守護の熱 第二章 第二十九話 夏休みが終わって
「皆さん、今日から、二学期が始まります。いよいよ、この特進クラスでは、大学受験を控えて、本格的に進路も決まり、その為に進んで行く時になりました。えー、で、一つ、クラスの皆さんには、お伝えしておきたいことがあります。噂などで、聞き及んでいる人もいると思いますが、当クラスの仲間だった、辻雅弥君が、お家の都合で、急遽、転校することになりました。まあ、色々な噂も飛び交っているようですが、余り、詮索したり、大きく騒ぎ立てることがないようにと思います。先生もね、まだ、詳しいことは解りません。不用意に、噂話を鵜呑みにしたり、広げたりしないようにしてください。また、警察や、色々と君たちに尋ねてくる大人がいるかもしれないが、答える必要はありません。実際、皆さん、解らないことだと思いますのでね。・・・では、明日より、各教科で、学習確認テストがあると思います。進路の再確認の面談の資料となりますので、しっかりと取り組むように、いいですね?では、今日は、これで終わります」
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坂城「なんかさ、こないだ、記者みたいな人が店にきたんだよね」
梶間「坂城の店に?」
坂城「うん、で、なんか、最後にさ、雅弥のこと、聴かれて、全然会わなかったから、最初、なんか、アンケートみたいなこと言ったから、普通に夏休みのこととか、進路のこととか答えてたんだけど・・・」
梶間「ああ、俺もどこだっけかで、進路のこととか聞かれたけど、最後に誰の事かわかんなくて、親友でしょ、とか言われて」
坂城「梶間もそうだったんだ・・・」
梶間「転校だなんて、びっくりだよな・・・」
坂城「どうしちゃったんだろう・・・急に」
小津「そうだねえ、どうしちゃったんだろうねえ?」
梶間「小津・・・」
小津「ふふ、噂、知らないの、君たち?」
梶間「・・・お前か、雅弥の家の外壁にスプレーしたのは?」
坂城「え?そんなことされてんの?雅弥んち」
小津「えー、俺はしないよー、でも、されるようなこと、したんだろう?あいつ」
梶間「小津、今、先生が言ってたろう、そういうこと、噂広げるなって」
小津「え?俺は、他の連中から聞いただけだよ」
八倉「やめろよ」
小津「あれ、八倉先生、顔色、悪いですねえ、八倉先生も、実紅ちゃんと・・・」
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八倉は、小津の襟元を掴み、殴り倒した。
あまりの出来事に、周囲は唖然とし、すぐに、誰も止めに入ることができなかったが、次の動きの前に、梶間が八倉を抑えた。その時に、梶間は、八倉が、心から怒りの表情をしていることに気付いた。こんな八倉を見たことはなかった。
その場にいた四人は、担任の甘木先生に、保健室に呼ばれていた。小津が口元を切り、応急処置をする為でもあったが、職員室よりも、落ち着いて話ができるだろうという配慮でもあったらしい。養護教諭が手当てをした後、部屋を空けてくれたため、五人での話となった。
「さっき、僕が言ったこと、小津君は聞いてなかったんですか?」
「でも、色々と記者が来たり、警察が来たりで、僕たちも落ち着かなかったから、真相を知りたかったんですよ」
「うーん・・・でも、なんで、八倉君、君がこんなことを。君らしくないじゃないですか」
「申し訳ありませんでした」
「謝るの、こっちにじゃない?」
小津の態度に、今度は、梶間が苛ついた様子で、睨み付けた。坂城は、いつもと違う友達の様子に戸惑っている。
「申し訳なかった」
八倉は、小津に頭を下げた。小津は、不承不承と言った顔つきをした。
「なんで、また、雅弥を目の敵にしてたのは、八倉だって、そうじゃないか。なんで、俺が殴られるわけよ。おかしくない?」
「小津くん、止めないか。もう、八倉くんも謝ったことだし」
「・・・まだ、何も解っていないのに、吹聴するのはおかしいと、俺も思う。八倉は、多分、雅弥のことをそんな風に言うのは違うと思ったんじゃないのか?」
梶間は、半ば、八倉を庇うように、言った。
「・・・まあ、いっか。そのうち、解ることだから、っつうか、学校に来てないのは、辻だけじゃないよね?」
「小津くん、いい加減にしなさい。確かに、何かあったのかもしれません。でも、それを推測で、広げるのはいけないと」
「・・・っつうか、梶間と坂城は、範疇じゃないから、知らないかもしれないけど、八倉くんは知ってるから。だから、俺が知ってるの解ってるから、頭に来たんじゃね?・・・先生も、本当は、知ってんだろ?」
「やめなさい。小津君」
坂城が、泣きそうな顔になった。梶間が肩に手を添えてやった。
「俺たち、薹部と関係ない家のは、帰っていいですか?坂城、帰ろう。ここでのことは内緒にしますから」
「そうですね。梶間君、坂城君、くれぐれもそうしてください。お願いします」
「じゃ、帰ります。失礼します。行くぞ、坂城」
梶間は、坂城の手を引いて、保健室から出て行った。
「梶間もわかってんじゃん。あの口ぶりだと、もう、噂は広がってるでしょう?先生」
「・・・でも、小津君、それも確かなことではないと思います。不用意に、辻君や、辻君のお宅を傷つけるようなことは、言わないでほしいんです」
「八倉くん、怒ったのはあれでしょ。荒木田のことでしょ?B組の荒木田君も学校、辞めてますよね?」
「・・・小津君、君はなんで、」
「解った。小津、二人で話そう。先生、大丈夫です」
八倉は、毅然とした態度で、甘木先生に言った。
「ここを、もう少し、貸してもらえませんか?」
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「おい・・・テレビ、消して」
「ああ、はいはい・・・」
「雅弥のいる時、絶対、つけるな」
「・・・そうだね。まぁちゃん、相変わらず、喋んないんだね・・・」
「まあ、ゆっくりやっていくしかないだろう・・・それよりも、もし、マスコミが来てもな」
「解ってるよ、今までだってね、ここにいる子が晒されないようにしてきたからね」
「でも、よかった。とりあえず、雅弥は関係ないことが解ったからな」
だが、福耳は、複雑な気持ちでいた。
雅弥が、ああなるには、それなりのことだったのだろうからな・・・
「時間はかかるが、気持ちが戻れば、元の道に戻れる。雅弥なら、きっと、大丈夫だ・・・」
~つづく~
みとぎやの小説・連載中 守護の熱 第二章
第二十九話「夏休みが終わって」
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