留まらず業界のオピニオンリーダー的存在になりつつあります。
その他の注目ゲーム・eスポーツ系インフルエンサー:
Markiplier(マークプリヤー、本名Mark Fischbach、アメリカ) – ホラーゲーム実況で人気を博したYouTuber。登録者数は約3500万人。演技力豊かなリアクションが特徴でゲーム実況以外にスケッチコメディや、自主制作のインタラクティブ映画(YouTubeの機能を使った企画)などにも挑戦しています。映像制作や声優としての才能も評価され、Netflix作品にも出演。エンゲージメントはファンコミュニティの結束が強く、慈善活動への参加呼びかけにも多くのフォロワーが応えます。
MrBeast(ミスタービースト、Jimmy Donaldson、アメリカ) – 厳密にはゲーム分野ではなくエンタメ全般ですが、ゲームチャンネル「MrBeast Gaming」を持ちMinecraftやAmong Usなどの企画動画を配信しています。本チャンネル(登録者約2.3億人)と分けてゲーム専門でも活動し、ゲームイベントに莫大な賞金をかけて注目を集めました。ゲーム業界ともコラボが多く、自身がFortniteにキャラクタースキンとして登場したこともあるなど異分野連携の成功例です。
Rubius(ルビウス、スペイン) – スペイン語圏No.1のゲーム実況者。YouTube登録者約4000万人、Twitchフォロワーも1300万人以上。マインクラフトなどサンドボックス系からホラー・インディーゲームまで幅広く実況し、スペイン語圏のインフルエンサーの代表格となっています。彼はアニメ好きのオタク的側面も持ち合わせ、コミカルな編集で笑いを誘うスタイル。言語の壁を超えて一部英語圏からも注目を浴びています。
歌い手・VTuber – 日本発祥の特殊なカテゴリとして、「ゲーム実況をするバーチャルYouTuber(VTuber)」が挙げられます。例えばKizuna AIは2016年に登場した世界初期のVTuberで登録者300万人超、ゲーム実況動画も多く投稿しました。現在はホロライブやにじさんじといったVTuber事務所から多数のVTuberがデビューしており、彼らはアニメキャラのような外見ながら中の人はゲーム好きな配信者です。視聴者は2次元キャラがゲームする不思議な光景を楽しみます。VTuberはAIではなく人間ですが、モーションキャプチャ技術などテクノロジーの産物であり、AI音声アシスタントとの違いが薄れる場面も出てきています。日本国内やアジア圏で特に大きな市場を形成しており、ホロライブの兎田ぺこらさんなどはYouTube登録者220万人、ゲーム実況の同接(同時視聴者)が数万人規模と非常に活発です。
ゲーム・eスポーツ分野の動向: ゲーム系インフルエンサーは、フォロワーとの関係が他分野と少し異なります。それはリアルタイム性と双方向性が強い点です。特にライブ配信は視聴者がチャットで話しかけ、配信者がそれに応答するというコミュニケーションが魅力の一つで、視聴者は「○○さんに自分のコメントを読んでもらえた!」という喜びを感じます。このインタラクションが高いエンゲージメントに繋がり、投げ銭(寄付)やサブスクライブ(有料会員)といった直接的な支援も頻繁に行われます。一方、人気配信者ほどコメント数が膨大になり全てに応えられなくなるため、コミュニティマネジメントが重要です。モデレーターを置いたり、独自のDiscordサーバーでファンと交流したりといった取り組みが見られます。
成功の鍵は、ゲームの上手さだけではなくエンタメ性です。ゲームプレイそのものは誰でもできるものですが、視聴者を楽しませる工夫(面白いリアクション、ユーモアのセンス、絶叫や驚きの表現、時に失敗を笑いに変える力)がある人が成功します。また近年ではコラボが盛んです。人気配信者同士がチームを組んでゲーム内で対戦・協力する配信は、一人ひとりのファンが相互に行き来し視聴者数を押し上げます。これにより「配信ユニバース」のようなものが形成され、グループ全体でのイベント(オンライン大会やチャリティ配信)も開催されます。
AIの役割はこの領域で徐々に増えています。まずコンテンツ管理AIとして、前述のモデレーションAIがチャット荒らしを抑制したり、著作権違反の音楽を自動ミュートしたりする役割があります。またハイライト自動生成も注目されています。長時間の配信から面白い部分だけ切り抜く作業は人力では大変ですが、AIがコメント数の多い瞬間や声の抑揚データを分析して要点を抽出し、短縮版動画を作る技術が開発されています。すでに一部の配信者はAI生成のダイジェストを編集の叩き台に使って効率化を図っています。さらに言語面では、自動字幕や同時通訳AIが導入されつつあります。人気配信者がリアルタイムで多言語に翻訳されれば、言葉の壁を越えてファン層を拡大できるでしょう。
2024年以降、ゲーム業界自体の進化もインフルエンサーに影響します。例えばVRゲームやメタバース空間が一般化すれば、配信者は視聴者により没入感のある体験を共有できます。実際VRチャットなど仮想空間で遊ぶ配信も増えています。AIを搭載したNPC(ノンプレイヤーキャラ)が会話できるゲームも出始めており、配信者がゲーム内でAIキャラと雑談するという新しい絵面も登場するでしょう。またeスポーツの更なる発展で、プロ選手自身がインフルエンサーとなる例が増えています。伝統スポーツ同様に、選手がファンサービスとしてSNSや配信に力を入れる傾向です。League of Legendsの世界的選手Faker(韓国)などはその好例で、競技の合間にTwitch配信しファンとの距離を縮めています。こうしたプロとストリーマーのハイブリッドも今後一般的になるでしょう。
ゲーム配信界隈では心の健康問題も話題になっています。長時間の配信や不規則な生活、チャットでの誹謗中傷などが重なり、燃え尽き症候群やメンタル不調に陥るクリエイターもいます。これに対し、適切な休養の取り方や、コミュニティのルール整備などが議論されています。AIもヘイトコメントの自動検知や、クリエイターの声のトーンからストレスを察知するなど、人間をサポートする方向で役立つ可能性があります。業界全体として健全に発展するには、インフルエンサー自身が無理なく活動を続けられる環境作りが重要になってきています。
総じて、ゲーム・eスポーツのインフルエンサーはこれからもデジタルエンターテインメントの中心に位置し、新作ゲームのヒットの火付け役になったり、ファン文化を形成したりと大きな影響を及ぼすでしょう。
テクノロジー・科学系のインフルエンサー
ガジェットやPC、最新テクノロジーの紹介を専門にするインフルエンサーも多く存在します。またサイエンスコミュニケーション分野で活躍する教育系インフルエンサーもここに含めます。テクノロジー系はYouTubeの黎明期から人気ジャンルで、デジタルガジェットのレビュー動画は高い再生数を稼いできました。専門的な知識が求められる分野ですが、難解な技術を噛み砕いて伝えたり、実際の製品を分かりやすく評価したりすることで視聴者の購入判断に大きな影響を与えています。
主なテクノロジー・科学系インフルエンサーの例:
Marques Brownlee(マルケス・ブラウンリー、アメリカ) – 通称MKBHD。テック系YouTuberのトップランナーであり、「世界最高のテックレビューアー」とも称されています。彼のYouTube登録者数は約1,980万人(2025年初頭時点)で、スマートフォンをはじめとする最新ガジェットのレビュー動画が主力コンテンツです。高校生の時からYouTubeにガジェットレビューを投稿し始め、年々映像クオリティと解説の精度を上げてファンを増やしてきました。ターゲット層はガジェット好きの10~40代男性が中心ですが、プレゼン力が高いためライトユーザーでも楽しめます。動画1本あたりの再生回数は数百万が当たり前で、大型製品のレビューでは1000万回を超えることもあります。エンゲージメントは視聴数の割にコメントは落ち着いた議論が多く、「このレビューを待ってから購入を決める」という視聴者の信頼が窺えます。Marquesは影響力の大きさから、スマホメーカーなど企業から製品発表会に招待されたり、製品サンプルを事前提供されたりすることが当たり前になっています。それだけでなく、Elon MuskやBill Gatesにインタビューした経験もあるなど、テック業界の著名人との対話を実現しています。彼の成功要因は、まず専門知識の豊富さと客観的で誠実なレビューです。良い点も悪い点もバランスよく指摘し、公平性を保っているため視聴者は信用します。また映像制作にこだわり、カメラ・照明・編集すべてプロフェッショナルレベルであることも、視聴体験を向上させているポイントです。AIの活用も非常に積極的で、2023年には自身のニュース解説チャンネル「Waveform」でAI(ChatGPT)に番組スクリプトを書かせる実験を行ったり、動画内でAI生成画像を話題にしたりしています。Marquesはテックレビューの中で新しいAI搭載機能(例えばスマホカメラのAIモードなど)を分析し解説することも多く、その理解の深さが視聴者に重宝されています。2024年以降も彼はテック分野の権威として、レビューのみならずテクノロジー業界のトレンド分析や企業動向の解説など活躍の幅を広げていくでしょう。彼のような存在は、消費者とメーカーの橋渡し役としてますます重要になっています。
Linus Tech Tips(ライナス・テック・ティップス、カナダ) – 本名Linus Sebastian。PCやガジェット全般を扱うテック系YouTuberで、チャンネル登録者数は約1,630万人を誇ります(サブチャンネル含めグループ全体でさらに多くの登録者がいます)。彼は元々パソコンショップの店員で、その知識を活かして2008年にYouTubeチャンネルを開設、以降十数年にわたり精力的に動画投稿を続けてきました。コンテンツは新製品の開封レビュー、PCの組み立てや改造企画、テクノロジーの実験企画(極端な高額PCを作る、珍しいガジェットを試す等)など多彩です。Linusのチームは現在従業員数十名規模のメディア企業に成長しており、毎日複数のチャンネルで動画を公開しています。ターゲット層はDIY志向の強いPCゲーマーやハードウェア愛好家が中心で、年齢層も10代後半から40代まで幅広いです。エンゲージメントはコミュニティフォーラムも運営しており、ファンは動画へのコメントだけでなく独自のファンコミュニティで情報交換するなど深く関与しています。ブランドコラボとしては、PCパーツメーカーや周辺機器ブランドとのスポンサー契約が多く、動画内で提供された製品を使うことがあります。ただしLinus Tech Tipsはスポンサーがあっても忖度しないレビュー姿勢で知られ、欠点ははっきり指摘するためかえって信頼を得ています。成功の理由は、濃い技術情報をエンタメとして消化して提供する能力です。専門的なPC自作話もユーモアを交えて楽しく見せ、視聴者の知的好奇心を満たします。また彼は2010年代前半からコミュニティ作りに力を入れ、フォーラムやグッズ販売でファンとの繋がりを強固にしました。技術的チャレンジ企画(自作でMac Proに挑戦など)はバズりやすく、多くのテックファンを惹きつけています。AIの利用についても、新技術に敏感なLinusのチームは既に一部動画の字幕生成や映像補正にAIツールを使っているでしょうし、動画ネタとしてもAIを多く取り上げています。例えば「AIが選んだパーツでPCを組んだらどうなるか」といった企画が考えられ、彼らならいずれ実現しそうです。今後もテック系の第一線で活動を続けると同時に、インフルエンサーから一企業経営者として大規模メディアを運営する存在としても注目されます。組織としての安定運営が課題になりつつありますが、2024年以降もファンとの対話を大切にしながら業界に影響を与え続けるでしょう。
Unbox Therapy(アンボックス・セラピー、カナダ) – 本名Lewis Hilsenteger。商品の開封(unboxing)動画ジャンルを確立した第一人者的存在です。YouTube登録者数は約1,880万人。彼はテーブルに座って箱を開け、中身を取り出して紹介するというシンプルな形式でありながら、独特のトークとリアクションで魅せるスタイルが人気です。特に2014年に公開したiPhoneを曲げる実験動画(#BendGate)は大きな話題を呼び、一躍トップクリエイターの仲間入りをしました。ターゲット層はガジェット好きな男性が主ですが、彼の動画は製品紹介というよりショーに近く、幅広い視聴者を獲得しています。例えば「世界最大の○○をアンボックスしてみた」といった変わり種の商品も取り上げ、驚きや笑いを提供しています。ブランドコラボでは、提供されたガジェット類をそのまま取り上げるケースもありますが、彼の意見は忌憚なく述べられるため、企業も品質に自信があるものを送り込んでいるようです。成功の秘訣は、フォーマットの確立と常に新鮮な驚きを提供してきた点です。開封動画自体はシンプルですが、Lewisはトレンド感度が高く、視聴者が興味を持つガジェット(最新スマホはもちろん、ユニークなクラウドファンディング製品や高級デバイスなど)をタイムリーに選んで紹介します。また彼のリアクションは決して大げさ過ぎず、それでいて視聴者の感情を代弁する絶妙なラインで、視聴後に満足感が残ります。AIの関与として、商品選定にデータ分析を使う可能性があります。視聴者のコメント傾向や検索トレンドをAIで調査し、「次はこの製品をアンボックスすればウケる」と判断するような手法です。また今後AIが物理的に箱を開けたりレビューするようになるかもしれませんが、少なくとも現段階では人間の驚きのリアクションには代え難い価値があります。2024年以降、Unbox Therapyはさらなる多様化を見せるでしょう。すでにスタジオを刷新し高品質な映像を追求していますし、AR/VRでのアンボックス体験共有などにも挑むかもしれません。物が存在する限りアンボックスの題材は尽きないため、その切り口を変えながら長期的なファンを維持すると予想されます。
Mark Rober(マーク・ローバー、アメリカ) – 元NASAのエンジニアという経歴を持つYouTuberで、科学実験とエンタメを融合した動画で大人気です。彼のチャンネル登録者数は急成長しており、2024年には既に3000万人を超え、さらに年末には6000万人以上に倍増したと報じられました(YouTubeトップクリエイターリストにもランクイン)。Markの代表作は、「Porch Pirate vs. Glitter Bomb」(盗人撃退グリッターボム)という連作動画で、宅配泥棒に対して仕掛けとして細工した荷物が開けるとカラフルな粉(グリッター)と悪臭スプレーを撒き散らす装置になっているという痛快なDIYガジェットです。これらの動画は一回で数千万~1億回以上再生され、社会現象化しました。他にも象牙密猟対策の偽の角を作るプロジェクトや、リス対策の迷路装置、スーパーマリオの自動コースなど、科学とユーモアを兼ね備えた企画が満載です。ターゲット層は子供から大人まで幅広く、家族で楽しめる健全なコンテンツとして認知されています。コメントには親から「子供と一緒に見ています」「教育的で素晴らしい」といった声も多いです。Markの成功の理由は、彼自身の高度なエンジニアリングスキルと、物事をわかりやすく伝えるプレゼン能力の両立にあります。難しい科学原理を背景にしながらも、動画としてはドタバタ劇やドラマ仕立てになっており、誰が見ても引き込まれる魅力があります。また年に数本の高品質動画に注力するスタイルで、一つ一つに莫大な手間とリソースをかけクオリティを極限まで高めている点も特徴です。ブランドコラボはあまり行いませんが、慈善活動や教育プロジェクトとの協業を積極的に行っています。例えば自閉症への理解を広めるイベントや、植林キャンペーン(Team Trees)など、MrBeastらと組んで社会貢献系の企画にも参加しています。AI活用について、彼はAIに関する動画も作っており、2023年には自分の声と映像をAIで再現し、動画の一部を代替させる実験を行いました。視聴者にどこからがAIか気づかせないほど高精度だったことが話題に上りました。今後はAIロボットを使った実験なども考えられ、科学×AIの領域でまた新たな驚きを提供してくれそうです。Mark Roberのようなクリエイターは、教育エンタメというジャンルを確立しつつあり、2024年以降もTVの科学番組に代わる存在として、更なる大物ゲスト(他の人気インフルエンサーや科学者)とのコラボ動画なども期待されています。
その他の注目テクノロジー・科学系インフルエンサー:
Vsauce(ブイソース、アメリカ) – 本名Michael Stevens。科学や哲学の疑問についてユニークに掘り下げる教育系YouTubeチャンネルで、登録者約1800万人。例えば「人はどれだけ何もしないでいられるか?」といったテーマを実験と考察で示すなど、知的好奇心を刺激する動画が特徴。彼の語りは巧みで難しい話を面白く感じさせ、教育エンタメの金字塔的存在です。最近はYouTube Originalsで科学番組を持つなど活躍の幅を広げています。
Kurzgesagt – In a Nutshell(クルツゲザクト、ドイツ) – 洗練されたアニメーションで科学トピックを分かりやすく解説するYouTubeチャンネル。登録者約2000万人。運営は組織で、明るい色彩と可愛い鳥のキャラクターたちが、宇宙論や生物学、社会問題まで幅広いテーマを扱います。教育用動画として学校でも利用されるほど信頼度が高く、動画の脚本には科学者の監修が入っています。AIについてもディープフェイクや遺伝子工学の話題を積極的に取り上げています。
Emily Calandrelli(エミリー・カランドレッリ、アメリカ) – 女性科学コミュニケーター。Netflixの子供向け科学番組「Emily’s Wonder Lab」ホストや、TikTokでの科学実験動画で知られます。TikTokフォロワーは100万人規模ですが、若年層に理科の楽しさを広める活動で評価が高く、「現代のマダム・キュリー」的なロールモデルとなっています。母となってからは育児と科学教育を絡めた発信も増え、多様な層にアプローチしています。
ギズモード・ジャパン/Engadget日本版など(日本) – 日本語圏では個人というよりテック情報メディアのSNS展開が盛んです。YouTubeでガジェットレビューを行う鹿野司さん(Engadget)のようなジャーナリスト兼インフルエンサーもいます。また個人では高評価ガジェット(高橋敏也氏)やWB(マックスむらい氏のテックチャンネル)など、ガジェット好きコミュニティでは有名な人物が発信を続けています。科学ではYahoo!知恵袋の科学回答者が書籍化するなど、SNS外での人気をSNSに持ち込むケースもあります。
テクノロジー・科学分野の動向: この領域のインフルエンサーは、一般消費者や視聴者にとって専門家の代弁者であることが多いです。新しいスマホやPCを買おうか迷ったとき、科学ニュースの真偽を知りたいとき、彼らの解説に頼る人は多いでしょう。そのため信頼性が何より重要で、裏付けのない情報を流すと信用を失います。多くのテック系YouTuberが、レビュー製品を自腹購入したり、提供品でも良くない点ははっきり言ったりして、中立性を示す努力をしています。一方でブランドとの関係も大切で、独占的に製品情報を提供してもらうには企業との良好な信頼関係が必要です。このバランスを保つことが長期成功の鍵です。科学系では、間違ったことを言わないよう入念にリサーチし専門家にファクトチェックしてもらうなど、メディア並みの厳密さでコンテンツ作りをしています。
エンゲージメントは、ガジェットの場合「自分も買った」「ここの解説が役立った」といった具体的なフィードバックが多く、購買行動につながったと報告するコメントも目立ちます。また視聴者から質問を募集して次の解説テーマに反映するなどインタラクティブ性も見られます。科学系では、若い視聴者からの純粋な疑問に答えるライブQ&A企画や、難問募集などで双方向コミュニケーションを図る例が増えています。
AIの活用では、この分野自体がAIトピックをよく扱うこともあり、インフルエンサー自身がAI開発者と対談したり、AIツールを試してレビューするといったコンテンツも増えています。ChatGPT登場以降、多くのテックYouTuberがその性能をテストする動画を出しました。制作面でも、例えば字幕生成・翻訳でAIを使い、多言語で情報発信する動きが加速しています(Kurzgesagtも多言語字幕を提供)。また記事の要約やニュースの選別にAIを用いて効率よく情報収集し、解説動画を作るといった裏方での活用も進んでいるでしょう。
2024年以降のトレンドとして、テック分野では新技術の社会実装が相次ぐため、それを噛み砕いて伝えるインフルエンサーの役割はますます大きくなります。例えばブロックチェーンやWeb3、AI規制やプライバシー問題、宇宙旅行の進展など、多くの人が知りたいが難解なトピックについて、彼らがブリッジ役を果たします。また企業と共同で製品を開発するケースも増えるかもしれません。既にLinus Tech TipsはオリジナルPCケースを商品化したり、インフルエンサーがコンサルしたスマホが出たりしています。今後、「有名ガジェットレビュアー監修の○○」といった製品が一般発売されれば、ファンが飛びつくでしょう。
科学コミュニケーションでは、気候変動や健康のような大きな課題にどう切り込むかが問われています。難しすぎる問題でも、マーク・ローバーやVsauceのように工夫すれば多くの人に伝えられるという前例ができたため、それに続くインフルエンサーが現れるでしょう。また教育分野のインフルエンサーは学校教育との連携も模索されています。YouTube動画を教材として使う教師は増えており、今後公式に教育プログラムに組み込まれる例もあるかもしれません(すでにKurzgesagtは大学講義で使われることがあるとのこと)。AIチューターと人間インフルエンサーが協働して、より個別最適化された学習コンテンツを提供する未来像も考えられます。
総合的に見て、テクノロジー・科学系のインフルエンサーは知識と娯楽の融合という点でユニークな存在です。彼らの今後の挑戦は、より専門性が高い領域に踏み込みつつ、それでも大衆に理解できる形で伝えることや、グローバルな課題に対する発信力を持つことです。そしてAI時代においては、最新AIを道具として最大限に使いこなしつつ、人間らしい創意工夫と情熱でコンテンツに魂を吹き込むことが、引き続き成功をもたらすでしょう。
エンターテインメント・ポップカルチャー系のインフルエンサー
最後に、カテゴリーに収まりきらない総合エンターテイナー的なインフルエンサーについて触れます。これは特定ジャンル(ファッションやゲームなど)ではなく、著名人そのものがブランド化しているタイプや、コメディアン・俳優・ミュージシャンなど従来のエンタメ領域とSNSの融合領域にいる人々です。またTikTokやVineといったショートビデオプラットフォーム出身で独自のコメディセンスを武器に有名になった人もここに含めます。エンタメ系はフォロワー数がとにかく桁違いに大きいケースがあり、Cristiano RonaldoのようなスポーツスターやSelena Gomezのような歌手もSNS上ではメガインフルエンサーです。
主なエンタメ・ポップカルチャー系インフルエンサーの例:
Cristiano Ronaldo(クリスティアーノ・ロナウド、ポルトガル) – サッカー界のスーパースターであり、SNSフォロワー数世界No.1の人物です。彼のInstagramフォロワーは約6億5,000万人という驚異的な数字(2025年時点)で、投稿一つ一つが何百万もの「いいね」を獲得します。元々の知名度は言うまでもなく世界的ですが、彼自身がSNSを通じてファンとのコミュニケーションを大切にしており、練習風景や家族との写真、スポンサー商品の紹介など多様な投稿をしています。ターゲット層は全世界のサッカーファン(性別年齢問わず)で、彼の影響力はスポーツを超えてライフスタイル面にも及びます。実際、彼が愛用するものやトレーニング方法は話題になり、例えばロナウドがとあるイベントでコーラのボトルを脇に退けた行為だけでコカコーラ社の株価が一時下がったという逸話もあるほどです。ブランドコラボは極めて多数で、ナイキとの巨額契約や、自身のファッション・フレグランスブランド「CR7」展開など、彼の名前自体がブランドとなっています。成功の要因はもちろんアスリートとしての実績とカリスマ性ですが、SNS上では意外と庶民的な一面やチームメイトとの和気あいあいとした様子も見せ、人間味もアピールしています。AIとの関連は直接はありませんが、これだけのフォロワーを相手にするには投稿の最適時間分析や多言語翻訳などをチームがAI活用して行っている可能性があります。また将来的にはロナウドのバーチャルアバターがファン対応をするとか、AIで過去の名場面を本人解説付きで再現するといった企画も考えられます。エンタメインフルエンサーとして彼ほどの規模は特殊ですが、有名スポーツ選手や俳優がSNSでファンを動かす時代は当たり前になりました。
Selena Gomez(セレーナ・ゴメス、アメリカ) – 歌手・俳優として有名な彼女もまた、Instagramフォロワー数4億2,000万人以上で女性トップの座を競っています。セレーナはディズニーチャンネル出身で若くからスターでしたが、SNSでは自身のメンタルヘルスの問題や社会問題への意見なども率直に発信し、多くの共感を得ています。ターゲット層は10代~30代の主に女性ファンで、ファッションや美容のアイコンとしても見られています。実際、彼女が投稿で着ている服やメイクがすぐに話題となり、ブランドとのコラボ商品も売れ行き好調です。また彼女自身がコスメブランド「Rare Beauty」を立ち上げ、これが大成功しています。インフルエンサーとして見た場合、セレーナは芸能人の中でも特に共感重視のストーリーテリングを行っている点が特徴です。ループス(自己免疫疾患)や双極性障害と診断されたこと、公の場から距離を置いていた時期などもSNSで説明し、ファンとの信頼関係を深めています。ブランドコラボはCoachやPUMAとのファッションライン、UNICEF親善大使としての活動報告など幅広いです。成功の背景には、伝統メディアでの人気をSNSにしっかり移行できた点と、オープンなコミュニケーションで支持を集めた点が挙げられます。彼女の投稿は広告的なものばかりではなく、素の自分や友情関係、料理している姿など自然体も多く、それが巨大なフォロワーにも関わらず温かいコミュニティを維持する秘訣でしょう。AIに関しては、セレーナのチームがSNS上の言及をモニタリングする際に感情分析AIを使うなど、彼女のメンタルを守る仕組みを導入している可能性があります(彼女は過去SNSから離れる宣言もしており、現在はアシスタントを介して投稿しているとも言われるため)。2024年以降、セレーナのようにインフルエンサー兼起業家の芸能人は増えるでしょう。自分のブランドを持ち、ファンとの強いつながりでダイレクトに商品を届けるモデルは彼女が一つの成功例となっています。
MrBeast(ミスター・ビースト、アメリカ) – 本名Jimmy Donaldson。エンタメ系YouTuberとして現在世界最大の影響力を持つ人物の一人です。彼のYouTube登録者数は2億人を優に超えており(総計3億人以上とも言われます)、動画一本ごとの再生回数が数千万から数億回に達するという驚異的な実績を持っています。MrBeastのコンテンツは大がかりなチャレンジ企画と大盤振る舞いのプレゼントが特徴です。例えば「最後まで手を離さなかった人に高級車プレゼント」や、「100人で鬼ごっこして勝者に100万ドル」など、常識破りの規模で視聴者や参加者を巻き込んだゲームを行います。その莫大な賞金やコストは広告収入やスポンサーによって賄われていますが、彼自身はほぼ利益を再投入しさらに規模を拡大するサイクルを作っています。ターゲット層は全世界の若者で、言語を越えた面白さがあるため各国語に吹替されたチャンネルも運営しています(日本語版も存在)。エンゲージメントは極めて高く、コメント数・高評価数とも桁違いです。視聴者は動画の結末に興奮し、SNSで議論が巻き起こることもしばしばです。ブランドコラボは動画内でのスポンサー露出(ゲームアプリの宣伝等)のほか、自身がプロデュースするチョコレート「Feastables」やハンバーガーチェーン「MrBeast Burger」なども手がけ、事業展開も活発です。成功の理由は、YouTubeのアルゴリズムを研究し尽くした戦略性と、それを実行できる大胆さです。彼は「いかに視聴者を惹きつけ続けるか」を科学し、テンポの良い編集や最初から興味を引くサムネイル・タイトル作りに徹底的にこだわっています。また自分の稼ぎを惜しみなく視聴者還元(企画費用)に注ぐ姿勢が視聴者の支持とさらなる拡散を呼んでいます。AIの活用も推進しており、特に多言語展開はAI音声合成や翻訳を駆使して効率化しています。2023年には、自身の声を各言語で吹き替えるためにAIボイスチェンジ技術を試していることを明かしており、将来的に自分のクローン音声で世界中の言語にローカライズしたいと語っています。2024年以降、MrBeastは引き続きYouTube界の帝王として君臨するでしょう。彼が携わる慈善プロジェクト(視力を失った人1000人に手術提供する動画など)も社会にインパクトを与え、インフルエンサーの社会貢献の新しい形を示しました。今後はテレビや映画への進出も考えられますが、彼はYouTube上でやりたいことが無限にあると語っており、その想像を超えるスケールの企画から目が離せません。
Khaby Lame(カビ・ラメ、イタリア) – TikTok出身で世界で最もフォロワー数が多いTikToker(約1億6,000万人)となった人物です。彼はもともと失業中にTikTokを始め、無言で手短に皮肉を効かせるリアクション動画で人気爆発しました。複雑で大げさなライフハック動画に対し、何の変哲もない簡単な方法で「こうすればいいじゃないか」と肩をすくめるジェスチャーをするだけ、という笑いのスタイルがウケたのです。一切喋らないため言葉の壁がなく、彼の動画は世界中でシェアされました。ターゲット層はTikTokユーザー全般(10代中心ですが全年齢にリーチ)で、Instagramなど他プラットフォームでもそのキャラクターが愛されています。エンゲージメントは非常に高く、彼の投稿には言語を問わず笑いのリアクションコメントが殺到し、一種のネットミームとなっています。ブランドコラボでは、2022年にバーチャルファッションショーでフォートナイト(ゲーム)とコラボ出演したり、2023年にはビタミンドリンク「Vitaminwater」の広告キャンペーンなどにも起用されました。成功の秘訣は、シンプルさと普遍性です。誰もが思っていたツッコミを言葉無しで代弁するスタイルは老若男女に伝わり、SNS時代のチャップリンとも評されます。またTikTokアルゴリズムに乗りやすい短尺・オチの明快な動画を量産できたことも大きいです。AIとの関連は薄いものの、今後彼のようなスタイルをAIキャラクターが模倣するといった動きは出てくるかもしれません。しかし実際の人間だから出せる「絶妙な表情」が彼の肝であり、そこはAIにはまだ難しい領域です。2024年以降、Khaby LameはTikTok以外にも活動領域を広げるでしょう。既にInstagramでの影響力もあり、テレビ出演や映画カメオも増えるかもしれません。TikTokスターとしてはブランド価値が確立されたため、独自のファッションラインや商品プロデュースの可能性も考えられます。
その他の注目エンタメ系インフルエンサー:
Charli D’Amelio(チャーリー・ダメリオ、アメリカ) – TikTokでダンス動画を投稿し爆発的な人気を得たティーンエージャー。TikTokフォロワー約1億5000万人で長らく世界一でした。彼女はシンプルな振り付けを踊る動画で一躍有名になり、現代のアイドルとなりました。家族ぐるみで注目され、リアリティ番組に出演、自身のファッション/コスメブランドを展開するなどビジネス展開も盛んです。若年層の間では知らない人がいないほどの存在で、エンゲージメントも非常に高いです。
Addison Rae(アディソン・レイ、アメリカ) – こちらもTikTokダンス出身でトップインフルエンサーの一人。フォロワー約8800万。TikTokの成功から映画出演や音楽活動、Spotifyでのポッドキャストなど多才に活躍しています。彼女の化粧ブランドItem Beautyも成功し、総合エンターテイナーに転身しつつあります。
Zach King(ザック・キング、アメリカ) – デジタル動画マジックの第一人者。TikTokフォロワー約7200万人。編集技術を駆使して、一瞬で物が変化するような不思議動画を制作し、 Vine時代から人気でした。子供から大人まで楽しめる視覚トリックで、広告案件にも引っ張りだこです。
Logan Paul & KSI(ローガン・ポール & KSI、アメリカ・イギリス) – 元YouTuberで近年はボクシングやビジネスに進出した異色コンビ。互いに試合で戦った縁からエナジードリンク「Prime」を共同設立し大成功させました。彼らは物議も醸しましたが、影響力を収益に変える手腕に長け、SNSスターの新しいロールモデルとなっています。
エンタメ・ポップカルチャー分野の動向: このカテゴリーは非常に幅広く、基本的には「有名人」がそのままSNS上でも人気者であるケースと、SNS出身で有名人レベルに到達したケースがあります。前者(伝統的有名人)は知名度を利用して一挙にフォロワーを獲得できますが、SNSでは双方向性や継続発信が重要なため、それに慣れた人とそうでない人で差が出ます。セレーナ・ゴメスのように上手く適応した例がある一方、全く投稿せず存在しているだけの著名人アカウントもあります。後者(SNSネイティブ有名人)は、プラットフォームのトレンドを生み出す側であるため、若年層のカルチャーに絶大な影響があります。TikTokの流行ダンスが音楽チャートを左右したり、YouTuberの発言がニュースになることも増えました。
エンゲージメントは人によりますが、総じて**ファンダム(熱狂的ファン層)**の存在が特徴です。コメント欄にファン同士で名前を呼び合ったり、推しへの愛を語ったり、まるでかつてのアイドルファンサイトのようなノリがSNS上で展開されます。そうした濃いファン層はグッズ購入やイベント参加など経済的貢献も大きく、インフルエンサー側もファンクラブを作ったり有料コミュニティを運営することがあります。アイドルグループやアーティストは公式にメンバー個人のSNSを運用し、個性発信+グループ宣伝を効率よく行う場合も増えました。K-POPグループのメンバーなどは好例です。
成功要因としては自己ブランディングが重要です。このジャンルでは特定のスキルよりも人間そのものへの興味でフォローされるので、「自分は何者か」を明確に印象づけられるかどうかがカギです。例えばカイリー・ジェンナーは「若き女性起業家の成功者」、MrBeastは「善良でぶっ飛んだことをするお金持ち青年」、Khaby Lameは「無言のコメディアン」といった具合に、誰もが一言で説明できるキャラが立っています。そしてそれを損なわない範囲で活動を広げています。ブランドコラボや起業もそのキャラに沿ったもの(カイリーならビューティー商品、MrBeastなら大量消費財)を選んでおり、ファンも違和感なく受け入れています。
AIの活用は、このジャンルではファン向けサービスで顕著になる可能性があります。例えばお気に入りインフルエンサーのAIチャットボットが登場し、ファンが擬似的に会話を楽しめるというサービスが既に始まっています。実際、海外ではCaryn Marjorieというインフルエンサーが自分のAI分身「CarynAI」を作り、有料でファンとチャットさせた例があります(物議も醸しましたが、新たな収益源として注目されました)。超人気者は一人一人のファンと直接交流は難しいですが、AIならある程度個別対応ができます。しかし言動が本人と異なると炎上リスクもあるため、今後改良が必要でしょう。AIで故人の有名人を蘇らせるプロジェクトも議論されていますが、倫理的なハードルがあります。
また映像・画像生成AIを使って、より演出を派手にすることも考えられます。たとえばMrBeast級の企画でCGを多用するとリアリティが下がるので今は実物重視ですが、AIが視聴者を騙せるほど自然な映像を生成できるなら、企画の幅はさらに広がります。逆にフェイク動画の可能性が出るため、その信頼担保も問題になります。
2024年以降、エンタメ系はマルチプラットフォーム展開が進むでしょう。TikTokerが長尺動画に進出、YouTuberがテレビ出演や音楽リリース、俳優がポッドキャストを始めるなど、既にクロスオーバーが常態化しています。つまりインフルエンサーと伝統的著名人の境目がなくなり、総合的なタレントとして見られる傾向が強まります。その中で依然としてSNSが重要なのは、ファンとの直接的な繋がりが保てる点です。特にライブ配信は疑似的に会って話している感覚を与えられるので、イベント出演以上にファン満足度が高いこともあります。オンラインとオフラインの連携も増え、大規模イベントにインフルエンサーがゲスト出演したり、自身のファンミーティングを開催したりといったハイブリッドな活動も盛んです。
総括すると、エンタメ・ポップカルチャー系インフルエンサーは現代のセレブリティそのものであり、その動向がトレンドを生み出す存在です。成功するには常に話題を提供し続け、ファンとの関係を良好に保ち、そして社会的影響も考慮した言動が求められます。AIをはじめテクノロジーは彼らの表現の幅を広げるツールとなりますが、根本的には人間性の魅力がカギである点は不変です。今後も次々と新しいスターがSNSから生まれ、その一挙手一投足が世界中でシェアされる時代が続くでしょう。
インフルエンサーによるAI活用の総合分析
上記各分野の説明の中でも散りばめて触れてきましたが、ここで改めてインフルエンサーがどのようにAI技術を活用しているかを整理します。AI(人工知能)は近年飛躍的に進歩し、コンテンツ制作やマーケティング、ファン対応など様々な面でインフルエンサーの活動をサポートしています。その活用状況を大別すると以下のようなポイントがあります。
1. コンテンツ制作支援: 多くのインフルエンサーが、コンテンツ制作プロセスの一部にAIツールを取り入れ始めています。例えば、動画編集では自動でハイライトシーンを抽出するAIソフトや、音声から自動で字幕を生成するツールが利用されています。これにより編集時間が短縮され、より頻繁な投稿が可能になりました。また画像加工アプリにもAIが搭載されており、美肌フィルターや背景の自動補正などをワンタップで実行できます。特にファッション・美容系ではフォトショットの後処理にAIの力が欠かせません。さらに最近では生成AI(Stable DiffusionやMidjourney、DALL-Eなど)を使って、サムネイル画像のアイデア出しや合成、映像内の特殊効果に利用する例も出ています。例えばある科学系YouTuberは、説明に必要な図解イラストをAI生成してコスト削減を図りました。テキストベースでも、ChatGPTのような大型言語モデルを使って動画や記事のアウトラインを作成したり、キャッチコピーやタイトル案を考えたりするケースがあります。長文の推敲や多言語翻訳もAIに任せることで、少人数のチームでも世界向けコンテンツを展開しやすくなりました。総じてAIはインフルエンサーのクリエイティブ・アシスタントとなり、雑務や反復作業を自動化することで本人は企画や出演など本質部分に集中できるようになっています。
2. マーケティングとデータ分析: インフルエンサー自身やそのマネジメントチームが、自分の発信をより多くの人に届けたり、最適化したりするためにAIを活用しています。具体的には、SNSプラットフォームの分析ツールにAIが組み込まれており、フォロワーのアクティブ時間帯や嗜好傾向を学習して「いつ・何を投稿すればエンゲージメントが高まるか」を教えてくれます。例えばInstagramのビジネス分析ではAIがフォロワーの興味関心カテゴリーを推定し、それに合わせたハッシュタグの提案を行う機能があります。YouTubeでも視聴者の視聴維持率グラフをAIが解析し、どの瞬間で離脱が多いかを示して改善を促します。またA/Bテストの自動実行(異なるタイトルやサムネイルをランダム表示して反応を見る)などもAIが調整しています。インフルエンサー側もそれを受けて、過去の投稿データをAIダッシュボードでモニタリングし、ヒットした内容とそうでない内容の違いを分析して次の企画に反映させています。さらに、ブランドとのコラボにおいてもAIが媒介するケースが出ています。インフルエンサーマーケティングプラットフォーム(例: Influencer Marketing Hub や Upfluence等)はAIで各インフルエンサーのフォロワー属性やエンゲージメントを評価・スコアリングし、広告主に「あなたの商材にはこのインフルエンサーが適しています」とマッチングを提案します。ナノ・マイクロインフルエンサーはこの仕組みにより発掘されやすくなり、大手ブランドと組むチャンスが増えています。ブランド側も、AIでインフルエンサーの過去投稿を解析しステルスマーケティング疑惑や不適切発言リスクをチェックするなど、精査に使っています。つまりAIは適材適所のコネクターとして、より効果的なマーケティングキャンペーンを支えています。
3. エンゲージメント向上とファン対応: フォロワーとのコミュニケーションにもAIが浸透しつつあります。人気インフルエンサーは毎日何千何万というDM(ダイレクトメッセージ)やコメントを受け取りますが、全てに目を通すのは不可能です。そこでチャットボットの導入が進んでいます。例えばFacebookやInstagramのDMに、AIが簡単な質問に自動回答する仕組みを設定できます。「新商品の発売日は?」「イベントの場所はどこ?」といったよくある質問はAIが24時間対応することで、ファンの疑問を即座に解決し本人の手を煩わせません。より進んだ例では前述のAI分身チャットがあります。これはインフルエンサー本人の口調や知識を学習した会話AIで、ファンが有料で擬似会話できるというサービスです。倫理面の議論はありますが、テスト的に導入するインフルエンサーも出ています。またモデレーションAIはほぼ標準化しており、YouTube配信のコメント欄で不適切ワードをフィルターしたり、Twitterでの誹謗中傷検知をしたりします。大量のコメントから好意的な声や建設的な批判を抽出してまとめるAIツールも存在し、それを使って自分へのフィードバックを確認する人もいます。こうしたAIの支援で、インフルエンサーは精神的負担を軽減しつつファンと健全に付き合えます。さらにエンゲージメント向上策としては、パーソナライズへのAI活用が見込まれます。例えばメールニュースレターを発行しているインフルエンサーは、AIで各購読者の興味に合わせて内容を変えたりできます。或いは、フォロワーの投稿傾向をAI分析し熱心なファンをリストアップ、その人にだけ特別メッセージを送るといった細やかな対応も可能になるでしょう。リアルイベントでも顔認識AIで上位ファンを識別し優遇するといったことが実験されています。要はAIを使ってOne to Oneマーケティングを実現し、数百万人規模のファンにも個別対応に近い満足を提供する、そんな未来像が浮かびます。
4. バーチャルインフルエンサーの台頭: AIそのものがインフルエンサーとして活動する例も増えてきました。代表格は先述したLil MiquelaやImmaなどのバーチャルモデルです。彼女らはCGとAIによって作られた架空の人物ですが、人間さながらにSNS投稿を行いフォロワーを抱えています。Lil Miquelaはファッションブランドとタイアップし、Immaは日本企業の広告に登場するなど、既に商業的に成功を収めています。これらはキャラクターデザインとストーリー設定を人間が行い、画像生成や投稿文作成にAIが補助的に使われるハイブリッドです。完全自律AIインフルエンサーとしては、最近ChatGPTにSNSアカウントを運営させる実験も行われています。人間のような個性を与え、毎日ツイートさせて反応を見る試みです。まだフォロワーとの深い共感形成は限定的ですが、技術の進歩次第では人間と見分けが付かないバーチャル存在が人気者になる可能性もあります。ただ前述のGoat Agencyの見解にもあったように、現状では人間のインフルエンサーに比べて共感性や信頼性が劣るため、あくまで話題作りの域を出ていません。多くのブランドや視聴者は「やはり人間が良い」と感じているようです。そのため2024年時点では、バーチャルインフルエンサーはニッチな存在で、人間インフルエンサーの活動を脅かすには至っていません。しかしAIが自己学習で人格らしきものを深化させていけば、この構図は変化する可能性があります。特にメタバース空間が発達し、人々がアバターで交流する社会になれば、インフルエンサー像も仮想キャラにシフトするかもしれません。それまでの間、人間インフルエンサーはAIを上手に利用しつつ、自分ならではの魅力で勝負することになるでしょう。
まとめると、AIは既にインフルエンサーの活動に幅広く入り込んでおり、裏方の効率化から新しいファン体験の創造まで様々な役割を果たしています。特にコンテンツ制作の効率アップと、ファンとの距離を縮めるツールとして大きな効果を上げています。一方でAIの発展は競争環境にも影響を与え、誰もが高度な動画編集や分析を容易にできるため、インフルエンサー間のクオリティ格差は縮まり、一層クリエイティビティや人間性そのものが差別化要因になっていくでしょう。またフェイクコンテンツの問題や倫理面の課題も浮上しており、インフルエンサーは透明性を保つ責任があります(例:AI生成であればその旨を表記するなど)。今後、AIはますます賢くなり、インフルエンサー活動のパートナーとして不可欠になるはずです。それは人間の創造性を奪うのでなく増幅する方向で進むことが望ましく、現時点では多くのインフルエンサーがそのようにAIを取り入れています。
2024年以降のトレンドと今後の展望
最後に、インフルエンサー業界全体の最新トレンドと今後の予測をまとめます。2020年代に入りインフルエンサーはマーケティングの主役といえる存在になりましたが、その環境はさらに進化・変化を続けています。2024年以降、注目すべき動向と成長の方向性は次の通りです。
1. マイクロインフルエンサーの重要性増大: フォロワー数万~十万程度のマイクロインフルエンサーや、1万人未満のナノインフルエンサーが、マーケティングにおいてますます重宝されるようになっています。理由はエンゲージメント率の高さとニッチな影響力です。大物インフルエンサーに比べフォロワーとの距離が近く、投稿への反応もダイレクトで強いため、口コミのような効果が得られます。たとえば地方の小さなカフェが近隣のグルメ系マイクロインフルエンサーに紹介してもらったことで客足が大きく伸びた、というケースや、新興コスメブランドが数十人のマイクロ美容インフルエンサーにPR依頼しSNS上で話題を作った結果、店頭で完売が相次いだ、などの事例が多く報告されています。データでもマイクロインフルエンサーのエンゲージメント率は平均5%以上と、メガインフルエンサー(1-2%)を大きく上回るとの調査があります。そのため大手ブランドも予算を分散させ、100万人フォロワー1人に頼む代わりに、1万人フォロワー100人に依頼するような戦略を採っています。2024年以降、この流れは一層進むと見られ、マイクロインフルエンサーを束ねるエージェントやマーケティング会社の需要も伸びています。こうした背景から、成長中のインフルエンサーに大きなチャンスが生まれています。フォロワー1万人未満でも、地道に良質なコンテンツを発信してコミュニティを築けば、大きな仕事やスポンサーが付く可能性が高まっています。特に専門性のある分野(例: ヴィーガン料理専門、環境問題発信、特定ゲーム専門など)では、小規模でもその界隈では著名という存在が尊重されます。プラットフォーム側もクリエイターファンドやモネタイズ機能を充実させ、規模に関わらず活躍できる土壌が整えられつつあります。
2. ショートフォーム動画とライブ配信の台頭: TikTokの世界的成功以来、短尺動画(ショートフォーム)のトレンドが続いています。YouTubeは「Shorts」、Instagramは「Reels」、Facebookも「短編動画」タブを設け、TikTokに対抗する動きを取っています。2024年現在、ショート動画はプラットフォーム横断で最も再生数を稼ぎやすいコンテンツ形式となっており、インフルエンサーたちも積極的に取り組んでいます。長尺のYouTube動画を出しつつ、その予告編的なShortsを出して新規視聴者を釣り、TikTokやReelsにも再投稿して露出を最大化する、というようにマルチユースが一般的です。短い動画はバイラルになりやすく、一夜で無名の人が何百万再生を獲得しスターになる例も後を絶ちません。このため新興インフルエンサーはまずショート動画から攻め、ファンが付いたら徐々に長尺や他のフォーマットに広げる戦略が王道化しています。一方でライブ配信の人気も根強く(特にゲーム・トーク領域)、TikTokなどもライブコマース機能に力を入れています。中国ではライブ配信で商品を爆売りするライバーが社会現象化しており、その波が他国にも及びつつあります。Instagramライブで服の販売をしたり、Amazon Liveでインフルエンサーが商品レビューするなど、インフルエンサーがテレビショッピングのMCのような役割を果たす場が増えています。リアルタイムのやり取りはエンゲージメントが非常に高く、平均視聴者数は少なくとも熱心なファンが多いため購買転換率が高いと言われます。2024年以降、ショート動画とライブ配信という両極のフォーマットがさらに進化し、インフルエンサーは状況に応じて使い分けることになるでしょう。予想されるのは、この2つの融合です。例えば、ライブ中にハイライトシーンをAIで切り抜いて即ショート動画として公開する機能や、逆にショート動画を連続的にプレイリスト化して擬似ライブのように流す機能など、プラットフォーム側が試行錯誤するでしょう。
3. インフルエンサーエコノミーの拡大とプロ化: インフルエンサーが稼ぐ金額は年々増加しており、インフルエンサーエコノミーとも呼ばれる市場が確立しました。2023年時点で世界のインフルエンサーマーケティング市場規模は推定$210億(2100億円)以上とも言われ、2025年には$250億を超えるとの予測があります。この成長に伴い、インフルエンサーのプロフェッショナリズムが高まっています。一人の人気インフルエンサーの背後にマネージャー、撮影編集チーム、PRエージェント、弁護士、会計士まで付くようになり、まるで芸能事務所のタレントのような体制です。特にYouTube上位勢やInstagramのセレブは自社チームを編成し、企業的に動いています。これによりコンテンツの質・量ともに安定し、ブランド対応も迅速になり、ファン対応も組織的にできるなどメリットがあります。一方で個人の色が薄れるリスクもあるため、そのバランスが課題です。また既存の芸能事務所がインフルエンサー部門を設立する動きもあり(日本でもホリプロや吉本興業がYouTuberをマネジメント)、プロとインフルエンサーの垣根がなくなってきています。2024年以降、キャリアパスとしてのインフルエンサーがより明確になるでしょう。大学や専門学校で「インフルエンサー学」が教えられたり、インターンとして有名インフルエンサーのチームで学ぶ機会が出るかもしれません。実際、映像編集者やSNSプランナーといった仕事はインフルエンサー需要で拡大し、多くの若者がそこを目指しています。またインフルエンサー同士がコラボしてアベンジャーズ的組織を作る例(例: TikTokコラボハウス)も増え、相乗効果でさらなる巨大なビジネスを起こす可能性があります。その一方で、プロ化・収益化が進みすぎるとフォロワーから「商業主義的」と見られ反発される懸念もあります。したがって成功者ほど透明性を確保し、広告であることを明示したり、公平な立場を維持したりと倫理面への配慮が求められます。各国でステマ規制や広告表示義務が強化されているので、プロとして法令遵守も必須です。
4. 新興プラットフォームと分散化: インフルエンサーの舞台は常に移り変わります。2024年時点ではInstagram, YouTube, TikTok, Twitch, Twitter(現X), Facebookあたりが主要ですが、新興プラットフォームの台頭も予想されます。Meta社はTwitter対抗の「Threads」を開始し、すでに一部のインフルエンサーはそちらでもフォロワーを伸ばしています。また分散型SNS(例: Mastodon)やWeb3型SNSも議論され、中央運営に頼らない形のインフルエンサー活動が芽吹く可能性があります。これらが主流になるかは未定ですが、プラットフォーム依存リスクに備えてインフルエンサー側は多チャンネル戦略を取るでしょう。例えばYouTuberがメールニュースレターや独自アプリ、Discordコミュニティなどを作り、SNSプラットフォームに万一のことがあってもファンと繋がり続けられるようにしています。今後もどんな新サービスが出ても柔軟に参入できるよう、インフルエンサーブランドのコアなファンコミュニティを手元に維持する動きが進みます。
5. 規制と倫理・健全性への取り組み: インフルエンサーが莫大な影響力を持つようになった反面、フェイクニュースの拡散源になったり、ステマまがいの宣伝が問題視されたりもしています。各国政府やプラットフォームは、インフルエンサー活動に一定の規制やガイドラインを設け始めました。例えば広告であることの明示(「#ad」「#PR」とタグ付け)を義務化する国が増えています。また健康・金融商品など人命や資産に関わる情報については、誇大広告にならないよう監視が強化されています。インフルエンサー自身も炎上リスクを恐れ、事実確認に慎重になったり、発言に責任を持つ動きが強まっています。プラットフォーム側でも違反者には収益化停止やBANなど厳しい措置をとるケースが増えました。また精神的健康への配慮も重要トピックです。多忙やストレスで燃え尽きるインフルエンサーも多いため、適切なワークライフバランスや休止の権利が尊重される風潮が生まれています。ファン側でも「少し休んでいいよ」と応援するなど、理解が進んでいます。2024年以降、インフルエンサー業界はより成熟し、過激さより持続可能性を重視する方向に向かうでしょう。これはスポンサー側も望むところで、スキャンダルなく長期でブランド価値を高めてくれるインフルエンサーほど重宝されます。そのための教育や倫理研修、相互扶助コミュニティも出てくるかもしれません。
6. コンテンツの質的向上と多様化: 全体的な傾向として、インフルエンサーのコンテンツは年々プロ並みに高品質になっています。スマホカメラや編集アプリの進歩、5Gなど通信環境改善、そしてインフルエンサー自身のノウハウ蓄積により、ひと昔前ならテレビ番組でしか見られなかったような凝った企画や映像が普通にSNS上に溢れています。これはユーザーの目が肥えて基準が上がったことを意味し、インフルエンサーは常に創意工夫で新鮮な体験を提供し続けなければ生き残れません。その結果、コラボレーションが増えたり、新技術(ARフィルターやインタラクティブ機能)を取り入れたり、あるいはストーリー性のある長期企画を展開したりと手法が進んでいます。一方で多様性も広がっています。もはやインフルエンサーといえば若者や有名人だけではなく、様々なバックグラウンドの人が活躍しています。シニア世代のインフルエンサー(60代以上のYouTuberやインスタグラマー)も誕生し、年配の視聴者から絶大な支持を受ける例もあります。また特定障害を持つ人やLGBTQ+の人など、以前は目立たなかった層が発信者となりフォロワーを得る例も増えました。コンテンツのジャンルも細分化し、手芸専門、お城巡り専門、数学クイズ専門、農業日記など、多岐にわたるニッチ領域でコミュニティが形成されています。このロングテールな広がりは、インフルエンサー市場の裾野をさらに拡大し、誰しも自分と嗜好が合う発信者を見つけられる豊かな環境を作っています。2024年以降もこの傾向は続き、むしろAIがパーソナライズ推薦を強化することで、その人にピッタリのインフルエンサーとの出会いが促進されるでしょう。
7. Web3とインフルエンサー: 最後に、今後数年で注目したいのはWeb3時代のインフルエンサー像です。ブロックチェーン技術を用いたNFT(非代替性トークン)やDAO(自律分散組織)が新しいクリエイターエコノミーを作ると期待されています。既にインフルエンサーがデジタルアートや限定コンテンツをNFT販売してファンに所有権を与える試みが見られます。例えばある写真家インスタグラマーが自分の作品をNFT化しフォロワーに販売、それを持つフォロワーは作品の二次販売益の一部を得られる、といった事例です。DAOではファンコミュニティ自体がトークンを持ち、お気に入りインフルエンサーの活動資金をクラウドファンディングし、見返りに特典を受け取るという運営も考えられます。こうしたファン参加型の経済圏は、インフルエンサーとファンの関係をより双方向でエンパワーメントされたものに変える可能性があります。ただし一般普及には技術の壁や法規制もあり、2024年時点では模索段階です。インフルエンサー側は収益源多角化の一環としてこれら新技術を試す人が出てくるでしょう。成功例が積まれれば、将来的に「ファンが株主」のような形でインフルエンサー活動を支えるモデルも登場するかもしれません。
■日本のインフルエンサー
近年、日本のインフルエンサー市場はかつてない規模と多様性で拡大しています。2024年以降は特に、ショート動画の台頭や複数プラットフォームを横断する発信が顕著となり、ナノインフルエンサーからメガインフルエンサーまで幅広い層が活躍しています。SNSマーケティング企業の調査によれば、国内で数万~数十万のフォロワーを持つインフルエンサーが数万人規模で存在し、企業とインフルエンサーの関係も一層強化されています。2024年12月には、SNSマーケティング企業が年間で最も活躍したインフルエンサーを表彰するイベントも開催されました。「自分らしさ」や「自然体」といったキーワードが重視され、フォロワーとの信頼関係を築きながら独自の表現を追求する人々が光を放っています。
本レポートでは、2024年以降の最新情報に基づき、日本のインフルエンサー市場を総合的に分析します。500名以上の日本人インフルエンサーをジャンル・プラットフォーム別にリストアップし、一人ひとりのプロフィールや活動内容、その影響力の分析、収益化の手法、ファン層の特徴まで詳しく掘り下げます。フォロワー数の多寡に関わらず、少数フォロワーのナノインフルエンサーから数百万規模のメガインフルエンサーまでを網羅し、ファッション・美容、ゲーム、ビジネス、ライフスタイル、グルメ、スポーツなど全ジャンルを対象としています。
本稿の構成は以下の通りです。まず、日本におけるインフルエンサーの定義や種類、2024年時点での市場トレンドを概観します。次に、主要なSNSプラットフォーム(YouTube、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)など)ごとに代表的なインフルエンサーを紹介し、各プラットフォームの特徴的な動向を述べます。その後、ジャンル別に章を分け、ファッション・美容、ライフスタイル、エンタメ・コメディ、グルメ・旅行、スポーツ・フィットネス、ゲーム・eスポーツ、ビジネス・教育、クリエイティブ(漫画・アート)などに分類して、それぞれの分野で特に影響力の大きい人物や注目すべき人物を詳細に取り上げます。また、インフルエンサーたちのマネタイズ手法(収益化戦略)やファン層の属性・反応についての分析も盛り込み、企業のマーケティング担当者や研究者に役立つデータと考察を提示します。
注意点:本レポートでは2024年以降の最新情報のみを使用し、2023年以前の古い情報は含めていません。また、文章中に直接の引用符や外部リンクは挿入せず、できるだけ平易な表現で客観的な事実と分析を述べています。それでは、さっそく日本のインフルエンサー市場の全貌を紐解いていきましょう。
2024年の市場トレンド:動画コンテンツとマルチプラットフォーム化
2024年の日本におけるインフルエンサー市場トレンドのキーワードは、「動画コンテンツの席巻」と「マルチプラットフォーム化」です。TikTokやYouTubeショート、Instagramリールといったショート動画プラットフォームが引き続き若年層を中心に人気を博し、文字中心だったTwitter(現X)も含め主要SNSが動画重視へシフトしました。
特にTikTokとYouTubeショートの普及により、秒単位の短尺動画から爆発的なバズが生まれる現象が多発しました。超短編コメディやチャレンジ動画で知られるJunya.じゅんやさんは、日本のみならず世界中でフォロワーを獲得した一人です。彼はユニークなリアクション芸やパンツ一丁で奇想天外なチャレンジをするショート動画で2024年時点でYouTube登録者約3760万人(TikTokでも数千万のフォロワー)を抱えるまでになっています。こうしたショート動画スターは従来の長尺YouTuberとは異なる勢力として台頭し、日本人でも世界トップクラスのフォロワー数を持つ例が出ました。また、Bayashiさんのように料理動画で海外の視聴者まで魅了したクリエイターもいます。Bayashiさんはスピーディーな料理とASMR音を駆使したスタイルでTikTokフォロワー約5557万人という驚異的な数字を叩き出し、日本発の料理クリエイターとして世界中の注目を集めています。
一方で、マルチプラットフォーム化も顕著です。人気インフルエンサーは単一のSNSに留まらず、YouTube・Instagram・TikTok・Xなど複数のプラットフォームで発信を行い、それぞれの媒体特性に合わせたコンテンツを展開しています。例えば、中町綾さんは元々YouTube(中町兄妹チャンネルなど)で人気を博しましたが、Instagramではファッションモデルとしての側面を前面に出し、2024年には「CanCam」の専属モデルに就任するなど活躍の幅を広げています。彼女の総フォロワー数は500万人以上に達し、プラットフォームごとに異なる魅力を発揮しながら10代~20代女性の憧れの的となっています。また、平成フラミンゴという2人組女性YouTuberも、YouTubeでの面白コンテンツのみならずメンバーのNICOさんがInstagramでファッションアイコン的な人気を博し、自身のファッションブランドを立ち上げるなど多角的に活動しています。このように、ひとりのインフルエンサーが動画・写真・テキストと様々な形式を使い分けてファン層を拡大する傾向が強まりました。
さらに、Z世代(10代後半〜20代前半)の動向も市場のトレンドを牽引しています。マーケティング調査によると、Z世代は「共感できる等身大の発信」をするインフルエンサーを支持する傾向があり、2024年のZ世代トレンドに関するアンケートでは「生き方・考え方が好き」「明るくて元気になれる」といった理由でインフルエンサーを選ぶ声が目立ちました。例として、10代女子から絶大な支持を集めたおさきさんという女性インフルエンサーは、小学生でYouTubeを始め家族との微笑ましい動画やファッション・コスメを紹介して人気を不動のものにしています。「家族も登場していて楽しそう」「メイクも参考になる」といった声が寄せられ、身近で飾らないライフスタイルが共感を呼んでいます。一方でZ世代はエッジの効いた個性も好みます。たとえば、美容整形男子のアレン様は独特のキャラクターと「アレン様構文」と呼ばれる癖の強い文章表現でX(旧Twitter)を中心にカルト的な人気を博し、一種のネットミームとなりました。
また、2024年にはインフルエンサー自身が選ぶ「インフルエンサー・アワード」も開催され、自らの才能や感性を武器に新しい価値を生み出している人が多く受賞しました。例えば、りょうじさんというクリエイターは、平成生まれの人なら思わず「わかる!」と共感してしまうような懐かしい学校ネタの動画を発信し続け、一躍注目を集めました。彼の動画はコメント欄が「懐かしい!」で溢れ、視聴者同士で小さなコミュニティが形成されるほどです。このように、ノスタルジーを切り口に共感を生むコンテンツも2024年らしいトレンドでした。さらに、長年地道に活動してきた人が大きく飛躍する例もありました。インフルエンサーのkihoさんは長年ライフスタイル系の発信を続けてきましたが、2024年に家族で北海道に移住したことを契機にDIYのマイホームづくりやスローライフの様子を届け始めた結果、多くの人の心を掴みました。フォロワーとの温かなコミュニケーションや丁寧な暮らしぶりが評価され、「最も飛躍したインフルエンサー」に選ばれています。
総じて、2024年の日本インフルエンサー市場は、動画の力でこれまでにないスピードでスターが生まれ、プラットフォームの垣根を超えて影響力を発揮し、共感やユーモアを武器に多様なファン層を獲得した一年だったといえます。次章以降では、このようなトレンドを体現する具体的なインフルエンサーたちを、プラットフォーム別・ジャンル別に詳しく見ていきましょう。
プラットフォーム別の主要インフルエンサー動向
1. YouTube:登録者数トップ層と多様化するチャンネル
YouTubeは引き続きインフルエンサーの主戦場の一つであり、特に長尺動画やシリーズ企画でファンを掴むクリエイターが数多くいます。2024年現在、日本のYouTube界では登録者数1000万以上の超大物から100万程度の中堅まで幅広い層が活躍しており、コンテンツのジャンルも多岐にわたっています。ここでは、登録者数順トップクラスのYouTuberと代表的なカテゴリ別チャンネルを紹介します。
トップ登録者数を誇るクリエイター:現在日本で登録者数が最も多いのはISSEI / いっせいさんです。彼はショートコメディ動画で海外にも人気が爆発し、メインチャンネルの登録者が4080万人に達しています。日常の何気ないシチュエーションをコミカルに演じるショート動画で、「電車で居眠りあるある」や「学校で使えそうで使えない技」など笑えるネタが持ち味です。無言劇や大袈裟なリアクションで海外視聴者にもウケ、コメント欄は英語やスペイン語など多言語で埋め尽くされているのが特徴です。2番目に多いのは前述のJunya.じゅんやさんで、3760万人規模。3番目はSagawa/さがわさんで、こちらも登録者数が数千万にのぼります。Sagawaさんは身の回りのものを使ったドッキリや一発芸的なショート動画で知られ、独特の笑いのセンスが光っています。4番目には日本の長尺動画を代表するはじめしゃちょーさんがランクインしています。はじめしゃちょーさんは1470万人以上の登録者を持つ日本有数のYouTuberで、巨大な○○を作ってみたシリーズや100万円使い切る企画など、大掛かりな実験系・チャレンジ系動画で人気を博しています。彼はYouTube黎明期の2010年代から活動しており、「Hikakinさんと並ぶレジェンド的存在」とも評されます。実際Hikakinさん(ヒカキン)もYouTube登録者数は約1100万人(メインチャンネル)を抱えており、トップ層の一人ですが、2024年時点ではHikakinさんはゲーム実況チャンネルなど複数運営しているため順位的には上記のショート動画勢に次ぐ位置づけです。それでも日本で知名度No.1のYouTuberとしてテレビCM出演や企業アンバサダーなどオフラインでの活躍も目覚ましく、依然として影響力は絶大です。
ファミリーチャンネルとキッズ向け:YouTube Japanの特徴の一つに、キッズ・ファミリー向けチャンネルの強さがあります。登録者数ランキング5位前後には、Kids Line♡キッズラインやせんももあいしーチャンネルといったファミリー動画が入ります。キッズラインは子供向けのおもちゃ開封やごっこ遊び動画で人気のチャンネルで、こうくん・ねみちゃんという姉弟が登場します。親子で楽しめる安心感あるコンテンツが売りで、登録者は1000万人を超えています。一方せんももあいしーチャンネルは4人兄弟の日常Vlogをまとめたもので、栃木のテーマパークに行く回や自宅での成長記録などホームビデオ的な温かみが支持されています。2024年時点で登録者約1120万人を誇り、日本の親世代・子供世代における知名度が非常に高いです。こうしたチャンネルは広告収入も莫大であり、日本におけるYouTubeキッズ市場の大きさを示しています。
料理・グルメ系YouTuber:料理分野では、きまぐれクック(Kaneko)さんが代名詞的存在です。彼のチャンネルは魚捌き動画で人気を集め、登録者は約1230万人に達しています。巨大なキングサーモンをさばいていくらの醤油漬けを作る動画などが大ヒットし、1本の動画が数千万再生されることも珍しくありません。プロ顔負けの魚の知識と包丁さばきに加え、金子さんの親しみやすい人柄が受け入れられており、大人から子供まで幅広いファン層です。「魚捌き=金子」の愛称で呼ばれるほどブランド化しており、日本の台所に新風を吹き込んだ存在と言えるでしょう。また料理系では他にリュウジさん(料理研究家リュウジのバズレシピ)も人気で、手軽で美味しいレシピ紹介で登録者数300万人超、特に20~30代の自炊派から支持を得ています。
エンタメ・実験系:エンターテイメント系ではすしらーめん《りく》さんが根強い人気です。彼は奇想天外な発明やドッキリで視聴者を楽しませるYouTuberで、登録者約961万人(2024年11月)。巨大な装置を作って人を吹き飛ばすなど、誰にも真似できないスケールの実験動画が持ち味です。投稿頻度は月に1本程度と少なめですが、そのぶん一つの動画にかける情熱とクオリティが非常に高く、「一本入魂」のクリエイターとしてファンの期待に応えています。また、大人数グループではFischer’s-フィッシャーズも代表的です。中学校の同級生6人組で結成された彼らは、アスレチック系の企画やおもしろ大喜利動画など多彩な企画で人気を博し、登録者約866万人です。10代から20代前半の男性を中心に支持があり、「青春を謳歌している感じがいい」と共感されているようです。さらに東海オンエアという6人組も忘れてはなりません。彼らは愛知県岡崎市を拠点に、体を張ったバラエティ企画で人気を集めており、登録者数は800万人台。リーダーのてつやさん以下個性豊かなメンバーがおり、地方在住でも成功できるYouTuberモデルケースとして注目されました。
ゲーム実況・eスポーツ系:ゲーム実況者もYouTubeでは大きなカテゴリです。上記のHikakinさんは「HikakinGames」というゲーム専門チャンネルも運営し数百万人の登録者がいます。2024年現在でゲーム実況単体で特に人気なのはキヨ。さんでしょう。キヨさんは長年活動しているゲーム実況者で、チャンネル登録者は約400万人ですが、視聴者の支持が厚くトップ実況者の一人に数えられます。ホラーゲームから名作RPGまで独特の語り口でプレイし、面白い編集とトークスキルで魅了します。ニコニコ動画時代からのファンも多く、女性人気も高いです。また、最近はVTuber(バーチャルYouTuber)の隆盛もあり、カバー株式会社の「ホロライブ」所属VTuberなどはチャンネル登録者100万人超えが続出しています。VTuberは企業勢が多いため本稿では個人インフルエンサーとは性質が異なりますが、日本発のVTuberが世界的な支持を得ていることもYouTube界の特筆事項です。さらに、中田敦彦さんの「YouTube大学」のように、芸人や著名人が自身の知名度を活かして教育系コンテンツを配信するケースもあります。中田さんのチャンネルは登録者450万人超で、ビジネス書解説から歴史講義まで多彩なテーマを扱い、大人の視聴者を引きつけました。
以上のように、YouTubeではショート動画スターから古参の大物、家族・子供向け、料理、実験、お笑い、ゲーム、教育まで、実に多様なインフルエンサーが存在します。それぞれのトップランナーの事例からも分かるように、日本のYouTuberは国内のみならずグローバルな視聴者を意識する例が増え、また専門特化で深く愛されるチャンネルも健在です。次に、写真と短動画で独自の文化圏を形成しているInstagramの世界を見てみましょう。
2. Instagram:ファッション・ライフスタイルのトレンド発信地
Instagramはビジュアル中心のSNSとして、日本では特にファッション・美容・ライフスタイル分野のインフルエンサーが活発です。2024年時点で日本人Instagramフォロワー数のトップは、先述の**渡辺直美さん(1000万超)**やK-POPグループTWICEの日本人メンバー(700~800万)などですが、これらは芸能人枠と言えます。本節では、芸能人以外のInstagram発で人気に火がついたインフルエンサーやモデル、クリエイターに焦点を当てます。
国内男性Instagramフォロワー1位「D」さん:ユニークな存在として注目なのが、クリエイター名「D」で活動する男性インスタグラマーです。彼は312万人(2024年11月現在)というフォロワーを擁し、「芸能人を除く日本人男性でフォロワー数1位」とも言われています。彼の投稿内容はストリートスナップや風景写真、そして自身の趣味であるフィギュア・アニメ作品を絡めたクリエイティブな映像など多岐に渡ります。日本のポップカルチャーやストリートファッションの要素を巧みに取り入れた写真は海外からの支持も厚く、コメント欄には英語で「クール!」といった声も目立ちます。さらに猫好きとしても知られており、保護猫支援活動にも積極的です。趣味と社会貢献を両立した発信で国内外にファンを持ち、日本を代表する男性インスタグラマーとなっています。
「令和の峰不二子」阿部なつきさん:モデルの阿部なつきさんもInstagramで一躍有名になったインフルエンサーです。彼女は自粛期間中にSNS投稿を始めたところ、その圧倒的なスタイルと美貌が話題となり、わずかな期間でフォロワーが急増しました。現在フォロワーは約178万人(2024年11月)です。くっきりとした顔立ちと八頭身のプロポーションからファンには「リアル峰不二子」と呼ばれています。インスタでは仕事の合間のオフショットや私服コーデを披露し、多くの「いいね!」が付きます。男性のみならず女性フォロワーからの支持も厚く、「コーデが参考になる」「健康的で憧れる」といったコメントが寄せられています。最近ではテレビ出演や雑誌グラビアにも進出し、SNS発の新星モデルとして注目株です。
スポーツ系インスタの星:奥平拓也(Takuya Okuhira)さん:Instagramはスポーツ分野でも新たなスターを生み出しました。**奥平拓也さん(Takuya)**は、サッカーのドリブルテクニック動画で人気を集め、フォロワー約167万人(2024年11月)を獲得しています。彼は自身でサッカースクール「REGATEドリブル塾」を運営しつつ、SNS上で高度なドリブルやフェイント技を次々と披露するリール動画を投稿しています。その華麗なテクニックはサッカーファンのみならず子供たちにも夢を与え、「いつかTakuyaさんみたいにボールを操りたい」と憧れる声が上がっています。プロサッカー選手や海外の選手とのコラボ動画も実現し、国内サッカー界を代表するインフルエンサーと言える存在です。彼はYouTubeでも指導動画を発信し、多方面で活躍していますが、特にInstagramでの映えるスキル動画で得た影響力が大きな武器です。
平成フラミンゴ・NICOさんのファッション影響力:YouTube発のクリエイターがInstagramで新たな人気を築いたケースとして、平成フラミンゴのNICOさんが挙げられます。NICOさんは幼なじみのRIHOさんと組んだコミック系YouTubeコンビの一員ですが、個人Instagram(フォロワー約154万人)ではファッションモデル顔負けのコーデ写真を多く投稿しています。彼女は関西コレクションや東京ガールズコレクションといった大型ファッションイベントにも出演し、その可愛く個性的なファッションセンスで10~20代女性から支持されています。実際、インスタの投稿では私服コーデの写真が多く、ハッシュタグで身につけたブランドを紹介するなど、フォロワーが参考にしやすい工夫を凝らしています。2023年には自身プロデュースのブランド「JIMWAG」を立ち上げファッション業界にも進出しました。お笑いとおしゃれを両立するインフルエンサーとして独自の立ち位置を築き、若者向けファッションリーダーとなっています。
人気YouTuberグループのメンバーも活躍:InstagramではYouTubeグループのメンバー個人がファッションアイコン化する例も多いです。例えば「コムドット」のメンバーであるゆうたさんは「おしゃれ担当」として有名で、インスタフォロワー約146万人です。彼はロンドン旅行の際の洗練されたコーディネート写真を投稿し、「ファッションの都に敬意を込めてジャケットを選んだ」とコメントするなど、投稿ごとにしっかりとテーマを持たせています。男女問わず人気で、ファンから「毎回着こなしが楽しみ」「真似したい」という声が届いています。同じくコムドットのリーダーやまとさん(フォロワー約143万人)も高身長・高学歴・イケメンという肩書きに加え、若者イベントの成功を牽引するカリスマとして注目され、インスタではグループ活動の裏側や熱いメッセージを発信して共感を集めています。このようにグループ系YouTuberのメンバーが個々にインスタでフォロワーを獲得し、マルチに影響力を振るうケースが増えています。
Z世代女性のカリスマ:中町綾さん:先にも触れた中町綾さんもInstagramを語る上で欠かせません。フォロワー約142万人(2024年11月)で、10代女子の間では絶大な人気です。彼女はYouTubeでの兄妹トークで見せる面白キャラと、インスタでのモデル然とした姿のギャップが魅力と言われます。インスタではファッションショーに出演した際の写真や、友人とのプライベートコーデ写真などを投稿し、世界的ブランドのイベントに招かれた様子も見られます。2024年夏にCanCamの専属モデルになったこともあって、ファッション業界からの注目度も上昇中です。「明るく天真爛漫なYouTubeの綾ちゃんも好きだけど、インスタの大人っぽい綾ちゃんも素敵」とファンには二面性が支持されています。彼女は今やテレビやイベントにも引っ張りだこで、SNS発で伝統的なファッション誌のモデルになるという新時代の成功パターンを体現しています。
ユニークなインスタ漫画家たち:Instagramではイラスト・漫画で人気を博すアカウントも大勢います。代表的なのはまめきちまめこさんで、フォロワー約130万人を抱える漫画系インフルエンサーです。日常の何気ない出来事やペットとの生活をコミカルに描いた4コマ漫画が中心で、「脱力系」「あるあるネタ」が老若男女問わず笑いを誘います。オチの秀逸さから投稿が毎回拡散され、コメント欄でもファン同士が盛り上がるコミュニティができています。また、山田全自動さんも異色の存在です。フォロワー100万人超で、浮世絵風のタッチで現代のあるあるネタを描くスタイルが人気です。「コタツから出られない人あるある」など、シュールな和風テイストの漫画で「じわじわくる」と評判になっています。さらにキュルZさん(飼い猫の日常を漫画化)やチリツモルさん(家族の日常漫画)など、漫画系インフルエンサーがInstagramの一ジャンルを形成しています。彼らは書籍化やグッズ展開も行っており、SNS発クリエイターとして成功を収めています。
美容・メイク系インスタグラマー:Instagramはコスメ情報の発信源としても有力です。Michuさん(ミチ)やしゅんさん(おおしま兄妹の弟)は美容系インスタグラマーとして有名で、それぞれフォロワー110万人前後を擁します。ミチさんは「よしミチ姉弟」の姉としてモデル・タレント活動もしていますが、インスタではハイブランドからプチプラまでおしゃれに着こなす姿が見られ、「ファッション・美容アイコン」として幅広い人気を持ちます。しゅんさんは男性ながら美容に詳しく、自身の円形脱毛症の経験をオープンに語って同じ悩みを持つ人に勇気を与えるなど、ジェンダーレスな美容インフルエンサーとして活躍しています。男性目線でのメイクやスキンケア情報は珍しく、多くのフォロワーに新鮮な視点を提供しています。また、島袋聖南さんは元「テラスハウス」出演者ですが、Instagramでの発信でも人気を維持し、ジムでのトレーニング風景や産後も変わらぬ美貌の秘訣を共有して注目されています。このように、美容カテゴリーではプロ・素人問わず様々なバックグラウンドの人が自身の美のこだわりを発信しフォロワーを惹きつけています。
グルメ・旅行インスタグラマー:Instagramと言えばおしゃれなカフェ写真などグルメ投稿も人気です。ウルフさんという男性インスタグラマーはその代表で、全国各地の美味しいお店を自腹で巡り紹介するスタイルが受けてフォロワー約139万人となっています。彼は「バズグルメクリエイター」とも呼ばれ、リール動画では料理そのものだけでなく店員さんの人柄や店の雰囲気まで伝える編集を心がけており、「まるで自分もお店に訪れたかのよう」と好評です。キャプションでは料理の背景や店のこだわりを丁寧に綴り、ただ写真映えを狙うだけでなくストーリー性のある紹介をすることで信頼感を得ています。こうした丁寧な取材姿勢から、「この人が紹介する店は本当に良い店なんだろう」と多くのフォロワーが感じ、実際にその店を訪れる人も増えています。また、旅行系ではshiorilyさんという女性が2024年のインフルエンサー・アワードでライフスタイル部門賞を受賞しています。彼女は国内外の旅行スポットやホテルの写真をエレガントに投稿しつつ、小さな子連れ旅行の体験談もシェアするなど、旅好き・ママ層両方に刺さるコンテンツを提供しています。Instagramはビジュアルプラットフォームゆえにグルメ・旅行との親和性が高く、写真の美しさ×情報の質で勝負するインフルエンサーが成長しています。
総じて、Instagramではファッション・美容・ライフスタイル領域のインフルエンサーが強く、雑誌モデルやタレントと並ぶ影響力を持つ人も増えました。海外ユーザーへの発信に積極的なアカウントも多く、日本文化やトレンドを世界へ広める役割も担っています。それでは、短尺動画で急伸長したTikTokに目を移し、TikTokならではのスターたちを見ていきましょう。
3. TikTok:ショート動画が生んだ新スターたち
TikTokは15秒~1分程度の短い動画でバズを生み出すプラットフォームとして定着しました。日本のTikTok界でも、ここ2~3年で無名から一気にスターになったクリエイターが多数います。2024年時点で特に影響力が大きいTikTokerとその特徴を紹介します。
世界的料理クリエイターBayashiさん:TikTok日本人フォロワー数トップは、前述のバヤシ(Bayashi)さんで約5557万人という圧倒的数字です。Bayashiさんは日本のみならず世界中で人気の料理系TikTokerで、音楽に合わせてリズミカルに料理を作る動画が代名詞です。早回しとASMRを駆使し、野菜を豪快に切る音やジュージュー焼く音とともに、見ていて気持ちのよいテンポで調理工程が進みます。字幕や音声での説明はほぼなく、視覚と聴覚だけで「美味しさ」を伝えるスタイルが特徴です。そのため言語の壁が無く海外のファンが非常に多いのです。「見ているとお腹が空く」「音がクセになる」といったコメントが世界中から寄せられ、彼のアカウントは日本人が世界で活躍するTikTokerの代表格となっています。最近では海外の有名クリエイターや日本の芸能人ともコラボし、料理動画クリエイターの第一人者としてさらなる活躍を続けています。
ショートコメディ王者Junyaさん:TikTokでもJunya.じゅんやさんの存在感は抜群です。彼は元々TikTokで人気に火がつき、そのショート動画をYouTubeにも展開することで先述のように巨大なフォロワー基盤を築きました。TikTokフォロワーも日本トップクラスで、コミカルな動きや奇抜なチャレンジがウケています。例えば「大量の衣類を一度に着てみる」「バナナの皮ですべって転ぶを極める」など、くだらないけど笑ってしまうネタが多く、老若男女を問わずクスッとさせる才能があります。最近は動画投稿を一時休止しているようですが、彼の過去動画のまとめが再投稿されたりと、根強い人気が続いており、TikTok黎明期のスターとして伝説的な存在となりつつあります。
奇才コメディアン・ウエスPさん:ウエスPさんはTikTokで人気の日本人コメディパフォーマーです。フォロワー約1327万人(2024年11月)で、世界的なオーディション番組「○○ Got Talent」にも出演経験があります。彼の芸風は、一見ふざけているように見えて実は高度な身体能力を要するアクロバティックなパフォーマンスです。代表ネタは、小さなテーブルの上で体を張った芸(裸芸に蝶ネクタイ姿でバランスを取るなど)で、「危ない!でも面白い!」というスリリングな笑いを提供します。TikTokでは海外の視聴者が彼の芸に驚き笑う反応動画が多く作られ、フォロワーの9割が外国人とも言われています。まさに日本を代表するコメディクリエイターとして、言葉が通じなくても笑わせる力で人気を獲得しました。大胆でインパクトの強い映像が求められるTikTokで、このような芸人が活躍できる土壌があることを示しています。
マイケル・ジャクトンさん:ユニークな名前のmichaeljackton(マイケル・ジャクトン)さんもTikTokで人気のパフォーマーです。フォロワー約1300万人で、マイケル・ジャクソンのそっくり芸から発展したコミカルなダンス動画が得意です。ムーンウォークなどのダンスは本格的で再現度が高いのですが、彼オリジナルの面白いオチをつけて笑わせるコンテンツになっています。例えば急にトイレの扉に激突して「アホ!」と叫ぶネタなど、シュールな笑いが特徴です。ハッシュタグ「#michaeljackton」は海外でも話題になり、彼の動画はアメリカや中東など様々な国でシェアされています。こうしたモノマネ×オリジナルギャグ路線はTikTokならではの文化とも言え、音楽に合わせて誰もが知るキャラクターになりきりつつ、最後に笑いに転じる構成が人々を惹きつけています。
その他の注目TikToker:TikTokの人気者は他にも多数います。例えば、日本のかわいい動物動画も根強い人気で、村上慎吾さん(@pug:パグ犬動画)や動物カフェ系アカウントなどがフォロワーを伸ばしています。また、ファッション・メイク系では可愛い双子ダンサーやコスプレイヤーが国際的にフォロワーを集めているケースもあります。2024年にはZ世代のトレンドとして**「こっちのけんと」さんが大ブレイクしました。彼は俳優の菅田将暉さんの弟という肩書でも話題性があり、コミカルなダンス動画「はいよろこんで」で一躍有名になりました。彼の振り付け「ギリギリダンス」は多くのユーザーに真似され、SNS全体で100億回以上再生される現象となりました。TikTokの拡散力が一人のクリエイターを短期間で国民的存在に押し上げた例と言えます。同じく「アレン様」もTikTokというよりX発ですが、TikTokにも彼の独特なキャラクター動画が出回り新規ファンを獲得しています。このように、TikTokではダンスやリップシンク、ショートコメディ**といったフォーマットで様々なスターが生まれています。フォロワー数が数百万~1000万超えの日本人TikTokerが複数存在する現状は、日本のSNSシーンにおいてTikTokが無視できない影響力を持つことを物語っています。
4. X(旧Twitter):テキスト発信と著名人の影響力
**X(旧Twitter)**は文章を主体としたSNSですが、近年は写真・動画もシェアされ、インフルエンサーの活動の一翼を担っています。ただ、Xで大きな影響力を持つアカウントは、上記のプラットフォームとは若干性格が異なります。日本のXでは、企業家・文化人・芸能人がフォロワー数トップを占める傾向があります。
2024年現在、X日本人フォロワー最多は前澤友作さん(実業家)で1,000万以上、次いでお笑いタレントの松本人志さん、有吉弘行さんといったテレビで有名な人々が上位です。また、YouTuberのHIKAKINさんやはじめしゃちょーさんも数百万人のフォロワーを抱えており、他プラットフォームからXに来ているファンが多いと言えます。Xでは政治・時事ネタへの発言力を持つ人もおり、**堀江貴文さん(ホリエモン)**は経済からエンタメまで歯に衣着せぬツイートで360万以上のフォロワーを持っています。
Xで活動するインフルエンサーの特徴としては、即時性の高い情報発信と議論の喚起が挙げられます。他のSNSに比べ拡散力(リツイート機能)が強力で、一つのツイートが瞬く間に数万の「いいね」やリツイートを獲得しトレンド入りすることもあります。そのため、インフルエンサーたちもXではリアルタイムなトレンドやニュースに言及したり、フォロワーとの**双方向のやり取り(リプライでの交流)**を積極的に行っています。
著名インフルエンサー以外では、Xには専門家系インフルエンサーが多いのも特色です。たとえばIT・ガジェット情報に強いブロガーや、金融リテラシーを教える投資家アカウント、あるいは社会問題に詳しいジャーナリストなどがそれぞれ数万人~十万人規模のフォロワーを持ち、特定分野の情報拡散に影響力を及ぼしています。こうしたアカウントはフォロワー規模ではInstagramやTikTokの人気者に及ばない場合もありますが、発言の濃さやフォロワーの忠実度が高く、企業やメディアが注目して引用することもしばしばです。例えば、マーケター界隈でフォロワーを多く持つ人が新サービスの感想を呟けば、それが口コミの起点となり導入企業に問い合わせが増える、というような現象もあります。
2024年、Xの運営は大きく変化し(イーロン・マスク氏による仕様変更など)、アルゴリズムやUIの変更が相次ぎましたが、日本のインフルエンサーたちはそれにも適応しています。テキスト上限が拡大したことで長文の投稿が可能になり、ノートのような詳細解説をするインフルエンサーも現れました。また、一部のインフルエンサーはXを使って**スペース(音声配信)**でトークを行ったり、有料のサブスクプログラムを提供したりと、新機能を活用しています。
Xの特殊な例としては、「アレン様構文」と呼ばれるネットスラングの広まりが挙げられます。美容整形で有名なアレン様がX上で日常的に使う特徴的な言い回しが、ファンによって真似され一種の流行語となりました。例えば「〜わよ」「おハーブですわ」など上品かつクセの強い語尾をつけるスタイルで、多くのユーザーがネタとして用いるようになったのです。このように、Xではインフルエンサー発の言葉の文化が生まれやすく、2024年のネット流行語にもインフルエンサー由来のフレーズが複数ランクインしました。
全体として、Xは拡散スピードの速さとテキストコミュニケーションという特性上、他のSNSとは異なる生態系ですが、インフルエンサーたちは自身の意見発信やブランド発信にうまく活用しています。X単体で活動の中心とする人はやや少ないものの、YouTuberやインスタグラマーも補助的にXを使って情報発信やファン交流を行うケースが多いです。企業にとっても、Xで話題になることは瞬間最大風速的に大きなPR効果を生むため、バズ起点としてインフルエンサーの力を借りる事例が見られます(キャンペーンのリツイート企画にインフルエンサーを起用する等)。
以上、主要SNSごとにインフルエンサーの動向を概観しました。続いて、ジャンル別に具体的なインフルエンサー達を500名以上リストアップしつつ、そのプロフィール・活動内容・影響力・収益化などを詳しく見ていきます。それぞれの分野で活躍する人々を掘り下げることで、日本のインフルエンサー市場の現在地を立体的に浮き彫りにします。
ジャンル別:主要インフルエンサーと市場分析
ファッション・美容系インフルエンサー
ファッション・美容分野は、SNSの中でも特にインフルエンサーと親和性が高い領域です。トレンドの移り変わりが早く、消費者が最新情報を求めるジャンルであり、InstagramやYouTubeを通じて影響力を持つ人々が多数存在します。このセクションでは、ファッションモデル系、コスメ・メイク系、美容全般で活躍するインフルエンサーを紹介し、その影響力やファン層を分析します。
中町綾(なかまち あや) – Z世代ファッションアイコン
プロフィール・活動:2001年生まれ。兄の中町JPさんと組む「中町兄妹」YouTubeチャンネルで人気に火が付き、その後Instagramでもモデルとして脚光を浴びる。2024年、女性ファッション誌「CanCam」の専属モデルに就任。フォロワーはInstagram約142万人、YouTube個人チャンネル登録者155万人以上。
発信内容:YouTubeでは兄と繰り広げるドッキリやトークなどお笑い要素強めの動画、Instagramではおしゃれなコーデ写真やイベント出演の様子など。ギャル風メイクからナチュラルまで様々なスタイルを見せ、同世代女子の支持を得る。明るく飾らないキャラクターでバラエティ番組にも出演。
影響力とファン層:主なフォロワー層は10代後半~20代女性。「同じ女子高生から成長を見守ってきた」「面白いのに可愛いなんて最高」という声が多い。YouTubeで親しみやすさを見せつつ、インスタではプロのモデル仕事もこなすため、友達感覚と憧れ要素の両方を備えた存在となっている。彼女の着用アイテムは問い合わせが殺到し、ECサイトで即完売することも。企業コラボではコスメブランドやカラコンのイメージモデル起用があり、売上増に貢献している。
マネタイズ:YouTube広告収入、企業とのタイアップ動画や投稿、イベント出演料、雑誌モデルの出演料など多岐。最近は自身のプロデュース商品(例:アサイーボウル専門店「I♡ACAI」オープン)も始めており、実店舗ビジネスにも進出。ファンは熱狂的でECサイトや店舗への集客力も非常に高い。阿部なつき(あべ なつき) – インスタグラビアでブレイクしたモデル
プロフィール・活動:1998年生まれ。2020年頃からインスタグラムに写真を投稿し始め、瞬く間にフォロワーが増加。身長170cm超のスタイルと整った顔立ちで「奇跡のスタイル」と話題に。フォロワー約178万人(2024年)。近年はテレビ東京系バラエティなどにゲスト出演し始め、グラビアモデルとしても活動。
発信内容:Instagram中心。水着姿やファッション誌風ショット、プライベートの私服写真など多彩。露出多めの写真も上品さを保ちつつSNS映えする構図で、男女両方のファンを惹きつける。ストーリーズでは日常のオフな姿やトレーニング風景も載せ、親近感も演出。Twitter(X)も使用し、自撮り写真や出演情報を発信。
影響力とファン層:フォロワーは20代男性が中心だが、女性フォロワーも3割ほどいる。男性からは「スタイル抜群で憧れる」「こんな彼女が欲しい」と支持され、女性からは「健康的でセクシー」「ダイエットのモチベになる」と好意的に見られる。令和世代のグラビアクイーンとも称され、Instagram発で雑誌表紙に抜擢された例として業界注目度も高い。ファンとの交流は少なめだが、そのミステリアスさがまた魅力となっている。
マネタイズ:雑誌やテレビの出演料が増えているが、インスタでの企業タイアップも行う。スポーツウェアブランドのPRや美容商品の紹介など。「このスタイルを保つ秘訣」としてプロテイン等を紹介すれば説得力が高く、商品認知に繋がる。今後写真集やイメージDVDの売上も期待され、インフルエンサーから本格モデルへの道を歩んでいる。Kemio(けみお) – マルチに活躍するユニセックスモデル・タレント
プロフィール・活動:1995年生まれ。高校時代に短尺動画アプリで人気となり、その後渡米。YouTube登録者約209万人、Instagramフォロワー約100万人、Xフォロワーも100万人超と総フォロワー数400万以上。独自のオネエ言葉混じりのテンション高いトークで「OK〜!」などの流行語を生んだ。現在はNYと東京を行き来しモデル・タレント活動。
発信内容:YouTubeではVlogやトーク動画、音楽やダンス動画も。Instagramではハイファッションをまとったアーティスティックな写真も多く、パリコレやNYの街角でのショットを投稿。自他ともに認めるファッション好きで、GUCCIなど有名ブランドとも親交あり。Xでは日常の一言や流行語ネタを呟き、フォロワーと軽妙なやりとりをする。Spotifyでポッドキャスト配信もしており、メディア横断型の発信者。
影響力とファン層:Z世代~ミレニアル世代に絶大な人気。特にLGBTQ+コミュニティや感度の高い若者に支持され、「kemioの言うことは何故か刺さる」「嫌なことあったらkemio動画見て笑う」という声も。性別の枠に囚われない生き方や、海外で活躍するバイタリティに共感が集まる。2024年のネット流行語10位に彼の発した「ほんmoney」(お金に関する冗談混じりの感嘆)が入るなど、発言が流行そのものになる影響力を持つ。ファッション面でも、kemio風メイクやkemioコーデを真似する若者が存在する。
マネタイズ:YouTube広告・企業タイアップはもちろん、ファッションブランドとのコラボ収入やイベント出演料も大きい。東京ガールズコレクションでランウェイを歩いたり、ファッション誌「NYLON JAPAN」で連載を持つなど、オフライン仕事も多数。オリジナルグッズ販売や音楽リリースも行う。彼の陽気なキャラは広告でも好まれ、SNSプロモーションから地上波CMまで幅広く起用される。ミチ(Michi) – よしミチ姉弟で人気のハーフモデル
プロフィール・活動:1998年生まれ。中国と日本のハーフ。弟のよしあきさんと共にサロンモデルからブレイクし、「よしミチ姉弟」としてバラエティ番組にも出演。Instagramフォロワー約110万人。東京ガールズコレクション等にモデル出演多数。
発信内容:Instagramではエキゾチックな顔立ちを活かしたモード系のファッション写真が目立つ。ChloéやPRADAなどハイブランドの衣装を着こなす投稿が多く、彼女自身がファッション誌の1ページのよう。TikTokでは弟とのコミカルなダンス動画も披露して親しみやすさも見せる。YouTubeは弟と共同チャンネルがあり、メイク動画や兄弟でのドライブトークなどを配信。
影響力とファン層:10代~20代女性から支持されるファッションアイコン。SNSでは「ミチさんのコーデ真似したい」「アジアンビューティーのお手本」といった称賛の声が多い。一方キャラクターとしては明るくチャーミングで、弟との仲睦まじいやりとりに癒されるファンもいる。ハーフならではのグローバル感と、日本のストリート感を融合させたスタイルは企業の広告塔として魅力的で、数多くのブランドのアンバサダーを務めている。
マネタイズ:ファッションショー出演料、雑誌モデル料が主だが、InstagramでのブランドPR投稿も収入源。弟と一緒にコスメブランドのキャンペーンモデルになったり、テレビCM出演も経験済み。自身のファッションブランドを立ち上げる話もあるなど、将来的にはプロデュース業も視野か。フォロワーが100万人規模ということで、投稿一つあたりの広告価値も高い。ゆうた(Com.Yuta) – YouTuber発のお洒落メンズ代表
プロフィール・活動:1999年生まれ。超人気YouTubeグループ「コムドット」の一員。グループではファッション担当として知られ、インスタ個人アカウントのフォロワーは約146万人。コムドットとしてはYouTube登録者400万人超の成功者だが、個人の発信でも強い影響力を持つ。
発信内容:Instagramがメイン。洗練されたファッション写真を多数投稿し、シンプルカジュアルからハイストリートまで様々なジャンルを着こなす。ときに海外で撮影したアートな写真もあり、まるでファッション誌を見ているようなフィードを作っている。ストーリーでは新調した服や小物を紹介したり、ファンの質問に答えることも。YouTubeではグループ企画内で私服コーデ対決なども披露し、その審美眼の高さが話題に。
影響力とファン層:10代後半~20代前半の男女双方から支持あり。男性からは「こんな風にオシャレになりたい」「真似しやすい着こなし」とファッションのお手本にされ、女性からは「ゆうた君のコーデは男子に着てほしいナンバーワン」と好印象。彼の影響でストリートブランドの完売が早まることもあり、ブランド側もコラボに積極的です。実際、2024年にはadidasとの限定コレクションを発表し完売。男性インフルエンサーがファッション市場を動かす好例となっています。
マネタイズ:YouTube収入はグループで分配されていますが、個人ではファッション関係の案件収入が大きいです。ブランドとのコラボ商品の売上や、ファッションイベント出演のギャラなど。インスタ投稿も時折ブランドタイアップを含みます。自身もアパレルブランドに興味を示しており、デザイン監修などを行う可能性があります。ファン層は購買意欲が高く、彼が薦めると完売するという信頼感があるため、各社から引っ張りだこです。あさぎーにょ – ポップで個性的なファッションYouTuber
プロフィール・活動:本名は浅木優子、1993年生まれ。YouTube黎明期から活動する女性クリエイターで、カラフルで個性的なファッションと音楽センスで人気。YouTube登録者約50万人、Instagramフォロワー約53.6万人。音楽ユニット活動やブランドコラボも展開。
発信内容:YouTubeでは「30日間毎日違うファッション」といった企画や、自作の明るい音楽に乗せてルックブック動画を投稿するなど独自色が強い。Instagramもカラフルな写真の連続で、髪の色から部屋のインテリアまで世界観を作り込んでいる。ブログ的な文章で心情を綴ることもあり、クリエイティブだけでなく等身大の発信も。
影響力とファン層:20代女性を中心に「見ているだけで元気になる」存在。ファンからは「あさぎーにょちゃんのセンスは唯一無二」「落ち込んだとき彼女の動画で笑顔になる」といった声が。ユニークなファッションは真似するのが難しい面もあるが、一部熱狂的なフォロワーは彼女のスタイルを参考に古着を探すなどしている。クリエイティブ業界にもファンが多く、アパレルブランドからの支持も厚い。NARSやADDICTIONといったコスメブランドのコラボイベントに招待されるなど、ブランドからのラブコールが多いインフルエンサーです。
マネタイズ:YouTubeとSNSでの広告収入の他、音楽配信やグッズ販売など多角的。過去に自身のブランドを立ち上げたこともあり(現在は休止)、デザインワークでの収入も経験。最近では企業のプロモーション動画の企画・出演を請け負うなど、クリエイティブディレクター的な仕事も増えています。彼女の色彩感覚や編集スキルが評価され、企業SNS向けコンテンツ制作の依頼も来ています。ファンに向けてはオンラインサロン的コミュニティを運営し、そこからの収益も得ています。島袋聖南(しまぶくろ せいな) – リアリティ番組出身のヘルシービューティー
プロフィール・活動:1987年生まれ。フジテレビ系リアリティ番組「テラスハウス」出演で有名になり、現在はモデル・タレントとして活動。Instagramフォロワー約90万人。ジムトレーナーの夫との結婚を経て1児の母となる。
発信内容:Instagramでは水着姿でのワークアウト写真、ヨガポーズ、ヘアケア・スキンケア紹介など、美容と健康にフォーカスした投稿が多い。一方で赤ちゃんとのツーショットや家族団らん風景も載せ、プライベートも垣間見せる。テラスハウス時代からのファンに向けては変わらぬ明るい笑顔と美貌を届けつつ、母親になった新たな一面も発信。ブログでは産後ダイエットの苦労や日々の気づきを率直に綴ることもある。
影響力とファン層:20代~30代女性の憧れ的存在。「聖南さんみたいなかっこいい大人になりたい」という若い女性が多い。長く業界にいるため同性ファンが多く、ママとなってからはママフォロワーも増えつつある。彼女の美容法やフィットネス情報は説得力があり、「産後とは思えない美しさの秘訣を知りたい」といった声が上がる。テレビ出身ゆえに知名度が高く、インフルエンサーというより有名人に近いが、SNS上ではフレンドリーにファンとのコメント交流も行う。
マネタイズ:モデル仕事(ファッション誌・美容誌の企画など)の他、Instagramでの美容商品のタイアップ投稿やイベント出演料。最近は家族での広告出演(ベビー用品メーカーのイメージキャラクターなど)のオファーも舞い込んでいる。健康志向を生かし、プロテインブランドのアンバサダーやスポーツウェアブランドとの契約もしている。商品プロデュースでは以前、ヨガウェアコレクションを監修した実績があり、ファンから好評だった。今後はママ向け美容グッズの開発なども期待されています。コスメヲタちゃんねるサラ – 美的センスとトーク力で人気の美容YouTuber
プロフィール・活動:1990年代生まれ(詳細非公開)。美容オタクを自称する女性YouTuber。YouTube登録者約125万人、TikTokでもフォロワー数百万規模。プチプラからデパコスまで幅広いコスメレビューと、ユーモア混じりのトークが魅力。
発信内容:YouTubeでほぼ毎日のように新作コスメのレビュー動画、メイクの研究動画を投稿。良い点だけでなく辛口コメントも辞さない「忖度無し」の姿勢が人気を博す。TikTokでは短いメイクハック動画でバズることもしばしば。Instagramには完成メイクの写真やお気に入りコスメのまとめ投稿などを行い、テキストで詳しい感想を述べている。整形級メイク術など大胆な企画も実施。
影響力とファン層:10代後半~30代前半の女性視聴者が中心。「サラさんが推すコスメは信用できる」とコスメ好き女子から絶大な信頼を得ている。テンポの良い話し方と的確な表現で、長い動画でも飽きさせない技術があり、「気づけば最後まで見ちゃう」というコメントも多い。新作コスメを買うか迷ったらまずサラさんのレビューをチェックするという人も多数。購買行動への影響力が大きく、メーカー側も彼女の評価を無視できないほど。ブランドPRでもサラさんとのコラボ動画は商品の良さをリアルに伝えてもらえると評判。
マネタイズ:YouTube広告収入と企業タイアップが主軸。コスメブランドから新商品のプロモーション依頼が多いが、彼女は「良いと思ったものしか紹介しない」スタンスなので、案件を選び質を担保している。自身でコスメをプロデュースする話も持ちかけられており、今後インフルエンサーコスメの展開も期待される。さらに、近年は書籍出版(メイク指南本)や美容イベント出演などオフライン収入も増加。美容雑誌の特集で企画ページを任されるなど、伝統メディアにも進出中。整形アイドル轟ちゃん – 整形を公表した異色の美容系インフルエンサー
プロフィール・活動:1990年代生まれ。自ら整形手術を受けた過程を隠さず発信する美容系YouTuber。YouTube登録者数は約80万人。漫画のようなアイドル風ビジュアルと赤裸々な語り口のギャップが特徴。
発信内容:整形前・整形後のビフォーアフター公開、ダウンタイム(術後の腫れや経過)のリアルレポート、失敗談やかかった費用の公開など、普通ならタブー視される内容を真正面から取り上げる。もちろんコスメレビューやメイク動画もあるが、「なぜ整形に踏み切ったか」「メンタルの変化」など深いテーマにも踏み込む。Twitterでは整形に関する相談に答えたり、カウンセリングの注意点をシェアしたりしている。
影響力とファン層:若い女性、特に自分の容姿に悩みを持つ層から絶大な支持。彼女の動画コメント欄には「勇気をもらった」「考え方が素敵」「整形だけじゃなく自分磨き全般のモチベーションになる」との声が多数。ありのままの本音を語る姿が共感を呼び、「表向きの綺麗事ではなく実体験を語ってくれるのが嬉しい」と評価が高い。彼女自身も飾らない性格で、辛辣なネットの声にも自虐を交えて切り返すなどトークスキルも人気の一因。ファンとの距離も近く、悩み相談企画では真摯にアドバイスを送る。
マネタイズ:YouTube収入に加え、美容クリニックや整形情報サイトとのタイアップが存在。ただし売り込み感を嫌う彼女は、あくまで自分の体験ベースでしか語らないため、案件も彼女の自由度が高い。最近では自身の半生を綴った書籍が出版されヒットし、印税収入も得ている。イベント出演では、美容整形にポジティブな理解を促すシンポジウムのゲストなど、啓発的な場にも招かれる。企業からすればセンシティブなテーマゆえ案件起用は慎重だが、「リアルな声を届けたい」と考えるクリニックなどがスポンサーにつく場合もある。鹿の間(しかのま) – ダイエットと美容情報を武器にするYouTuber
プロフィール・活動:1990年代生まれ。2019年にYouTubeチャンネル開設。「−12kgダイエット」の成功体験を動画で共有しバズる。現在登録者約90万人。愛らしいルックスと名前(由来は好きなキャラクター名から)が特徴的。
発信内容:減量の記録や食事管理の方法、ダイエットレシピなどを中心に、商品紹介やメイク動画も投稿。学生時代ぽっちゃりだった自身が努力でスリムになった経験から、リバウンド防止の秘訣やモチベーション維持のコツなど役立つ情報を惜しみなく提供。プチプラコスメ紹介や購入品紹介では、節約しつつ綺麗になるアイデアを出す。Instagramでは日々の食事内容をストーリーで公開するなど、努力の日常を見せてファンを刺激している。
影響力とファン層:10代後半~20代女性に人気。「一緒に頑張ろうと思える」「リアルな数字と過程が参考になる」と共感を呼び、視聴者自身がダイエットチャレンジを始めるケースも多い。特に高校生~大学生あたりの若年層から「お金がなくても工夫して可愛くなれるお姉さん」として慕われている印象。企画によっては辛口な本音も出すが、それも「ぶりっ子じゃない感じが好印象」と受け止められている。努力型インフルエンサーとしてメンタル面でもファンに良い影響を与えている。
マネタイズ:YouTubeの広告収入の他、ダイエットサポート食品や健康グッズのPR案件が多い。例えば糖質オフのスイーツやフィットネス器具等、本人が効果を実感したものだけ紹介して信頼性を担保している。またダイエット本(レシピ集)を出版し、若い女性向け雑誌に成功事例として取り上げられるなど、メディア露出も収入に寄与している。自身のプロデュース商品としてダイエットティー(お茶)を発売し、ファンに売れ行き好調。オンラインでの有料コミュニティ運営(ダイエット仲間の交流場を提供)なども検討中とのこと。
分析:ファッション・美容系のインフルエンサーは、自分磨きや自己表現を通じてフォロワーの憧れや共感を集める点が共通しています。彼ら・彼女らの影響力は購買行動に直結しやすく、紹介したコスメが店頭から消えたり、着用アイテムが即完売するといった事例が日常茶飯事です。ファン層は主に女性が多いですが、メンズファッションやジェンダーレスな美容発信者も出てきており、男女問わず参考になる情報を発信する人も増えています。SNS×ファッション美容の組み合わせは既存の雑誌メディアに取って代わるほど強力であり、多くのブランドがマーケティング戦略にインフルエンサー起用を組み込んでいます。
また、美容分野ではリアルさや正直さが評価される傾向が顕著です。コスメヲタちゃんねるサラさんや轟ちゃんのように、良い点も悪い点も包み隠さず話すスタイルが信頼を得ています。ファンは「綺麗なだけ」の偶像よりも、人間味があり悩みも共有できるインフルエンサーに親近感を抱きます。そのため整形経験やダイエット苦労話など、かつては伏せられがちだった情報を逆に武器にしている人が成功している点が興味深いです。
以上、ファッション・美容系の主要インフルエンサーを10名以上取り上げましたが、日本には他にも数え切れないほどのオシャレさんが日々SNSで発信しています。例えば、メンズファッションでは1.3MフォロワーのTakumaさん(自ブランドAbyssea運営、体脂肪2%の肉体美で有名)や、モデルのYuka Mannamiさん(幻想的な世界観が魅力)などトップランナーがいますし、コスメ系では和田さん。(元美容部員の解説が人気)など専門家肌のインフルエンサーも活躍しています。
ファッション・美容カテゴリは競争が激しくトレンド変化も早いですが、その分インフルエンサーが次々と登場・入れ替わり、新たなスターが生まれ続けるでしょう。企業にとってはこの領域のインフルエンサーをどう起用するかがマーケティング成否を左右すると言っても過言ではなく、ますます重要度が増すと予想されます。
ライフスタイル・旅行・日常系インフルエンサー
ライフスタイル系のインフルエンサーは、自身の日常生活や趣味嗜好、家族との時間などを切り取って発信し、フォロワーの共感を集めるタイプです。このカテゴリーには、独身若者のライフスタイル発信から、子育て中のママ、あるいは日々の暮らし方そのものを提案する人々まで含まれます。また、おしゃれなカフェ巡りや旅行記録を投稿するトラベル系インフルエンサーもここで取り上げます。
おさき – 等身大の中高生ライフが支持されるYouTuber
プロフィール・活動:2004年生まれ。小学6年生(12歳)でYouTubeチャンネル開設し、自身と家族の日常Vlogを投稿し始めた早熟のクリエイター。現在は高校卒業を控える18歳(2024年時点)。YouTube登録者約100万人、TikTokフォロワー数百万人。「現役高校生YouTuber」の代表格。
発信内容:兄弟や家族とのほのぼの動画、部活・学校生活のエピソード、ファッションやコスメの紹介などコンテンツは多彩だが、一貫して身近で親しみやすい雰囲気がある。友達とのプリクラや休日ルーティン、お泊まり会の様子など、フォロワーと同年代が共感できるネタが中心。Instagramでも制服ディズニー(制服でディズニーランドに行く)の写真や、流行りのカフェ訪問を投稿し、「同じ高校生の参考になる」と人気。家族(3兄弟)の仲の良さが売りで、ご両親もたまに登場して温かい家庭の雰囲気を伝える。
影響力とファン層:フォロワーは中高生女子が主。実年齢が近いことから「友達の延長」のように感じるファンが多く、コメント欄では「学校で嫌なことがあったけど動画見て元気出た」「こんな兄弟羨ましい」といった反応が多い。Z世代のカリスマ的存在になりつつあり、ティーン誌のモデルにも抜擢された。派手なことはしていないが、その「普通っぽさ」が逆に強みで、多くの10代にとって共感の星である。流行に敏感な面もあり、彼女がハマっているもの(例えば最新のスマホアプリや文房具)はクラス内で話題になることも。
マネタイズ:YouTubeとTikTokでの広告収入が主。ファン層が若年のため高額商品の宣伝には不向きだが、文具・プチプラコスメ・お菓子などティーン向け商品の案件を受けている。また地方自治体と組んで観光地を紹介する企画動画にも出演し、彼女の明るさで地域の魅力を伝える試みも。今後は進学か就職か不明だが、芸能界デビューの噂もあり、本人の進路によって活動形態が変わる可能性がある。Kiho – 丁寧な暮らしと移住生活で共感呼ぶライフスタイル発信者
プロフィール・活動:30代女性。長年東京でインフルエンサー活動をしていたが、2024年に夫と2人の子どもを連れて北海道へ移住。Instagramフォロワー約20万人ほど(急増中)。インフルエンサー・アワード2024で「最も飛躍したインフルエンサー」賞を受賞。
発信内容:移住を機に購入した古い一軒家をリフォーム・DIYする日々や、広大な自然の中での子育て、スローライフの様子を写真と動画で記録。築年数のある家をコツコツとセルフリノベーションする様子、薪ストーブを囲む家族、家庭菜園や地元食材での料理など、都会生活とは違う充実感を発信。移住前からライフスタイル系インスタグラマーとして人気があったが、地方での暮らしを始めてから投稿の雰囲気に一層深みが出て、「本当に幸せそう」「こういう暮らしに憧れる」と評判。フォロワーとのコミュニケーションも活発で、コメントに対して丁寧に返信しファンを大切にしている。
影響力とファン層:20代後半〜40代女性。特に地方移住や二拠点生活に興味がある層、シンプルライフ志向の層から熱烈な支持。「都会の喧騒から離れて生活を楽しむKihoさんを見て、自分もいつか…と思う」「子育てしながらこんなにオシャレな生活ができるなんて尊敬」といった声がある。フォロワーは共働き世帯の妻層が多く、彼女の投稿がライフデザインの参考となっている。移住後フォロワー数が飛躍的に伸びており、マスコミからも取材が来るほど注目の存在に。リアルイベント(暮らしのワークショップなど)を開催すれば全国からファンが集まりそうな勢いである。
マネタイズ:Instagramを中心に、家具メーカーや生活雑貨ブランドとのタイアップが増えている。また北海道への移住が話題となり、自治体から地域PRの協力依頼を受けるなど地方創生インフルエンサー的な役割も担いつつある。ライフスタイル系雑誌でコラム連載がスタートする予定もあり、執筆などの仕事にも広がりが出ている。ファンとの交流イベント(田舎暮らし体験ツアー等)を検討中で、実現すればツアー代金やワークショップ参加費からの収益も見込まれる。彼女の場合、フォロワーの信頼が厚いため、自身が愛用する日用品などのEC販売を始めれば成功する可能性が高い。shiorily – 旅好きママの上質なライフスタイル提案
プロフィール・活動:30代女性。幼い子どもがいるが精力的に国内外を旅行し、その体験をSNSで共有するライフスタイル&トラベル系インフルエンサー。2024年のインフルエンサー・アワードでライフスタイル部門優秀賞を受賞。Instagramフォロワーは10万人程度ながらエンゲージメントが高い。
発信内容:日本各地のおしゃれなホテル、旅先の風景、美味しかったレストランなどを美しい写真と文章で投稿。子連れ旅行の苦労や工夫もリアルに書いており、旅行好きのママ達から「参考になる」と共感を集める。自宅のインテリアや週末のお出かけスポット紹介など、日常のライフスタイルも洗練されていて、そのセンスを盗みたいフォロワーが多数。ブログではより詳細な旅行記や持ち物リストなど役立つ情報を提供し、電子書籍で旅行ガイドを自主出版している。
影響力とファン層:30代前後の女性、とりわけ小さい子がいても旅行を諦めたくない層から熱い支持。「子連れでもこんなに素敵なホテルに泊まれるんだ」「真似して旅行計画立てました」といった反響が大きい。投稿写真のクオリティが高く、高級リゾートホテル公式アカウントが彼女の写真をリポストすることも多々ある。彼女自身も旅先でプロカメラマンばりに撮影しており、もはや旅行ブロガー兼フォトグラファーの域に達している。ファンは「しおりさんの選ぶものにハズレなし」と信頼しており、彼女が紹介した宿泊施設や観光地を訪れるケースが増えている。
マネタイズ:主に旅行関連企業との提携。ホテル・旅館から招待を受けてステイし、その体験を発信する案件が増えている。また旅行予約サイトの広告企画でモデル的に登場したり、地域観光プロモーション動画に起用されたりも。インスタグラムではスーツケースやベビーカーなど旅行・育児グッズのPRも手がける。影響力の割にフォロワー数はそこまで多くないため、ナノ・マイクロインフルエンサー的な料金形態だが、高いコンテンツ力を武器に仕事の幅を広げている。ゆくゆくは自ら旅行会社と組んで「フォロワー限定ツアー」を企画するなど、コミュニティビジネス化する可能性もある。まめきちまめこ(前述漫画系) – 独身女性の日常を笑いに昇華する漫画ブロガー
プロフィール・活動:1980年代生まれ。自称「底辺ニート」の女性が描く日常漫画ブログが人気に。Instagramフォロワー130万人超。独身・彼氏なし・ペット(犬猫)と暮らす日常をコミカルに描き、多くの共感と笑いを呼ぶ。
発信内容:4コマや1ページ漫画形式で、自身のダメ人間っぷり(昼過ぎまで寝てゲーム三昧など)やペットとの掛け合い、友人や家族とのエピソードなどを投稿。「近所のスーパーの割引シール争奪戦」「ゲーム課金を止められない」などユーモラスでテンポよいネタが持ち味。週数回更新され、フォロワーは新作を心待ちにしている。ブログサイトも運営しており、そこではコメント欄で読者と交流することも。
影響力とファン層:20〜40代男女幅広く支持。特に独身社会人や働き疲れた人たちが「自分もこんな生活送りたい笑」「肩の力抜ける」と癒やされている。彼女のフリーター的ライフスタイルは一種の憧れと自虐を同時に感じさせ、「まめこが生きてるから自分も頑張ろうと思える」なんてコメントも。ネガティブな事象も笑い飛ばす作風が愛され、SNS漫画の女王と言われるほどの人気を博す。書籍は累計数十万部売れており、グッズも飛ぶように売れる。影響力という意味では、社会現象というほどではないが、インターネット文化に馴染む人なら知らない者はいない存在になりつつある。
マネタイズ:漫画の単行本化による印税、大手企業とのコラボグッズ収入(コンビニとのタイアップでキャラクター雑貨が発売された例あり)、公式ファンクラブ(月額課金)での収入も確保している。直接的な「暮らし」関連商品のPRなどはしていないが、彼女の影響で増えたのはペット関連。飼い猫や犬が漫画に出ることでその犬猫種の人気が上がったり、彼女が作中で着ていた部屋着が「まめこが使ってる」とバズって売れたりと、間接的な影響が垣間見られる。インフルエンサー本人はマイペースを崩しておらず、仕事はほどほどにしながら好きなことをして暮らしている様子で、それがまたファンにとっては安心材料となっている。陽美(みなみ) – ゴルフ×オフィス×推し活の共働き女子
プロフィール・活動:30代前半の会社員女性。平日はOL、週末はゴルフやアイドルのライブ参戦(推し活)などアクティブに楽しむ姿をブログ形式で発信。MOREという女性誌ウェブの「モアインフルエンサーズ」メンバーで、No.503 陽美として記事連載。Xフォロワー数千人、Instagram1万人程度。
発信内容:雑誌サイト上でのブログでは、可愛いゴルフウェア紹介、オフィスカジュアルコーデ、好きなK-POPアイドルのコンサートレポ、美容医療体験記、マネー勉強会参加レポートなど、多彩なトピックを執筆。まさに「働く20〜30代女性の趣味と生活全部盛り」といった内容。InstagramやXでも同様のテーマを簡単に発信し、雑誌公式からリポストされることも。本人も読者モデル的ポジションを活かし、誌面企画に登場することがある。
影響力とファン層:雑誌MORE読者を中心に20代後半〜30代女性がファン。「フルタイムで働きながら趣味を満喫する姿に刺激される」「陽美さんのように上手に息抜きしたい」と共感を集める。彼女はプロのインフルエンサーというより趣味ブロガーに近く、フォロワーとの距離感も近い。コメント欄には「私もゴルフ始めました!」など彼女に影響され行動した報告も見られる。絶対数は大きくないが、雑誌コミュニティの中で確固たるファンを抱えている。
マネタイズ:基本的に本業は会社員であり、インフルエンサー活動は副業かつ雑誌MOREとの契約下。MOREからは記事執筆料や活動費が出ていると推察される。雑誌タイアップ企画で企業商品を紹介することもあるので、その場合広告料が発生する。例えば彼女が推奨するゴルフ用品や美容施術が記事で紹介されていることがあり、雑誌経由での案件参加と言える。SNS単体での収益化は積極的にはしていない様子だが、今後フォロワーが増えれば個人でのタイアップもあり得るだろう。今は雑誌ブランドと自身の趣味の延長線上で無理なく活動している印象で、そうした等身大の姿がファンの共感を呼んでいる。
分析:ライフスタイル系インフルエンサーは、その人自身の生き方や暮らしぶりがコンテンツになっており、ファンは情報以上にその人のファンであることが多いです。日々の出来事や感じたことを共有するスタイルはブログ文化に近く、Instagramの長文キャプションやストーリーズ、YouTubeのVlog機能がブログの代替となっています。この分野では、フォロワー数の多寡よりも**エンゲージメント(共感・交流)**が重視されます。例えばKihoさんのようにフォロワー数20万でも、その濃さや動員力は100万フォロワーのファッションモデルに匹敵する場合があります。
ファン層はインフルエンサーと同じ境遇(同年代、同じ家族構成、似た趣味など)の場合が多く、コミュニティが形成されやすいです。コメント欄で情報交換が起きたり、インフルエンサー主催のオフ会にファン同士で交流したりという動きもあります。
マネタイズ面では、ライフスタイルジャンルは直接的な広告収入だけでなく、派生ビジネスが盛んです。インフルエンサー本人がブランドを立ち上げたり、書籍・ガイドブック出版、イベント開催、ツアー企画など、多彩な展開が可能です。彼らは単に情報を売るだけでなく、ライフスタイルそのものを商品にしていると言えます。
一方で、日常を切り売りする負担も伴います。プライベートと公の境界が曖昧になりやすく、家族を巻き込むケースもあります。ママ系インフルエンサーなどは子どもの登場が増え、プライバシー管理やバッシングなどリスクもあります。そのため、影響力が増すにつれSNS活動をセーブしたり引退する人もいるジャンルです。
それでも、ライフスタイル系は現在も新しいスターが続々と出てきています。特に「田舎移住」「二拠点生活」「サステナブルライフ」などの潮流に乗ったインフルエンサーが2024年は増加傾向にあり、企業もそういった価値観マーケティングに彼らを起用するケースが増えています。
エンタメ・お笑い・ショート動画系インフルエンサー
エンタメ系インフルエンサーとは、人々を楽しませ笑わせることを主眼に置いたクリエイターたちです。コント・コメディ動画、夫婦やカップルで魅せるエンタメ、ASMRなどの聴覚コンテンツ、さらにはネットミームの発信者まで幅広く含まれます。このジャンルはTikTokやYouTubeショートとの親和性が高く、先述したショート動画スターも大半がエンタメ系と言えますが、ここでは主に笑いに焦点を当ててピックアップします。
平成フラミンゴ(NICO & RIHO) – 女性コンビYouTuberの新星
プロフィール・活動:NICOさん(1999年生)とRIHOさん(1999年生)の幼なじみ女性2人組。2020年YouTubeチャンネル開設からわずか数年で登録者360万人超に急成長(2024年)。「平成フラミンゴ」は二人の生まれ年(平成)とかつて飼っていたフラミンゴのぬいぐるみから名付けたとのこと。
発信内容:独特のハイテンション掛け合いコント動画がメイン。女子ならではのあるあるネタ(「彼氏の前と女友達の前の態度の差」など)をテンポ良く演じて人気に。さらにドッキリ企画や歌ってみた、ダンス動画など何でも挑戦する。TikTokにもショートクリップを投稿し、こちらでもフォロワー数百万人規模。二人ともスタイルが良くファッション感度も高いため、動画内容によってはモデルのような一面も見せるが、基本的には全力でふざける笑い重視の姿勢。2023年には「しなこワールド」と題した楽曲でアーティストデビューも果たした。
影響力とファン層:10代〜20代を中心に男女問わずファン多し。「学校で平成フラミンゴの真似が流行った」といった中高生エピソードもあり、彼女らのギャグはティーン文化に浸透している。親しみやすい幼なじみコンビという関係性も好まれ、「この二人の仲の良さに癒される」と感じる視聴者も多い。最近はテレビの歌番組出演やラジオパーソナリティなど活動の場を広げており、メディア露出増加に伴い30代以上の認知度も上がっている。広告企業からの評価も高く、爽やかな商品から面白路線の企画まで振り幅広く対応できるタレントとして需要がある。
マネタイズ:YouTube広告収入の他、企業案件が多数。化粧品、コンビニ商品、アプリなどのPR動画をコミカルに制作し、視聴者にも好評を得ている。さらに2023年〜2024年にはファッションイベント出演や楽曲リリースによる収益も加わった。特筆すべきは、二人のブランディング力で、自身のファッションブランドを立ち上げたり、グッズ販売も活発で、公式オンラインストアの売上は莫大と推定される。マルチクリエイターとしてファンクラブ運営やライブイベント開催も視野に入れており、その際のチケット収入なども見込まれる。なこなこカップル(なごみ & こーくん) – 関西発の人気カップルYouTuber
プロフィール・活動:なごみさん(女性)とこーくん(男性)のカップル。関西出身。USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)での出会いをきっかけに2019年頃から動画投稿開始。ラブラブぶりとユーモアでファン獲得し、チャンネル登録者160万人超。2023年3月に結婚し話題に。
発信内容:カップルの日常、ドッキリ、質問コーナー、旅行Vlogなど。お互いへのドッキリ(彼氏にメイクドッキリ/彼女に浮気疑惑ドッキリ等)が人気コンテンツで、互いの反応が面白いと評判。関西弁の掛け合いで繰り出す漫才のようなトークも魅力。最近は結婚報告や結婚式準備の様子、さらに第一子妊娠発表などライフステージの変化も共有している。InstagramやTikTokでもカップルダンス動画やおしゃれ写真を投稿し、総合的な人気を確立。
影響力とファン層:視聴者は10代〜20代女性が主だが、カップルチャンネル好きの男性や年上世代まで幅広く存在。「こんなカップルになりたい」「見ているだけで幸せな気分」と好意的なコメントが多い。二人の仲睦まじさに憧れる人が多く、若者の理想のカップル像とも言われる。実際、2024年にはZ世代向けSNSトレンドでインフルエンサー部門第3位にランクインするなど、Z世代認知度はトップクラス。彼らの結婚報告動画は数百万再生され、ネットニュースやTVでも取り上げられた。ファッションアイコンとしても支持され、彼女のなごみさんは可愛らしい着こなしが女性ファンから注目され、彼氏のこーくんもメンズファッションブランドを手がける実業家の顔も持つ。
マネタイズ:YouTube広告と企業タイアップ(カップル向けアプリやデートスポット紹介など)の他、アパレルブランド運営が大きな収入柱。二人は共同でアパレル・コスメブランドをプロデュースし、自身のファンを顧客化している。また最近の結婚に合わせて、結婚式場とのコラボ企画やウェディング関連商品のPRなど新たな案件も生まれている。結婚・出産とライフイベントが続くため、今後はマタニティ・ベビー関連のタイアップも増えると予想される。カップルから夫婦YouTuberへとステージが変わっても、その人気は衰えずむしろファミリー層まで取り込み拡大する可能性が高い。アレン様 – 唯一無二の美容整形キャラで笑いを取るインフルエンサー
プロフィール・活動:30代男性。本名非公開。全身の美容整形に1億円以上費やしたと言われる男性。「アレン様」としてキャラ確立し、奇抜なファッションと毒舌を武器にブログやSNSを展開。X(旧Twitter)フォロワー約20万人、ブログ月間PV数百万。2024年Z世代トレンドアンケートでインフルエンサー部門2位にランクイン。
発信内容:日常の出来事や思ったことをアレン様構文と呼ばれる独特の文体で綴る。例:「今日は朝からお肌の調子がよろしゅうございましたわ」など、お嬢様言葉に絵文字を多用しつつ皮肉や辛辣なコメントを交える。ブログでは自身の整形経過やコスメレビューも行うが、基本的に自虐と他者への辛口ネタで笑いを取るエッセイ風。Twitterでの投稿が度々バズり、その文章真似するファンも多数。自称「整形貴婦人」でシャンパン片手に写る写真などビジュアルインパクトも大。最近はYouTubeでトーク番組風動画を始める動きも。
影響力とファン層:20代女性・LGBTQ層などコアなネット民に人気。テレビへの露出はほぼなく、ネット文化内でのカリスマ的存在。「アレン様構文」はネットミームとして拡散し、SNS上で一時トレンド化したほどである。そのためファン以外にも名前が知れ渡っている点で、隠れた影響力がある。「一周回って品がある」「言葉選び天才」と言われ、文章のみで笑わせる数少ないインフルエンサーの一人。彼のキャラは一度見ると忘れられず、癖になるためリピーターが多い。
マネタイズ:ブログでのアフィリエイト収入(美容整形クリニックやコスメ紹介など)はあるが、表立った企業案件は少ない。彼のブランドと合うニッチな商品(高級シャンパンやラグジュアリーホテルなど)のプロモーションが僅かにある程度。自身がECサイトでプロデュースしたグッズ(「アレン様語録」入りのTシャツやステッカーなど)を販売し、コアファンが購入している。最近はトークイベントを開催し、入場料収入やグッズ販売でマonetizationを模索しているようだ。彼の場合、お金よりも自分の美の追求が目的なので収益化にはあまり執着しておらず、自由奔放に活動している点もキャラの魅力になっている。カノックスター – 型破りな大食いモッパン動画で大人気
プロフィール・活動:1992年生まれ。韓国語で「モッパン(食べる放送)」ジャンルの男性YouTuber。現在日本で大食いYouTuberとしてトップクラスの人気。YouTube登録者192万人(2024年10月時点)、TikTokフォロワー350万人超。2024年10代女子アンケート「大食い部門」第1位獲得。
発信内容:一言で言うと破天荒な大食い動画。綺麗に食べる大食いではなく、汚く面白く食べるスタイルが特徴。大量のカレーに頭から突っ込んだり、麺をすすり散らかしたりと普通の人がやらない食べ方で笑いを誘う。コラボにも積極的で、他の人気クリエイターや芸能人との共演動画も多い。2024年に子供が生まれ、最近は「赤ちゃんとモッパン」という意表を突くコンテンツも。視聴者からは「汚いwでも笑っちゃう」「クセになる」と中毒性が評される。ライブ配信で一緒にご飯を食べる企画も好評。
影響力とファン層:10代〜20代前半の若者に人気が高く、「学校で流行っているYouTuber」として名前が挙がる。特に高校生男子などから「バカやってるのが面白い」と支持がある反面、女性ファンも少なくない。TikTokなどで切り抜き動画が多数出回り、若年層の間で一種のエンタメアイコン化している。汚い食べ方ゆえ嫌う人もいるが、その唯一無二の芸風はネット文化に溶け込み、模倣者も出現するほど。2024年には娘の誕生を機にパパYouTuberの側面も加わり、ストーリー性が生まれてファンがより定着している。
マネタイズ:YouTube広告収入が大。案件は食品メーカーや飲食チェーンから来ることもあるが、あまり綺麗なイメージではないため限定的。しかし2022年頃カップ焼きそば「ペヤング」公式とコラボで大盛企画をしたりと、話題性重視で起用される例もある。グッズでは自身のキャラクター(クセが強い似顔絵)をあしらったTシャツや食器を売り、ファンが購入。さらにテレビバラエティ出演も増え、そこでの出演料や知名度向上による間接収益もある。2023年末にはエッセイ本も出版し、自身の半生や食への思いを語ってベストセラーとなった。こうしたクロスメディア展開で、お笑い大食いタレントとしての地位を築きつつある。しなこ – 原宿発「ゆめかわ」ASMRクリエイター
プロフィール・活動:1998年生まれ。原宿系のカラフルファッションとスイーツを組み合わせたASMR動画で有名になった女性YouTuber。SNS総フォロワー350万人超(2024年10月時点)。カラフルポップな見た目から「ゆめかわいい」文化の象徴的人物。2024年には歌手デビューも果たす。
発信内容:主にカラフルなお菓子を自作・実食するASMR動画。例:巨大なレインボーチョコを作ってバリバリ食べる、色とりどりのグミを並べて食べる等。高品質なマイクで収録された心地よい咀嚼音と、カラフルな映像の楽しさで国内外にファン多数。彼女自身のメイクやファッションも独特で、ピンクや水色の髪にメルヘンな服装がトレードマーク。YouTube以外に店舗プロデュース(原宿のカフェ)や菓子開発など活動はマルチ。2024年には自身の世界観を音楽で表現する「しなこワールド」名義でアーティスト活動開始。
影響力とファン層:小中学生の女子から熱狂的な支持がある。「可愛い世界観に癒される」「自分も真似してお菓子作った」という声があり、彼女がプロデュースしたコラボお菓子商品は発売日に行列ができた。ASMRというジャンルのため海外視聴者も多く、コメント欄には英語・スペイン語などが飛び交う。YouTubeのチャンネル登録者は日本語圏外が半分以上とも言われ、グローバルインフルエンサーでもある。ビジュアルが特徴的なので、イベントに登場すると一目でファンが駆け寄り、原宿ではカリスマ的存在。若年層女性に対する影響はファッション・メイクにも波及し、彼女の真似をする「しなこちゃん憧れ」な子たちが一定数いる。
マネタイズ:YouTube広告収入に加え、自身のプロデュース事業が大きい。原宿に自分のプロデューススイーツショップを開き、ファンが詰めかけている。企業案件も多く、サンリオなどキャラクターとのコラボ動画、製菓メーカーとの商品開発、ドン・キホーテでのお菓子福袋販売など実績多数。テレビCM出演も経験しており、2024年には大手お菓子メーカーのキャンペーンキャラクターに抜擢。アーティスト活動ではCDやライブチケット売上も見込め、グッズ販売(自作アクセサリーやファッションアイテム)なども盛況。ブランド化に成功したタイプで、インフルエンサーの枠を超え一種のプロデューサー兼タレントとなっている。
分析:エンタメ・お笑い・ショート動画系は、プラットフォームのアルゴリズムとユーザーの「笑いたい」「楽しみたい」というニーズがマッチしたとき、一気に人気者が誕生する土壌です。このジャンルではバズの連鎖が極めて重要で、上記に挙げた多くのインフルエンサーは、一度のバズから一気に知名度を上げています。例えば平成フラミンゴはあるあるネタ動画がTwitterで拡散されて人気に火がつき、なこなこカップルは微笑ましい日常がTikTokでバズったことが出発点です。
ファン層は比較的若く、コンテンツ消費もライトです。そのため、再生回数やフォロワー数が非常に大きくなりやすい傾向があります。Junyaさんやカノックスターのように、世界的なショート動画スターになる例もあります。一方でファンのロイヤリティは他ジャンルと比べて低い場合もあり、次々新しい笑いを提供し続けないと飽きられるリスクもあります(ショート動画系は特に顕著)。
マネタイズでは、笑いメインのコンテンツは広告案件が付きにくい面もあります。商品の説明より笑い優先なので、企業が情報を正確に伝えたい場合は不向きになることがあります。しかし、最近は広告自体をエンタメ化する動きもあり、インフルエンサー側が企業ネタを面白おかしく調理することで、結果的に広告効果が上がる例も増えています。例えばカップルYouTuberに恋愛アプリを宣伝させたり、コメディ系TikTokerに食品をPRさせたりと、単調な広告よりも視聴されやすい作りにしてもらうケースが多いです。
特筆すべきは、コラボレーションの多さです。お笑い・エンタメ系は互いにコラボ動画を作ることが盛んで、ファン層のシナジー効果でさらに人気が拡大します。UUUM等事務所に所属している場合、事務所内コラボを積極的に組まれるため、視聴者は飽きにくく、インフルエンサーもネタの幅が広がります。
このジャンルはテレビ的なお笑い芸人との線引きが曖昧になりつつあります。ネット出身者がテレビ出演を果たし、一方で芸人がYouTubeチャンネル開設してネット進出する相互交流が進んでいます。2024年現在、テレビ番組でも人気YouTuberがMCやゲストを務めるのは珍しくなく、インフルエンサーがお茶の間の笑いを取る時代になってきています。
グルメ・料理・大食い・旅行系インフルエンサー
(※グルメ・旅行系はライフスタイルでも触れましたが、ここでは主に食べ物に焦点を当て、料理クリエイターや大食いタレント、グルメレビュー専門家などを含めて紹介します。)
リュウジ(料理のおにいさん) – バズレシピで有名な料理研究家インフルエンサー
プロフィール・活動:1986年生まれ。2017年頃からTwitterに投稿した「悪魔のレシピ」シリーズが大反響し、一躍人気者に。YouTubeチャンネル「料理研究家リュウジのバズレシピ」は登録者300万人超(2024年現在)、Twitterフォロワーも300万以上。今ではテレビ出演や書籍多数の著名人。
発信内容:電子レンジで簡単にできる酒の肴、ジャンクだけど美味い時短飯、など誰でも真似しやすく「バズる」レシピを日々考案。Twitterに140文字レシピを投稿しバズったのを皮切りに、YouTubeでは手順を実演しながら酒を飲むスタイルで人気に。口調は軽快で面白く、字幕編集もテンポ良い。「○○を○○するだけ」といった手軽さと悪魔的美味しさの両立が支持され、「リュウジレシピで自炊始めた」人が続出。料理以外に雑談配信や質問コーナーも実施。
影響力とファン層:20〜40代の幅広い層、とりわけ一人暮らしや共働き世帯から絶大な支持。「リュウジさんのおかげで外食減った」「今日もリュウジレシピで晩酌」という声が多い。彼の提案するメニューはスーパーの食材で真似できるため売場にも影響があり、特定の調味料が品薄になることも。「料理研究家」という肩書きながら堅苦しくなく、SNSに最適化した親しみやすい料理の先生として不動の地位。企業の食品販促において彼とのコラボ動画やレシピ起用は勝利パターンとされ、PR案件も多い。
マネタイズ:YouTube広告、テレビ出演料、レシピ本印税、雑誌連載料などマルチ。企業とのタイアップは非常に多く、スーパー惣菜のリメイク提案でデパ地下ブランドPR、缶詰メーカーの商品を使ったレシピ動画など多数成功事例がある。調味料や調理器具の監修商品も次々発売し、彼のフライパンは瞬時に完売するほど。自身のキッチンスタジオを持ち、企業向けレシピ開発やメニュー監修といった裏方仕事も請け負う。もはや一個人のインフルエンサーというより一大料理ブランドになっている。ハシダ(はしだ) – 大阪グルメを的確レビューするTikToker
プロフィール・活動:1990年代生まれ男性。大阪在住。TikTokで大阪の新作グルメや話題の店を早口で紹介するレビュー動画がバズり、フォロワー234万人(2024年10月)。YouTubeやInstagramにも活動拡大中。
発信内容:独特のマシンガントークで、例えば「松屋の新作カレー食べてみた!率直レビューします!」といった短い動画を投稿。良い点も悪い点もズバッと言うスタイルで、「忖度のない正直レビュー」と評判に。大阪のコンビニ限定商品やローカルチェーン店も取り上げ、地元民の共感を得ている。100円ローソンの新商品を誰より早くレビューしていたこともあるなどフットワークが軽い。名前の通り大阪弁混じりで畳み掛けるしゃべりが特徴で、「気になってた商品を買う決め手になった」「辛口だけど的確」と信頼されている。
影響力とファン層:ティーンから中年まで男性視聴者中心に人気。主にTikTokユーザーである10代がよく見ており、「ハシダさんの評価を見てから買うか決める」という声が多い。コンビニ・ファストフード好きな層に支持され、新商品発売日の朝にハシダさんのレビューを待つ人も多いほど。大阪らしいノリと切れ味あるコメントで全国区の知名度を獲得しつつある。2024年10代女子アンケート「商品レビュー部門」2位にランクインし、Z世代からの信頼度が見て取れる。
マネタイズ:TikTokクリエイターファンドやライブ配信でのギフト収入程度で、本人は本業を別に持っている可能性がある(詳細非公開)。案件については、正直レビューを売りにしているため、公平性を損なう依頼は受けにくいが、最近はチェーン店から公式アンバサダー依頼があり、期間限定メニュー開発に協力した事例がある。信頼が厚いだけに今後企業とうまく組めば大きな広告効果が期待でき、業界から注目されている。YouTubeにも進出したので広告収益も増えていくだろう。彼の強みはローカル情報への精通と素直なコメントなので、テレビのグルメリポーターなど新たな仕事へのオファーもあり得る。ウルフ(バズグルメクリエイター) – 全国食べ歩きリールで話題のフードインスタグラマー
プロフィール・活動:1990年代生まれ男性。肩書きを「バズグルメクリエイター」と称し、日本中の美味しい店を巡ってInstagramリールで紹介。フォロワー約56万人(2024年)。食べ歩き歴10年超。
発信内容:インスタリール動画でお店の料理風景、店構え、店員さんの人柄まで切り取る独自編集が魅力。あえて調理中の音や店内音声も入れ、文章テロップで詳細解説するため、短い動画に情報が詰まっている。「なぜ美味しいのか」「店主の想い」まで伝えるので、単なるグルメ紹介以上にストーリー性がある。全国各地の穴場も多く取り上げ、フォロワーから「知らなかった店に行って感動した」との声が多数。キャプションでも詳しく味や価格を書き、コメントにも丁寧に返答する。
影響力とファン層:20〜50代まで幅広いグルメ好きがフォロー。旅行好きにも刺さり、「この動画見て次の旅行先決めた」というケースも。料理の映像美や音もこだわっており、見ているだけで食欲が刺激されシェアしたくなるため、リールの再生数はフォロワー以上に多い。結果、フォロワーでない人にも動画が届き、地方の名店が全国区になることも。お店からするとウルフさんが来店し紹介されるのは嬉しい半面、客急増でてんてこ舞いになるほど影響力が大きい。信用第一でやっているため、客寄せより店の理念共有を重視しており、お店からの感謝も厚い。
マネタイズ:これまでは個人の趣味ベースで、案件らしい投稿はなかった。最近になって飲食チェーンとのコラボ企画(期間限定メニュー開発や広報動画制作)に参加するなど、徐々に商業的な仕事も増えている。旅費や飲食代は基本自腹だが、それ以上にSNSでの認知向上に繋がりオファーが舞い込む好循環。地元自治体や観光協会からイベント出演依頼があり、講演で「バズるグルメ発信法」を語ることも。今後はテレビのグルメ番組出演や、ガイドブック出版などの話もあるかもしれない。ファンとのオフ会ツアー(ウルフさんと行くグルメ旅)を企画すれば需要は高そうである。現状、大きくマネタイズしていないのも彼への信頼を高めているが、プロフェッショナルとしての転機が来つつあると見られる。
分析:グルメ・料理・旅行系インフルエンサーは、趣味性が高い一方で実用性も備えているため、ファンとの結びつきが強い傾向があります。美味しい店を知りたい、簡単で美味しい料理を作りたい、楽しい旅行プランを知りたい——そうした明確なニーズに答える発信であるため、視聴者は積極的に情報を取りに来ます。その結果、フォロワー数はそれほど多くなくとも、エンゲージメント率が高い傾向にあります(投稿へのリアクションが濃い)。
特に料理レシピ系は再現性という指標があり、リュウジさんのように「実際作ったら美味しかった」という声が拡散されると絶大な信頼を獲得します。大食い系はエンタメ性も強いですが、料理の美味しさや食の楽しさを伝える役割も果たしています。
このジャンルのマネタイズは多角的になりがちです。食関連の広告案件は分かりやすく効果測定もしやすいため、企業は積極的にインフルエンサーを起用します。その際、インフルエンサーの信頼性が極めて重要になります。リュウジさんがまさにそうですが、彼が太鼓判を押した商品はバカ売れするため、下手なものは紹介できず、本当に良いと思ったものだけ扱うというポリシーがあり、結果的に企業からは求められファンからは信頼される好循環を作っています。
旅行系はコロナ禍を経て2023年以降急回復しており、旅行インフルエンサーへの期待も高まっています。観光地プロモーションの費用をテレビCMではなくSNSに充てる自治体も出てきて、インフルエンサーが地域おこしの一端を担っています。
グルメ評価系は、辛口でも許される空気がネットにはあります。むしろ正直レビューがウケているのがトレンドで、ハシダさんや「正直レビュー🍰」アカウントなど、名前に「正直」「忖度なし」を冠する例が増えています。企業案件には向き不向きがありますが、ファンは彼らの評価を重視します。
まとめると、グルメ・料理ジャンルは実利的価値と娯楽性を両立し、コアなファンが多い分野です。企業からも引き合いが強く、今後も多くのインフルエンサーが生まれるでしょう。ただし、専門知識やスキルが要求される分野(料理技術、味覚の説得力など)でもあるため、突出した才能が注目を浴びる構図になっています。
スポーツ・フィットネス・身体づくり系インフルエンサー
スポーツ・フィットネス系では、プロ級の技を見せるインフルエンサーや、トレーニング方法を教える指導者的インフルエンサー、さらには自らの肉体改造の過程を発信するダイエット系インフルエンサーなどが活躍しています。
(※Takuya Okuhiraさん等は既にInstagram部門やライフスタイルで触れているので、ここでは他の例を補足的に挙げます。)
AYA(小山内あや) – 芸能人も信頼するカリスマフィットネストレーナー
プロフィール・活動:1985年生まれ。クロスフィットトレーナーとして著名。ローラさんなど著名人のボディメイクを担当し、「日本を代表するフィットネスモデル」と呼ばれる。Instagramフォロワー約45.7万人。多数のフィットネス関連ブランドと契約。
発信内容:主にInstagramでトレーニング風景や食事、スポーツウェア姿を投稿しモチベーションを提供。「#腹筋女子」ブームの火付け役であり、自身も割れた腹筋と鍛え抜かれた体を公開。専門的知見も豊富で、ストーリーズで質問に答えたり、トレーニングメニューを動画で紹介することも。Twitter(X)ではフィットネスコラム的な投稿もあり。
影響力とファン層:20〜30代女性で本気で体を鍛えたい層に神格的に支持される存在。「AYAさんみたいな身体になりたい」とパーソナルジムに通い始める人が後を絶たない。男性ファンも、美しい筋肉美への憧れからフォローしている。彼女の投稿はモチベーションビデオとしてシェアされ、筋トレコミュニティ内で影響力が強い。雑誌やテレビでも露出が多いため認知度も高い。
マネタイズ:契約トレーナー収入(アディダスやサントリー健康食品などスポンサー契約)、自身のフィットネスジム経営、フィットネスDVDや書籍の印税、イベント出演料など。SNS自体からの直接収入は少ないが、ブランド価値が非常に高く、スポーツ用品やヘルスケア商品のアンバサダーとして企業に貢献。彼女監修のプロテインやウェアもファンにはバカ売れで、プロデュース商品の収益も大きい。インフルエンサーというより既に一企業のような存在であり、2024年も独自のオンラインジムサービス立ち上げを計画中。Tsuki(つき) – ヨガ×マインドフルネスを発信するインストラクター
プロフィール・活動:1990年代生まれ女性。TikTok・Instagramでヨガライフスタイルを発信する「tsukiyoga」アカウント運営。総フォロワー数60万人強。ヨガインストラクター資格を持ち、イベント多数出演。
発信内容:ヨガポーズの解説動画、朝のストレッチルーティン、ヨガ哲学に基づく前向きな言葉などを投稿。穏やかな語り口と柔軟なポーズの美しさが人気。ヨガ初心者向けにわかりやすくポーズをレクチャーし、「これなら自分もできそう」と思わせる工夫がある。Instagramではおしゃれなヨガウェア姿でビーチヨガする写真などが映え、TikTokでは1分でできる睡眠前ストレッチなど実用コンテンツがバズる。
影響力とファン層:20〜40代女性中心。家で気軽にヨガを始めたい人がフォローしており、「つきさんのおかげで毎朝5分ヨガ続けてます」という報告も。コロナ禍でオンラインヨガ需要が伸びた際にもフォロワーを増やした。エクササイズとしてだけでなくメンタルヘルスやリラックス法としてのヨガの魅力も伝えるため、ストレスを抱えた社会人層にも支持されている。「心が軽くなる言葉に救われる」とキャプションのメッセージ性も評価されている。
マネタイズ:オンラインヨガクラスの運営(月額サブスク会員収入)や企業とのタイアップ(ヨガマットやウェアブランドの広告モデル)が中心。ヘルスケアアプリと組んでヨガプログラムを提供するなど、デジタルコンテンツ販売も手がける。リアルではワークショップやリトリート(合宿形式ヨガイベント)を開催し、参加費収入とグッズ販売がある。健康関連の商品(ハーブティーやアロマオイルなど)のプロモーション依頼も受けており、フォロワーが購買につながっている。総じて大規模収益ではないが、コミュニティ運営型で着実にマネタイズしている。
分析:スポーツ・フィットネス系は、身体作りのノウハウや成果を共有することでファンを獲得します。このジャンルのフォロワーは自分も頑張ろうと思っている人が多く、インフルエンサーを目標像に設定して努力することが多いです。そのため、フォロワーのモチベーション維持がインフルエンサーへのエンゲージメントに直結します。「あなたのおかげで続けられた」「◯kg痩せました」という声が多いのは、インフルエンサーがコミュニティのリーダーとして機能している証です。
商業的には、スポーツ用品やヘルスケアグッズとの相性が抜群です。インフルエンサー自身が理想的な体型や健康を体現している場合、その人が使うウェア、シューズ、サプリなどは商品価値が上がります。ブランドと長期契約して広告塔になるケースが多いのも特徴で、例えば有名アスリートと同じように、フィットネス系インフルエンサーが雑誌広告に登場したりします。
一方、競技やトレーニングの専門性が要求されるため、情報の正確さが大事です。不適切なトレーニング勧誘で怪我人が出た、などとなれば信頼失墜につながるため、他ジャンル以上にプロ意識が必要です。そのため元アスリートや専門資格保有者が多く、アマチュアが軽率に参入しても長続きしづらい傾向があります。
また、見せるスポーツ(パフォーマンス系)の場合、Takuyaさんのように競技の普及や育成を目的に活動しているケースもあり、インフルエンサー自体が社会的な使命感を持つこともあります。そうした人たちは企業と組んでスポーツイベントを開催したり、子ども向け教室を無料で開いたりと、営利を二の次にする場合もあります。
総じて、スポーツ・フィットネス系はフォロワーの健康や生活を直接良い方向に変える力を持ったインフルエンサーが多く、社会的にも意義のある活動が目立ちます。この領域は今後、国や自治体(健康増進施策など)との連携も増える可能性があり、インフルエンサーの役割がさらに広がるでしょう。
ビジネス・教育・キャリア系インフルエンサー
ビジネス系インフルエンサーとは、経営やマネー、テクノロジー、キャリア形成などに関する情報を発信する人々です。また勉強法や資格取得ノウハウなど教育分野も含めます。このカテゴリはエンタメ性は低いものの、実務的な有益情報を求めてフォローする人が多く、主にYouTubeやVoicy、noteなどで人気を博すケースが多いです。
中田敦彦(あっちゃん) – YouTube大学で学び直しブームを起こした教育系YouTuber
プロフィール・活動:1982年生まれ。元お笑い芸人オリエンタルラジオのあっちゃん。2019年に始めた「YouTube大学」は登録者450万人超(2024年)。歴史、経済、文学、科学など幅広いテーマを独学して分かりやすく解説する動画が人気。2023年に米国移住し現在はオンラインで活動継続。
発信内容:長時間(30分〜1時間)の講義形式動画をアップ。たとえば「世界史を10回で学ぶ」「話題のビジネス書を解説」「宗教とは何か」など、難しいテーマをホワイトボードを使い熱弁するスタイル。お笑い芸人らしいトーク力で引き込み、図解も駆使し理解を助ける。視聴者からは「学生時代この授業聞きたかった」と言わせるほど分かりやすいと評判。最近はゲストとの対談や、オンラインサロンでのディスカッション企画も増加。
影響力とファン層:20代〜50代まで幅広いが、特に20〜30代社会人が多い。「通勤中にYouTube大学を聴いている」という層も多く、Voicy等音声メディアにも展開。彼の歴史解説がきっかけで本に興味を持った人や、経済の基本を理解でき投資を始めた人もいる。芸人時代の知名度もありファンコミュニティが巨大で、各種SNS総フォロワーは数百万規模。インフルエンサー・教育者として一線を画す存在であり、2020年頃のオンライン学習ブームの象徴となった。
マネタイズ:YouTube広告、オンラインサロン(月額制有料コミュニティ)、書籍出版(動画内容をまとめた書籍がベストセラーに)、イベント開催など。企業案件はほぼ行わず、中立性を保っている。サロン会員は数万人規模と言われ、そこからの収入だけでも莫大。教育系ゆえグッズ販売などは少ないが、コラボ講義や講演料収入もある。日本のみならず海外進出も視野に、英語字幕付き動画配信なども開始し、新規開拓も図っている。両学長(リベラルアーツ大学) – お金の勉強を教える謎の着ぐるみ社長
プロフィール・活動:正体非公開の起業家男性。着ぐるみの猫キャラ「リベラルくん」として活動。YouTube「リベラルアーツ大学」は登録者270万人超。経済・投資・税金などお金にまつわる情報を平易に解説する。関西弁。
発信内容:毎朝6時に10分程度の動画を更新。「初心者向け資産運用5選」「会社員の副業入門」「年金制度をわかりやすく説明」といったテーマが多い。イラストやデータを用い、難しい金融用語も噛み砕いて説明するので分かりやすいと好評。音声メディアにも展開しており、「朝のルーティンで両学長の話を聞く」と習慣化した視聴者が多い。ユーモアも交えつつ要点を押さえる語り口で、堅実なファンを獲得。
影響力とファン層:20〜40代の働く世代が主。「学校で教わらなかったお金の勉強をここでしている」層で、経済リテラシーの底上げに貢献。視聴者が副業始めたり投資信託を買ったりするなど実行者が多く、その体験談がまたコミュニティ内で共有されている。YouTubeコメントや運営する掲示板サイトで情報交換が活発で学習コミュニティが出来上がっている。強い信頼があり、「両学長の言う通りに家計改善したら貯金100万できた」という報告も。
マネタイズ:YouTube広告・書籍化(著書累計50万部以上)・コミュニティ運営の寄付などで収益は十分だが、基本無料で幅広く情報提供することを旨としており過度な商業化を避けている。アプリ開発(家計管理ツール等)も行い利便性向上に注力。リアルイベント(交流オフ会など)は原価程度の参加費でコミュニティサービスの一環。信条としてファンから搾取しない立場を取っており、信頼性が高いゆえに紹介した証券会社等で口座開設者が急増するなど間接的な経済効果は甚大。お金の話を扱うがあくまで「教育系」なので案件らしい案件はなく、独立系の存在感を維持している。ホリエモン(堀江貴文) – 実業家ならではの発信力を持つ論客インフルエンサー
プロフィール・活動:1972年生まれ。ライブドア元社長。実業家・投資家として活躍しつつ、SNSやメディアで発信続ける。X(Twitter)フォロワー360万人以上、YouTube登録者160万人以上。歯に衣着せぬ物言いで有名。
発信内容:時事ニュースへの意見、ビジネス論、宇宙事業・エンタメ事業など自身の取り組みPRまで多岐。Twitterでは短文で政府批判や時事解説を連発し、炎上することもしばしば。YouTubeでは「ホリエモンチャンネル」として対談形式で様々なゲスト(政治家・経営者・芸人など)と議論する番組を配信。ロケット打ち上げ実況やプロ野球解説など趣味企画も多い。オンラインサロン「HIU」を主宰し、ベンチャー応援などにも熱心。
影響力とファン層:30〜50代男性が支持層。社会への不満や問題点をズバッと言う点に共感する人が多い。一方アンチも多く、発言のたびネットニュースになり世論を賑わす。良くも悪くも注目度が高く、Twitterでは度々トレンド入りする。Twitterのインプレッションは億単位とも言われ、経営者インフルエンサーとしては日本トップクラス。彼の発言が株価に影響することもあるほど情報発信力が強い。
マネタイズ:自身が経営する企業の広報を兼ねている部分もある。オンラインサロン会費、著書の売上、セミナー出演料、各種投資案件の宣伝など。メディア出演や講演依頼も絶えず、多方面から収益がある。インフルエンサーとしての広告案件はほぼ無いが、自社プロダクト(焼肉店・ラーメン店から宇宙関連グッズまで)の宣伝にSNSをフル活用。彼の場合、自身が巨大な事業群の顔であり、SNS発信はビジネスそのものと直結している特殊なケースといえる。
分析:ビジネス・教育系はフォロワー数ではエンタメに劣る場合がありますが、濃い信頼が築かれやすいです。情報商材まがいのものから正統派の教育コンテンツまで玉石混交ですが、成功しているのはやはり質の高い情報を持続的に提供している人です。両学長のように匿名ながらも堅実な人や、中田敦彦さんのように有名人がキャラを変えて挑戦する例も。共通するのは「自分も勉強になった」とフォロワーが感じるかどうかです。
収益化ではオンラインサロンがひとつの形を築きました。中田さんや堀江さんのようにファンコミュニティで有料会員を集め、そこでディープな情報交換やビジネスマッチングを提供するモデルです。これにより単なるフォロワーを越えたコミュニティ運営者となり、安定収入を確保しています。
もう一つは書籍化です。ネットで培った人気をもとに書籍を出すとヒットしやすく、インフルエンサーの言葉が残る形で広がります。両学長、中田さん、リュウジさんら多くが本をベストセラーにしています。
ビジネス系では信頼が最重要なので、あまり露骨な広告(特定の金融商品を薦める等)は避ける傾向があります。ファンが投資判断など人生に関わる決定を左右されることもあるため、情報の正確さ・透明性を保ちつつ収益化するというバランス感覚が求められます。
インフルエンサー市場の総合分析と展望
以上、ジャンルごとに500名以上の日本人インフルエンサーを取り上げ、そのプロフィール、活動内容、影響力、収益化、ファン層などを詳細に見てきました。最後に、市場全体のトレンドと今後の展望を総括します。
マルチプラットフォーム化の進展:インフルエンサーはもはや単一のSNSに留まらず、YouTube・Instagram・TikTok・Twitter(X)・ブログ・音声配信・リアルイベントなど活動を広げています。2024年現在、各プラットフォームの特性を使い分け、ファンとの接点を増やす動きが一般的です。例えばファッション系ならInstagramでビジュアル発信しつつ、YouTubeで舞台裏のVlogを配信、Twitterで気軽に交流、リアルでファッションショー出演といった具合です。このクロス展開はファン層の拡大とエンゲージメント向上に効果的でしたが、その分インフルエンサー本人の負担も増えています。より多くの媒体を管理する必要があるため、チームで運営するケース(マネージャーやスタッフを雇用)が増え、個人というより小さなメディア企業のようになってきています。
コミュニティ化とサブスク収入:特定ジャンルではオンラインコミュニティ(サロン、Discordグループ、メンバーシップ)を形成し、ファン同士が交流する環境を作る例が増加しました。これはファンのロイヤリティを高めつつ、月額課金モデルで収益を安定化できる利点があります。中田敦彦さん、堀江貴文さん、両学長などが成功例です。インフルエンサー市場が成熟する中、フォロワー数よりエンゲージメントやLTV(顧客生涯価値)を重視する流れが強まり、何十万人もの薄い繋がりより1万人の熱狂的サポーターを重視する戦略が注目されています。
インフルエンサーとブランドの共創:インフルエンサー自身がブランドを立ち上げたり、ブランドの共同開発者になる例が多数出ました。平成フラミンゴのファッションブランド、なこなこ夫婦のコスメブランド、料理系ではリュウジさん監修の調味料、スポーツ系ではAYAさんプロデュースのウェアなど枚挙に暇がありません。従来はインフルエンサーが商品を単に宣伝する立場でしたが、今では企画段階から関与し商品価値そのものとなっています。これにより、ファンはインフルエンサーへの信頼から商品を購入し、ブランド側も確実な売上を見込めるWin-Win関係です。2024年はこの動きがさらに進み、大手メーカーと人気インフルエンサーがタッグを組んだプロジェクトが続々登場しました。
Z世代とインフルエンサー:Z世代(1990年代後半以降生まれ)は、生まれた時からネットと共に育った世代で、インフルエンサー文化が生活の一部となっています。この世代の流行や価値観はインフルエンサーが生み出し拡散すると言っても過言ではありません。2024年の調査でも、多くのZ世代が「憧れるのは有名芸能人よりSNSで活躍する人」と答えています。Z世代は共感とAuthenticity(本物らしさ)を重視し、インフルエンサーも飾らない姿勢を見せる人が人気です。例えばおさきさんのように身近な存在だったり、アレン様のように強烈な個性でも嘘偽りないキャラだったり、様々ですが、彼らに刺さるのは「自分らしい人」。企業はZ世代にリーチするため、ますますインフルエンサーとの協業を求めています。そしてZ世代自身からも新しいインフルエンサーが次々登場し、TikTok等でスターになっています。つまりインフルエンサー文化は世代交代しながら定着しているといえます。
プライバシーとメンタルヘルス:光の部分の裏には影もあります。インフルエンサーの抱えるストレスや炎上のリスクは2024年も重大な問題でした。特に私生活を切り売りするスタイルの人は、24時間SNSに追われ、アンチコメントに傷つき、バーンアウト(燃え尽き)する例も散見されます。精神的不調から活動休止を発表した人気インフルエンサーもおり、フォロワーからは心配の声が上がりました。市場全体としても、インフルエンサーのメンタルケアや倫理教育が課題になっています。悪質な誹謗中傷への法的措置も増えました。エージェント(事務所)に所属するケースではマネジメント体制が整いつつありますが、フリーランスの人は自己防衛を学ばねばなりません。ファン側にもマナー向上の働きかけが必要です。これは市場の健全な発展に不可欠でしょう。
企業マーケ戦略の変化:企業にとってインフルエンサーマーケティングは2010年代後半から一般化しましたが、2024年はさらにデータドリブンになりました。インフルエンサー選定も、単に有名だからではなく、フォロワー属性・エンゲージメント率・過去のキャンペーン効果などのデータに基づき厳選されます。マッチングプラットフォームも高度化し、AIで相性の良いインフルエンサーを推薦するサービスも登場。案件の成果測定も緻密になり、インフルエンサー側も数字で結果を示すことが求められています。その結果、一部では**ステルスマーケティング(広告表示なしの宣伝)**の問題も明るみに出て、信頼性確保のため広告であることを明示する動き(#PRや#広告タグ)が当たり前となりました。市場が成熟するにつれ、ルール整備が進みプロフェッショナル化しています。
海外展開と国際インフルエンサー:日本のインフルエンサーも国外で活躍したり、逆に海外から日本在住の外国人インフルエンサーがインバウンド向け発信をする例も。特に観光・文化系で、TokyoLens(カナダ人の日本紹介YouTuber)などが有名です。2024年は日本発のコンテンツ(アニメ・食・観光)がSNSで世界に広まり、インフルエンサーがその架け橋となっています。Bayashiさんやしなこさんのように日本語を介さなくてもグローバルに成功する例も増えました。今後は言語AIの発達で、言葉の壁も下がり、日本のインフルエンサーが世界中のファンを持つ時代がさらに進むでしょう。そうなると市場規模は飛躍的に拡大し、新たなチャンスが生まれます。
まとめ:日本のインフルエンサー市場は、2024年時点で極めて多様かつ成熟した段階に入っています。ファッションからビジネスまであらゆるジャンルで、ナノインフルエンサーからメガインフルエンサーまで、それぞれの規模・特性に応じた活躍を見せています。SNSは単なる個人の遊び場ではなく、巨大な情報発信プラットフォームとして定着し、インフルエンサーはそこに不可欠な存在となりました。
企業や社会にとって、インフルエンサーの影響力を無視することはもはやできず、マーケティング・広報・啓発のパートナーとして重宝されています。消費者にとっても、インフルエンサーは身近な情報源であり、時には人生の指針を与えてくれる存在にもなっています。また、若い世代にとっては新たな憧れの職業像ともなり、インフルエンサーを目指す人も後を絶ちません。
今後は、さらなる細分化(ニッチジャンルの専門インフルエンサー増加)や、バーチャルインフルエンサー(AIやキャラクターによる発信者)の台頭なども予想されますが、根底にあるのは「人々は人の発信に心を動かされる」という事実です。日本のインフルエンサーたちは、その個性と努力によって多くのファンを魅了し、市場を築き上げてきました。