見出し画像

御相伴衆~Escorts 第一章 第三十二話 お庭遊び 桐藤と一の姫⑧ (桐藤視点)

 天気の良い、休日、午前中遅くに、庭にテーブルセットなどがしつらえられた。以前、一の姫と二人で、窓から、見降ろして、他の者たちが、お茶を飲んでいたのを見たが、それと似たような設えとなっていた。

 ゆっくりと手を取り、一の姫を導き、庭園を進む。

「本当に、久しぶりで、嬉しいです。外というのは、これ程までに、明るいのですね・・・」

 服装は、当然、先日選んだ、白いワンピースに、皇太后様のオレンジの髪飾り、一応、レースのケープを肩から掛けて頂くことをお勧めすると、嬉しそうに快諾された。部屋を出る直前に、慌てた様子で、例のネックレスの箱を持って来られた。事も無げに、つけて差し上げると、首に縋りつく。出がけが気になったが、軽く、口づける。

「ありがとう。本当に、嬉しいです。桐藤キリト、一緒に、お外に出られるなんて」
「行きましょうか。さあ」

 手を差し出すと、素直に、そこに手を添える。・・・考えてみれば、あれ以降、柚葉と廊下で擦れ違って以来、「御相伴衆」の他のメンバーとは、顔を合わせていない。気恥ずかしい感じがする。

 庭園には、既に、何人か、集まっていた。アカツキルナが、どうやら、昼食の設えをしているらしい。そこに、三の姫がおられる。何か、箱の中を見て、口を曲げている。ああ、我儘の始まりのような、甘えた顔つきだ。確か、先日、数馬が、三の姫付きになったのではないか?数馬は何をしている。いないようだが、困ったものだ。近くで、慈朗シロウがイーゼルを立て始めた。絵を描くつもりなのだろう。振り向いて、三の姫を構うようにしている。半べそを掻き、何かを、慈朗に訴えている。箱の中を覗いて、慈朗も困り顔をしている。

女美架メミカが泣いているわ、行ってあげないと。桐藤、早く」
「何か、困ったことが起きたんでしょうか・・・」

 一の姫と、テーブルの側に駆け付けると、泣き顔の筈の三の姫の表情が、コロッと変わった。気分がコロコロと変わるのが、末の姫の特徴で、これを上手く利用して、ご機嫌をとってきたのだが。

「お姉様、綺麗、素敵だわ。お婆様の髪飾りもお似合いだわ」

 慈朗が、頭を下げ、手を胸におく、簡略の挨拶をした。

「初めまして、一の姫様、お妃様付きの慈朗シロウと申します。お元気になられて、何よりです。あと、一の姫様、桐藤、おめでとうございます」
「ありがとう、慈朗。お会いできて、光栄です。絵がとても上手なの、伺っていますよ」
「お姉様、・・・あああ、あのね、ケーキを焼いたの。上手くできたの。でも、・・・」

「あーあ、やっちゃったね、これ」

 いつのまにか、三の姫の背後に、数馬が来ていた。手には、何か、こん棒のようなものを三つばかし、持っている。大道芸の道具らしい。練習でもしていたようだ。

「ごめんなさい、数馬が、皆で食べよう、って言ったから」
「だから、俺が持って行ってさし上げると、言ったのに、姫が聞かないから、こうなるんですよ」

 箱を覗くと、そのケーキが、原型を為していなかった。

「ああ、トライフルですね。もう少し、果物があるといいでしょうね。お手伝いしますから、あ、月、グラスを人数分、君たちの分もご用意して」

 背の高い、後から来た者が、箱を覗き込んで、さらりと、二人の召使に指示をする。案の定、こんな、予定調和に持っていくのは、柚葉だった。

「あああ、・・・そういう、おやつだったんだねえ」
「そのようですよ」

 慈朗が、柚葉に近寄って、目配せしている。
 すると、数馬と三の姫が、なにやら、言い合い始めた。

「バナナを足すと美味いと思う」
「イチゴがいい、」
「バナナだよ、入ってないから」
「ううん、可愛いのがいい」
「わかった、じゃあ、両方な」

 一の姫は、口に手を当てて、この様子をご覧になっていた。数馬と三の姫のフランクさに驚いたのか、柚葉の機転に驚いたのか・・・その後、俺に微笑んで、設えてあった、二人掛けの小さなカウチに、並んで掛けた。続けて、この様子を見ている感じになる。

 腕まくりをして、相変わらず、気取った所作で、崩れたケーキを、他の菓子に整える柚葉を、女官たち二人が手伝った。覗き込んで、イチゴをグラスに入れて行く三の姫。バナナを向いて、勝手に食べる数馬。それを「ダメダメ」と、三の姫がなだめる。笑い声が起こる。慈朗は、そのような皆の様子を見ながら、キャンバスに鉛筆を走らせている。

 平和だ。皇宮すめらみやは、今、とても、安定しているのかもしれない。

「柚葉と数馬に、ご挨拶しなくちゃね」
「呼びましょう。・・・柚葉、数馬、こちらに」

 少し大きめの声で呼ぶと、二人は飛んできて、慈朗と同じように、恭しく挨拶をする。

「一の姫、この度は、おめでとうございます。お久しぶりです。ご無沙汰致しました」
「ありがとう。柚葉。先程は、三の姫の為に機転を利かせて頂いて、お蔭様で、あの子も大泣きせずに、助かりました」
「柚葉は上手いからな・・・始めまして、数馬と申します」

 そうか。慈朗もそうだったが、数馬も、一の姫様とは初対面だったか・・・。

「ああ、この度は、三の姫付になられたという・・・、我儘な子ですが、よろしくお願いしますね」
「はい、なんか、学校に行って帰ってきて、宿題して、こうやって、遊んでるだけなんで、いいのかな、と思って、・・いや、思いまして」

 数馬の雰囲気か、一の姫も物怖じせずにお話なさっているが・・・。
 柚葉が、隣に近づいてきた。何か、言いだけだが・・・。

「なんか、ちょっと見ない内に、こんな感じなんだな・・・」
「いいのではないですか?だから、一の姫様が、外に出られるのですよ、桐藤」
「・・・それは、そうだな、柚葉・・・色々、気を回してもらったのではないか?」
「いえ、僕は、何も・・・」

 一の姫が、柚葉に尋ねた。気になっておられたことがあったようだ。

「二の姫が、ランサム大学に留学中だから、お手空きとは言え、柚葉もご一緒に、お勉強で行かれても、よろしかったのではないですか?」
「それは、余りあることです。僕は、ここで、二の姫様をお待ちしているのが、丁度良いです。それに、他に仕事がありますから」
「・・・、そのうちに、慈朗も含めて、これからの話を、四人でしたいと思ってるんだ。その時は、聴いてもらえるか?柚葉、数馬」
「わかりました」

 数馬の明瞭な挨拶の後、柚葉も、笑顔で頷いた。その時、テーブルから、三の姫が、皆を呼んだ。

「皆、できましたよ、トライフル」
「結局、トライフルっていうのになったんだな」
「ふふふ、そのようで」
「で、トライフルって何?」

 一の姫は、小さく声を立てて笑った。

「・・・うふふふ、数馬、楽しい子ね」
「ああ、すいません。そういう、洒落たの、わかんなくて・・・」
「出来上がったのが、それだよ」
「持ってきますか?ここに、お茶菓子」
「どうします?・・・お二人がいいですか?」

 賑やかしの数馬と柚葉が、気を遣ってくれているが・・・

「いや、・・・行きましょうか、一の姫」

 手をさし出すと、一の姫は手を添えた。柚葉と数馬が、目配せをしたのが見えた。・・・まあ、いい。

 その後、グラスに入った、トライフルという御菓子が振る舞われた。
 三の姫と、数馬は、中身を見比べ、中の果物の取り合いをしている。

「可愛いわ、あの二人」
「・・・似合いですね、何か、似ているとは思ってましたが・・・、やたらに、人懐っこい感じが・・・」

「・・・桐藤と一の姫様も、お似合いですよ」
「・・・」

 慈朗、だ。・・・なんだ?・・・今まで、俺に対して、こんな風に話すこともなかったが・・・。

「あ、すいません、ごめんなさい・・・これ、美味しいね、今回は、塩と砂糖、間違えなかったんだね」
「うん、だから、惜しかったの、何回か、来るまで、箱をぶつけちゃったから」

 なんで、そんなことになるのか、よくわからないが、どこをどう通ってきたんだ、三の姫は。相変わらずだな。

「それで、丁度良い、トライフル具合になったんですね」
「・・・んー、もう、・・・本当はケーキだったのに・・・」

 笑顔で、柚葉がそれを往なす。こちらも相変わらずだな。
 思えば、こんな風な光景を、今まで、俺は遠巻きに見ているにすぎなかったのかもしれない・・・。なんとなく、くすぐったい、不思議な感じだが・・・。

「いいじゃん、美味しいんだから」
「本当?」
「うん、すごい。・・・えーと、おかわりはないの?」

 数馬が、三の姫に尋ねていると、月が気を遣って言ったようだが・・・

「私の分、よろしいですよ」
「ああ、それは、食べてください。月も暁もどうぞ、遠慮しないで」

 なんか、和やかな展開だな。

「そう、食べてね。ああ、そうかも!!・・・崩れなかったら、月と暁は、食べる分なかったかも、」
「そうですね。これで良かったんですね。良いことに気づきましたね。三の姫様」

 柚葉、三の姫様を持ちあげて、相変わらずのご機嫌取りだ。

「本当、優しいのね、女美架は。・・・お菓子作り、上手になりましたね」
「うん、前はお姉様とご一緒だったけど、ご病気になられてからは、できなくなったから、暁に手伝ってもらって、作ってるの」
「塩と砂糖、間違えるけどな」
「もう、数馬のいじわるぅ~」

 一同がそれぞれ、笑っている。一の姫が楽しそうなのが、何よりだ。

「そしたら、今度は、女美架が、数馬だけに、大きなケーキ焼いて差し上げたら、いいのではないかしら?」
「・・・」

 意外なリアクションだな。どうしたんだ。いつもなら「うん、そうする」とか、言うんじゃないのか?

「可愛いね、恥ずかしがってるのかな、あれって。ほっぺに、手を当てちゃって」
「ふふふ、そのようですね」

 その時、柚葉が数馬に、耳打ちをした。

「別に・・・え?・・・なんも、ないって」

 末の姫も、数馬が、自分付きになったことで、少し、わきまえが出てきたということか?

「女美架は、数馬が、本当に大好きなのね。良かったです。女美架のお相手が良い子で。数馬は、気取った所がなくて、優しくて。それにね、お話する時に、はっきりしてるのが、きっと、女美架には、わかりやすいのだと思いますよ」
「そうなんですよ。三の姫様が我儘言って、泣いてても、数馬は知らんぷりするんです。最初、可哀想だと思って、僕も見てたんだけど、泣いても通らないことが解ったみたいで。そういうことをすると、大好きな数馬が無視するので、最近は、我儘言いたくなっても、我慢してるんですよね」

 そうなのか、慈朗。なるほど、そんなことが。

「まあ、すごい。誰も、女美架を、そのように、躾けることができなかったのに」
「荒っぽいが、数馬は、良い三の姫様付きですよ。向いていると思います」
「安心しました。美加璃ミカリには、賢くて、穏やかな柚葉、女美架には、明るくて、頼りになる数馬がついてくれて・・・」

 これは、きっと、ご自分がお元気になられて、落ち着かれたから、言える言葉なのかもしれない。

「そして、一の姫様には、桐藤が・・・」

 え?・・・今日は、よく話してくるな、慈朗。

「あ、・・・ごめんなさい。でも、本当に、お似合いだから。なんていうのかな・・・桐藤と、一の姫様は、皇帝陛下と、お妃様みたいだ。あああ、変かな、ごめんなさい」

 慈朗のこの言葉に、一の姫が、俺の顔を見て、微笑んだ。
 ふっ、と笑って、柚葉が呟く。

「すごい、持ち上げたな、慈朗」
「ああ、桐藤、気を悪くしないで・・ください」
「ありがとう、慈朗」
「え・・・?」

 意外な顔をしてるな、慈朗。
 俺も、お前の言葉が、意外だったんだが・・・。

「なかなか、美味しかったと思いますよ。これ。三の姫」
「女美架、桐藤も褒めてますよ、お菓子のこと」
「本当に?ありがとう、桐藤」
「はい、味付けが、女美架様なのだとしたら、美味しかったですよ。・・・じゃあ、一の姫、そろそろ、お部屋へ。また、少しずつ、外に出る時間を増やせばいいと思いますから」
「解りました。本当、楽しかったです。皆様、ありがとうございます。また、ご一緒させてくださいね」
「行きましょう。余り、疲れてしまっても、また、病状に出ると大変ですから」

💛📚⚔🔑🎂🏹🖼💛

 見送る者たちは、それぞれ、会釈したり、手を振ったりしていた。

 先程の、慈朗の言葉が意外だった。
 欲得や利権のない者からの発言で、皇帝陛下に喩えられたのは、とても嬉しかった。・・・俺としては。

💛📚⚔🔑🎂🏹🖼💛

「慈朗、あれは、桐藤にとって、殺し文句みたいなものですよ」
「そうなの?柚葉」
「・・・そうなんですよ、実に」


                     ~次のお話につづく~


みとぎやのメンバーシップ特典   第三十二話 「お庭遊び」
               桐藤と一の姫⑧ 御相伴衆~Escorts 第一章

 いよいよ、メンバーとお姫様方が一同に会する時がきました。同じ皇宮にいながら、一の姫と、数馬・慈朗がここまで会えていなかったんですね。この場所では、こんなことはよくあることのようですね。

 今まででも、こんなお庭遊びが繰り返されていたのかもしれませんが、桐藤は、小さい時以来、今回が初めてだったのかもしれませんね。

 始めの頃にあったような、きついヒエラルキーのイメージが消え、緩やかに、互いを認め始めた御相伴衆たち・・・。

 さて、次回以降、数馬と三の姫の件に入っていきますが、その前に、彼らの年相応の学校生活の話に行こうかなと思います。
 お楽しみにしてくださいね。

ここから先は

0字

高官接待アルバムプラン

¥666 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨