日本心理業界のドン・河合隼雄という政商
今回は故・河合隼雄氏と日本の心理業界の関係について書いていこうと思います。
よろしくお願いします。
政治への接近
河合隼雄氏は、日本で初めて(本ブログでも取り上げた)ユング派分析家の資格を取得した人物でした。
そして「箱庭療法」などを考案し、学者・臨床家として活動していましたが、1985年に自身がリーダー役を担っていた「日本心理臨床学会」の会長に就任すると、転機が訪れます。
当時開かれていた中曽根内閣の教育審議会に招かれた事により政治とのパイプが出来、それ以降「学校や家庭に心の専門家が必要だ」との言説を、大手新聞などのマスコミを通して積極的に発信していく事になります。
そして1988年に日本心理臨床学会が中心となって「日本臨床心理士資格認定協会(以下「認定協会」)」を設立し、1990年には元文部事務次官の木田宏氏がその会頭に就任します。
スクールカウンセラー事業の「市場独占」
1995年になると「文部省スクールカウンセラー活用調査委託事業」の名で学校にカウンセラーが入り始め、毎年その予算と配置数を急速に伸ばしていきました。
この事業の実施要項の「スクールカウンセラーの選考等」には
「財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る心理士等」
との記載があり、臨床心理士がスクールカウンセラーという「巨大市場」を事実上独占する事になります。
要は河合氏が政治とのパイプを利用して他団体を出し抜き、業界を牛耳ってしまった訳です。
しかし、そもそも臨床心理士は数ある民間資格のひとつに過ぎない訳で、こういった形でスクールカウンセラー事業を独占する事は不自然であり、フェアではありません。
実際、この事を問題視した「教育カウンセラー」や「学校心理士」など他の資格を発行している学会14団体は、2002年に連名で文部省に申し入れ書を提出し、そこに
「多様なカウンセラーの専門家がいるにも関わらず、スクールカウンセラーを臨床心理士が業務独占しているのは極めて問題があり、早急に根本的な改善を要します」
と記し、異議を申し立てています。
大学の自治への介入
臨床心理士の受験資格は、認定協会が自ら指定した大学院の卒業生に限定しており(大学院指定制)、他校の卒業生にはそれが与えられません。
つまり河合氏率いる認定協会が、資格認定に関して個々の大学の専攻課程の名称・教員人事・カリキュラム・修士論文のテーマにまで介入できる事になった訳です。
(日本の心理学会でユング派が幅を利かせているのもこの事が要因の一つです)
この事に対し、当時の東京大学教養学部長・浦野東洋一氏は「スクールカウンセラーと大学の自治(1992)」と題した論考の中で
「一財団が、ここまで大学に「関与」することが容認されるのであろうか」
と記し、抗議の意を表明しています。
「愛国心教育」への加担
2001年から全国の小中学校に「心のノート」という道徳の副教材が配布される様になりましたが(2013年改訂、2019年廃止)、これも河合氏が中心となって作成されました。
これは簡単に言えば、心理学の手法を使い「道徳」や「愛国心」を涵養するための教材です。
つまり河合氏が一部の極右政治家の「御用学者」として愛国心教育に加担した訳です。
これは私見ですが、「何かを愛する気持ち」は自発的なものであるはずで、「教育」によって刷り込まれるべきでは無いと思います。
ましてや高名な心理学者がそれを行ったという事は、完全に「一線を超えてしまった」と言えるのではないでしょうか。
また、河合氏は小渕内閣時に「21世紀構想委員会」で愛国心教育の重要性を説き、その答申で「義務教育は国家の統治行為」であると述べています。
これは呆れてしまう様な言い分で、憲法26条の「義務教育」とは「子供が教育を受ける権利」であり、「統治行為」とは真逆です(こんな事書くのもアホらしいですが)。
いずれにせよ河合氏は政治との強固な結びつきを背景に、日本の心理業界においてその地位を盤石なものにしました。
勘違いをしている弟子たち
色々と書いてきましたが、臨床心理士は数ある心理職の資格の中で、今のところ最も信頼性の高いものだと思います。
そして彼らの多くが、日々真摯に仕事に取り組んでいると思います。
その一方で私が疑問に思うのが、何を勘違いしているのか、やたらと尊大に構えている者がごく少数ながらいるという事です。
主にネット空間で他の心理資格やカウンセラーの当事者性を否定し、そのくせ彼らを食い物にしようとご丁寧に専用の講座まで開いている者までいます。
そんな立派な「先生方」ならば自分たちの資格のルーツくらい知っているでしょうから、その上でそんなふるまいができるという事は、倫理観が狂っているか、根がとんでもないバカかのどちらかでしょう。
私だったらそんな人たちのカウンセリングなんか絶対に受けたくありません。
最近できた国家資格である公認心理師は、色々ややこしい経緯があり内部の分断が非常に深刻なものになっています。
そんな時こそ互いの違いを乗り越えて歩み寄るべきなのに、彼らがやっている事はその逆に他なりません。
そして、カウンセラー間の内輪揉めで最終的に損をするのはクライアントです。
今一度自分の資格とは何なのか、効果的なカウンセリングとは何なのかをきちんと考えた方がいいと思います。
今回は以上となります。
お読み頂きありがとうございました。
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