見出し画像

萩くんのお仕事 第六回

ピンポーン

 はいはい・・っと、訪ねてくるのは、郵便と宅配と劇団だから、・・・でも、覗いてみる。怖いのは、催促組関係者とマスコミ・・・と、俺も顔出しNGだからな・・・と、あ。

 奥さんだ。

「お忙しい所、すみません。卯月です」
「あー、はい、なんでしょうか?・・・あ、また、そんな、いい匂い・・・」
「沢山作ったの。これね、ロールキャベツ」
「わあ、美味そうですね、・・・」

 えっと、これ、5つも、って、家族分以上じゃないか。もう、わざと作ってくださってるんだな。まだ、朝9時過ぎなのにな。これ、お昼?ゴージャスすぎるぞ。

 他の住人は、まだ、入らないのかな?小さいアパート。三部屋のうち、二階の二つを、俺が二部屋、仕事用と、私室用で借りてるからだけど。っていうか、賄付きみたいになってるぞ。他の人も、俺みたいな毒男だったら、世話するのかな?だとしたら、忙しそうだな。

「こんなことしてたら、お家賃、足らないんじゃないですか?申し訳ないです」
「ううん、なんだかね、お父さんがいた頃の勘があるから、一人男の人の分増えると、何かと楽なの。四人分って、作るのにね、楽なのよね。まあ、いいでしょう。お若いのだから、召し上がってください」

 だから、これって、四人分じゃない、ってば・・・思ったんだけど、なんか、この人は母親感が、前に出てるよね。まあ、そうなんだけど、普通のお母さんだから。マジ、おいくつなんだろうな・・・?

「ありがとうございます。あーこないだ、お漬物も美味かったです、入れ物、まだ、・・・」
「あーあー、解りました。これ、やりますから、」

 やばい、入り口の台所、シンク内、見られてしまった・・・こんなもんですよ。毒男。

「すいません。引っ越してそうそう、ゴミだらけで」
「嫌じゃければ、台所の片づけと、ゴミ・・・ごめんなさい、あら、まあ・・・」

 ああ、上がり込んできたぞ・・・ヤバい。

「ああ、すみません。これから、部屋は、綺麗に使いますんで」
「いいのよ、お仕事がお仕事だから」

 まだ、開けたままの段ボール、ゴミの日とか、把握していないんだよな。劇団の関係者が話聞いて、そのまんまだから・・・。脱いだ服も、そのままで、まだ、洗濯機は稼働してないぐらいで・・・。

「わかりました。この所、会社もお休みだし・・・」

 あ、髪の毛、結び直した。・・・ふーん。露魅ろみさん、発動。・・・って、ああっ。

「あ、あの、いいです。俺、仕事、終わったら、やります」
「いつ、終わるんですか?2クール先のドラマの件は?それだけじゃないでしょう?」

 なんか、色々、言いながらも、嬉しそうだな。お母さん全開で。いいのかな。本当に?

「男の子いて、一人暮らししてたら、こんな感じなのかしらね。さあ、どいて。まずは、ゴミを集めて、ああ、服が・・・この辺りの、全部洗います。・・・えーと、いいわ。洗濯機、まだ、新品ね。セッティング、頼まなかったの?まあ、いいわ。うちに運びます。この段ボールに入れますからね。ああ、衣装持ちね。お洒落なのねえ、業界の人だからかしら?それに、一つ一つが大きいから、とりあえず、この一箱で降りますから、鍵、閉めないでおいてね」

 うわあ、下着まで、そのまま・・・すみません・・・って、あっという間に、色々、話しながら、やって、行っちゃった。賄、掃除付き、世話焼きで、ほっとけない・・・うーん、露魅さんに、全く同じ動きしてもらうの、浮かぶなあ・・・。

 って、思ってるより、お若いのかな、と思ったんだ。さっき、髪下したセミロング・・・あはは、そうかあ、・・・こういうのを、そのまま、モノローグに持っていくんだ。今の心の声を、八尋演じる二郎に語らせるんだ。思うのは、俺じゃなくて、二郎だからな。

「はいはい、今、第一弾、洗濯機に入れました。次は、・・・引っ越し前のものも、洗ってないものないですか?」

 うっ、鋭い。前は、一度に、コインランドリーに持って行ってたからな。

「すみません・・・」
「これね、予測通りだわ・・・箱毎、また、下しますから」
「あー、でも、着てないのも・・・」
「いいでしょう。この際だから、皆、綺麗にね・・・ゴミ袋、持って来ましたから、燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミ・・・ああ、ここに捨て方一覧、貼ってあるの、ご存知?」
「あああ、本当だ」
「知らなかったのね、まあ、いいです。出す曜日も書いてあるから、難しいなら、玄関ドアに置いておいて頂ければ、今後、回収しますから」
「すみません・・・本当に、何から何まで、本当に、助かります」
「あ、っていうか、お忙しいなら、お隣でお仕事されてらしても、その間、やりますから、捨てられたら、困るものだけ、別にして、解るようにして頂けたら、後は、始末しておきますからね」
「ありがとうございます・・・」

 って、こっちでやるかな。見たいんだよね。奥さんの動き。

 何かしてないとダメ、とかかな?下、どうなってるのかな?洗濯機が動いていて、こっちに必要なものを見繕って、持ってこようとしてる。露魅さん回ができそうだな。うーん、働き者のお母さん、そうそう、月城先生が好きで、月城先生のドラマを見て、ウットリしてるシーンとかも挿入するといいかも。そして、テレビの隣のご主人の仏壇の写真と目が合ったりして、色々とリアクションする。夫婦仲は良かったに違いないから、それに相応して・・・。うーん、どんなかな?ここはダイレクト露魅さんで行けば、ステレオタイプで、「でも、貴方が一番よ」とか、「ごめんなさいね」とか、さりげなく、可愛く言ってもらうとか?平和だな。月城先生オマージュで「早く帰ってきてほしい」とか、全編中、数回、入れさせてもらおうかな・・・。

「はあ、後で、掃除機、お貸ししますね。見渡すと、箱の中みたいだから」
「ああ、すいません。本当に」
「お仕事、しなくて、いいのかしら?」
「こちらでできることを今、やってるんです。ここ、結構好きです。向こうは、打ち合わせとか、複数で作業に入る時、メインなんで」
「そうなのね。必要なら、あちらの部屋も、簡単なお掃除もしますよ。窓は、時々、開けた方がありがたいですね」
「はい・・・え?」

 向こうの部屋、ヤバい、こないだ、打ち合わせに来たのが、皆、喫煙者だったから・・・。

「ああ、はいはい、お天気もいいことですし」
「あ、ありがとうございます」

 慌てて、隣の、もう一つ借りてる部屋へ。ついてくる?そりゃ、そうだよね、大家さん・・・

「わあ・・・すみません、煙草臭い・・・」
「・・・本当ね。あちらよりもね、仕方ないわね、会議室として使ってるなら、まあ、そうよね」

 酷い、片づけしてない、ここも。缶コーヒーの残りに、煙草落として、この臭い・・・。

「ここ、やりますから、向こうで、お仕事、どうぞ」
「すいません。ごめんなさい・・・スタッフに片づけ、言ったんだけど・・・」
「いいわ、大丈夫。でも、一週間でこれでは、一年後には、どうなってるかしら?」
「はい・・・気を付けます」
「定期的に、お掃除に入らせてもらうから、気にしないで。さてさて、窓開けて、臭いは不味いわねえ。次のお客様にも不快になるわよ。これでは。いいお仕事のできる環境にしましょう。女性のスタッフさんは、嫌がりますよ。これでは。」
「はい、あの、今、ちょっと、話のストックあるんで、今日は、取材兼ねて、一緒に片づけしますんで」
「取材兼ねて?・・・ああ、そうでしたね。お掃除、お洗濯が何の役に立つか、解らないけど」

 そういう意味じゃないんですよ。まあ、そのくらいに、思っててもらう方が、気楽かな・・・。

「邪魔しません、というか、やって頂いているだけで、その、申し訳ないのに」
「いいのよ、じゃあ、適当にできることをね。窓もドアも、全部、開け放っちゃうけど、門扉が閉まってるから、大丈夫ね。えっと、じゃあ、このゴミ類は、こっちね。私、コーヒーの缶洗いますから、吸い殻は、この袋に回収してください」
「洗うんですか?缶」
「そうよ、ああ、知らないのね、そんなことも。良かった。そのまま出されていたら、ご近所から、クレームが来ちゃうわね。ゴミ回収、ちょっと、考えないと。ダメね、男の人は、本当に」
「すみません」
「ごめんなさい、きつい言い方して。でもね、最低限のルールは、お願いしますよ」
「はい・・・」

 大家さんだもんな。当たり前だよね。マジ、きちんとしないと、仕事以前に追い出される・・・。この辺りも使えそう。バリバリの露魅さんの姿が浮かぶ。

「すごい数ねえ、こんなに飲んだら、身体に良くないわね」
「ああ、皆、無難な所で持ってきちゃうんです。見てください」

 冷蔵庫にあらゆる、缶コーヒーと、あとは、ペットボトルの水とかだけど・・・。

「なるほどね。それなら、仕方ないわね。今度、温かいのでも出してあげるけど」
「もう、そんな、申し訳ないです。さすがにそれは・・・」

 関わる度に、守備範囲広げそうだな。ヤバい。
 
 エプロンのポケットから、ビニール?あ、手袋なんだな、出して、つけて、灰皿洗ってる。申し訳ない。要領がいいな。手早くて、あ、もう一度、ポケット、布巾かな。調理台辺りとか、拭きだした。家事三昧の割には、綺麗な手。露魅さんと被るとこだな、まんまかも。

「まあ、汚れが均一だから、楽だわ、ね。未だ、一週間目だしね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、この部屋は、まだ、開け放って、風通しておきましょうか。掃除機かけますね」

 あ、コーヒー缶と、吸い殻などの可燃ゴミ?分けたのを持って降りた。慌てて、階段上から、見降ろす。うーんと、ああ、そうか。下にご自宅のポリバケツがあるのか。そこに識別して捨ててる。成程ね。

 そう言えば、朱莉あかりちゃんの部屋って、すごい綺麗だった。お母さんの躾なんだろうな。芽実ちゃんとこは、見てないけど。ん、家に入られて、掃除機、来るかな?あるやつ、あれ、開ければいいんだろうけど、・・・見たいんで、持って上がってくるの。悪い、俺って、やっぱり、ダメだ。・・・って、あれ、戻って来ないな?

 ちょっと、降りて見てみる。あああ、俺の・・いいのかな?男物の下着とか、シャツとか、堂々と、ベランダに干してる・・・あ、目が合った。うーん、恥ずかしいんだけど、干してる、その状態もそうだけど・・なんというか。・・・変なトリッキーなの、劇団の若手にあげてたり、捨ててきて正解だった・・・。ふざけたの、あったからな・・・。

「あら、玄関のとこに、掃除機出してあるから、良かったら、仕事場の方、掃除機かけてください。そしたら、そちらは終わります。あと、消臭剤のスプレーも。それ、差し上げますから、ついでに部屋とか、カーテンとかに撒くといいかも」
「ありがとうございます。解りました。あの、・・・」
「なにかしら?」
「あ、いえ、はい、解りました」

 言われたままに、ここはしなきゃね。あ、良いやつじゃん。これ、ランサム製の掃除機だ。なんだっけ、サイクロン社のなんとかっていうやつ。早速、かけてみる。おー、気持ちい吸い込みの感じ。そんな汚れてないけど、ゴミ一発で吸いこんでる。なんか、CMみたいだな。

一度かければ、掃除終了

 いや、違うな、ここは、より、低い声か?

今日から、貴女のお掃除革命

 うーん、

「そんな、低い声も出るんですね?それ、CMですか?」

 あ、来てたんだ。見られた。

「あー、お恥ずかしい、馬鹿みたいですよねえ、あはは」
「習い性なのでしょう?」
「はあ、よく、お解りで・・・」
「でも、これ、いいでしょう?ちょっと、お高いけど、パートのお金で買ったんですよ」
「へえ・・・」

 露魅さーん。これ、お高いんでしょう?

「おいくらなんですか?」
「30万円」
「えーっ、」
「が、定価なんだけどね。半年かけて貯めて、現金で買いました。少し、安くなってたし、量販店のポイント使ったから、5万近くは引いてもらえたかも」

 なんか、露魅さん、ぽいぞ、ここ、すごく。嬉しそうに機能の自慢・・・ああ、サイクロン社は、スポンサーじゃないのかな?露魅さん、CMタイアップ、行けるんじゃないか?

「優秀な掃除機でしょ?なので、では、お隣の私室の方も、物をどけながら、お願いしますね」
「はい、解りました」

 これ、マジ、気に入った。買おうかな。今度、夜の通販番組見てみよう。か、ネットかな。ああ、快感だなあ。この吸い込み・・・って、二郎も思う。浮かぶぞ、八尋靜一やひろせいいち

「愉しいでしょ?」
「そうですね。これなら、掃除、楽ですぐ済むし」
「ね?」

 その後は、俺が、中のものを、マジ片づけモードに入った。露魅さんが、ゴミを捨てに入ってくれたり、台所の食器洗ったり、トイレや、お風呂までやってくれて・・・。

 本棚に書籍類を片づける。まだまだ、出てくる衣類も分別して、いつの間にか、彼女が下に降ろしてる。

「スーツとか、吊るしはクリーニング済みばかりね。この備え付けの収納に掛けるけど、いいかしら?」
「あ、はい、お願いします」
「シーズン別にするからね。大きいわね。これ、皮なの?重いこと。女の子の服や、お父さんの服とも、全然、違うわね。身長あるものね、羽奈賀さん。あー、ここ、ギリギリで裾大丈夫ね。大きめの設計で良かったわ。何センチなの?」
「あー、188です」
「そうなのねえ、やっぱり、大きいよねえ。びっくりする。シャツとか、お父さんのより、少し大きくて、・・・腕が長いのね。あと・・・」
「なんですか?」
「結構、香水ついてるのね、お洋服。臭いのではなくて、そっちの方が強い」

 ん、これ、いいかも。露魅さん、この匂いの記憶というのは、今後の展開に持っていけそうだな・・・

なんていう香水なの?
あ、それは、UNAGAのシトラスです
そう
ああ、それの、男物のやつの方ですから、フォーメンの方です
 
 ん?いや、待てよ。二郎、香水つけないな、多分。・・・これは却下だな。イメージじゃない。ならば、何かの時に、
 
これ、主人の点けてたやつなんだけど・・・使ってみる?
え?俺、香水なんか。そんな洒落たもの・・・
なんか、勿体なくて、捨てられなくて・・・
 
 んな、わけないな。旦那さんの匂い、なんで、店子に着けさせる?ん?下心発生しないと、しないだろう、そんなの。露魅さんなら、ある、八尋さんなら、ある。そこがドラマだろ?おい、羽奈賀、この日常を、非日常に変える、それが、俺の骨頂だろ?
 
「手が止まってますよ。掃除機、ついたまま」
「あ、すいません」
 
 ああ、頭の中、妄想というか、シナリオに飛んでたぞ。
 
 気になったのが、彼女のセミロングと、その男の香水に対する嗅覚。また、生々しい言い方だけど、解り易くね。うんうん、この露魅さん回は、3話から4話に引きずる。二郎の中で、少し、露魅さんを見る目が変わっていくんだ。なんで、こんなに、俺の世話、焼いてくれるんだろう・・・まさか、ああ、みたいなのね。よしよし。
 
「あの匂いね、なんか、知ってるんだけど・・・どこで、嗅いだのかしら?」
「あ、そうなんですか?」
 
 まさかあ、社長さん。ないない。
 
「うーん、忘れてたんだけど・・・」
 
 おやおや、これって、なんか、事件の予感だな。よしよし、誘導尋問的に引っ張ったら、思い出すかな?掃除機、終わっちゃった。ああ、洗濯物、もうできたの?乾燥機だ。
 
「でも、洗っちゃうと消えちゃうのね。ほら」
 
・・・って、それ、下着。臭い嗅がないで、綺麗だとしても・・・。ヤバいですよ。って、二郎だ、これもね。俺じゃないことにする。あああ、コメディ的には、面白いけどね。
 
「あ、あら、ごめんなさいね。そうそう、靴下とか、下着とかの小物は、ベランダに干した残りの分の後は、乾燥機にしたのだけど・・・たたみのお洋服は、そのクリアボックスでいいのかしら?」
「あ、そうです。元々、入れてきたんで・・・」
「ここにも香水、残ってるのね」
「あー、ハンカチに振って、入れて・・・あ」
「あらそう、・・・そんなことするの、彼女でしょ?」
「あー、・・・いやあ・・・」
 
 鋭い。これは、そうだった。艶肌の習慣で。この匂いだって、艶肌が好きだからって、・・・
 
 いやあ、本丸、思い出させるの、止めてくださいよ、奥さん。・・・って、二郎の過去かあ・・・トラウマがどうのって、神崎さん、言ってたから、まあ、ありなんだろうけど。
 
 30年生きてきて、何もないってこと、ないだろうからな。せめて、片思いでも、女関係少しはあったろうからな。まあ、置いといて、二郎の過去は考えるにして。
 
「聞かなかったことにするわね・・・えっと、ちょっと、待って、ここ拡げといてもいいかしら?第二弾も仕上がってくるだろうし、あと、アイロンかな・・・」
「わあ、そんなに・・・」
「収まらないでしょ、やらないとね。羽奈賀さん、アイロンなんてかけないでしょ?」
「あー、かけませんねえ・・・すみません」
 
 全部、クリーニング任せだから、そういうのは。いつも同じシャツで、文句言われたこともある。ああ、また、艶肌だあ。もう、いい、記憶の扉を開いてしまったのですよ、貴女は。
 
やっばあ。気づいてしまった。・・・奴と飲みに行こう。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 萩くんのお仕事 第六話

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 なんか、流れが変わってきましたね。脚本は大丈夫なのか?萩?
 大家さんは、甲斐甲斐しく、世話焼き、お母さんモード発動してきました。香水が出てきましたが、これは、この後、どう影響してくるのか?
さて、次回をお楽しみに。纏め読みは、こちらのマガジンからになります。


更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨